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第十四章 イーストン解放編

第288話 帝国軍、再占領に動く。

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    ヒラドを占領して二週間。街の経済は少しずつ回復してきた。

    街の外の砂浜に魔法を使って塩田を作り、隣接した場所に塩釜を設置する工場を建てさせた。オカベに説明して、政府の直轄事業として指揮を取らせて、塩田と製塩工場の建設に取り掛からせた。
まあ、公共工事でお金をばらまいて、兎に角収入を増やさせるわけだ。
商業ギルドや冒険者ギルドを通して、燃料として薪や木材の採集の仕事を出す。

    次には、ヒラドの側を流れるヒラ河の治水事業を始めて、ここでも公共工事でお金を使う。結構な大盤振る舞いで、街の経済が回りだしてきたのだ。

    その中で、反帝国運動を以前から各地で起こしていた、反帝国ゲリラグループの内三つが、私の傘下に入りたいとリーダーが使者となって来た。
    いずれも元アオイ家の家臣や各街の諸公の関係者だった者達だそうだ。ムラマサやオカベが名前を知っていたり、顔見知りだったりした。

    今、三つのグループのリーダーが私の眼前に並んで座っている。
    各グループの保持している兵力は五百から六百人程だ。各街の守備兵は二千人だから、騒動を起こすには問題ないが、まともに戦うには戦力が足りない数だ。騒動を起こせても、街の奪還までは出来ないわけである。だから、駐留軍が援軍に来ると、散り散りに逃げ去る訳だ。子細を聞いて納得したね。

    三人の内一人目は、ムラマサ達の元知人ででハン・リーの父親ロン・リーの友人でもあり、シナノの街の守備軍の隊長だったケイジ・マエダ三十四歳。

(この者は強いね。〈気眼〉を使う前から体から闘気が漏れ出ているし、その闘気も澄んだ波動をしているから、中々の人物のようだね。)

    二人目は頭が切れそうな雰囲気の目の輝きに知性を感じさせるマサユキ・サナダ。元スンプの街の領主家守備隊の副隊長だった者だ。今年で三十二歳の若さだ。

    三人目は、元アオイ家の近衛隊の小隊長だったテルムネ・ダテだ。
三人は互いに面識はあったが、活動は別々に行っていたそうだ。

    「仮面剣士殿、お初にお目にかかる。拙者はケイジ・マエダと申す。以前はシナノ、マエダ家の守備隊で隊長を勤めておりました。」
「ほぅ。マエダ殿、かなりお出来になりますね。しかし、まだまだ詰めが甘い。闘気の制御が出来てませんね。」
「ほう、強いと言われたことは有りますが、詰めが甘いとは初めてですな。そう言う貴方は、人の事をそう言うだけの力を持っているのですかな?」
「まぁ、見ての通りの若輩者ですが、この位は出来ますよ。」

    普段押さえている闘気や『気』を全開にして、マエダにぶつける。

「グッ。バカな!」

    顔をひきつらせながら、私からの圧力に耐えているが、次第に頭が下がっていく。
    私が『気』を押さえて、何事も無かった様に座っていると、自分にかかる圧力が消えたのを感じて、ため息をつき体から力を抜いて顔を上げる。

    「失礼をしたね。言葉よりも体験した方が判りやすいと思ってね。まぁ、こんな感じだね。」
「フ、フフ、フハハハハッ!凄い、凄いな。お見それした。是非一度お手合わせをお願いしたいですな。成る程、ムラマサが当たり前のように、仕えているわけだ。仮面剣士殿、是非某を家臣に加えて頂きたい。お頼み申す。」

その場で、頭を下げて頼んでくる。

「ええ、構いませんよ。是非その力を私とイーストンの為に発揮してください。期待してますよ。」
「はっ!承知致しました、殿。」

    マエダが家臣に加わったのを見て、呆気に囚われて見ていたサナダやダテがやっと言葉を発する。

    「仮面剣士殿?今何があったのですか?いきなりマエダ殿と互いに見合っていたかと思うと、マエダ殿は急に汗をかいたかと思ったら頭を下げ始め、急に納得したと言って、家臣になると言い出すとは。どうしたのですかマエダ殿?」

    サナダの質問に、何を当たり前の事を聞くのかと驚くマエダ。

「え、あの凄まじいまでの闘気の力を感じなかったのですかな?」
「いや、私達には二人が視線を交わしただけの様にしか見えませんでしたが?」
「なんと、真ですかダテ殿?では、あれほどの闘気を、某だけに操り当てたのですかな殿?」
「『気』は操って己の力にしてこそ、意味がある。操れぬ闘気は只の威嚇にしか使えないからね。」
「はっ!ますます恐れ入りました。確かにまだ私は詰めが甘い様ですな。」
「いや、お二人だけ納得されても、何が起こっていたのか分からぬ。説明してほしいですな。」
「なら、論より証拠だ。先程マエダ殿には、こうしていたのさ。」

    この言葉と共に、目の前の三人に向け、『気』を解放する。途端に私からの吹き出す『気』や闘気が三人を包む。

「くっ!」
「なんと!」
「フフフ。」

    マエダは嬉しそうに笑っているが、残りのサナダとダテはマトモに当てられた『気』に、顔を青くして、冷や汗を流しながら、自然と頭を下げていく。
私が『気』の放出をおさめると、急にあった圧力が無くなり、サナダとダテは汗をかきながらも、ホッとした顔を上げてこちらを見てくる。

