彼がスーツに着替えたら

森野きの子

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過ぎたるは及ばざるが如し8

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 ジュッ、と穂先の消える音がした。

「じゃ、行ってくんね」

 とすれ違いざまに髪にキスをされる。紫煙の残り香とあの香水の混じった匂いがして胸の中に熱が飛び散る。逞しい腕の締めつけや、厚い胸板の体温を思い出す。ズクン、と奥に突き上げられた時の感覚が蘇り、思わず小さく息を吸った。背後で扉が閉まる音がしたのと同時に、しゃがみこむ。鼓動のような疼きが消えない。亮のものを思い出して、またしたくなっている。

「ヤバい……、こんなの、初めてだ……」

 裂け目から、くぷ、とひそやかに空気が弾けた。指で拭ってみると、とろりと粘液がまとわりつく。押し入れると、自分のじゃないみたいにあっさり指が飲まれた。ぬるぬるとして柔らかく温かい。

「うわ……」

 自分の指の細さと、亮の指の太さを感じる。そして、亮の凶器も。我に返って、なにしてるんだと、慌てて手を洗ってベッドに戻る。こんなの、私じゃない。布団にくるまりながら自分を叱咤するが、頭の中は亮との行為のことで埋め尽くされていく。あれがほしいときゅうきゅう疼く。たった一度なのに。

 恥ずかしいと思いつつ、手が伸びる。亮の舌が教えた強烈な快感を思い出し、クリトリスを指で弄る。気持ちいいことはいいが、イケそうにない。イけるまでと弄っていたら、突然、チャイムが鳴り、ドアノブをガチャガチャされて身がすくんだ。

「さえちゃん開けてー。両手塞がって開けらんねえ!」

「ちょ、ちょっと待ってて!」

 布団から飛出て、洗面台で手を洗い、解錠してドアを開けると、亮がトーストとベーコンエッグとコーヒーを乗せたトレイを持って中へ入ってきた。

「いやぁ、ごめんごめん。ありがとう」

「いえ……」

「でも」

 備付けのシューズボックスの上にトレイを置いて、冴子の腰を引き寄せる。

「スエット一枚のままで出てくるなんて、危機感なさすぎ」

「だって亮さんってわかってたし」

「おれ、料理の前後は必ず手を洗ってるんだけど、トレイ持ったままで、外のドアノブ触ってないし、大丈夫だよね?」

「大丈夫って?……あっ!!」

 左手で腰を押えたまま、右手を冴子の下腹部へ忍び込ませた。さっきまで自分で弄っていたせいでよく滑る。

「……昨日の残り、って感じじゃなさそうだね?」

「んあっ……、ぁんん……」

 指が縦をなぞる。

「わー。とろっとろじゃん」

 中も外も同時に弄られ、貪欲に慣らされた腰が揺れる。ビクンと跳ねるたびに乳房が揺れて乳首が擦れる。

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