私は女神ではない。…と思う。

山口 慶佳

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26 女神の像

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 「ユーカ殿が、女神の記憶がないことや本人が否定していることは聞いておりましてな。それは200年以上前に降臨した女神様も同じであったという記録がありますのじゃ」

 それは以前にも聞いたことだ。オクトーでも、女神の記憶がないまま、色々技術や音楽理論などを伝えていたが、魔王が復活すると女神の記憶に目覚め、この世界の仲間と共に魔王討伐に向かったいう話があった。

 「わたくしたちもそんな話をしました。倒した魔将によると、未だ魔王は復活していないようなので、ユウカさんが女神として目覚めないのではないかと」
 「何故、魔王が復活していないのに魔将が復活しているのかは謎ではあるがな」

 王様が言う。

 「そこでユーカ殿には申し訳ない話なのだが、いくつか問題がありましてな」
 「問題?」

 教皇が言うが、問題?

 「今まで女神は、何らかの人間では対処できないような大きな問題が起こったときに、それを解決するために天より降臨するとされているのですじゃ。例えば昔、魔王が復活したように」
 「あー、今の段階で女神の降臨を公にすると、魔王が復活したとか、そういう良くないことが起きたと国民が心配してしまうということか…ですか」
 「儂ら…いや俺達に敬語は要らんよ。先ほども言ったであろう?ただのオジサンだと。それに、女神が自分と共にあることを望んだ者は、天爵を賜ることになる。俺より位は上かもしれんぞ?・・・それでだ、ユーカ殿が女神であることは公にはせず、表向きは『女神と称せられるほどの力を持った女性がいる冒険者のパーティーがあるらしい』ということにしたい」

 アルスに王様が答える。

 「むろん、今までの活躍に対する褒賞も出すし、裏では女神様としての対応をさせていただく。もし、新たな魔将との戦いになるような事態には、国王の名の下に協力をすることを約束しよう」
 「私は皆に女神様扱いされるよりはそっちの方が良いですが…」

 そう言ってアルスとイルダを見ると、二人とも頷いている。

 「それで、ユーカ殿とお主らの滞在についてだが…」
 「…それなら、出来るだけ早くトレンタに行きたいと思います」
 「…爺、いや教皇の私邸か…色々とすまんな。城にも、女神殿が魔物を退治してくださるのに魔物呼び寄せるようなことを言ったり、さっさと魔王のところに追いやれば良いと言ったりする愚かな連中がいるのだ」

 フレアの返答に王様は安心したようだ。あー、まあ分からなくもない。近くにいれば戦闘に巻き込まれるわけだし。

**********

 何かあったら王城に来れば歓迎すると王様は言って帰っていった。入り口の騎士は王様の護衛だったわけだ。教皇は、「儂もフレアと一緒に帰る~教皇なんか辞める~」と駄々をこねていたが、今日一晩泊るということで泣き止んでもらった。

 そんなこんなで、4人は今神殿に向かって歩いている。観光の散歩みたいなものだ。

 「トレンタに行く意味が良く分からなかったんだが。王様も申し訳なさそうだったけど」
 「それはあれだ、魔物との戦いを、王都や聖都でなく他所でやって欲しいってことだろ。だから貴族とか王族とかいう連中は…と言いたい所だけど、王様の立場も分かるよ」

 アルスの疑問に、イルダがいつになく物分りの良い内容で答える。

 「あー、だけど、トレンタは大丈夫なのか?」
 「王都・聖都からも近いし、過去には魔物の軍との戦いで前線基地にもなったところです。魔物に対する結界もオクトー並みですし、大丈夫かと」
 「あたしも通ったことがあるけど、大きな湖のある綺麗なところだったな」
 「今は都に人気の保養地みたいなところですよ」

 「ま、早く行った方が良いだろうな」
 「というと」
 「監視されてる、…っていうと言葉が悪いけど」

 アルスがちらっと後ろに視線を向けてすぐに戻す。

 「何かあったときの対応の為だろ。迷惑をかけたくはないしな」


 「…結局、ユーカは女神っぽい人のままだったし、あたしはここの女神像は期待してるんだよな」
 「イルダは見たことがないのか?それに何を期待してるんだ?」
 「前来たときは通り抜けただけで観光なんかしなかったからな。それに、女神像がどんなのか興味あるじゃないか。結構ユーカとそっくりだとか」
 「なるほどなー」
 「…いや、それは期待しない方が良いと思いますよ…」

 アルスとイルダにフレアが突っ込む。苦笑しているようだ。うーん、私と似ても似つかないのかな。もしかしたら、人間の姿じゃないのかもしれない。

 神殿に近づくにつれ、巫女さんの姿もちらほら見られるようになり、皆フレアを見ると恭しく軽く膝まで折って会釈してくる。やはり偉いのか。

 神殿の入り口まで来ると、フレアは

 「…あまり外部の人がいないのは幸いでしたね…」

 と呟いてから、私達に、

 「左右に並んでいるのが、過去に訪れたとされる神々の像で、突き当りの中央に立っているのが女神様の像ですよ」

 と言った。

 「ふーん、そこいらにいる普通の人みたいだな」
 「石像はどれぐらい前に作られたの?」
 「数千年前、としか」
 「これなんか俺の親父っぽいぜ」

 皆勝手な感想を言い合っているが、実際服装がそれっぽいゆったりとしたものである以外は、神様という感じではない。石像の下には名前と何を司る神なのか説明がある。しかし、男性神ばかりだ。

