さよなら私の神様

古明地 蓮

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願いを叶えて

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そして、僕は走り出した。
とにかく急いで彼女の元に向かったのだ。

彼女は、まだ15歳ぐらいだったけど、病気がちで、辛そうだった。
あの子は、元々双子だったけど、片方が死産して、自分だけ生き残ってしまったらしい。
だから、僕を信仰してくれたんだ。

僕は走り続けた。
鳥居を抜けて、彼女がいた病院の元へ。

どれくらい走っただろうか。
慣れないからだを無理に動かして、何とか病院に辿り着いた。

病院の人達を無視して、彼女がいた病室の前に立つ。

少し呼吸を整えて、ゆっくりと扉を開く。

そこには、彼女の体はもうなかったけど、彼女は残っていた。

やっと辿り着いたんだ。

すると、彼女がこちらに気づき

「あなたは誰?」

と問うてきた。

「僕は神様だよ
   君が最後まで信仰してくれた神様だよ」

すると、彼女は驚いたように、でも何かに納得して

「わざわざ逢いに来てくれたんだね
   神様に会えるなんて嬉しいよ
   でも私は死んじゃったけどね」

「いいんだよ
   お礼を伝えに来ただけだからさ
   最後まで信じてくれてありがとう」

今僕はどんな顔をしているだろう。
きっと、半分泣いているだろうな。

「どういたしまして
    まさか死んでから神様に会えるとは思ってなかったけどね
   でも、信じてきて無駄じゃなかったって知れて嬉しいよ」

「君の思いは無駄にしないさ
    悪いけど、もう帰らなきゃ行けないんだ
    だから、また今度会えたらね」

「ありがとう
    逢いに来てくれて」

「うん
    さよなら”お姉ちゃん”」

そう言って、僕は病室を出た。
そして、病室の前に立ってもう一度考える。

伝え忘れたことは無いかな。

そして、何も思い残すことが無くなったから、すっきりとした気持ちで神社に帰って行った。

行きと違って、時間があるのでゆっくりと神社に向かった。
名残惜しさをかみ締めながら、話すことは無い人を思いながら。

そして、行きの倍ぐらいの時間をかけて神社に戻った。

「ただいま」

この体の持ち主を探した。
御堂の中に入ってみると、体の持ち主が本を読んでいた。

「あ、帰ってきたんですね
    おかえりなさい」

「ただいま
   それじゃあ、約束通りこの体を返すよ」

すると、彼女は慈愛に満ちた表情で、

「いいです
    体はあなたにあげます」 

「いや、そんな訳には行かないよ
    ちゃんと返さないと」

「わかったんです  
    あなたが何者なのか

    あなたは、最後の信仰者の双子の弟さんだったんですね」

「なんで、知ってるの?」

「あなたの話を思い出したんです
    神様は信仰心でできていると
    ですから、今の姿形は最後の信仰者の信仰対象なんです
    だから、あなたがあの子の弟さんなんですね」

「そこまで分かるんだ
    でも、とにかく体は返さないと」

「いいです
    貴方にその体をあげます
    だって、あなたのお姉さんはなくなってしまったんでしょう
    だから、今度はあなたが生きる番です」

「そんな
    別にいいのに」

「いや
    私の体で思う存分生きてください
    それが本当の願いだったはずですから」

なんて優しい人なんだろう。
神様に体を渡すなんて。

「それでは、私の体はもうあなたのものです
    もうあなたは普通の人ですから」

と言うと、少女の心が透け始めた。

「ま、待って!!」

しかし、彼女の心は止まらなかった。
急いで彼女の心を掴もうとしてが、もう彼女はそこにいなかった。


それから、1日経った。
僕はやっと人間になれたのだ。
彼女はと言うと、僕一人だけが信仰して、あの神社の神様になった。
だから、僕があの神社に行くと

「もういいかい」

と聞こえるのだ。
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みんなの感想(2件)

2020.06.09 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2020.06.09 古明地 蓮

ありがとうございます
読んでほっこりとして頂けてるなら嬉しいです

解除
2020.06.09 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2020.06.09 古明地 蓮

読んでくださりありがとうございました
幽体離脱に近いですね
私的に神様化とでも呼んでます

解除

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