私は女神ではない。…と思う。

山口 慶佳

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27 二人の戦い

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 「俺は別に構わないけど…」
 「…なるほど、ユーカは女神確定っぽいし、フレアは文句なしに女神の巫女。それに比べて、あたしらは信用が足りないって訳だ」
 「いやいや、そんなことはないぞ」

 王様が慌てて言う。

 「ワイバーンを倒したときのことや、オクトーの戦いの報告も受けておる。オクトーでラミアと戦ったときは、他の兵士や冒険者が間に入れない程だったともな。それに、二人は女神…ユーカ殿が選んだのだろう?」

 成り行き任せで、特別選んだ覚えはないけど。

 「純粋に興味があるというだけであって、腕を疑っているというわけではないことは信じてくれ」
 「ま、いいけどね。で、どうする?王様も見たところ結構使えるように見えるから、相手をしてくれるかい?」
 「買いかぶってくれるのはありがたいが…俺には荷が重い。しかも相手が二人ではな」
 「あー、昼間見た騎士は?二人いたと思うけど」

 そういえばいた気がするけど、今はいない。あれ、王様の護衛は良いのかしら。

 「ああ、あの二人は騎士団でも腕の立つ者達でな。今はいないが」
 「…今の護衛は良いんですか?」
 「…まあ、女神殿であることが確認されたし…、まあ夜も働かせるのは気の毒だからな」

 変な間があった。これは、きっと黙って抜け出して来たに違いない。

 「実は昼間、腕試しに戦ってみないかと聞いたのだ。ところが、断られてな。特にイルダ殿の剣を受け取った方の騎士が『あんな大剣を自由に振り回すような方の相手はとても務まりません』とか言い出してな」
 「騎士のくせに情けないなぁ…」

 アルスが言うけど、まったく同感だ。

 「じゃあ、誰が相手を?」
 「アルス殿とイルダ殿が模擬戦をやれば良いのではないかのう」

 教皇が言う。

 「それしかないか。あたしらは最近良く一緒に訓練してるが、怪我しないようにあまり戦ったことはないんだ」
 「イルダが自分の剣じゃなきゃ練習にならないって言うからだろ」
 「アルスは練習用の木刀でもあまり変わらないだろうけど、あたしは重さがまったく違うからなぁ」
 「…怪我なら言ってくだされば、治癒魔法でも再生魔法でも掛けて差し上げますのに」

 フレア、何気に怖い。

 「よし、それじゃあ早速…」
 「全部食ってからにしようぜ」

 気持ちの逸るイルダを、アルスが苦笑して止めた。

**********

 「外でやって夜に目立ってもいかんじゃろう。ここは神事を行うための大広間でな。広さもこれぐらいあれば良かろう?」

 教皇の案内で来たけど、神事をやるところで模擬戦とか良いのかしら。

 「構いませぬよ。では…」

 アルスとイルダは頷いて部屋の中央まで歩いていって向かい合った。アルスは体の前に剣を構えるが、イルダは頭上高くに構える。

 「本気でいくぜ。おりゃあぁぁ!」

 イルダは頭上で剣を回転させると、その勢いでそのまま剣を振り下ろす。二撃、三撃、次々に同等の威力の剣撃がアルスを襲うが、アルスはその全てを最小限の動きで避けるか、避けきれないものは剣を軽く当てていなす。
 イルダの腕は私の腕とあまり変わらないぐらいの太さで、筋骨隆々という訳でもない。私には持ち上げられないほどのあの大剣を、どうやったら自由に振り回せるのか不思議でしょうがない。いくら力があっても、若い女性は胸があっても筋肉はない、というのはお約束なのか。

 「あの剣を最小限の動きでかわすのはすごいな。剣で受けるときもよほどうまく受けないと、簡単に剣が折れるはずだ」

 王様が感心する。確かに、アルスの剣でイルダの剣をまともに受けたら、剣も腕も持たないだろう。うまく力を逃がしているのだろうけど、簡単なことではないのは私にも分かる。

