私は女神ではない。…と思う。

山口 慶佳

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21 オクトーでの戦い2(決着)

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 「…ふう、倒せた」
 「…」

 私は、パチパチと勢い良く燃えているヒドラ(の死体)を見ながら、溜め息を吐いた。威力を抑えるのにも成功したらしく、死体まで消滅、ということにはならなかったみたい。周囲の皆は放心しているのか声はない。
 しばらく見ていると、突然、ポンという音とともに死体が消え、大きな魔石が残った。その瞬間、周囲から歓声が上がった。ホッとしたが、まだ終わったわけではない。

 「辺境伯、レイミアの方を」
 「うむ、加勢に行くか。皆の者、戦いはまだ終わっておらんぞ!レイミアを倒しに行く!」

 掛け声とともに、私と辺境伯は兵士や冒険者を引き連れて、広場の反対側へ急ぐ。そこで見たのは、翼で空中に浮かぶレイミアと、彼女に「空中で」対峙するアルスとイルダの姿だった。地上にはフレアとカールの姿も見える。

 「一体どうやって…」

 私は疑問の声を上げながら、アルスの方を見る。アルスの足元に、丸い魔法陣のようなものが。シールドだ。見ると、レイミアの周りにたくさん透明なシールドがあるのが見える。そのシールドは、アルスやイルダの動きに合わせるように、動き回っている。

 「まさか、あれだけのシールドを制御しているのか!?」

 シールドに気が付いた辺境伯が、驚きの声を上げる。体から離れたところに展開できるだけですごいことらしいのに、まさか複数のシールドを自由に動かせるとは。足場にも出来るなんて、シールド便利すぎ。
 制御にはかなり神経を使うらしく、フレアは真剣な顔で空を見上げ、両手を動かしている。周りの声も耳に入っていないようだ。その横で、いつの間に来たのか、カールが一所懸命ホルンを吹いている。さっきまでは法螺貝のように一つの音を吹いているだけだったが、今吹いているのは、戦闘のBGMになりそうな、何となくかっこいい曲だ。こちらも、真剣な顔で汗だくだ。…だけど、ちょっとシュールな光景である気もする。
 私たちだけでなく、ヒドラの方から付いて来たり、グイベルやポイズンスネークを退治し終わったりした、兵士と冒険者がだんだん集まってくる。応援で声を上げたくなるところだが、フレアたちの集中を乱してはいけないと、みんな無言でじっと戦闘を見守っている。

 戦闘を見守っていて、すぐにアルスとイルダの方が優勢なのが分かった。アルスとイルダは、シールドで地面のように足を使って移動して攻撃することが出来るが、レイミアは翼で移動することしか出来ない。レイミアにはシールドを使えないように、フレアが動かしているのだ。翼では、足ほど自由に素早く動けないのは当然だ。さらに、レイミアの後方や頭上にも、動きを邪魔するシールドが展開されているらしい。どれだけの制御が必要なのか、想像もつかない。

 イルダの剣がレイミアの腹を掠め、見ていた兵士から息を呑む音が聞こえた。直後、イルダが下がると、アルスが前に出た。瞬間、アルスの姿がぶれる。私は自分の肉体能力が上がっていることを最近では自覚しているが、その目でも追いきれないほどの動き。左右に素早く動くことによる分身?アルス「二人」の剣が、レイミアの両方の翼を切断する。

 「分身剣か!…白狼の必殺技だったな」

 辺境伯が呟く。次の瞬間、翼を失ったレイミアは、シールドに何回か引っかかりながら地面に落下した。
 フレアが大きく息を吐く。アルスとイルダの足元以外のシールドが次々に消え、二人はシールドに乗ってゆっくりと降りてきた。地面に付くとそのシールドも消え、フレアはもう一度大きく息を吐いた。カールも演奏を止め、こちらはゼエゼエと呼吸している。魔力を乗せた演奏は、特に疲れるのかも。

