私は女神ではない。…と思う。

山口 慶佳

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20 オクトーでの戦い1

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 「辺境伯、相手が魔将だと分かった以上、お下がりください」
 「何を言う。こういうときに前に出て領民を守ってこその貴族であろうが」

 警備隊の隊長が辺境伯に進言するが、辺境伯はそれを一笑に付した。さすが、と言いたいところだけど、いざというときには守らないと。それにしても、他の貴族というか騎士まがいの人が見当たらない。回りは兵士と冒険者だけだ。

 「ふう、冒険者が少ない時に厄介なことだ」

 警備隊長が呟く。ああ、より辺境に行っている人が多いのだっけ。

 「わたくしは先程あまり活躍できませんでしたので」

 そう言って前に出たのはフレア。いや、大活躍だったと思うけど。いつもの「シールド」を、展開するのではなく手に纏わせている。「普通の使い方」という奴?

 「お前らの戦いは何回も見せてもらったぞ。『シールド』で何が出来る?」

 レイミアが嘲笑い、手を挙げると、グイベルの群れが前に出ているフレアに群がった。フレアは微笑むと、さらに一歩前に出て、一匹のグイベルを右手のシールドで叩き落した、いや、切り落とした。シールドの端は鋭利な刃物のようになっているのかしら。
 続いて左手、一回転して右手。いや、肘や足にも?回転しながら次々にグイベルを切り落としていく。まるで踊るかのような姿は、他のグイベルやポイズンスネークの相手をしていた兵士たちも見惚れるほどだ。
 …森でもやってくれれば良かったのに。

 アルスとイルダがその隙にレイミアに迫っていく。レイミアにアルスとイルダが向かったので、自然と私と辺境伯はヒドラに対峙することになった。

 大人の胴体ほどもありそうな太さの頭が九つ。赤い目に白い胴体。蛇の気持ち悪さを集合させたような魔物だ。九頭竜やヤマタノオロチの同類だろうか。ヤマタノオロチは尻尾も八本あったけど…。

 「うわぁぁ」

 一つの頭が素早く伸びてきて、槍を構えて私の隣に立っていた兵士を捕らえた。骨の折れたような不快な音がする。
 私は踏み込んで、素早くその頭に剣を振るう。一瞬後、兵士とともに切られた頭が地面に落ちたが、その後は予想外だった。落ちた頭からそのまま尻尾が生え、大きな白蛇になったのだ。残った首からは二つの新しい頭が一瞬に生える。

 「んげっ」

 変な声が出てしまった。気持ち悪すぎる。だから蛇は嫌いだ。

 「距離を取れ!」

 辺境伯の声に兵士たちはいっせいに下がる。槍や弓等を持つものが離れて攻撃するが、小さな傷を付けることも出来ない。ぬめぬめしているように見える鱗だが、かなり硬そうだ。しかも、頭が多いせいか動きが速い。距離を取っていてもすぐに目の前に迫られる。自由に動き回り、体当たりされたり噛み付かれたりして、兵士たちの被害は甚大だ。

 「食い止めろ!市民の避難した方に行かせるな!」

 兵士たちが懸命に牽制して、ヒドラが噴水前広場から出ないようにするが、怪我人も増えてきて、長く持ちそうにない。しかし、これ、どうやって倒したらいいの。
 えーっと、良くある方法だと、頭を切ったそばから切り口を焼くとか、頭を切りまくって数を増やし頭同士を喧嘩させるとか、酒を飲ませるとか?
 …こんなに動き回られたら、どれもうまく行きそうにない。

**********

 グイベルやポイズンスネークは、巫女や兵士らによってかなり数を減らされている。忌々しい。まあ、所詮群れでなければそれほど高レベルな魔物ではないので、しょうがない。女神っぽい「もどき」と辺境伯はヒドラの方に行ったようだが、自分の眷属でも高レベルであるし、そう簡単にやられることはないだろう。加えて、街中ではあの女神もどきは思うように戦えまい。
 自分の方に向かってくる剣士と女戦士は、巫女と同様かなりの使い手のようだ。他の者と雰囲気が明らかに違う。もどきと言えど女神と共に行動しているだけのことはある。

 「『魔界十六将』だってさ」
 「この前はユーカに良い所を持っていかれたからな、今度はあたしが」

 言ってくれる。翼を使って高速に間を詰め、首を切り裂こうと伸ばした爪は、ぎりぎりのところで女戦士の大剣に止められていた。剣撃が重い。逆の手は男の方に止められる。体を一回転して尾で打撃を加えようとするが避けられた。大剣の重量に任せた重い剣撃を得意とする戦士と、一つ一つの打撃は小さいものの素早い攻撃と動きを得意とする剣士。中々良い組み合わせだ。
 しかし、二人がかりで、さらに息が合っていたとしても、それだけで負けることはない。右手で戦士、左手で剣士の剣撃を相手にしてまだ余裕がある。体を素早く入れ替えながら、尾でも攻撃。拮抗状態を作り出す。周りの兵士の数人が割り込もうとしているが無理な話だ。邪魔になるだけだろう。

