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第十一章 慌ただしき日々。そして、続かぬ平穏。

第197話 仮面の司祭、再び参上!!②

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    「仮面の司祭しゃま、ありがとう。」

    痩せて細い腕を一生懸命に振って、見送ってくれる幼い女の子を後にして、次の家に向かう。

    次も、壊れかけているボロ屋だ。初め挨拶して家の中に入るが、返事が返ってこない。不審に思い、奥に入っていくとベッドに一人の衰弱して意識を失っている女性とこれまた明らかに栄養が足りていない五、六歳の幼女が母親であろう女性にすがって眠っている。
「〈クリーン〉〈クリーン〉。〈ピュリフィケーション〉〈ピュリフィケーション〉〈鑑定〉。」
女性はやはり母親で、片足を怪我で失ったため、稼げずに衰弱したらしい。女の子も、栄養が足りず、衰弱と鑑定に出た。

    「シーラ、母親と女の子が気がついたら、コレを食べさせてくれるか。」

    以前リヒトの屋台通りで寸胴鍋で買った、肉野菜スープと冒険者の時に買い揃えた携帯コンロを出してシーラに二人に食べさせる様にお願いした。
私は、衰弱仕切っている二人の治療を始める。

「〈リジェネレーション〉、〈リジェネレーション〉〈パーフェクトヒール〉。」

    〈リジェネレーション〉は大気中の魔素を体内に吸収して体力を徐々に回復する魔法で衰弱している体力を回復させるためだ。

    「〈キュアオールラウンド〉〈キュアオールラウンド〉。」

衰弱で内蔵が弱ってもいたので、念のために病気完治の魔法の〈キュアオールラウンド〉もかけておく。

    「あ、う、う~ん。」

    女性が気が付いたようだ。うっすらと目を開けて、辺りを見回すと子供に視線が行き、体力が魔法で戻ってきたのか、起き上がろうとする。しかし、筋肉が落ちている為か起き上がれない。

    「シーラ、起こしてあげなさい。」
「はい、司祭様。」
「あ、あの、貴方方は?家の子は大丈夫ですか?」
「落ち着いて下さい。私達は正神教の者です。こちらの司祭様は旅をしていて、修行として各地で魔法の治療を無料でされているのです。貴方も娘さんも死んでしまう所でしたよ。」
「こんなことを助けていただいて言うのも悪いと思いますが、放って置いて下さればよかったのに。あのまま死んでいれば更なる苦痛も感じずにすんだのに。こんな体では働くことも出来ません。また飢えてしまいます。」
「貴方の失っていた足は再生させた。確認しなさい。」
「え?えええ!足がある。なんで?」
「決まっている。私が治したからだ。当たり前だろう。声を上げられる元気があるなら、コレを食べなさい。」

    これも以前冒険者の道具として買った、木製の碗にスープを入れて渡す。

    「あの、これは?」
「今の貴方は魔法で体力を取り戻しているだけだ。食べて体力をつけなさい。全てはそれからだ。」

    そう言って、スープの入った木の碗をさしだす。

    「あの、・・・有りがたいのですが、お渡しするお金もありません。頂くわけには・・・。」
「これは、私の修行の一環でやっている事。お金などいらない。遠慮なく食べなさい。貴方が食べないとこの子が食べられないだろう?さぁ。」

    母親は筋肉の落ちた細い腕を差し出して、木の碗を手に取る。

「有難うございます。有難うございます。」
「それはもういいから。」

    スプーンを渡すと、スープでスープをすくい一口飲み込む。娘は母親がスープを飲むのを見て、自分も飲み始めた。

「お母さん。良く聞きなさい。この手紙を体が動けるようになったら、教会のフロイス殿か、この地の領主であるオオガミ伯爵の屋敷に持っていきなさい。働き口や住まいを紹介してくれる。それと暫くはこれで食い繋ぎなさい。」

