私は女神ではない。…と思う。

山口 慶佳

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25 聖都と王都

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 「おい、見えてきたぞ」

 イルダの声に、馬車から顔を出してみると、大きな町が見えた。オクトーよりは広いようだが、壁はオクトーほどではないようだ。面白いのは形で、亜鈴というか瓢箪というか、二つの円形の町が繋がっているような感じだ。

 「左側が王都、右側が聖都ですね」
 「「ふーん」」

 フレアの説明に、私とアルスが声を上げる。ああ、アルスも初めてなのか。

 「イルダは来たことがあるのよね?」
 「ああ、あたしはここを通って来たからな。まあ通り抜けただけだけど」

 馬車は、中央のくびれている所に向かっているようだ。入り口がそこにあるのだろう。商隊の好意で、殆ど先頭の馬車に乗せてもらっているので、すぐに町に入れそうだ。本来、商隊の警備をしている身としては、先頭は申し訳ないのだけれど、怪しげな仙女以外、結局魔物も盗賊も出なかったし。辺境と違って治安もいいのかも。

 身分証のチェックがあるので、手前で馬車から降ろしてもらう。入り口でも警備隊や兵士という感じの人ではなく、「受付の女性」という感じの人が軽くチェックをして、すぐに中に入れた。

 「オクトーなんかとは大分違うのね。途中の小さな町でも、もうちょっと厳しかったけど」
 「この辺は魔物も出ないし、治安もいいからな。もちろん悪い連中がいないわけじゃないけど、警備隊組織もしっかりしてるし」

 イルダが答える。

 「入り口で『女神様だ~』なんて騒ぎにならなくて良かったな」
 「たぶん一部の上層部にしか細かい話は伝わってないのでしょう。噂は広まっていると思いますが、わたくしたちの顔が知られているわけでもないでしょうし」

 フレアはそう言うけど、一番危ないのはいかにも巫女っぽい格好のフレアではないかしら。…と思う。巫女さんと冒険者のパーティー、というだけで目立ちそうで、「あの4人はもしかして噂の…」なんて言われそう。

 「大丈夫だと思いますよ。聖都には巫女はたくさんいますし、仕事で他の町や教会を回ることもあって、冒険者の方に護衛を頼むこともありますから」

 入り口を抜けた広場というか、ロータリーみたいなところで中央の噴水を見ていると、スッと馬車が止まった。フレアが手を上げている。知り合いか。

 「お迎えに上がりました」
 「…早いですね」
 「…まあ、色々と連絡は来ていますので。教皇様も御待ちですよ。」

 ああ、そういう役目の人が商隊に混ざっていたりするのか。

 促されて皆で馬車に乗ると、馬車はすべるように動き出した。揺れが少ない。道が綺麗なこともあるけど、馬車自体が高級なのかも。

 「見えてきました。左の奥の方に見えるのが神殿で、神様を奉っているところですね。私の同僚もそこで働いていますが、民の方にとっては観光で見学に行くところですね。神様の像もありますよ」
 「それは見に行かなきゃだな。俺はまだ、っぽい人しか見たことがないし」

 アルスひどい。

 「手前の右の方が教会ですね。一般の人がお祈りをしたり、結婚式や葬式の行事をしたりするところです。教皇や司教が働いているのはこっちですね。裏には働いている人たちの住居があります」

 だから、教皇「様」とか言わなくて良いのかと。

 「そういえば、今更だけど、今までの町に教会はなかったの?記憶がないんだけど」
「私はたまに顔を出していましたが、時間がなかったですからね。ユウカさんを下手に紹介したくないというのもありましたが。オクトーでは時間もありましたし、わたくし達も有名になったので、本来はきちんと挨拶するのが筋なのですが…」

と、フレアはちょっと声を落として、

 「…オクトーの教会は貴族寄りでしたので。今頃は何らかの処分が行っているかもしれませんね」
 「あー…」

 アルスがまた変な声を出してるけど、それはそれは。

 教会裏の立派な建物の前に馬車は止まり、中の立派な扉の前に案内された。扉の両側には騎士のような人たちが立っている。ちょっと物々しい雰囲気。チェスターみたいに突っかかってくるようではないけど、教皇様を守るのも騎士なのだろうか。目で促されて、アルスとイルダは剣を渡す。イルダの剣を受け取った方の人は、その重さによろめいていた。
 うーん、何か心配になってきた。教皇様が怖い顔をした偉そうな人で、「女神の名を騙る不届き者め!」とか言って来たらどうしよう。