 「くっ、二人がかりでやっと、ご・か・く、かよ。イルダ、お前剣激の威力が、お・ち・た、んじゃないのか?」
 「アルスこそ、動きがいつもより、に・ぶ・い、んじゃないのか?た・ん・れ・ん、不足か?」
 「無駄口を、た・た・く、暇があると思うな!」

 剣と爪を交えながら、言葉を交わす。人間相手の闘いが楽しいと一瞬思ってしまった。まあ、普通のラミアには人間と友好な関係を築いているものもいるらしいからな。「我ら」には望めないことだが。

 「埒が明かない。これなら、どうだ!」

 剣士の姿が一瞬「ぶれる」と、剣が左右同時に襲ってきた。左は爪で受けられたが、右は体をひねっても避けきれず、傷を受けた。翼で後方に逃げ、間を取る。

 「くっ」

 「アルス…、お前今一瞬二人に…」
 「…親父の技の真似だよ。消耗が激しいから何度も使えない。『取って置き』だったんだけど、練習不足だな」

 油断したが、大した傷ではない。翼をはためかせながら、苦笑する。久しぶりの戦闘が思いのほか楽しかったから、つい相手の土俵に乗ってしまった。そんな必要はない。魔物には魔物の戦い方があるのだ。
 少し上空に移動して、剣士どもを見下ろす。そう、これで奴らには、こちらを攻撃する手段がない。空を飛ぶ相手に弱いのは、今までの奴らの戦いを見せてもらって分かっている。

 「ひきょうものー」

 戦士が叫ぶが、何を言うか。手の先に火球を作り、戦士に向かって飛ばす。

 「う、うわっちっち」

 言いながら、火球を剣で真っ二つにしてみせる。やるものだ。

 「ユーカのファイアーに比べたら小さいね」

 それならこれはどうだ。口笛を鳴らす。ラミアの能力、心を惑わす魔の効果。意志の強いものには効果が薄いが、動きを鈍らせるぐらいは出来る。

 「う、これは」

 手で耳を塞いで、口笛の効果から逃げようとしているが、その状態でこれを避けられるかな?また複数の火球を生み出す。これで終わりだ。楽しかったぞ。
 必死に剣を構えようとする剣士どもに笑いかけ、火球を飛ばそうと…。

 そのとき、広場に喇叭の音が鳴り響いた。口笛の効果を相殺し、逆に魔を祓うような音。

 「…何だこれは!?人間が音に魔力を乗せるだと?」
 「カール?」

 動きを阻害していた口笛の効果を打ち消すばかりか、逆にこちらの動きが阻害される。音が体に纏わり付くようだ。鬱陶しいことこの上ない。せっかく魔力を練って作った火球も消えてしまった。下を見ると、グイベルやポイズンスネークも音に怯み、兵士や冒険者に狩られるままになっている。
 どこからだ、この音は。

**********

 ホルンの音が響き渡ると、ヒドラの動きが止まった。複数の首が苦しそうにうねうねと蠢く。気持ち悪いが、今がチャンスだ。周りの兵士が一斉にヒドラに向かおうとするが、私は叫んだ。

 「みんな、ヒドラから離れて!」
 「…っ!離れろ!巻き込まれるぞ、皆離れろ!」

 横にいた辺境伯が、私が前に伸ばした左手を見て慌てて叫ぶ。みんな早くヒドラから離れて。ホルンの音に魔力が共鳴して、抑えるのが限界なんだから。

 「ファイアー!」

 威力を出来る限り抑えながら、私は魔力を放出した。

**********

 「くっそー、今がチャンスなのになぁ」

 イルダが言う。確かにレイミアは、カールのホルンのおかげか、本来の力が出せないように見える。今、俺の剣が届けば、今度こそあの技を決めてやるのに…。唇を噛んでいると、フレアが走ってきた。

 「お二人とも大丈夫ですか!?」

 「フレア!そっちは終わったのか?」
 「グイベルとポイズンスネークは、カールさんのホルンの音で怯んだところを兵士や冒険者の皆様で、殆ど退治しました」
 「あの大きな蛇は?」
 「…わたくしの方からは見えませんでしたが、ユウカさんが『ファイアー』を使ったらしいので…」

 イルダと俺の疑問にフレアが答える。なるほど、後はあのレイミアだけだな。

 「レイミアは、ホルンの音のせいで、本来の力が出せないみたいだ。今がチャンスなんだが、俺たちに攻撃の方法がない」

 俺は、空に浮かんでいるレイミアのほうを見て言う。レイミアは耳を押さえて、しきりに周りを見廻しているが、ホルンの音がどこで鳴っているのか探しているのだろう。

 「あー、ユーカならあそこまで跳べるかもしれないけど、あたしらはなあ。どうする?兵士の弓でも歯が立たないだろうし、ユーカを待って、カールのところまで下がって迎え撃つか?でも逃げられるかもしれないし…」

 イルダもイラついている。

 「…うまく行くかどうか分かりませんが、一つ方法があります」

 フレアの説明する方法に、俺とイルダは顔を見合わせた。

 「…そんなことが本当に出来るのか?」
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