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「お邪魔します」
小野塚くんは脱いだ靴を揃え、入ってくる。部屋に自分以外の人がいるなんて、母が生きていた頃以来だ。
「座るとこないから奥のベッドでもどうぞ」
「ご挨拶にお線香あげても?」
小野塚くんが視線で母の仏壇を指す。
「あ、ああ。うん」
お母さん、びっくりするだろうな。背後でお鈴が鳴るのを聞きながら、洗面台で石鹸をつけて手を洗う。俯いていたので、不意に気配がすぐ側にきて、驚いて顔を上げる。
「おれも手洗っていい?」
「うん。どうぞ」
手を拭いて、タオルラックから新しいのを出してホルダーに引っかける。
ハンガーを探して、小野塚くんに渡す。ジャケットを掛けたハンガーをもらって、鴨居に引っかける。
「なんだかわけわかんない感じになっちゃったけど、我が家へようこそ。もうこの際だからゆっくりしていって」
半ば捨て鉢に言うと、小野塚くんは苦笑し、コンビニの袋の中身を卓袱台に並べていった。
取り皿があった方がいいだろうと、台所に行き、食器棚からいくつか見繕って、長いこと使ってなかった中皿を洗っていると、小野塚くんがゆっくりこっちへ来る足音がした。
ぎ、と踏み込むときの床の軋む音がして、背後から気配が被さってきた。
「ちょ……」
ビックリして思わず固まってしまう。
小野塚くんはシンクに手をついて、私を完全に囲った。耳元に吐息がかかって爆発したみたいな鼓動が鳴る。
「酒が入って有耶無耶になる前に、井上さんの気持ち、教えてよ」
私の、気持ち? 心臓が騒がしくて、小野塚くんが近すぎて、頭の中がしっちゃかめっちゃかだ。
「あ、あの、小野塚くん……」
「つり合わないとかそんなのどうでもいいから、井上さんが、おれのことどう思ってるか聞かせてよ」
「お、小野塚くんのこと? どう、思ってるか……?」
声が上擦ってしまう。
「うん」
「え、えっと……」
「今の状態は迷惑?」
「……な、なんていうか、ドキドキしすぎて頭の中ぐちゃぐちゃになって困ってる」
「嫌ではないってこと?」
「嫌では、ない……けど」
「じゃあ、おれのことどう思ってる?」
「え? 私より年下なのにもう大会で優勝してるし、ナショナルチーム入りして世界活躍してるし、影響力あって、メディアとかにも出てて、すごいな、って……」
ガックリと落とした額が肩に落ちてきた。
「それだけ?」
ため息が熱くてくすぐったい。
「えっと、手足が長くてモデルみたい。顔も綺麗だし、ランウェイ以外でオールブラック着こなしてる人みたことない」
「ステレオタイプな褒めなんて欲しくない。まあ、爺ちゃんの服が似合うって言われたのはめちゃくちゃ嬉しいけど。――ねえ、井上さん。おれ、井上さんのこと好きだよ。ずっとあなたを想って生きてきたんだよ」
「でも、なんで私の事好きになったの? 私なんてなんにもないよ? それに学生時代も接点なんてほとんどなかったのに」
小野塚くんは脱いだ靴を揃え、入ってくる。部屋に自分以外の人がいるなんて、母が生きていた頃以来だ。
「座るとこないから奥のベッドでもどうぞ」
「ご挨拶にお線香あげても?」
小野塚くんが視線で母の仏壇を指す。
「あ、ああ。うん」
お母さん、びっくりするだろうな。背後でお鈴が鳴るのを聞きながら、洗面台で石鹸をつけて手を洗う。俯いていたので、不意に気配がすぐ側にきて、驚いて顔を上げる。
「おれも手洗っていい?」
「うん。どうぞ」
手を拭いて、タオルラックから新しいのを出してホルダーに引っかける。
ハンガーを探して、小野塚くんに渡す。ジャケットを掛けたハンガーをもらって、鴨居に引っかける。
「なんだかわけわかんない感じになっちゃったけど、我が家へようこそ。もうこの際だからゆっくりしていって」
半ば捨て鉢に言うと、小野塚くんは苦笑し、コンビニの袋の中身を卓袱台に並べていった。
取り皿があった方がいいだろうと、台所に行き、食器棚からいくつか見繕って、長いこと使ってなかった中皿を洗っていると、小野塚くんがゆっくりこっちへ来る足音がした。
ぎ、と踏み込むときの床の軋む音がして、背後から気配が被さってきた。
「ちょ……」
ビックリして思わず固まってしまう。
小野塚くんはシンクに手をついて、私を完全に囲った。耳元に吐息がかかって爆発したみたいな鼓動が鳴る。
「酒が入って有耶無耶になる前に、井上さんの気持ち、教えてよ」
私の、気持ち? 心臓が騒がしくて、小野塚くんが近すぎて、頭の中がしっちゃかめっちゃかだ。
「あ、あの、小野塚くん……」
「つり合わないとかそんなのどうでもいいから、井上さんが、おれのことどう思ってるか聞かせてよ」
「お、小野塚くんのこと? どう、思ってるか……?」
声が上擦ってしまう。
「うん」
「え、えっと……」
「今の状態は迷惑?」
「……な、なんていうか、ドキドキしすぎて頭の中ぐちゃぐちゃになって困ってる」
「嫌ではないってこと?」
「嫌では、ない……けど」
「じゃあ、おれのことどう思ってる?」
「え? 私より年下なのにもう大会で優勝してるし、ナショナルチーム入りして世界活躍してるし、影響力あって、メディアとかにも出てて、すごいな、って……」
ガックリと落とした額が肩に落ちてきた。
「それだけ?」
ため息が熱くてくすぐったい。
「えっと、手足が長くてモデルみたい。顔も綺麗だし、ランウェイ以外でオールブラック着こなしてる人みたことない」
「ステレオタイプな褒めなんて欲しくない。まあ、爺ちゃんの服が似合うって言われたのはめちゃくちゃ嬉しいけど。――ねえ、井上さん。おれ、井上さんのこと好きだよ。ずっとあなたを想って生きてきたんだよ」
「でも、なんで私の事好きになったの? 私なんてなんにもないよ? それに学生時代も接点なんてほとんどなかったのに」
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