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第17話『ポーション調剤にご用心』
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波乱万丈な買い物を終えたレンリエッタはその後しばらくは練習とグリスからの教えを受ける日々を過ごし、その間エラフィンは調剤室に缶詰めとなって望郷可視薬の調合に専念していた。
グツグツやボンボンだの不穏な音が聞こえ、扉の隙間や窓からギラギラした光が漏れている環境は練習に打って付けでは無かったが、それでもレンリエッタは紙一枚を復元する程度にはムーキスを取得する事に成功したのだ。
「や、やった!ちょっとだけ跡が残ってるけど完璧にくっ付いた!」
「ああ…素晴らしいです…お嬢様もようやく魔法使いとして魔法を一つ習得したのですね…!私めは大変うれしい限りでございます…」
「なにもそこまで言わなくても…でもこれでエラフィン先生も合格を出してくれるはず!」
レンリエッタは中央にちょっぴり破けた痕が残る紙を見ながらキラキラと目を輝かせた。この出来を自分の力でくっ付けたとなると、ようやく魔法使いとしての第一歩を踏み出せた気分だ。
早くエラフィンに見せたいとワクワクするレンリエッタは額に入れて飾ろうと提案するグリスを止めながら、調合が終わるのをまだかまだかと待ち侘びた。
「まだかなぁ~早く終わらないかなぁ~」
「お嬢様、早まる気持ちも分かりますが気長に待ちましょう。調合とは複雑で時間が掛かるものですから…お茶でも如何でしょうか、ティータイムには丁度良い時間ですよ。」
「うん、ならもらおうかな」
「では、すぐにご用意しますね。」
グリスの言うように調合とは複雑怪奇であり、技術と知識と精神を試されるものだ。何も知らない愚か者が『すごい、くすり、つくりたい』などと生半可な度胸で挑めば最後、薬に負ける事となる………要するにロクな結果にはならないのだ。
なのでレンリエッタは急かす事も出来ず、ただ呑気にお茶を嗜みながら待つ他ないのである。
「ねぇグリス、たしかエラフィン先生って王宮魔術師…なんだよね?」
「ええ存じ上げておりますよ…口止めされていたので教えることは出来ませんでしたが…」
「そうなんだ。でもさ、王宮魔術師って何をするの?王様に何かしてあげるの?」
レンリエッタはグリスがティーセットを帽子から取り出しているのを見ながら王宮魔術師について聞いてみた。大層な肩書と言うのは字面だけでも分かるが、厳密には何をするのかまでは分からないし、エラフィンは教えてくれなかったのだ。
「そうですねぇ…王宮魔術師というのは王からの直接的な依頼を受ける者達でございます。彼らが何をするのかまでは私も詳細は知りません…ですが公にできない事を引き受けているのは確かでございますね。」
「公に……確かにそう聞くと…エラフィン先生には打って付けなのかも…」
当たり前だが王宮魔術師の仕事は国家機密あるいは最重要機密に値するのでグリスでも知らないのである。ただ噂では公に出来ないようなヤバイ代物を処理したり、外交などに携わっているらしいが…あくまでも噂なのだ。
しかしもしそれが本当だとすれば、エラフィンのような者が王宮魔術師だと言うのも頷ける…国にとってもグレーな魔法使いは便利なのだろう。
「エラフィン様は良くも悪くも多彩なお方ですから…」
グリスがそう言いながら紅茶をポッドから注いでいると、突如として奥からバンッとドアが勢いよく開く音が聞こえて来た。
調剤室の方向だ、二人が顔を向けると少しやつれた様なエラフィンが立っていた。
「はぁ……つ、疲れた…」
「お、おつかれ…」
フラフラなエラフィンにレンリエッタは軽くねぎらいの言葉を掛けると、彼女はドスンッとソファへ座り込み、有無を言わずに注がれたばかりの紅茶を手に取って飲み始めた。
ひどく疲れている様だ、目の下には深い隈が出来ている…まさかこの数日間一切の睡眠を取らなかったのだろうか…
「だいぶお疲れのようですね…エラフィン様、薬はもう完成したのですか?」
「あと一歩さ。あとは…あぁ~…日の当たらない場所に半日か一日程度置けば完成だよ…」
「まさか寝てないの?ここずっと?」
「当たり前さぁ、なんたって…ふぁぁ~…上級薬は目を離せないんだ……一秒たりともね…」
「そ、そうなんだぁ……ところで私、ムーキスの呪文で…」
レンリエッタはエラフィンへ特訓の成果を見せようとしたが、今はそれどころでは無いらしい。彼女は目を閉じると今にでも眠ってしまいそうなほど睡魔に襲われており、深いあくびを何度も零した。
エラフィンはふにゃっと立ち上がると、杖を片手でつきながら寝室へと向かい始めた。
「あぁそうだ……ふぁぁ…グリス……後片付けを頼んだよ…」
「むっ…承知しました、片付けておきます…」
「それとレンリエッタ……」
「な、なぁに?」
「……あぁ~…何か荷物が来たら受け取っておくれよ……ふぁぁ~」
「わかりました…」
