偽装結婚のはずが、溺愛なんて聞いてません!

白亜凛

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一、降って湧いた契約結婚

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「私に、縁談、ですか?」
「ええそうよ。とてもいいお話でしょう?」

 戸惑う美咲に、叔母はにこにこと微笑み、その隣で叔父は真剣に訴えてくる。

「もう二十七なんだから、縁談があっても何の不思議もないだろう」

(それはそうだけど……)

 思うだけで口にはせず、美咲は瞼を伏せる。

 今、彼女の前にいる叔父は父の弟で、父が経営する町工場『キリ原製作所』の専務だ。父を差し置き、わざわざ美咲だけを外に呼び出したときからなんとなく嫌な予感がした。

 でもまさか縁談とは……。

 桐原美咲二十七歳。叔父が言う通りこの年になれば結婚について悩む。残念ながら恋人はいないので、婚活しようかどうしようか考えていたところだった。

 だから今だって、縁談そのものに戸惑ったわけじゃない。
 思わず聞き返した理由は、渡された縁談相手の身上書なるものがあまりにも現実的ではないからだ。

(株式会社アマグサス、副社長。天城あまぎ隼人はやと二十八歳)

 その年齢で副社長というのも驚きだが、よく読めばこのアマグサス、天城ホールディングス傘下とある。天城ホールディングスといえばエネルギー系の商社で、テレビコマーシャルもバンバン流している子どもだって知っているような大企業だ。

 天城という名前から察するに、創業家一族の御曹司だと思われた。

 対して美咲はと言えばごく一般的な家庭の娘で、秀でた頭脳や特技もない。

 身長一五八センチのやや痩せ型。肩から背中に係る長さの髪は、たいした手入れもしないまま後頭部で一つにまとめているだけ。丸顔で黒目勝ちな目はやや大きめだが、鼻筋が通っているとも言えない。服装だってざっくりとした白っぽいセーターにデニムのパンツという大衆によく馴染むファストファッションに身を包んでいる。

 胸を張って言うのもおかしな話だが、要するに平凡な体型と顔の持ち主だ。御曹司とお見合いの場につくことすら普通では考えられないし、釣り合うとも思えない。

 何かの間違いでしょ?と疑うのは当然だと思う。

「いいか、美咲。これはキリ原の未来を左右する大事な縁談なんだ」

 叔父は硬い表情を崩さずそう言った。

「それはどういう?」

「兄さんが開発した技術が、今業界で注目を浴びているのは知ってるな?」

「はい」

 美咲の家、桐原家は祖父の代から小さな町工場『キリ原製作所』を営んでいるのだが、つい最近、美咲の父が特許を取得した再生エネルギーの技術は画期的で業界をざわつかせた。

「様々な会社が接触してきている。如何にも怪しい会社や人物も多い。アマグサスならば条件もいいし何よりも安心だ。これからアマグサスと話を進めるうえで、美咲が彼と結婚すればお互いの安心材料になる。わかるな?」

 わかるようなわからないような話である。別に結婚までしなくても普通に契約すればいいだろうにと、美咲は素朴な疑問に首を傾げた。

「いいか? 隼人くんは結婚を機に『キリ原製作所』と資本提携したいと言ってきているんだ。そうなれば安心して提携できるだけでなく、今後キリ原を狙う不届き者はいなくなるだろう?」

 ああ、なるほどとようやく合点がいった。

 結婚はハイエナどもに衝撃を与えるはずだ。後ろに天城ホールディングスがいるとわかれば、きっぱりとキリ原をあきらめるに違いない。
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