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トライアウト 5
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ガーフィ・マクダエルという名前を聞いて、懐かしさを覚える古参のファンも多いだろう。
その息子、ガーフィJr.はドラフト会議が終わった直後、父親が泊まっているホテルの一室に呼び出された。
「……なんて馬鹿な事を」
白髪の男はホテルのベッドに腰掛け、頭を抱えていた。かつて名門宗像忍士団に属してした往年のスター忍者であり、Jr.の実父でもある。
「復讐のつもりか」
「さあね」
事件が起こったのは、およそ一時間前。ガーフィJr.が『宗像』の指名を蹴ったのだ。
「……宗像というのは、伝統的に内輪の競争が熾烈だったんだ。そのチームが怪我をした後も暫く籍を置いてくれた。恨みなど、あろうはずなかろう」
「そいつは詭弁だな」
呆れたような声でガーフィJr.は吐き捨てる。
「お袋が死ぬ前に言ってたぜ。復帰を確約されてたが、有望株をドラフトで取った途端、ボロ雑巾みてえに捨てられて以来、宗像には恨み節だったんだろ?」
父親は口をつぐんでしまった。
ガーフィJr.は煙草を胸ポケットから取り出す。
「故郷に戻って全財産注ぎ込んだ事業は失敗。ハリケーンで家とお袋も吹っ飛ばされて、残ったのは莫大な借金と幼い一人息子。絶望の底で、俺に流れる自分の血に一抹の希望を託したわけか」
窓越しに夜景を眺めながら咥えた煙草に火を灯した。
「泣いて喜べ。賭けはあんたの勝ちだ。目の前にいるは天下の宗像をコケにした、歴史に名を刻む最強の忍者なんだからよ」
ホテルのロビーには無数のマスコミが押し寄せてきているだろう。宗像の指名を断るなど、前代未聞なのだから。
「これからどうするんだ。来年のドラフトまで待つのか」
沈んだ顔を上げ、父親は息子を見る。
「大阪でトライアウトがあるらしい。なあに、雑魚チームの試験だ。手っ取り早く終わせて、一年で借金換算するぐらいは稼いでやるよ」
父親は目頭を拭った。
「すまない」
「勘違いすんな。俺のしたい様にしてんだ」
それからルームサービスを呼び、この国の缶ビールを頼み二人で乾杯をした。自国のよりも苦味が強かったが、マクダエル親子の祝杯を彩るには最高の美酒であった。
PM17:30 大阪
煙草を燻らせながら、ガーフィはあの夜の事をなんとなく思い返していた。何処から聞きつけたのか、トライアウト会場にはマスコミが駆け付けていた。
「パニックになるから、受付通さずに行ってくれて構わないよ」
途中、スタッフと名乗る東洋人に声を掛けられる。有名アカデミーを主席で卒業し、宗像に指名される程の実力者であるガーフィJr.にとって、彼が一般人ではない事は一目で分かった。
「古長の忍者か。試験は免除でいいだろ。時間の無駄だぜ」
ガーフィが言うと彼は「言うね」と笑った。
「でも駄目。試験は受けてもらうから」
「なに?」
「塞翁が馬。やってみるまでは、何が起こるか分からないもんさ」
ガーフィが睨みを効かせるが、彼は表情を崩さない。
「お前、名前は?」
「アズマ。一応古長で頭を張ってる。ウチは万年金欠だから、こうやって団員総出で働いてる」
「ボス? お前みたいな奴がかよ」
ガーフィJr.は鼻を鳴らした。
「俄然入りたくなったなぜ。ここなら一瞬で、その椅子に座れそうだ」
「うん。じゃあ楽しみにいておく」
全く意に介さないアズマ。ガーフィJr.はそれが面白くないようで、舌打ち混じりにその場を立ち去った。
トライアウトは思った通りだった。
参加者は足元にも及ばない有象無象で暇潰しにもならない。
「おらあ! 骨のある奴はいねえのか」
一人の男が掌底打ちを躱す。だが間髪入れずに蹴りを見舞うと、男は腰砕けになった。
「死んどけっ!」
だが、そこからの記憶が彼にない。次に意識がハッキリしたのは、簡易ベットの上だった。
「——!?」
ガーフィJr.は上体を起こす。どうやら、会場に特設された治療室の様だ。
「起きたか」
ベット脇には丸椅子に腰掛ける父親が、安堵の表情を浮かべている。
「親父っ……なんでここに」
「息子が泡吹いてるって、古長のボスから連絡を受けたんだ。脳震盪。頸椎に一発貰ったんだと」
「な……!?」
得体の知れない感情が、ガーフィJr.の奥底から湧き上がってくる。
「誰にやられたっ」
「俺が着いた時にはすでに終わってた。お前は丸一日寝てたんだぞ」
父親は一つ息を吐き、息子を見る。
「お互い井の中の蛙だったなJr.。マスコミから取材依頼があったぞ。敗戦の弁を述べてほしいと、あざ笑ってたよ」
「ラ、ラッキーパンチだ。じゃなきゃ、この俺が負けるわけが……」
茫然自失のガーフィJr.が、イナオの存在を知ったのはネットニュース。
彗星の如く現れたプラチナルーキーを讃える記事の見出しはこうだった。
【不忍リーグ】
波乱 話題のガーフィJr.敗れる
奇跡を起こした十六歳のくノ一!
