3つ隣の世界に転移しました

西瓜すいか

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腐って落ちろ!

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 金曜日。今週も仕事が終わった。
 玉木茉莉は深くため息をついた。
 ……とりあえず部屋に帰って、自分とマットの分の晩御飯を作ろう。
 そんなことを考えながら会社のビルを出てから数分歩いて電車に乗り、電車の中で何を買って帰るかなどを考えながらスーパーへ向かう。
 茉莉は、外資系のIT企業に勤務していたイギリス人のマットと同棲をしていた。出会いは、彼女が派遣社員として勤務していた会社が、当時のマットの勤務先と同じビルの中に入っていて、ビルの1階に入っていたカフェで声をかけられたことがきっかけだった。
 マットはすぐに別の企業に転職をしたけれども縁は切れずに、とうとう彼が茉莉の部屋に転がり込むような形で2か月前に同棲が始まった。
 部屋が狭いと文句を言いつつも部屋を出て行かないのは、マットも茉莉のことをなんだかんだ言っても気に入っている――特に体を――からだ。そしてマットは次の転職先の社宅の手配が済むまでは茉莉の部屋を出て行かないらしい。
「あなたの方が給料いいはずなんだから、出ていくときには家賃を置いて行ってね」と茉莉は言っているが、マットは社宅に茉莉を連れていくと言い張って聞かない。

マットが茉莉の部屋に転がり込んできてから、二人はほぼ毎日セックスをしている。茉莉が生理の間はフェラチオをしている。とはいえ、茉莉が生理でない時も前戯の一環としてフェラチオをしているので、茉莉はマットが来てからフェラチオが上手になったと思うほどの回数をこなしている。が、上達ぶりを確認する機会は現在のところはない。
 茉莉にとってマットのセックスで一つだけ困るところが、精液を飲んで欲しいと言われることだった。しかし、回を重ねるごとに精液を味わわずに飲み込めるようになったので、ある意味片付けも楽だし、毎日のことでもないので顔にかけられるとかよりはいいかと思うことにしていた。

マットのことを、茉莉の過去の恋人と比べても同じくらい恋しているかというと、特にそういうわけではなかった。茉莉にとっては「家に帰ればかわいい子が家にいると思うと、なんとなく嬉しい」というだけだ。お気に入りのブランドのバッグを持ち歩いたり、お気に入りのインテリア、というようなものだろうか。
爛れた生活を送っているなあ…と、茉莉はたまに反省をする。この生活をいつまで続けるのか。モノ扱いをするのは申し訳ないが、転職先にも特に困らず、カフェで声をかけてくるような積極性もある青年がいつまでも自分といるとは思えないので、妊娠だけはしないようにしないといけないと、茉莉はピルも飲んだ上でコンドームも使っていた。

 茉莉は、そんなことやら家に帰ったら何を「しよう」かと考えていたら、自分の秘部が熱をもって、じんじんしていることに気が付いた。
もうじき生理だから、生理が来る前に中をいっぱいかき回してもらおう…などということを考えながらスーパーで買い物を終え、アパートの前まで戻ってきた。
そこで茉莉の目に飛び込んできたのは、自分の部屋の前でキスをしているマットと、金髪の女性の姿だった。

 マットとの『ルームシェアリング』を始める際に、茉莉はあくまで常識的な範囲の条件を伝えた。その一つが「知らない人を事前の連絡なしに連れて来ないで欲しい」ということだ。
まあ当然のことである。知らない人を自分の部屋に勝手に入れられるのは気分のいいものではない。高価なインテリアなどが置いてあるわけではないけれど、カーテンもベッドもテレビもお皿も、トイレットペーパーだって自分の好きなものを選んだ部屋だ。知らない人に勝手に使われたりしたいわけがない。
 金髪の女性は、マットの頬にキスをした後に彼女自身の手で部屋の鍵をかけた。マットならともかく、なぜ知らない女が私の部屋のドアの鍵をかけるのか。茉莉の頭に血が上った。
 茉莉は、スーパーの買い物袋を下げる手に力を入れなおし、アパートの入口の戸を開ける。
アパートの階段を上る。彼女の2階の部屋まではすぐだ。

茉莉は少しでも冷静になろうと、彼ら二人がきょうだいだったり親類だったりの可能性を考えてみた。
しかし、二人がキスをしている姿を思い出すと「それはないな」という結論にしかならない。
きょうだいで、見るからに舌を絡めるようなキスをしながらお互いの尻を揉むか?といったら、それはないだろうと考える。
 ひょっとしたら彼の姉妹とか親類かもしれない。人種はぱっと見同じような感じがする。
その可能性も少しだけ考えたが、部屋の前でキスしている二人を見て「やっぱ、そうじゃないな」と思った。身内がキスしながら、尻は揉まないだろう。

「…マット!」
茉莉は、できるだけ声が震えないように気を使いながら声を出す。
 びくっとした二人は、キスを止めてこっちを見ている。
 女の方はただ驚いているだけに見えるが、マットの方は…まあなんというか。失敗した、とでも言いたそうな顔にも見えるし、驚いているようにも見える。
「バカなの?私がいつも仕事を終えて帰ってくる時間に気づいていなかったの?」
 茉莉は二人にわかるようにはきはきと喋る。

 茉莉は「二人が出てきた私の部屋に戻りたくない」と、胃の方から何かこみあげてくるものを飲み下す。
 場所も家具も、スプーン1つだって、トイレットペーパーだって茉莉自身が選んだ部屋だ。たかだか数か月一緒にいるだけの、ヒモみたいな男に好きにさせることができるものなど一つもない。
マットの目を見て、茉莉は大きな声で、はっきりと言った。
「お前のチンコなんて腐って落ちたらいいんだ!!!!!」
 茉莉は二人に背を向け、ゆっくりと階段を下りる。彼らの前で足を滑らせるような恰好の悪い真似をしないように気を付ける。「今日のパンプスの踵が低くてよかった」と思ったその時だった。
 茉莉は階段の隙間からどこかへ落ちて行った。
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