彼女は退室する前にいくつか二人へ命じると、そのまま倒れそうな足取りで二階へと上がって行った。
レンリエッタはなんとも煮え切らない気持ちになったが、今のエラフィンに無茶をさせたくないので大人しく待つことにした。言われたからには荷物だって受け取らないといけない……こんな森の奥まで来るかは分からないが…
「ではお嬢様、私は調剤室を掃除してまいります。何か御用がございましたらお申しつけくださいね。」
「うん…なら私は練習でもしてるよ…」
グリスは紅茶をもう一杯淹れてから部屋を後にした。
広い部屋……レンリエッタは一人取り残されたような気持ちになってしまった…もちろん一人になるのは初めてでは無いのだが、なぜ今日に限ってこんなにも寂しい思いをしてしまうのか…
練習をするとは言ったが、どうにもやる気が起きず…レンリエッタは紅茶をチビチビ飲みながら天井を見上げた。
「はぁ~……なんか寂しい気分…」
部屋中に置かれた様々な魔除けがキラキラと輝いている。……ところで、なぜこの邸宅には魔除けが多く置かれているのだろうか?不吉な物を祓おうとするために置くのは分かるが…それにしても多い。
この広間はもちろんのこと、廊下や各部屋にも一定数置かれているので何かしらの意味があるのだろうが……レンリエッタは特に気に留めず、ボーっとする事にした…
「………」
ドンドンドンッ!!
「うわぁあ!?なに!?誰!?なんなの!?」
だがそんな時に限って周囲は静かな環境を維持してくれないものである。
突如として玄関のドアからドンドンと突き破りそうな勢いで戸を叩く音が響き始めたのだ。レンリエッタはギョッとしてしまい、思わずソファから落ちそうになってしまったが、慌てて姿勢を正した。
そしてそーっとドアへ近付き、相手が誰か聞いた。
「だ、誰ですか…?」
『……郵便です、エラフィン様に二通の手紙がございます』
ドアの向こうから奇妙な声が返事をした。郵便屋らしいがこの世界にもあったなんて驚きだ…いやそれよりも、手紙があるらしいが…
「じゃあ郵便入れに…」
『申し訳ございませんが大事な手紙ですので手渡しでお願いいたします』
「(だ、大丈夫…たしか怖い人は森に入れないハズ…)なら開けますよ…」
郵便屋は手渡しのみだと言って聞かないので、レンリエッタは渋々ドアを開けて受け取る事にした。前とは違ってこの森には強固な防御呪文が仕込まれているので悪人や危害を加えようとする者は入れないハズだ。
しかし……レンリエッタがそーっとドアを開けてみると、誰の姿も無かった。
「……あれ?」
右を見て、左を見て、もう一回右を見ても…誰も居ない、いつも通りの風景が広がっている。ふと下を見てみれば、玄関マットの上に二通の封筒が落ちているのに気が付いた。
一通は茶色の封筒で差出元は『ロッキング書店』とやらで、もう一通は宛名も差出人も書かれていない謎の黒い封筒であった。無地の黒に金の箔が押されている…
「だ、誰も居ないよね……この手紙貰っちゃうよ!良いの?」
レンリエッタは念のため、手紙を受け取って良いのかと虚無に話しかけ…数秒すると手紙を手に取ってすぐにドアを閉めてしまった。
手紙はどちらもエラフィン宛てだ。盗み見してしまいたい気持ちもあるが……止めておき、レンリエッタはきちんとエラフィンへと届けることにした。
「そう言えば先生の部屋って入ったこと無いなぁ…」
二階に上がる途中にレンリエッタはまだエラフィンの部屋へと入った事が無いと思い出した。此処に来てからしばらく経つが、未だに邸宅内で足を踏み入れていないのはエラフィンの部屋だけだ…もっとも、それ以外に部屋が無ければの話だが…
なのでレンリエッタは少し目を輝かせながら二階の一番奥の部屋、エラフィンの寝室へと向かった。扉には『立ち入りを禁ず』の札がぶら下がっている…
「ごくり………え、エラフィン先生ー?まだ起きてるー…?」
『………』
レンリエッタは多少の恐れを抱きながら優しく戸を叩き、声を掛けてみた。しかし中から聞こえてくるのは……静寂、死んだように静かな沈黙だけだ。
しばらくしても返事が無かったので、今度はもう少し強く戸を叩きながら声を張ってみた。
「先生―!手紙が来てますよー!」
『……ぐがっ………』
「うーん…ダメだなぁ…」
今度は少し寝ぼけた様な声が聞こえたものの……依然として返事は無かった。レンリエッタはもう少しだけ強く扉を叩こうとしたが…わざわざ起こすよりも後で気付くようにドアの隙間から部屋の中へ入れることにした。
内部の状況は分からないが、少なくとも床に散らばる二枚の封筒に気付かないなんて事は無いだろうと祈りながら、レンリエッタは屈むと、ドアの下の隙間からシュッと二通の手紙を滑り込ませた。
「よし…これでいいや、無理に起こすよりこっちの方が全然良かったじゃん。」
無理に起こして怒らせるよりこっちの方が何倍も良い。そう断定したレンリエッタは満足気味に歩いて行こうとしたが…
突然、エラフィンの部屋からバァン!!という破裂音と共にけたたましいキーキーとした音が鳴り響き始めた!
