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自由のための一歩
破綻の予感
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ヴィンデッシュ=グレーツ中尉──オットーも、最初こそ戸惑っていたけれど、私との結婚に前向きになってくれていたわ。皇帝の血縁として私が保持し続けることになった特権や、持参金が彼にもたらした莫大な財産や年金がどれほど影響したかは、言わぬが花というものでしょうけど。美しい花嫁自身にも、少しは魅力を感じたのかしら。そう言ってくれてありがとう。こんなおばあちゃんにお世辞が言えるなんて大したものだと思うけれど、でも、私の若いころの写真を見ていたらそんなことも言えるのかしら。私は……かつては美しかったのよ。
とにかく、そんな調子だったから、結局のところ私は失ったものより得たものの方が大きかったはずよ。魅力的な夫と、民衆からの祝福、初恋を叶えた幸せな女という評判、それに何より──自由! 帝位継承権の放棄によって、私はハプスブルク家からは離脱したの。だから第一次世界大戦の後もハプルブルク法の規定を逃れることができたわ。統治権を放棄する代わりに財産を保持して国内に留まるか、あるいは、あくまでも統治権を主張して追放されるかを選ばなくて済んだの。あの最後の皇太子、オットー・フォン・ハプスブルクは、まさしくハプスブルク法によってこのオーストリアに、彼が主張するところの彼の国に足を踏み入れることさえできないのに! ねえ、だから私は、先見の明があったでしょう。血の繋がりもある人たちをあまり悪く言いたくはないけれど、古い時代にしがみついて苦労をしなくて済んだのだもの。むしろ、自分から新しい時代に漕ぎ出して行ったと言っても過言ではないはずよ。貴方にとっては、面白くないことかもしれないけれど。特に私のような跳ね返りには、手痛いしっぺ返しがあって欲しいものなのでしょうけれど。
ええ、確かに私の最初の結婚は失敗に終わったと言えるでしょう。隠すつもりも美化するつもりもないわ。どうせ貴方はそこもよく知っているのでしょうから。世間知らずの小娘の癖に、すべて計画通りにことを進めることができただなんて、今の読者は喜ばないのでしょうから。
オットー・ヴィンデッシュ=グレーツとの結婚がいかにして破綻して、私がいかに苦労したか。帝国亡き後のもと皇女だなんていう存在が、いかに思い上がった心根をへし折られたか、そんな話の方を期待して来たのでしょうね? でも──この前、貴方が最初に来た時に言った通りよ。私は、貴方が知りたがるようなこと、貴方を喜ばせるようなことを話すつもりはないわ。何ひとつね。大体、真実がどうだったか、その時その時で私が何を考え何を企んでいたか、どうして貴方が知ったつもりになれるのかしら。私の結婚の背景のように、私にしか知らないこともあるはずだとは思わない? 当の本人が言うことなのですもの、それこそが事実であり真実なのではないかしら?
まあ、ここまで言ったのに目を輝かせて食いついて──職業病というやつかしら、なんて熱心なこと! でも、残念ね。私が今日語るのはここまでよ。これはこれで興味深い話には違いなかったでしょう。貴方のその顔を見れば、違うなんて言わせないわ。
さあ、最初の約束は忘れていないわね? 何を驚いたような顔をしているのかしら。過去のことより今のことよ。私が自分のことを語った分だけ、大統領と書記長の会談について、貴方が漏れ聞いたことを教えてくれるのでしょう。昔話をしている間に「取引」を忘れてしまうなんて、私はまだそれほど耄碌してはいないのよ。だから早く、もたもたしないで──話しなさいな。
とにかく、そんな調子だったから、結局のところ私は失ったものより得たものの方が大きかったはずよ。魅力的な夫と、民衆からの祝福、初恋を叶えた幸せな女という評判、それに何より──自由! 帝位継承権の放棄によって、私はハプスブルク家からは離脱したの。だから第一次世界大戦の後もハプルブルク法の規定を逃れることができたわ。統治権を放棄する代わりに財産を保持して国内に留まるか、あるいは、あくまでも統治権を主張して追放されるかを選ばなくて済んだの。あの最後の皇太子、オットー・フォン・ハプスブルクは、まさしくハプスブルク法によってこのオーストリアに、彼が主張するところの彼の国に足を踏み入れることさえできないのに! ねえ、だから私は、先見の明があったでしょう。血の繋がりもある人たちをあまり悪く言いたくはないけれど、古い時代にしがみついて苦労をしなくて済んだのだもの。むしろ、自分から新しい時代に漕ぎ出して行ったと言っても過言ではないはずよ。貴方にとっては、面白くないことかもしれないけれど。特に私のような跳ね返りには、手痛いしっぺ返しがあって欲しいものなのでしょうけれど。
ええ、確かに私の最初の結婚は失敗に終わったと言えるでしょう。隠すつもりも美化するつもりもないわ。どうせ貴方はそこもよく知っているのでしょうから。世間知らずの小娘の癖に、すべて計画通りにことを進めることができただなんて、今の読者は喜ばないのでしょうから。
オットー・ヴィンデッシュ=グレーツとの結婚がいかにして破綻して、私がいかに苦労したか。帝国亡き後のもと皇女だなんていう存在が、いかに思い上がった心根をへし折られたか、そんな話の方を期待して来たのでしょうね? でも──この前、貴方が最初に来た時に言った通りよ。私は、貴方が知りたがるようなこと、貴方を喜ばせるようなことを話すつもりはないわ。何ひとつね。大体、真実がどうだったか、その時その時で私が何を考え何を企んでいたか、どうして貴方が知ったつもりになれるのかしら。私の結婚の背景のように、私にしか知らないこともあるはずだとは思わない? 当の本人が言うことなのですもの、それこそが事実であり真実なのではないかしら?
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