 一番奥の女神の像の所まで歩いて来て、見上げた皆が固まった。

 「さて、いよいよ…!?」
 「こ、これは」
 「本当か?瓜二つっていうか、そのままじゃないかよ」

 そう、まさにその石像の顔は、本人をモデルにしてもここまで似せられないだろうと思えるほどそっくりだった。

 …フレアに。

**********

 「何の冗談かと思ったよ」

 パンをちぎりながらアルスが言う。教会裏の迎賓館みたいな建物の一室で晩餐の最中だ。明日にはトレンタに移動する予定なので、歓迎と送迎の会を兼ねている。中々贅沢な食事が出され、教皇はしきりに「神に仕える身として、普段はもっと質素なのです」と言い訳していた。何故か王様もちゃっかりといる。暇なのかしら。

 「巫女の間では有名な話なのですよ…」

 とフレア。ちょっと困った顔をしている。

 「まあ、オクトーでも勘違いしてた人がいたけど、どう見てもフレアの方が女神っぽいものな。美人だし。でも本当に偶然なのかよ」
 「そりゃ、数千年前からある像じゃなあ。でも美人で女神っぽいのはその通りだな」

 イルダとアルスは言いたい放題だ。そりゃフレアは美人だけど。

 「実際に神様を見て像を作ったかどうかは分かりませんからね」
 「そうだな。俺は、彫刻家が理想の美女を女神の像として作ったのだと思うぞ」
 「あー、それはありそうだ」

 照れるフレアに王様とアルスが突っ込む。男はこれだから。

 「フレアほどの美女には中々お目にかかれないからな。どうだ、以前から言っているが、俺の後添いにならんか」
 「なんじゃと。お主、フレアに言い寄っておったのか。そもそもフレアは、お前の子どもらと同じくらいだろうが。冗談にも程があろう」
 「何だ?息子の嫁になら良いというのか?」
 「冗談ではない、フレアを王子なんぞにやってたまるか」
 「だから俺がもらってやろうというのだ」
 「許さんぞぅ!」

 駄目だこの王様と教皇は。お酒は出ていなかったと思ったけど。フレアは私の方を見て、軽く片手を横に上げて見せた。ああ、いつもこんな感じなのか。
 私たちの冷たい目に気が付いたのか、教皇は咳払いをして、

 「まあ、フレアは昔から美人だったが、成長するにつれて女神様の像にどんどん似てきての」

 とごまかすように言った。そういえば、「娘の『ようなもの』」と言ってたけど。

 「もう7年になるかの。まだ儂がトレンタの司教でしかなかった頃、トレンタの私邸近くで記憶を失っていた小さな女の子を保護した。それがフレアじゃよ」

 記憶を失っていた、ねえ…。

 「教会の孤児院で育てるつもりじゃったが、フレアには神聖魔法に関して類まれなる才能があった。そこで、聖都の神殿に巫女見習いとして預けたのじゃが、あっというまに巫女の最高位とも言うべき『女神の巫女』に上り詰めたというわけじゃ」

 フレアは自分のことを神官と言ってたようだけど。

 「同じものじゃな。神官の中で、女人で特に神に『直接』仕えるものを巫女と呼んでいるだけでの。特に上位の者には、ほら、神殿には色々な神の像があったじゃろ、それぞれの神の巫女が一人ずつおるのじゃ。その中でも、歴史の中で何度も実際に降臨して我々を救ってくださった女神の巫女が最高位とされているのじゃ」

 確かに最近は女神しか降臨していないという話だったかしら。

 「神に『直接』仕えると言っても、普通は儀式を通じての話であっての。降臨した神に本当の意味で『直接』仕えるとなれば200年ぶりの話じゃ。ユーカ殿のおかげで、フレアが婦爵どころか儂の次の代の教皇になってもおかしくない話じゃよ」
 「まあ、そのためにはユウカさんが女神であることを公にしなければならない訳で、そうせざるを得ないような事態は起こらない方が良いのですが」
 「難しい話だな」

 アルスが言う。

 「お主らにも無関係な話ではないぞ。そのときにはお主らも忠爵のうえに『英雄』だ。それに文句が付かないような大きな事態を解決した後ということになるがな」
 「ま、あたしは魔物と戦えればそれで良いけど。強ければ強いほど良いね」

 王様にイルダがあっさりと答える。相変わらず戦闘狂っぽい。

 「…それに多少は関係する話なのだが…お主らに頼みがある」
 「頼み?」
 「ああ、二人の剣の腕を確かめさせてもらいたい」
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