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第十八章 帝国大乱。

幕間99話 ボニーの舞い。①

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    あたしはボニー。踊り子のボニー。踊り子といっても剣舞の踊り子なんだけどね。勿論他の躍りも出来るけどね。あたしの真骨頂はやっぱり剣舞さ。

    あたしの生まれはサンドロールと言う砂に囲まれた国さ。子供の内に母親と父親を続けて失くして、踊りの師匠であるマーサさんに八歳で引き取られ、弟子として養ってもらった。養って貰うとは言え、弟子でもあったから厳しい修行の毎日だったわ。一人前と言われるには十年の月日がかかったけどね。まだまだ師匠の域には及ばないけどさ。

    独り立ちをしてからも、時々師匠から、未だに指導を受けていた。私が未熟なのか、独立してからも未だにお小言を貰っているわ。とは言え実際師匠と闘うと、未だに勝てないからね。大人しく指導を聞いているわ。何時になったら師匠を越えられるのかしらと、我が事ながら心配になるわ。

    二年前からウェザリア王国に移動して冒険者や踊り子として生活をしているの。サンドロールでは何故か最近になり食料が足りなくて商売にならなくなるし、サウスラーニやイーストンは帝国の属領となり、まともな商売が出来ないからだ。聞いた話では治安も悪く生活しずらいらしいので、そこで思いきってウェザリア王国まで足を伸ばしたわけ。

    今の王様は賢王と民達からは呼ばれているらしく、場所にも依るが、総じてどの領地も治安が良い。私は王都で冒険者と酒場で踊り子をたまに勤めて生活をしていたわ。
たまに客から何を勘違いしたのか、金で体の関係を迫る人がいるけど、そんな男には言った事を剣で後悔させて、追い返しているわ。

    そんなあたしが、この街に来て二度目の建国祭に選手として武闘会に参加したのは、自分の今の力を試したかったからよ。あと、そんなやからの誘いを無くすためだわ。
独り立ちしてから六年。あたしの力は他の人と比べてどうなのか、知りたくなったのよ。良い機会と思って、今回参加を決めたわ。

    五の月にはり、いよいよ建国祭が始まった。事前に申し込みを忘れずにしておき、本番に向けて練習を欠かさなかったわ。


    予選初日。待合室には大勢の参加選手が集った。
一目見て、大したことの無さそうな人もいれば、たまにだが油断ならない気配の人もいた。
この部屋に集まっている選手であれば、エルフの女と槍使い女、貴族の子女らしい子と虎人族の大柄な女と狼人族の少女当たりが強そうだ。予選はバトルロワイヤルらしいから、他の選手も敵として纏まってくるなら侮れない存在になる。ある意味トーナメントより予選の方が戦い方としては難しいわね。
そんな事を考えていると大会職員がルール説明をしに来た。

    一通り説明が終わると、時間まで待ち時間となる。時間にして三十分もない短い間に、準備運動として部屋に備え付けの大きな鏡に向かい軽く踊っていた。
私が眼をつけた選手はそれぞれ精神統一だったり、同じく型をなぞっていたり、変わった所では、神官なのか神に祈りを捧げていた。

    そんな事をしていると、職員が私達の部屋に来て、" 時間になりました。会場へ移動してください "  と部屋にいる選手に言う、移動する途中で説明時に言われた通り、試合用の木剣の中から片刃のサーベルに近いやや小ぶりの剣を二本選ぶと握りの具合を確めてから、それを使うことに決めた。選ぶとその足で会場へと向かう。

    会場はコロッセオの様な広い闘技場っておりなに、周りを擂り鉢型のように囲んで観客席と中段の一番見晴らしの良い場所貴族用の貴賓席がある。正面に王様だろうか、一際豪華な椅子があり、今は空いていた。

「お待たせ致しました。女子予選二戦目始めて下さい。」

司会のアナウンサーの掛け声と共に皆木剣を構える。

(あら、心配したけども、他の選手と協力する頭のキレる人は、こちらのグループには居ないようですね。まぁ、最後まで、注意は必要ですけど。)

