【完結】うちの大公妃は肥満専攻です!

ariya

文字の大きさ
13 / 94

12 ビアンカ公女

しおりを挟む
 ビアンカ公女。
 物心つく頃には両親は他界しており、唯一の肉親は兄であるジャンルイジ大公であった。
 ジャンルイジ大公は大公領の為に戦地へ赴き、大公城に戻っては政治に向き合い多忙な日々を送っていた。
 それでも大公城滞在中は夕食を一緒にとることを欠かさなかった。

 2年前までは。

 ジャンルイジ大公は部屋に引きこもり、すっかり変わり果ててしまっていた。
 部屋へはビアンカ公女を近寄らせず、もし近づくようであれば傍仕えのメイドを厳しく罰した。ビアンカ公女も自分のメイドが叱られているのを見て、次第にジャンルイジ大公に会いたいと言葉にすることはなくなった。
 彼女が唯一兄の存在を感じられるのはジャンルイジ大公が選別した家庭教師から授業を受けるのみとなってしまった。
 立派な淑女に、立派な跡取りに成長できればいつかまたジャンルイジ大公に褒めてもらえると信じて。

 懐柔したメイドたちから得たビアンカ公女の話にルドヴィカは頭を抱えた。
 まだ8歳の少女にはあまりに酷な話である。
 彼女の1日のスケジュールをみると一層ルドヴィカは困った。
 勉強内容は8歳にしては早すぎる内容が何点かある。
 それを指摘したところメイドも感じていたようだ。

 周りの大人たちは万が一のことを考えて公女様にできる限りのことを学ばせようと考えての結果である。
 その大人の中にジャンルイジ大公も含まれている。
 彼自身自分は長く生きられないと悟っているようであった。
 あの体格では確かにそうだろう。
 今はサポート付で書類仕事ができるが、それをこなせなくなってしまう可能性もある。

「そうはさせない」

 ジャンルイジ大公を何としてでも生き延びさせてみせる。
 彼が死んでしまってはビアンカ公女の破滅が待っている。
 女大公となった彼女は大公領を守り抜くにはあまりに幼すぎた。
 そして、自分にとって都合のよい臣下を傍に置くようになり、それが奸臣の暗躍に繋がってしまった。
 奸臣は帝国のスパイだった。彼はビアンカ公女に帝国への憎悪を焚きつけ、叛逆を決意させた。
 そして戦争中は大公軍内を荒し回り、遠ざけられながらも大公領の為に尽くそうとした多くの騎士たちが無惨に死んでしまった。
 最後、ビアンカ公女は幽閉され、帝国裁判にかけられ斬首刑となった。

 まだ14歳だった。

 あまりにむごい最期にルドヴィカは胸が締め付けられた。
 その未来を回避するためにジャンルイジ大公にはまだ生きてもらわなければならない。

「申し訳ありません。大公妃」

 過去の記憶を呼び起こしていたルドヴィカは元の現実へと戻った。
 公女付きのメイドの声によって。
 彼女はビアンカ公女の傍付きであり、ルドヴィカが大公城へやってきたときルル経由で懐柔したメイドであった。
 懐柔内容は水仕事の多いメイドたちの為にあかぎれクリームを配った。ルドヴィカのポケットマネーで。
 他にも消耗品で役に立ちそうなものを手配して、そこに少し彼女たちへの労いの言葉をかけてやった。
 公女付きのメイドに対してはさらに色をつけて「義妹をお願いね」と声をかけると少しずつルドヴィカになびくようになった。
 物で釣るのはどうかと思うが、彼女たちへの進呈物は元々配布されてもよさそうな消耗品であり、現に喜んでいる為別にいいだろう。
 また便利な器具を導入して、彼女たちの仕事の負担軽減をはかった。
 おかげさまではじめの頃よりだいぶルドヴィカへの視線は柔らかくなったように思えた。
 さて、目の前にいる公女付きのメイドはアンという。

「公女様と会わせる為に一緒に厨房へ行くよう誘いました。料理長の新作ケーキを釣って」

 そのケーキがあまりに美味だったため、ビアンカ公女は褒める為に厨房へと足を運んでくれた。
 丁度ルドヴィカが厨房にいることを見越してアンが準備したものだ。

「それがまさか反発させるなど」
「いいのよ。顔を合わせられただけ今回は嬉しいわ」

 このまま半年は顔を合わせないのかもしれないとさえ思っていたのだ。

「それに、スムージーを見ちゃうと引いちゃうわよね」

 ルドヴィカは目の前の新作スムージーを前にしていった。
 瓶に入っている。

 ルドヴィカはそれをコップに注ぎ口にいれた。前よりも苦みが減っている。
 ミルクと果実のおかげでまろやかに中和されていた。
 アンは信じられないといった表情を浮かべた。
 大公妃という目上の存在に対してこれなので、ビアンカがドンびくのもしょうがないだろう。

