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マロンブラウンにカラーリングされた長めのパーマヘアに顎髭、ダークなチョコレートブラウンのスリーピーススーツにサックスブルーのシャツ、ネイビーのネクタイの男の人が困り顔で会釈した。
「すみません。井上、しの、さんで間違いないでしょうか?」
「さいとうしゅういちさん?」
「は、はい! 斉藤柊一です。小野塚淳の代わりにお迎えにあがりました。すみません。皆さん出てこられたのは見えたんですが、電話の対応をしておりまして、出遅れてしまいました」
「いえ、大丈夫です」
斉藤さんはスーツの色んなところのポケットに手を入れながら、わたわたとあちこち何かを探している。
なにしてんだろ。
「あ、あ、あの、えと、ええと、すみません。名刺を……」
「ああ……」
「すみません。身元不明の男に話しかけられて不快ですよね。えと……。少々お待ちください」
と、思い出したように一瞬宙を仰ぐ。そして一旦車に戻ってまたこちらに小走りでやってきた。
「お待たせしてしまって大変申し訳ありませんでした。小野塚の遣いで参りました斉藤柊一と申します」
と、木(紙の薄さにスライスされてる)に印刷された名刺を出した。
「ご丁寧にありがとうございます。私、生憎名刺を持ってないんですけど、あ。保険証か何かご覧になります?」
「あ。大丈夫です。お顔は存じ上げておりますので」
「え。なんでですか?」
「淳くんに見せてもらいました」
「……え?」
「あ。失礼しました。小野塚から確認させて頂いております」
「いや、そこじゃない。そこじゃないです、斉藤さん! なんで私の顔確認できたんですか?」
「お店のウェブサイトの指名一覧です」
「あ! なるほど!」
「では、行きましょうか」
と、促されて助手席に乗り込む。
「麻布のマンションにお送りしてよろしいですか?」
「はい。お願いします……」
よく見るとこの人の目、天然のヘーゼルブラウンだ。なるほど彫りが深くて甘めの端正な顔立ち。
「あ……あの、私の顔に何かついてます……?」
斉藤さんが気まずそうに私を見返す。
「いえ。じゅ、あ、いや、小野塚くんが言ってた通りの男前だなと!」
「お気遣いなく。私、下まつげモッサリーニとか、石油王とか、ラクダとか呼ばれてきたんです。そういうの辛くなるので勘弁してください」
「あ。すみません。そんなつもりはなかったんですけど……、大変だったんですね」
むしろ笑ってはいけない思い出話するの勘弁して。過去のクラスメイト、ラテン系なのかアラブ系なのかわからないごっちゃにしたあだ名やめてあげて。
「ええ。最終的にはゲモッサとか訳の分からないあだ名に行きついて本当に辛かったです」
ねえ。これ、笑ってはいけないシリーズ始まってる? むしろ笑わせたい? わからないギリギリの線のボケ?
「じゅ、淳くんはその頃からのお友達ですか?」
「いえ。私は五歳歳上で、子供の時はまったく接点はなかったですね」
「では大人になってから?」
「はい。大学を卒業して外資系企業で働いていたんですけど、すぐ精神的にやられちゃって。半年ほど引きこもっていた時に、淳くんに今の仕事に誘われたんです。最初は母の雇用主なので仕方なく引き受けたんですけど、彼とはすごくリラックスして働けるので救われました」
「そうなんですか。それはよかったですね」
「はい」
穏やかな微笑みを浮かべる。ゲモッサ、見た目だけなら入れ食いでモテそうなのに。心の壁が分厚くて女性を寄せ付けないタイプかな。
「井上さんのことは、結構、淳くんから聞いてます」
「え」
「憧れの人だったそうで」
「やめましょう。その話」
「あ。はい。なんか、すみません」
車を走らせ、マンションへ向かう道中、ゲモッ、いや、斉藤さんは喋らなくなった。あまりお喋りは得意では無さそう。接客業の端くれなので雰囲気でわかる。私も元来トークは苦手なので助かる。さりげなくBGMをかけてくれて、沈黙を誤魔化してくれた。
「玄関までお送りしたら帰りますのでご安心を」
降りる時に手を貸してくれて、本当に玄関のドアを開けて、鍵を閉めて帰って行った。自動で点灯する室内灯にビビり、まだ馴染めない部屋に一人きり。手入れの行き届いたキレイな部屋で、どうしていいかわからない。とりあえずシャワーを浴びて、リビングのソファでTVをつけてみる。喉が渇いたので水道水を飲んで一息つく。やっぱり、自分の家に帰ればよかったかも。時計を見ると、もうすぐ日付も変わりそうだった。お天気キャスターが明日は雨だと言った。明後日は月曜日。店休日で講習会もない。このことを淳くんに話したら喜んでくれるかな。それとも、仕事で忙しいかな。早く帰ってこないかな。着た方がエロいと言われた部屋着で待っているのも気恥しいので十分丈のスエットとオーバーサイズのTシャツを着た。こういう時は何が正解なんだろう。あざとくエロい部屋着でいたほうがいいのだろうか。でも、やっぱり恥ずかしいからこのままにしとこう。ソファで三角座りをしながら、いつの間にか船を漕いでいた。
