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なんてことだろう。うらぶれた空気漂う路地裏がまるでファッション誌の一ページみたいだ。夜の青みがかった黒をバックに白い外灯の侘しいスポットライトの下で、小野塚くんがアパートを見上げているだけなのに。足元の鉢植えの赤いゼラニウムが退廃的な画の中に生命力の華やかさを添えている。
小野塚くんはアパートから私の方へ視線を移す。
「眠れる森のお姫様っていうのは、だいたい荒れ果てたお城にいるものなんだよ」
なんて言ってのける。その台詞も立ち姿も強烈な印象を私にぶっぱなしてくるのは、オールブラックのせい?
「リョウ・オノツカの服ってすごいね。どんな風景も印象的に変えちゃう」
「おれも爺ちゃんの服、だいすき」
ニカッと笑う。全体的にでっかい犬なのに、顔いっぱいに笑うと、仔猫みたいな愛嬌。
「私、こんなところに住んでるの。ドン引きでしょ?」
「セキュリティがガバガバで心配。犯罪被害には遭ったことないよね?」
「ない」
「よかった」
「そうじゃなくて」
「なに? うえ、上がってもいい?」
「見たってなんにもないよ」
「おかまいなく。部屋どこ?」
「二階の左から二番目」
カツンカツンと音を立てながら、小野塚くんは階段を上がっていく。
「本気で入んの?」
「来るかっていったのは、井上さんじゃん。それにこんなに買いこんじゃったし」
「それは、そうだけど」
「お宅訪問の手土産にしては雑でごめんね」
「そんなの気にしなくていいよ」
2Kの部屋は、玄関を入れば六畳ほどの板張りで、すぐ右に台所、台所の小さい食器棚の1番上のガラスの引き戸がお母さんの仏壇代わり。左がトイレ、右奥は洗面台とお風呂場。奥の和室は四畳半。右手側に押し入れ、左側にベッドマットを置いて中央には卓袱台。窓際のスチールラックには、ウィッグやシザーケースやロッドが入った収納ボックスがある。明日やろうと思ってたから洗濯物は干してないし、見られて困るものはない。
「見ても面白くもなんともないと思うけどね」
鍵を開けてドアを開く。一日中閉めきっていたせいで、蒸れた空気が流れ込んできた。
「ね。狭いしなんにもないでしょ」
いいながら、靴を脱いで換気のために奥の部屋の窓を開ける。
「お邪魔します」
小野塚くんは脱いだ靴を揃え、入ってくる。部屋に自分以外の人がいるなんて、母が生きていた頃以来だ。
小野塚くんはアパートから私の方へ視線を移す。
「眠れる森のお姫様っていうのは、だいたい荒れ果てたお城にいるものなんだよ」
なんて言ってのける。その台詞も立ち姿も強烈な印象を私にぶっぱなしてくるのは、オールブラックのせい?
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「おれも爺ちゃんの服、だいすき」
ニカッと笑う。全体的にでっかい犬なのに、顔いっぱいに笑うと、仔猫みたいな愛嬌。
「私、こんなところに住んでるの。ドン引きでしょ?」
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「ない」
「よかった」
「そうじゃなくて」
「なに? うえ、上がってもいい?」
「見たってなんにもないよ」
「おかまいなく。部屋どこ?」
「二階の左から二番目」
カツンカツンと音を立てながら、小野塚くんは階段を上がっていく。
「本気で入んの?」
「来るかっていったのは、井上さんじゃん。それにこんなに買いこんじゃったし」
「それは、そうだけど」
「お宅訪問の手土産にしては雑でごめんね」
「そんなの気にしなくていいよ」
2Kの部屋は、玄関を入れば六畳ほどの板張りで、すぐ右に台所、台所の小さい食器棚の1番上のガラスの引き戸がお母さんの仏壇代わり。左がトイレ、右奥は洗面台とお風呂場。奥の和室は四畳半。右手側に押し入れ、左側にベッドマットを置いて中央には卓袱台。窓際のスチールラックには、ウィッグやシザーケースやロッドが入った収納ボックスがある。明日やろうと思ってたから洗濯物は干してないし、見られて困るものはない。
「見ても面白くもなんともないと思うけどね」
鍵を開けてドアを開く。一日中閉めきっていたせいで、蒸れた空気が流れ込んできた。
「ね。狭いしなんにもないでしょ」
いいながら、靴を脱いで換気のために奥の部屋の窓を開ける。
「お邪魔します」
小野塚くんは脱いだ靴を揃え、入ってくる。部屋に自分以外の人がいるなんて、母が生きていた頃以来だ。
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