ich rede nichts 赤い皇女は語らない

悠井すみれ

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離婚裁判の行方

離散する一族

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 第一次世界大戦が終わった後のハプスブルク家はもはや皇室ではなく、一族の者たちは統治権を放棄して共和国の市民として生きるか、あくまでも支配する一族であると言い張って追放されるかを選ばなければならなかった。前者には、例えば叔母のマリー・ヴァレリー大公女がいらっしゃる。私の父、皇太子ルドルフの妹君ね。祖父亡き後の帝国は滅びるだろう、と。予言のような遺言を受け取った方でもある。だから国を離れるように、という忠告には従わなかった代わりに、あの方は時代の変化を速やかに受け入れられたのでしょう。戦後すぐ、大恐慌の前に亡くなられたけれど、祖母の別荘であるヘルメス・ヴィラを継いで、かつてとほとんど変わらない生活ができたのだからきっと幸せだったと思うわ。その後にこの国がどうなったかを思うとなおさら、ね。

 最後の皇帝カールとその家族は、後者の、つまり共和国に背いて帝位を主張し続ける道を選んだ。だから、あの最後の皇太子、オットー・フォン・ハプスブルクは六歳かそこらで祖国を追われて亡命者になったということになるわね。それ以来、あの子はオーストリアに、少なくとも正式には足を踏み入れていないはず。ほとんど知らない「祖国」の帝位を主張し続ける人生がどんなものなのか──いいえ、私が取りざたする権利もまたないわね。私は自ら帝位継承権を放棄したのだから。
 マリー・アントワネットが断頭台の露と消えたフランス革命に比べれば、祖父の帝国はずっと緩やかに、ずっと穏やかに崩れ落ちたわ。帝政から共和制に国のかたちを変えたと言っても、革命とも呼べるかどうかも微妙なところでしょうね。少なくとも、ロシア──というかソビエト連邦から伝播しかけた共産主義は、オーストリアでは根付かなかったから。

 だからといって、私と子供たちの生活が安寧とはほど遠かったのはこの前話した通りよ。頼れる人もなく、むしろ民衆からは戦争を始めた皇帝の身内、彼らの困窮を他所に贅沢に耽っていた一族と謗られかねない存在だった。まして私は、オットーとの結婚生活の間の醜聞のお陰で、すっかり味方をなくしていたから。母でさえも、もう私の話を聞こうとしてくださらなかった。策に溺れたのだと、今なら認めても良いでしょう。私は、オットーとの結婚を進んで破綻させた。自らレルヒと浮名を流して、オットーに恥を掻かせて怒らせた。それは、やりすぎだったのだ、と。

 でもね、それが私だったの。賢明な淑女らしく夫を立てて操るとか、お互いに見て見ぬふりでそれぞれの愛人とよろしく過ごすとか、そんな真似はできなかったの。百か零か、勝つか負けるか──自由か、束縛か。何ごともはっきりさせなければ気が済まない性分なのよ。誤解もされたし苦しみもしたけれど、私は私の選択を甘んじて受けましょう。私、決して自分のことが嫌いではないのよ。だから結局のところ、結果は同じだっただろうし、私がやることも同じだった。つまり、全力全霊を賭して立ち向かう、ということ! だから、貴方が何度尋ねようと同じこと、私は泣き言なんて聞かせてあげないわ。あら、それでも良いの? 強がりなのか本心なのか──いいえ、私にはどうでも良いことね。それよりも話の続きをしましょうか。
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