そう言って銀貨百枚入った巾着袋を渡す。

「こんな大金頂くわけには・・・。」
「さっきから言っているだろう。これは私の信仰への修行だと。神からのお恵みと思って受けとりなさい。そして、この子をしっかりと育てるのです。この子がかかっていた病もついでに治しておきましたから。」

    その後、家に〈クリーン〉をかけて、母子の着ているボロに〈リペア〉の精霊魔法をかけて、ましな服装にした。シーラに暫く毎日、顔を見に行ってくれとお願いした。体調が良さそうなら、あの手紙をもって行かせるように頼んだ。

    次の家に行くときに、女の子が、バイバイといって手を振っていたのを見ながら、仮面の下で微笑みながら、次の家に向かった。

    次の家は、先程の家よりはましなボロさだった。

    「失礼するよ。」 

    そう断ってから中に入る。
中には、三十代の冒険者風の男とその息子と奥に誰かがいる気配がする。

「どちらさんだい?」

    男の問いかけに、シーラが旅の司祭が今日無料で魔法治療を行っている。こちらに目か四肢の欠損また他に病気を患っている人は居ませんかと問いかけると、途端に男は顔色を変えて土下座をして懇願する。

「頼みます。奥に妻が寝ているが、病で起き上がれない。何とか治して欲しい。俺もこの通り左腕を魔物にやられた。このままでは、一家全員のたれ死んでしまう。お願いだ。助けて欲しい。」
「司祭のおじちゃん、頼むよ。母ちゃんと父ちゃんを助けてくれよ。」
「良いでしょう。まずは貴方の腕から治しますね。〈鑑定〉。」

    どうやら、欠損以外は病気は無いようだ。

    「〈クリーン〉、〈ピュリフィケーション〉、〈パーフェクトヒール〉。」

    呪文を唱えると、たちまち男の体全体が光出す。大きく輝いた後には、再生された男の左腕があった。

「あ、あ、有る。直ってる。動くぞ。治っているぞ。司祭様ありがとう。有難うございます。」
「再生された腕は、多少筋力が落ちているから、注意しなさい。」
「分かりました。では、妻もお願いします。こちらです。」

    家の奥に案内されると、男の妻が両目を瞑ったままベッドに座っている見て明らかに栄誉不足だ。

「あなた、どなたかいらしているの?」
「ああ、喜べ。旅の司祭様が魔法の治療をしてくださるぞ。」
「でも、家にはお払いするお金が無いわ。」
「失礼、奥方。私は信仰上の修行で行っているので、今回については無料で見させて貰っている。安心なさい。それでは早速始めます。〈クリーン〉〈ピュリフィケーション〉〈鑑定〉。」

(やはり、目は栄誉不足のために見えなくなったようだな。ならばまずは、体力を回復させてと。)

「〈リジェネレーション〉そして、〈パーフェクトヒール〉。」

呪文により、体が光り輝いて、それが収まると夫人に言う。

「体にある怪我は全て治しました。ゆっくりとまぶたを開けてください。ゆっくりとね。〈キュアオールラウンド〉。」

    念のために、病気も回復させる。

「・・・あ、何かうっすらと。いいえ、段々ハッキリしてきたわ。ああ、見える。見えるわ。貴方の顔も子供の顔も。ああ、見える。」

    見えるようになった両目から、涙が止まることなく流れ落ちている。親子三人抱き合って喜んでいる。

「あー、喜んでいる所に申し訳ないが、旦那さんの腕も直ぐには前のようには動かないだろうから、注意するように。あと、暫くはこれで、食べ繋ぎなさい。」

    巾着袋に銀貨五十枚を入れて渡していく。そして、男に紹介状を渡すと、やることは終わったので、次の家に向かう。

    結局、この日は三十件程回ったが、まだ全体の半分を回っただけだ。明日で残りを回ってしまおう。そして、新しく建てた長屋に順次移ってもらおう。
役場の民政部を使って、強制移住させよう。スラム街に人が居なくなったら、建物を壊して更地にして、浄化して、再利用できるようにしてから再開発していこう。まずはここの人達を働けるように、体を治していこう。

 
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