ギリギリギリギリギリ!!
「うわあぁあああ!!な、何の音!?」
『ぎゃぁああ!な、なにが……なんだい!?何が起こってるんだい!?』
流石のエラフィンもこれには寝ていられなかったのか、飛び起きた様でドタンバタン!!と部屋の中から様々な音が鳴り響いていた。
少しすると音は止み、それと同時に髪の毛をボサボサに絡ませたエラフィンがのしのしと歩いて部屋から出て来た…
「せ、先生……あの…な、何が…?」
「……どこかの誰かが催促警報付きの手紙をよこしたんだ……アンタだね?私の部屋に入れたのは…」
「ごめんなさい…私、知らなくて…」
「よりにもよってこんな時に手紙が来るなんて……ふぁぁ~…」
曰く、騒音の正体は手紙に掛けられた催促警報らしい。読むべき人物が近くに居ながら、寝ていたり興味を示していないと鳴り響くもので、大抵は緊急的な用事…あるいはいたずら目的で使われる…今回は前者だ。
エラフィンは二通のうち、黒い方を見ると顔をしかめて「これは後だね」と言って仕舞い込み、もう一通の茶色い封筒の手紙を開けて中を確認した。
「あぁーん、どれどれ……おっと…参ったね…」
「手紙にはなんて書いてあるの?」
「今日届く予定だった荷物がトラブルで来れないらしい…直接配送所に取りに来いってさ……面倒だねぇ、あそこは時間も掛かるし…でも警報が付いてたのはこっちだし…」
「そこで受け取るだけなら私でも出来ると思うけど…」
「いいや、此処は強情でね…本人じゃないと駄目なんだ……ふぁぁ~…眠いけどしょうがないね…取りに行くしかないかぁ…」
茶色い封筒の内容は、荷物の配送トラブルにつき直接取りに来いとのこと。面倒な配送業者に頼んでしまったとエラフィンは愚痴を垂れ流しながら、杖を持つと早速出掛けようとした。
「本当に今から行くの?寝てた方が良いんじゃ…」
「あんまり待たせると送り返しちまうんだよ、そうなると厄介だ…面倒だが行くよ。」
「そう…でも気を付けてね?」
「分かってるさ!……あぁ、そうだレンリエッタ…今日は宿題を出そうじゃないか。」
エラフィンは杖を持って外へ出ようとしたが、その前に思い出したようにレンリエッタへ宿題を出すと命じた。
此処で出された宿題はどれもこれもロクな物では無かったので思わずレンリエッタは身構えた。もう巨大ガエルの肝掃除や暴れる箒の躾は懲り懲りなのだ…
「しゅ、宿題?それって嫌な事じゃ無いよね…?」
「アンタの熱量にもよるね。私が帰るまでに薬を一本調合してみな。」
「薬の調合?出来るかなぁ…」
「出来るさ、いつも私のやり方を見てるだろう?それに初級の薬なら魔法も時間も掛からないよ」
だが今回出された宿題は意外にも薬の調合であった。
今までレンリエッタは一度も自分の力で調合など行った事は無かったが、いつもエラフィンの横で手伝いやら見学をしていたので道具の使い方や材料の測り方の知識は少しだけあった。
「もし心配ならグリスに手伝ってもらうと良いさ。分かったね?」
「なら…分かった、やってみるよ!」
「よろしい!そんじゃ…私は行って来るよ!ハイヤァ―!!」
「いってらっしゃーい!」
エラフィンは直ぐに杖で空高く飛んで行き、レンリエッタはその様子を眺めながら見送ると、早速調合を試してみることにした。自分で薬を作るのはもちろん今回が初めてだ…だがエラフィンが出来ると信じているならやってみようではないか。
だが広間を出ようとした時、ひょこっとグリスが現れた。
「なにやらエラフィン様の声が聞こえた様な気がするのですが…」
「さっき出掛けて行っちゃったよ、荷物を取りに行ったらしいけど。」
「元気なお方ですね……ところでお嬢様、何処へお向かいですか?」
「先生に薬を作るように言われたの、宿題だって。」
「なるほど……でしたら調剤室は既に使用できる状態にしておきましたよ…少なくとも穴は見つからないので大丈夫でしょう…」