そう思いながら、私にかかってきたロングソードの女を左手の剣で受け止めて、右の木剣で相手の左脇腹を払う。

「二十四番、失格。」

    相手の負けが宣告されると、大人しく剣を引き残念そうに会場から退散する。私が戦っている間も、負けた人は会場を去って、残り六人となった。

    戦いが始まってから私を見ている視線を感じるの。どうやら私だけではなくて、他の選手達も見ているようで、何人かは視線の相手を見返している。私も視線の元へ見返したが、私が見た時には視線が消えていて、多分そこだろうと思える場所をみたの。
そこにはまだ若い貴族の一家と護衛の騎士と何故か冒険者がいたわ。誰から視線を送られたかは分からなかったけど、あの中に視線の主がいるのは、間違いないわ。
そんな事を考えながらも、試合は終わっていた。結局私には、最初の一人しかかかってこず、無事に予選をクリアする事が出来たわ。でも、何でかしら。一人しかかかってこないなんて?

    残ったのは結局、私が試合前に気になった人達だったわ。
エルフの片手剣のみの人と虎人族の太剣使いの大柄の人と赤毛の槍使いの人だ。
顔触れを見て、注意は必要だけど怖くはないと判断した。もう一つの別のクループは知らないけれどね。

取り敢えず、トーナメントには出場できたから、最低限の目標はクリアしたわ。
この後も、気を引き締めていきましょつ。


    決勝まで三回勝ち、最後の決勝まで色々とあったらしいわ。
二回戦の早朝には、街にいる貴族派のお偉いさん達がまとめて捕まったらしい。
私はその時はまだ寝ていたけどね。夜は遅いから朝早くは眠いのよ。詳しいことを知ったのは、二回戦の後だったわ。そして翌日には闇ギルドの者達が捕まったと酒場の噂を聞いたの。その時は良く見つけたなと驚いたわ。
これで治安が良くなったと、皆言っていたわ。

    そんな事もあって、大会以外にも色々とあったが、私には直には関係ないから他人事だけどね。

遂に決勝となったわ。相手は予想外の神官の人だった。てっきりエルフか貴族の子女かと思っていたからよ。まあ、戦いを見ていたら防御力は高いと思ったが、攻撃はそれ程には怖さはなかった。手こずるコとはあっても、勝ちは揺るがないと思っていたわ。

それが、敵を甘く見ていたと思い知らされる事になった。

「それでは決勝戦、始め!」

審判の掛け声が響いたと思った途端に、相手が盾を前に掲げて、思いもよらぬスピードで突っ込んできた。
てっきり、防御を固めて長期戦を挑んでくるかと思っていたが、意表を突かれた形になったわ。

あっと声をあげる間もなく、そのままに突っ込んできた。盾に押される形のままに後ろに倒されてしまう。そのまま眼前に武器を突き付けられてしまう。

「それまで。シーラ殿の勝ち。」

思いもかけない形で、あっけなく負けたことに、思わず笑いそうになり、自分の未熟さにおかしくなり、笑ってしまったわ。まぁ、負けてしまったのは残念だけど、まだまだ強くなる余地が有ると言う事が分かって正直嬉しかったけど。

大会が終わって直ぐに、帝国が攻めてくると町中に噂が流れた。本当なの?と思ったが、酒場に流れる噂話を聞くと、本当らしい。
実際に、翌日には迎撃の軍が出発したのを見て、本当だと確信したわ。
国境に向かって出陣していく軍列を眺めながら、これからこの国はどうなるのかしらと心配した所、一週間もしないで驚きの噂が流れる。なんと、王国軍が帝国に勝った。しかも味方の損害が殆んど無い完全勝利だと。今回の戦い帝国軍は、王国よりも五千人多く多く王国軍が不利だったはずよ。それをひっくり返したなんて、確か今回の軍を指揮していたのは、軍の将軍ではなくて、リヒト侯爵だったはすよね。国王陛下の弟だったはず。そんなに強い指揮官だとは聞いたことはないわね。参謀も有名な人は居なかったはずよ。
どうやって帝国に勝ったのかしら。凄く不思議だったの。その答えを私自身身をもって知る事になるなんて、この時は思いもしなかったわ。

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