夫のペット

かん

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ところで、私はプチ旅行にハマってしまった。

今まで家族に取り上げられていた給料が、全て自分のものになったのだ。男は、私が家事を全て引き受けているからと、折半している生活費の家賃にあたる金額(固定資産税から算出した額)は免除してくれた。
いつだって、鞄一つで出ていけるように私は物は持たないようにしているし、家計簿をつけながら計画的に貯金もしている。家族に見つかるのが怖いので、外食やカフェにもよらない。食材や日用品を買いに、近所のスーパーやホームセンターに行く程度だ。

プチ旅行も、家族に見つかるリスクはあるのだが、修学旅行にも行ったことがない私は、見知らぬ土地に行ってただウロウロするという、生産性のない行為にどうしようもない楽しさを覚えた。
旅行の計画を立てるのも楽しく、リビングで男がペットに奉仕させている横で、色々調べてはノートにまとめて計画を練っていた。

週末弾丸旅行は月に一度で、ほとんど日帰りだったり、格安ドミトリーに泊まったり、夜行バスの中で寝ながら帰宅するものだった。

「これは女性の一人旅としては危険じゃないか?」

男は私の計画表を見て眉を寄せた。

「私は体も大きいし、力もあるから、絡まれることはないから大丈夫よ」

と私は言った。小柄な女性なら、嘗めた行動をとる輩も現れるだろうが、私は筋肉こそ我が同胞とばかりに、体力作りにはいそしんでいるので、そこそこの体格がある。身長もあるので、気軽に絡んでくる者はそうそういない。

「それでも君は若くて美しい女性なのだから、身の安全には気を付けないと」

私が軽く受け流したからか、男はいたって真面目に言葉を重ねた。思いがけず、心配されているようで、私は思わず男の顔をまじまじと見つめた。

「ありがとう。そうね、気を付けるわ」

「最近君は以前より警戒心が薄くなっているようだから。厄介な家族に見つかっても困るのだろう?」

「…あなたの言うとおりね、気を引き締めるわ」

確かに、以前より家族に見つかる恐怖は薄らいできている。
住まいも離れ、これだけ人がいる街のなかで、私を見つけるなんて至難の技では?とさえ思う時があるくらいだ。
喉元すぎて熱さを忘れつつあるのだろうか。
あの家族に見つかったら、と想像すると絶望的な気持ちになる。
そう、男の言うとおり、私は警戒を怠ってきている。
今まで、私の人生を支配してきた家族たち。
これからは、私が私の人生を支配するのだ。
私が決めた場所で、私が好きなように。恐怖や間違った使命感で奉仕などしない。あの家族の為に尽くすことなど、二度と御免だ。
ここで、私のことを害さない夫と暮らしている時間が、今まで家族に支配されてきた時間よりどれだけ幸せなことか。
夫の特殊な趣味や、変わったペットのことなど、気にもならない。





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