 レイミアは、戦闘で受けた傷と今の落下の衝撃で、かなり深手らしい。それでも腹を押さえて立ち上がった。足元がおぼつかないようで、ふらついている。

 「…レイミア!おとなしく降参して何もかも話すなら…」

 辺境伯が声を掛けるが、レイミアは首を横に振った。

 「…話せることはない。我の目的は先に言ったとおりだ。細かな内容は、チェスターの家を調べれば良いだろう」
 「魔王は復活していないのでしょう?あなたたちは何故復活しているの?」
 「それは話せんな。そのうち嫌でも分かるだろう。もう良いから殺せ」

 私の疑問には答えられないと。辺境伯がこちらを見て視線で問いかけるので、私は黙って頷き、数歩下がった。

 「この地を預かる者として、俺が引導を渡そう。掛かってくるが良い」
 「感謝するよ、辺境伯」

 辺境伯は剣を抜くと、左下段に構えた。レイミアは両手の爪を伸ばし、両手を挙げて構える。
 レイミアが勢い良く辺境伯に迫るが、直前で止まった。一瞬後、袈裟斬りを受けたように全身に斜めに傷が入り、バッタリと倒れる。周囲の殆どの人には、辺境伯の刀が動いていないように見え、何が起こったのかわからなかっただろう。

 「二回斬った?」

 イルダが呟く。下から剣を振り上げ、相手を怯ませて動きを止めて、振り下ろしてもう一度、今度は実際に斬った?振り上げと振り下ろしが一瞬のことで、剣が動いていないのに斬ったと思えるほど。

 「『闘気連斬』だ。白狼の『分身剣』を久しぶりに見せてもらったから、俺も必殺技を見せないとな」

 そうイルダやアルスに向かって言う辺境伯だが、得意げな感じではなかった。ポンという音とともに、レイミアが消えて魔石が残る。

 「…魔物とはいえ、女性を斬るのは良い気がしないな」

**********

 辺境伯の命令で、広場の一角に負傷者が集められると、フレアのキュアオールで全員が治療された。皆大喜びで、フレアに「女神様ありがとうございます…」などと言っている人もいる。いや、違うから。

 「忝い、巫女殿。…おい、他の怪我人は?避難時に怪我をした者はいないのか?」

 「軽微です。グイベルにちょっと噛まれた程度の者が殆どです。…ただ一部…」

 警備隊の隊長が辺境伯の問いに答えるが、何か歯切れが悪い。

 「どうした、はっきり申せ」
 「…まず避難を優先したのですが、こちらの言うことを聞かずに魔物に向かっていって、ヒドラやグイベルにやられた騎士様たちの一部が、骨折や咬傷などの重傷です。また、それを見て逃げ出した他の騎士に突き飛ばされるなどして怪我をした市民が…」
 「…」

 何をやってるの騎士。どうりでここにいなかったはずだわ。辺境伯も、黙って首を振って、大きな溜め息を吐いた。

 「…市民に対しては、俺の方で金を出すから、治療術師を遣わすとともに、必要なら魔法薬を優先的に与えてくれ。騎士の方は、自分で金が出せるだろう、放っておけ。…ああ、くれぐれも治療術師や魔法薬が騎士の方に先に行かないように気をつけてくれ」

 それから、私たちの方に向かって頭を下げ、

 「本当に助かった。いくら礼を言っても足りないほどだ。もしお主らがいなかったら、大きな被害が出ていただろう」
 「不幸中の幸いって奴だな。あたしらも思う存分闘えて楽しかった。…でも、それでも結構な被害だったんじゃないのか?怪我人はあまりいないとはいえ、広場のこっちの方は石畳も崩れているし、噴水も完全に壊れてるじゃないか」
 「ああ、これはひどいな。ヒドラが暴れたのかな」

 イルダとアルスの言葉に私は顔を逸らした。辺境伯がおかしそうに大声で笑う。

 「もしかしてユウカさん…」
 「この辺の被害は、殆ど女神殿の魔法の余波のせいだな。なあに、市民が無事ならこんなのは安いものだ。噴水は建て直して、今度はお主らの銅像でも立てるか」

 「すみません、空に向かって魔法が放てるような状況なら良かったのですが」
 「そんなことをすると、町の上空の結界を壊して、笑い事ですまなくなるかもしれませんよ?」

 フレアの突っ込みに皆が大笑いした。いや、本当に笑い事じゃない。…と思う。

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