 広い部屋に、見下ろすように教皇とたくさんの司教が座っていて、厳しい顔でこちらを睨んでくる…という光景を予想していたのだけど、案内されて入ってみたら、それっぽい法衣を着た髭の長い老人と、そのそばで横向きに座っている、帯剣した壮年の二人の男だけだった。
 …えーっと、どう挨拶したら良いのかな、と思っていたら、法衣を着た方の人がすごい勢いで駆け寄ってきて、

 「よく帰ってきたの、フレア!心配していたぞ!」

 とフレアに抱きついてきた。

 「ちょ、ちょっと、やめれ、やめれくらさい!」

 頬ずりまでされて、声も変になっているフレア。私だけでなくアルスもイルダも、手を出していいかどうか困っている。助けを求めるように、帯剣したもう一人の方を見ると、顔を逸らして肩を震わせている。どうやら笑いをこらえているようだ。

 「えーい、やめんかぁ!」

 フレアが彼女らしくない口調で叫ぶと、法衣の老人が吹っ飛ばされた。一瞬のことで良く分からなかったが、シールドを使ったらしい。

 「な、何故じゃ、ワシがこんなに心配しておるというのに」
 「うっとおしいんですよ、あなたは!」

 なにこれ。

 「まあ、親子喧嘩はそれぐらいにしておけ。話が進まんではないか」
 「お、親子ぉ?」

 帯剣したもう一人の人のセリフに、イルダが声を上げる。私も声を上げなかったが、びっくりだ。

 「教皇…様の娘だったの?」
 「違いますぅ!」
 「いやいや、娘のようなものではないか」

 私の疑問にフレアが心外そうに声を上げ、もう一人の方が突っ込む。

**********

 「うむ、いかにも私が現教皇のクレメント=ルチャーニじゃ」

 皆が落ち着いてから、ビシッと挨拶をする教皇様。出会いがこれなら良かったのだけど、残念ながらもはや威厳のかけらもない。

 「それでこちらが…」
 「キンバル=ウィスタリアだ」

 全くこの世界の人の名前は良く分からない。地球の色々な国の人の名前を、目茶目茶に付けたかのようだ。…と思っていたら、アルスとイルダがびっくりしている。
 アルスが慌てて跪こうとしたのを、キンバルさん?は手を振って止めた。

 「良い良い。そういうことをしなくて済むように爺、いや教皇と二人だけで会うことにしたのだからな」
 「どういうこと?」
 「馬鹿オマエ、ウィスタリアっていったらこの国の名前だろ。国の名前を名字に持つということは…」

 アルスが私に突っ込む。

 「…王族?王様?」
 「まあ、あまり気にしないでくれ。俺、いや儂は教皇とは昔からの付き合いでな。フレアのことも良く知っている。王城以外ではそこらのオジサンだと思ってくれ」

 良いのかそれ。ああ、フレアの言葉に教皇や王様に対する敬意があまり感じられない訳が分かった。

 「それよりフレア、彼女が?」
 「ええ、ユウカさんが今回降臨された女神様に間違いありません。ユウカさん、女神の剣を」

 私は頷いて、胸のペンダントを剣に戻す。王様と教皇が目を見張った。剣をテーブルの上に置くと、教皇は剣の飾りの模様などを詳しく見ていたが、頷いた。そして剣を持とうとしたが、持ち上がらない。

 「不思議な…見かけはそれほど重くないように見えるのだが」
 「それだけではありませんぞ。ほらこのように」

 教皇がテーブルを揺らすとギシギシと音が鳴る。古いテーブルでガタが来ているようだ。

 「ただ重いだけなら、テーブルがこんなに簡単に揺れるはずはないですな。それなのに…」

 と、テーブルごと移動させようとすると、途端にテーブルは動かなくなった。私は他人事のように感心して見ていた。

 二人は顔を見合わせて頷き、

 「ユウカ様、あなたは女神に相違ありません」

 と、臣下が主君にするように、恭しく跪ずいた。

 「いやいやいやいや!」

 私は慌てて二人と同じ目線までしゃがむと、

 「違いますから、ええたぶんきっと!」

 と焦って言う。

 「ユウカさんは、女神としての記憶が目覚めていないようなのですよ」

 それは実は今までの女神もそうだったのでないかと、オクトーで思ったのだけど、それは黙っていよう。

 「えっと、ですから、そういう女神さま~な扱いは止めてください。さっき王様も、そこらのオジサンと思ってくれと仰ったではないですか。私も同様にお願いします。慣れていないので」
 「分かり申した…しかし、爺、そうするとやはり…」
 「ですな」

 王様と教皇が顔を合わせて頷く。まだ何かありそうだ。
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