その息子、ガーフィJr.はドラフト会議が終わった直後、父親が泊まっているホテルの一室に呼び出された。
「……なんて馬鹿な事を」
白髪の男はホテルのベッドに腰掛け、頭を抱えていた。かつて名門宗像忍士団に属してした往年のスター忍者であり、Jr.の実父でもある。
「復讐のつもりか」
「さあね」
事件が起こったのは、およそ一時間前。ガーフィJr.が『宗像』の指名を蹴ったのだ。
「……宗像というのは、伝統的に内輪の競争が熾烈だったんだ。そのチームが怪我をした後も暫く籍を置いてくれた。恨みなど、あろうはずなかろう」
「そいつは詭弁だな」
呆れたような声でガーフィJr.は吐き捨てる。
「お袋が死ぬ前に言ってたぜ。復帰を確約されてたが、有望株をドラフトで取った途端、ボロ雑巾みてえに捨てられて以来、宗像には恨み節だったんだろ?」
父親は口をつぐんでしまった。
ガーフィJr.は煙草を胸ポケットから取り出す。
「故郷に戻って全財産注ぎ込んだ事業は失敗。ハリケーンで家とお袋も吹っ飛ばされて、残ったのは莫大な借金と幼い一人息子。絶望の底で、俺に流れる自分の血に一抹の希望を託したわけか」
窓越しに夜景を眺めながら咥えた煙草に火を灯した。
「泣いて喜べ。賭けはあんたの勝ちだ。目の前にいるは天下の宗像をコケにした、歴史に名を刻む最強の忍者なんだからよ」
ホテルのロビーには無数のマスコミが押し寄せてきているだろう。宗像の指名を断るなど、前代未聞なのだから。
「これからどうするんだ。来年のドラフトまで待つのか」
沈んだ顔を上げ、父親は息子を見る。
「大阪でトライアウトがあるらしい。なあに、雑魚チームの試験だ。手っ取り早く終わせて、一年で借金換算するぐらいは稼いでやるよ」
父親は目頭を拭った。
「すまない」
「勘違いすんな。俺のしたい様にしてんだ」
それからルームサービスを呼び、この国の缶ビールを頼み二人で乾杯をした。自国のよりも苦味が強かったが、マクダエル親子の祝杯を彩るには最高の美酒であった。
PM17:30 大阪
煙草を燻らせながら、ガーフィはあの夜の事をなんとなく思い返していた。何処から聞きつけたのか、トライアウト会場にはマスコミが駆け付けていた。
「パニックになるから、受付通さずに行ってくれて構わないよ」
途中、スタッフと名乗る東洋人に声を掛けられる。有名アカデミーを主席で卒業し、宗像に指名される程の実力者であるガーフィJr.にとって、彼が一般人ではない事は一目で分かった。
「古長の忍者か。試験は免除でいいだろ。時間の無駄だぜ」
ガーフィが言うと彼は「言うね」と笑った。
「でも駄目。試験は受けてもらうから」
「なに?」
「塞翁が馬。やってみるまでは、何が起こるか分からないもんさ」
ガーフィが睨みを効かせるが、彼は表情を崩さない。
「お前、名前は?」
「アズマ。一応古長で頭を張ってる。ウチは万年金欠だから、こうやって団員総出で働いてる」
「ボス? お前みたいな奴がかよ」
ガーフィJr.は鼻を鳴らした。
「俄然入りたくなったなぜ。ここなら一瞬で、その椅子に座れそうだ」
「うん。じゃあ楽しみにいておく」
全く意に介さないアズマ。ガーフィJr.はそれが面白くないようで、舌打ち混じりにその場を立ち去った。
トライアウトは思った通りだった。
参加者は足元にも及ばない有象無象で暇潰しにもならない。
「おらあ! 骨のある奴はいねえのか」
一人の男が掌底打ちを躱す。だが間髪入れずに蹴りを見舞うと、男は腰砕けになった。
「死んどけっ!」
だが、そこからの記憶が彼にない。次に意識がハッキリしたのは、簡易ベットの上だった。
「——!?」
ガーフィJr.は上体を起こす。どうやら、会場に特設された治療室の様だ。
「起きたか」
ベット脇には丸椅子に腰掛ける父親が、安堵の表情を浮かべている。
「親父っ……なんでここに」
「息子が泡吹いてるって、古長のボスから連絡を受けたんだ。脳震盪。頸椎に一発貰ったんだと」
「な……!?」
得体の知れない感情が、ガーフィJr.の奥底から湧き上がってくる。
「誰にやられたっ」
「俺が着いた時にはすでに終わってた。お前は丸一日寝てたんだぞ」
父親は一つ息を吐き、息子を見る。
「お互い井の中の蛙だったなJr.。マスコミから取材依頼があったぞ。敗戦の弁を述べてほしいと、あざ笑ってたよ」
「ラ、ラッキーパンチだ。じゃなきゃ、この俺が負けるわけが……」
茫然自失のガーフィJr.が、イナオの存在を知ったのはネットニュース。
彗星の如く現れたプラチナルーキーを讃える記事の見出しはこうだった。
【不忍リーグ】
波乱 話題のガーフィJr.敗れる
奇跡を起こした十六歳のくノ一!
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