「・・・成る程。納得しました。貴方は将の将の器をお持ちのようだ。確かに万の言葉よりも一度の体験ですな。では、最後に一つお聞きしたい。貴方は何がしたいのですか。」
「ほう、また難しいことを聞くね。まあいい。始めにこれだけは言っておこうか。私は別に人々の上に君臨したいからやっている訳ではない。そもそも領主や統治者なんて、面倒臭いことこの上ないし、時間ばかり取られて、好きな事も出来ない。やらなくて済むなら、わざわざ自分からやるつもりはないさ。でもね、いろんな意味で、力ある者はその力を正しく使う義務があるとも思っている。それが、この世界に生まれ生きる者の責任だともね。たまたま、そう言う力を私が持っていた。たまたまその力を正しく使う場があった。なら力を使うのに躊躇うことは民衆の為にならない事で、誰も幸せにならないことだと思っている。必要だからやっているのさ。それで。民衆が幸せになるならね。ま、こんな所だね。」
「成る程、支配欲からではない様ですね。・・・いいでしょう。私も家臣に加えてください。」
「某も、家臣の末席に加えて頂きたい。」
サナダとダテも頭を下げて、家臣に加えてほしいと言ってくる。

    「有難う。こちらこそ頼むよ。我が軍には実戦部隊は有るが、参謀はいないからね。ムラマサと力を合わせて管理運営してくれ。」

マエダに続きサナダとダテも家臣に加わった。

    三人に共通なのは、反骨心が強い所だ。実力無いものに従う気はない気概があるようだ。
そんな事を面会して感じていたときに、部屋がノックされ、あわててムラマサがオカベと共に入ってきた。

    「殿、失礼します。今、港から報告がありまして、帝国の軍船がこちらに大挙して向かっているとのことです。対応如何しましょうか?」
「ほう、ついに来ましたか。では早速予定通りに沈めますか。」

    私の一言を聞いて、ムラマサ以外の四人は目を剥いて驚いている。

「殿!沈めると言われますがどの様に?」

サナダが驚いて聞いてくる。

「ま、任してくれ。ムラマサとオカベ。港に移動するぞ。ついてこい。三人も興味あるならどうぞ。」

そう言って、執務室を出ていく。

    「あー確かに。水平線上に船影が幾つもあるね。じゃあ、こっちに来る前に、始末しようかね。〈マップ表示・オン〉。」

イーストン海峡(命名、私)の中間を中心にしてマップを合わせる。

「〈サーチ・帝国軍の軍船〉表示赤。」

サーチで調べると、赤い光点がざっと一塊の集団で表示される。

「〈鑑定・赤い光点〉。」
(鑑定結果・赤い光点は帝国の軍船だよ。総数二百隻いるね。一隻に百人の兵士が乗っているから、全部で二万人の兵力だね。全て帝国人の兵隊だよ。やっちゃいな!)

(やっちゃいなって、どんなだ?全部帝国人なら気にする事なく、沈めるけどね。)

    「殿、如何されましたか。ぶつぶつと何やら唱えていましたが。」

サナダが気になったのか、事情を聞いてきた。

「なに、まずは相手の情報を調べていたのさ。船は二百隻、兵力は二万だそうだ。」
「に、二万ですと?!それでは勝てないではないですか!二万を相手にどの様に?」
「え?簡単だよ。マトモに戦えば二万だけど、わざわざマトモに戦う気は無いから。今は海の上に二百だけだ。全て沈めれば問題ないだろう?」
「なんと、沈めると言われるか?一体どのようにして?」
ダテが興味深い顔で聞いてきた。

「まあ、見ててくれるかな。魔法で船を全て燃やし尽くすから。〈マルチロック〉表示赤色、よし。〈ボルカニック〉やれ!」
大分はっきりとしてきた船影から、赤色の光が吹き出して、遠目に見ても船団全てが燃えているのがわかった。

「殿、今のは魔法でしょうか?何やら大きな魔力が動いたのを感じたのですが?」
「良く気付いたねサナダ。そう、魔法を使って今帝国の軍船の全てを燃やしたのさ。言っておくが〈ファイアボール〉なんて低レベルの魔法じゃないよ。〈ボルカニック〉、これは対象が燃え尽きるまで、高温の炎が吹き出し続ける魔法さ。水の中でもね。百パーセント沈むよ。これで二万の兵もおじゃんだね。ムラマサ?」
「はっ!何でしょうか。」
「海岸線に死体や生存者が打ち上げられるかもしれない。死体は処理で生存者は降伏するなら、一時的に隔離して捕まえておくように。後日、意思を確認して、本当にこちらへ下るなら、魔法をかけた上で自軍に編入するし、気がないなら処理するから。いいね?」
「はっ!判りました。早速手を打ちます。」
「うん、頼むよ。さて、こんな感じだが、これで帝国からの再進攻は、ほぼ無くなったね。一段落ついたよ。行こうか。」

    口を開けたまま、硬直している四人を置いてきぼりにして、私は屋敷に戻っていく。
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