「ルル、飲んでみる?」
「もう少し改良されてから考えてみます」

 緑色がダメな様子だ。
 この世界だと緑は毒のイメージのようだ。
 やはり、これを1食切り替えにするのはジャンルイジ大公には可哀そうかもしれない。

「でも、折角作ったし」

 新作スムージーをお盆に載せジャンルイジ大公の部屋へと向かった。
 まじかという表情でルルは後ろをついていく。

「25,26,27」

 ガヴァス卿が時計の針を確認しながら数え上げる。目の前でジャンルイジ大公はベッドの上であおむけになり、右下肢を左へクロスさせてそれを維持していた。かなりぷるぷると震えていた。
 傍で危険な状態にならないか見守るトヴィア卿はぐっと抑えていた。

「29、30」

 目標秒数に達成したのを確認してジャンルイジ大公はベッド上で大の字で寝そべる。

「素晴らしいです!」

 部屋を訪れたルドヴィカはジャンルイジ大公を褒めた。
 ガヴァス卿に確認したところ以前指示だしていた基礎動作は一通り30秒もつことができるようになっていた。

「これで次のステップへ進めますよ。殿下!」

 来週には立位訓練、車いす移動に取り掛かれるかもしれない。
 ちょうど車いすも完成して、明日仕上がったものが届けられる。
 階段脇の車いす専用の手動エレベーターも急いで完成できないかのが悔やまれる。だが、ジャンルイジ大公の身の安全優先なので仕方ない。しっかり安全点検してもらいながら完成してもらわなければ。
 頭の中でくるくると今後の予定を確認してルドヴィカは心躍った。

「こ、このくらいで、おおげさな」
「2年もベッド上で過ごされていたのです。その分筋肉は落ちていて基礎動作はできなくなっていたのに、こんなに早く目標達成するとは思いませんでした」

 実際2週間はかかると覚悟していたのだが、5日でクリアしていた。

「やはり元の筋肉量が多いのでしょう」

 そっとジャンルイジ大公の腕に触る。まだぷにぷにとした肉の触感であるが、奥の方でわずかに感じられる筋肉の感触にルドヴィカは感激した。

「急に触るな!」

 顔を真っ赤にしたジャンルイジ大公が叫ぶ。

「あ、そうですね。セクハラでした」

 いくら嬉しいでも、本人が嫌がることをしてはいけない。
 ルドヴィカはぱっと腕から手を放した。
 触れた時にわずかにあせばんだ様子でルドヴィカは丁度いいと持ってきたスムージーをみせた。

「なんだ、それは」
「スムージーです」
「めっちゃ緑だぞ」
「緑黄色野菜をたーっぷり入れていますからね。大丈夫です。はちみつと柑橘類、牛乳と大豆をブレンドしているので甘くてすっきり、苦みはそれほど感じません」

 ジャンルイジ大公は透明グラスの中に入っている緑色の液体をみた。妙にどろっとした感触に嫌そうな表情を浮かべた。

「……毒じゃないか?」
「騎士が見ている前で堂々と毒を飲ませる人がいますか」

 せっかく良い汗をかいている。筋肉もそれなりに使ったことだし、ここでタンパク質も含んだスムージーを飲んでもらおう。

「いやいや、無理だろ。無理無理!」

 さすがに緑色の液体は抵抗がある様子だ。
 1食切り替えではなく、間食、運動後のタンパク質摂取に使用してみようと思ったが。
 ルドヴィカはじっと二人の騎士をみた。二人とも顔を硬直させていた。
 毒見をさせられるといった表情だ。

「仕方ない。折角作ったのだし」

 さっき飲んだばかりであるがルドヴィカはそれを口に含んだ。

「おい! 私の前で毒を飲むな!」
「毒じゃありませんよ。スムージーですよ」

 この世界の人類にはまだお野菜たっぷりスムージーは早すぎたようである。
 折角だし、ルドヴィカ自身の美容の為にレシピは残してもらおう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された悪役令嬢、実は最強聖女でした〜辺境で拾った彼に一途に愛され、元婚約者が泣きついてきてももう遅い〜

usako
恋愛
王太子の婚約者でありながら「悪女」と呼ばれ婚約破棄された公爵令嬢リディア。 国外追放されたその日、命を救ってくれたのは無骨な騎士ルークだった。 彼に導かれた辺境の地で、本来の力――“聖女”としての奇跡が目覚める。 新たな人生を歩み始めた矢先、かつて自分を貶めた王太子が後悔とともに現れるが……。 もう遅い。彼女は真の愛を知ってしまったから――。 ざまぁと溺愛が交錯する、爽快逆転ラブファンタジー。