「さすがグリス!執事の鑑だね!」
「あぁ、お嬢様…なんてもったいないお言葉…」
今回はよっぽど汚く使わなかったのだろう、グリスはあっという間に調剤室を片付けて使用できる状態にしてくれていた。
レンリエッタは調剤室に向かうと、真っ先に本棚を探り始めた。棚には調剤のレシピ本がびっしりだ、究極薬から咳止めシロップまで多種多様なレシピが揃っている。
その中でもレンリエッタが選んだのは『意地悪な子供向けの調剤書』というものだった。推奨年齢は30歳から……人間で言えば10歳ほどである。まさにピッタリだ。
「えーっと…わはは、分かりやすいなぁ…ぜーんぶ絵が付いてる。」
早速、調剤本を書見台に置いたレンリエッタはペラペラとページを捲り、面白そうな薬を探し始めた。どれもこれも分かりやすく絵が描かれていたので非常に分かりやすい内容である。
しかし、やはり入門者向けの本故に目立った効果の薬は少ない…傷の自然治癒速度がちょっと上がったりだとか、虫歯の痛みを和らげたり、爪を綺麗にしたり…そんなものばかりだ。
「うーん…なんか、コレ!って感じのものが無いなぁ…」
どうせ作るなら明確に効果が現れる薬を作ってみたいレンリエッタは次から次へとページを捲り続けた。すると本が終わりに差し掛かるほど段々と薬の内容は物騒になって行った。
嘔吐させる薬、方向感覚を麻痺させる薬、小動物を手名付ける薬など……そしてついに、ビビッと来る薬が現れた。
「火付け薬…?」
興味を示したのは『火付け薬』と呼ばれるもの。
説明によると『バンズタングのように口から火を噴きたいならこれがオススメ。色と温度も調整可能。』とのこと。中々に面白そうだ、それに素材も少なく調合難度も低いと書いてある。
ページ下の『火炎げっぷ、燃焼放屁などの副作用に注意』という文がやや気になるが、それでも興味は止まない。
「よし!これにしよう!材料もたったの3つだけだし!」
というわけでページを固定したら早速調合開始。
記述の通り、レンリエッタは手に収まるサイズの5インチの釜を用意すると水を内部の線まで注ぎ込んだ。次に卓上用の小さな加熱版(三重の輪が描かれた水晶版、輪をなぞると熱くなる)を用意するとその上に釜を置いて、月熱で熱し始めた。
そして熱している間に材料集めだ。嬉しい事に悪臭漂う地下貯蔵庫まで赴く必要は無く、全部棚に揃っていた。
火かきの枝を一束、赤鱗飛竜の角質粉末をスプーン一杯、乾燥バープルベリーが三つ。たったのこれだけだ。
ちなみに計量スプーンは非常に分かりやすい記号タイプを使用している……これは幼児向けの道具だが便利なものである。
「えぇーっとまずは…ベリーを刻んで入れる…」
まずは乾燥ベリーからヘタとタネを取り除き、細かく刻んでから投入すると釜の中身は鮮やかな紫色に変わり、薄くフローラルな香りが漂い始めた。ガラスの撹拌棒でかき混ぜてみると、匂いはさらに強くなる…
「次に粉末を……星型一杯…」
少し煮込むと匂いが大人しくなってきたので、ここでドラゴンの角質粉末をスプーン一杯投入。たちまち薬は使い古された雑巾のようなトープ色に変わり、フローラルな香りは消え去った。
代わりに鼻孔を突くのは草が焦げたような匂い…むせ返りそうだ…
「うっぷ……げほ!これは酷い…でも、煮込まないと…」
窓を開けたい気分だが、温度の急な変化は失敗に繋がるので厳禁である。なのでこの悪臭の中、レンリエッタはしばらく釜の中身をかき混ぜ、薬を煮詰める事となった。
ボコボコしていた薬はいつしか粘性を増し、ゴポゴポと音を立てて泡立ち始めた。色はもはや焦げ色だ、匂いも合わさり、まるで水が焦げている様にも見える…
部屋の温度もじわじわと上がっている様だ。汗ばんだ体でレンリエッタは絶えず薬を混ぜ続けた。
「はぁ……暑い…でも、もうすぐ仕上げ…!」