「すみません。井上、しの、さんで間違いないでしょうか?」
「さいとうしゅういちさん?」
「は、はい! 斉藤柊一です。小野塚淳の代わりにお迎えにあがりました。すみません。皆さん出てこられたのは見えたんですが、電話の対応をしておりまして、出遅れてしまいました」
「いえ、大丈夫です」
斉藤さんはスーツの色んなところのポケットに手を入れながら、わたわたとあちこち何かを探している。
なにしてんだろ。
「あ、あ、あの、えと、ええと、すみません。名刺を……」
「ああ……」
「すみません。身元不明の男に話しかけられて不快ですよね。えと……。少々お待ちください」
と、思い出したように一瞬宙を仰ぐ。そして一旦車に戻ってまたこちらに小走りでやってきた。
「お待たせしてしまって大変申し訳ありませんでした。小野塚の遣いで参りました斉藤柊一と申します」
と、木(紙の薄さにスライスされてる)に印刷された名刺を出した。
「ご丁寧にありがとうございます。私、生憎名刺を持ってないんですけど、あ。保険証か何かご覧になります?」
「あ。大丈夫です。お顔は存じ上げておりますので」
「え。なんでですか?」
「淳くんに見せてもらいました」
「……え?」
「あ。失礼しました。小野塚から確認させて頂いております」
「いや、そこじゃない。そこじゃないです、斉藤さん! なんで私の顔確認できたんですか?」
「お店のウェブサイトの指名一覧です」
「あ! なるほど!」
「では、行きましょうか」
と、促されて助手席に乗り込む。
「麻布のマンションにお送りしてよろしいですか?」
「はい。お願いします……」
よく見るとこの人の目、天然のヘーゼルブラウンだ。なるほど彫りが深くて甘めの端正な顔立ち。
「あ……あの、私の顔に何かついてます……?」
斉藤さんが気まずそうに私を見返す。
「いえ。じゅ、あ、いや、小野塚くんが言ってた通りの男前だなと!」
「お気遣いなく。私、下まつげモッサリーニとか、石油王とか、ラクダとか呼ばれてきたんです。そういうの辛くなるので勘弁してください」
「あ。すみません。そんなつもりはなかったんですけど……、大変だったんですね」
むしろ笑ってはいけない思い出話するの勘弁して。過去のクラスメイト、ラテン系なのかアラブ系なのかわからないごっちゃにしたあだ名やめてあげて。
「ええ。最終的にはゲモッサとか訳の分からないあだ名に行きついて本当に辛かったです」
ねえ。これ、笑ってはいけないシリーズ始まってる? むしろ笑わせたい? わからないギリギリの線のボケ?
「じゅ、淳くんはその頃からのお友達ですか?」
「いえ。私は五歳歳上で、子供の時はまったく接点はなかったですね」
「では大人になってから?」
「はい。大学を卒業して外資系企業で働いていたんですけど、すぐ精神的にやられちゃって。半年ほど引きこもっていた時に、淳くんに今の仕事に誘われたんです。最初は母の雇用主なので仕方なく引き受けたんですけど、彼とはすごくリラックスして働けるので救われました」
「そうなんですか。それはよかったですね」
「はい」
穏やかな微笑みを浮かべる。ゲモッサ、見た目だけなら入れ食いでモテそうなのに。心の壁が分厚くて女性を寄せ付けないタイプかな。
「井上さんのことは、結構、淳くんから聞いてます」
「え」
「憧れの人だったそうで」
「やめましょう。その話」
「あ。はい。なんか、すみません」
車を走らせ、マンションへ向かう道中、ゲモッ、いや、斉藤さんは喋らなくなった。あまりお喋りは得意では無さそう。接客業の端くれなので雰囲気でわかる。私も元来トークは苦手なので助かる。さりげなくBGMをかけてくれて、沈黙を誤魔化してくれた。
「玄関までお送りしたら帰りますのでご安心を」
降りる時に手を貸してくれて、本当に玄関のドアを開けて、鍵を閉めて帰って行った。自動で点灯する室内灯にビビり、まだ馴染めない部屋に一人きり。手入れの行き届いたキレイな部屋で、どうしていいかわからない。とりあえずシャワーを浴びて、リビングのソファでTVをつけてみる。喉が渇いたので水道水を飲んで一息つく。やっぱり、自分の家に帰ればよかったかも。時計を見ると、もうすぐ日付も変わりそうだった。お天気キャスターが明日は雨だと言った。明後日は月曜日。店休日で講習会もない。このことを淳くんに話したら喜んでくれるかな。それとも、仕事で忙しいかな。早く帰ってこないかな。着た方がエロいと言われた部屋着で待っているのも気恥しいので十分丈のスエットとオーバーサイズのTシャツを着た。こういう時は何が正解なんだろう。あざとくエロい部屋着でいたほうがいいのだろうか。でも、やっぱり恥ずかしいからこのままにしとこう。ソファで三角座りをしながら、いつの間にか船を漕いでいた。
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