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一、降って湧いた契約結婚
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しおりを挟むそれから話が進むのは早かった。
両親は反対したが、美咲が会うだけでも会ってみたいと説得し、一週間後にお見合い当日を迎えた。
(さあ、いよいよだ)
おろしたてのパンプスを履いた美咲は、玄関を出ると空を見上げた。一月の冬の空は清々しく晴れ渡っている。これで冷たい雨でも降られたのでは憂鬱になりそうだが、幸先のいいスタートになりそうだ。
「美咲、本当に無理しなくていいんだぞ?」
この期に及んで父はまだ心配そうだ。
父も母もどうしても相手の離婚歴が気になるらしく、実は叔父に縁談を強要されたんじゃないかと気にかけている。
「大丈夫。ちゃんとお話ししてから決めるし。っていうか先方から断られたら慰めてよね、お父さん」
「何を言うんだ。こんなにかわいいのにそれはない」
いくらこちらがその気になっても相手が首を縦に振ってくれなければ話は終わってしまう。気が進まないくせに、先方から断られるのは嫌だと思うのだから女心は複雑だ。
今日の美咲はカシミアのコートの下にハイブランドのベージュのワンピースを着ている。なにしろお見合いの場所は高級料亭なのでどんな格好をしたらいいか見当もつかず、母とあれこれ悩んだ末に百貨店のショップの店員にお任せして見繕ってもらったのだった。
全力で作り上げた婚活女子。胸元の低い位置にリボンがついていて上品かつ可愛らしい。ハーフアップにまとめた髪も、緩やかにカールした毛先も、プロの手による完璧なメイクで美咲を別人のように変身させてくれた。それなのに、どこか〝着せられている〟ような、心細さが拭えなかった。
でもそんなことは言っていられない。胸を張って大きく息を吸う。
「すっごく綺麗よ、美咲」
「ありがとうお母さん」
美咲は努めて明るく笑った。まるでこのお見合いが楽しみだといわんばかりに。
親バカな両親と愛情たっぷりに育てられた娘。三人は誰の目にも仲のいい家族だと映るだろう。
しかし、美咲は桐原家の養女だ。父とはまったく血は繋がっていない。
美咲の実母は、今の母の妹で奔放な女性だったらしい。まだ大学生のときに子どもの父親を秘密にしたまま美咲を産んで大学を中退したそうだ。夜の街でホステスをしながら美咲を育てたが、美咲が五歳のときに明け方の裏路地で事故に遭い死亡。美咲は彼女の姉に引き取られ養女となった。
桐原家は経済的にも普通の家だ。けれども娘がいなかったこともあってか、実の娘のように可愛がって育てられた。美咲が引き取られたときに弟が生まれ、家族の仲はいいし、美咲は実の家族のように大切に思っている。
とはいえ美咲は自分が養女であるのを忘れたことはない。
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