【完結】転生者のお姉様は自分を悪役令嬢と言い張るのですが…どう考えても悪役は私です

白キツネ
恋愛
主人公、アリシアにとって、母とたまに帰ってくる父の三人での生活は裕福ではないが、それだけで十分なほど幸せに感じていた。  が、ある日、父が帰ってきた時の一言に、それに対する母の反応に、アリシアは自分が大好きだった両親が別人に見えてしまう。  父に連れられた家は市民が暮らすような家ではなく、貴族の屋敷であり、そこにはアリシアと同年代ぐらいの少女がこちらをずっと見ていた。  その少女は転生者であり、この世界での自分がどうなってしまうのかを話される。自分の名前を当てられたことで、その話を信じるが、その内容はとてもひどいものだった。  お姉様…それは私の方が悪役なのでは…  私はお姉様の敵にはなりません。私がお姉様に全てをお返しします! お姉様!もう少し自分のことを大切にしてください! お姉様!今ですか!? お姉様!そういうことはもっと早く言ってください!  賢いのに少し空気が読めない姉と、翻弄されながらも姉を守ろうとする妹の物語 カクヨムにも掲載しております。

どうやらこの物語、ヒロインが一度死ぬ仕様です

山口三
恋愛
南出冬華は異世界に転生した。あれ、ここって小説でもゲームでもないよね? でも私の知ってる地球でもない?! TVドラマの中のただの脇役、ふっくら令嬢ローズとして転生した冬華は平凡でも自分を愛してくれる優しい家族とここで幸せに暮らしていこうと考える。だがドラマの中だと気づくと同時にこの先の不穏な展開を思い出した冬華は、ドラマの流れを変えようとする。だが視聴率は上げないといけないし、ただの脇役のはずがどんどん重要人物に目を付けられはじめて……。

悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ

春ことのは
恋愛
深夜、高熱に魘されて目覚めると公爵令嬢エリザベス・グリサリオに転生していた。 エリザベスって…もしかしてあのベストセラー小説「悠久の麗しき薔薇に捧ぐシリーズ」に出てくる悪役令嬢!? この先、王太子殿下の婚約者に選ばれ、この身を王家に捧げるべく血の滲むような努力をしても、結局は平民出身のヒロインに殿下の心を奪われてしまうなんて… しかも婚約を破棄されて毒殺? わたくし、そんな未来はご免ですわ! 取り急ぎ殿下との婚約を阻止して、わが公爵家に縁のある殿方達から婚約者を探さなくては…。 __________ ※2023.3.21 HOTランキングで11位に入らせて頂きました。 読んでくださった皆様のお陰です! 本当にありがとうございました。 ※お気に入り登録やしおりをありがとうございます。 とても励みになっています! ※この作品は小説家になろう様にも投稿しています。

幽霊じゃありません!足だってありますから‼

かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。 断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど ※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ ※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。

ざまぁはハッピーエンドのエンディング後に

ララ
恋愛
私は由緒正しい公爵家に生まれたシルビア。 幼い頃に結ばれた婚約により時期王妃になることが確定している。 だからこそ王妃教育も精一杯受け、王妃にふさわしい振る舞いと能力を身につけた。 特に婚約者である王太子は少し?いやかなり頭が足りないのだ。 余計に私が頑張らなければならない。 王妃となり国を支える。 そんな確定した未来であったはずなのにある日突然破られた。 学園にピンク色の髪を持つ少女が現れたからだ。 なんとその子は自身をヒロイン?だとか言って婚約者のいるしかも王族である王太子に馴れ馴れしく接してきた。 何度かそれを諌めるも聞く耳を持たず挙句の果てには私がいじめてくるだなんだ言って王太子に泣きついた。 なんと王太子は彼女の言葉を全て鵜呑みにして私を悪女に仕立て上げ国外追放をいい渡す。 はぁ〜、一体誰の悪知恵なんだか? まぁいいわ。 国外追放喜んでお受けいたします。 けれどどうかお忘れにならないでくださいな? 全ての責はあなたにあると言うことを。 後悔しても知りませんわよ。 そう言い残して私は毅然とした態度で、内心ルンルンとこの国を去る。 ふふっ、これからが楽しみだわ。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

処理中です...