 防戦一方に見えたアルスが、イルダの剣をぎりぎりで避けると、間合いに入り胴を狙う。わずかに切れた髪の毛が宙を舞う。避けられた剣が反対側に振り切られていてチャンスに見えたが、イルダは剣を無理に戻さず、振り切った勢いを利用してそのまま一回転すると、逆側で剣で受けた。イルダの体勢がわずかに崩れた隙を狙って、アルスの剣撃が襲う。アルスの剣撃はイルダのものより弱いはずだが、とにかく速い。その剣撃を、大剣をわずかに動かすことで全て撥ね返すイルダ。速さと強さで拮抗している状態だ。
 左右から襲う速い剣撃を受けきれず、やや焦ったように見えたイルダだが、剣から左手を離し、右手一本だけで剣を素早く動かし、アルスの剣を撥ね返す。その勢いを利用して間合いを取るアルス。

 「おいおい、その剣を片手でも扱えるのかよ」
 「片手の方が速く動かせるんでな。長い時間は無理だけど。お前の速さも並みじゃないな」

 笑ったアルスは高くジャンプすると、イルダの頭上から勢いをつけて剣を降ろす。当然剣で受けて前に撥ね返そうとするイルダだが、アルスはその勢いを利用して剣を支点に前転すると、イルダの後ろに下りる。床に着地する前に剣がイルダの背中に向けられていたが、その剣は素早く体を回転させたイルダの剣に阻まれる。着地時の体勢が乱れたところを狙って、さらに一回転勢いをつけたイルダの横なぎの剣は、後方宙返りで避けるアルスの頭ぎりぎりのところを通過する。

 「ふえー危ない、さっきのを良く避けたな」
 「それはこっちのセリフだ、とんでもない動きをするな」
 「型にはまらないのが自慢でね。誰に習ったわけでもないからな」

 このままでは決着が付かない。そろそろ止めても良いのでは、と王様を見ると、王様もそう思ったらしく手を上げかけたが、イルダが目で止めた。

 「これで終わりにするから。アルス、実は最近やっと満足できる出来になってね」

 イルダは下段に構えてニヤッと笑う。アルスも同じように笑って、両手を広げて腰をわずかに落とす。

 「それは見せてもらわないとな」


 次の瞬間、アルスの姿が一瞬ぶれると、はっきりと二重に分かれる。そのままイルダに左右から向かって…

 キン、という音の後、イルダの剣がアルスの頭上で、アルスの剣がイルダの首横で、それぞれぎりぎりところで止まっていた。

 「…見事だ。良い物を見せてもらった。肝も冷えたがな」
 「儂は最後は良く分からなかったが…」

 王様も教皇も、感心しているというより唖然としている感じだ。最後は、アルスは二人になるし、イルダは動かずにアルスの一人を斬るし、知らないと訳が分からないだろう。アルスの分身剣とイルダの闘気連斬。アルスの分身の一人を、イルダが振り上げの闘気で斬り、もう一人の攻撃を振り下ろしで受けた。返す剣のそれぞれの一撃は、まったく同時だったので、ぎりぎりで止めた、と。

 「それにしても本気になり過ぎよ。冷や冷やしたわ」
 「ま、フレアが治療してくれるって言ったからな」

 私が心配のあまり文句を言うと、イルダは平気な顔で言う。だからといって、普通は本気を出せるものではない。…と思う。

 「ま、腹ごなしにはちょうど良かったな」
 「次は、闘気で二人いっぺんに斬ってやるぜ」
 「じゃ、俺は三分身でも挑戦するか」

 アルスも大概だ。

**********

 次の日の朝、私達は早いうちに出発することにした。目立ちたくないというののあるが、トレンタへの道は結構混むという話なので。さすがに王様は見送りには来ていない。昨夜のうちに、こっそりと城に帰っている。

 「それではな、くれぐれも、くれぐれも気を付けてな」
 「もう、トレンタはすぐ近くなのですから」

 教皇はしつこく別れを惜しんでいるようだが、さすがに泣きわめいたり抱き着いたりはしないようだ。一応、周りの目もあるので、それなりに威厳を保っている。昨夜はひどかったけど。

 トレンタは、途中に小さな村を挟んで、馬車なら2,3時間。歩いて移動する人も多いらしい。やはりこの辺りは魔物は滅多に出ないようだ。
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