いよいよ仕上げだ。本には火かきの枝を折って入れ、しばらく蓋をしてから火を消して放置と書いてある。
レンリエッタは束から枝を一本取ると、パキンッと二つに折った。折った瞬間に火花が飛び散ったが、綺麗だという感想も出ないまま、チャポンと枝を投入した。
すると…
ゴボゴボゴボゴボ…
「あ、あれ?なんか様子がおかしい気が…」
なぜか釜はガタガタと震え出し、中の薬がギラギラ光り始めた。明らかに様子がおかしい…こんな事になるとは書いていなかった…
何かが変だと思ったレンリエッタは急いで本を確認すると……なんとも意地悪な答えがそこには記してあった。
レシピの最後に小さく『枝を入れる際は必ず10等分に折って1つだけ入れるように。』と書いてある…
「はぁ!?なにこれ!なんで大きく書いてくれないの!?」
あまりの意地悪さにレンリエッタは苦情を申し立てたくなったが、それどころでは無かった。釜の震えが増し、明らかにマズい結末を迎えようとしているのだ。
どうしようかと慌てていると、ふとレンリエッタは数日前の調合風景が頭に思い浮かんで来た。
『おっと…材料を入れ過ぎちまったよ……ま!水で薄めちまえば良いか!』
『だ、大丈夫なの?そんなことして…』
『へーきへーき!薬なんて薄いくらいが良いのさ!』
そうだ、エラフィンは材料を入れ過ぎた時に水で薄めていたではないか。
すぐにレンリエッタは大きめの釜を用意すると水を張り、今にも爆発しそうな薬液をドボンと釜ごと投げ入れた………爆発はしなかった…代わりに大きな釜いっぱいに薬が出来てしまった…
赤と黄色がギラギラと斑模様を奏でる液体がタプンッと大釜の中で揺れている……これは失敗なのだろうか…本によると、色だけ見れば完成形に近いのだが…
「………と、とりあえず蓋をしておこう…うん…」
レンリエッタは考える事を止め、エラフィンが帰って来るまで薬を置いておく事に。
蓋をして、あとは何食わぬ顔で広間へ戻れば…万事OKだ…
「お嬢様、どうでした?薬は作れましたか?」
「えぇっと…うん!バッチ出来たよ、もうパーペキって感じ…」
広間に戻ると、グリスが掃除をしながら薬の具合を聞いて来たのでレンリエッタはウソをつき過ぎない程度に答えた。色だけは成功なので…大嘘では無いだろう…たぶん…
「それは素晴らしい!どのようなお薬を作られたのですか?」
「火付け薬ってやつ…」
「なるほど…火付け薬ですか…懐かしいですね、よく旦那様がご友人と一緒に…」
グリスが何かしら思い出話をしようとすると、外からキィーッとブレーキを踏むような音が聞こえて来た。荒々しい高音には聞き覚えがある、エラフィンの杖だ。
二人とも音がするなり返って来た事を察し、話を中断して玄関の方を向いた。すると予想通り小包を抱えたエラフィンがドアをバァンッと開けて颯爽と帰宅して来た。
「ご主人のお帰りだよ!…ってなんだい、二人とも出迎えてくれたのかい?」
「偶然居ただけだよ…でもおかえり!」
「お帰りなさいませエラフィン様…一体どちらへ?」
「マッハヤーディン運送のところさ、やっぱりアイツ等はダメだね、次からドラグーンにするさ。」
エラフィンは杖を乱暴にソファへ投げると、自身も同じくソファへざぶんと深く座り込んだ。ちょっと飛んで来たついでに眠気を吹き飛んだらしい、あまり眠そうには見えない。
レンリエッタは薬について言おうとしたが、それよりも先にエラフィンが口を開いた。
「あの…」
「レンリエッタ、ほうら!アンタのだよ。」
「おぉっと!?な、なにこれ…?」
エラフィンが投げ渡して来た小包は重く、茶色い紙と糸で包装されていた。大きさと袋越しの感触で厚めの本である事はすぐに分かった。
「開けてみなよ」
「う、うん…」
レンリエッタは言われた通りに包みを開け始めた。紐を解き、封蝋をペリッと剥がし、紙をガサガサと広げた…すると中から出て来たのはやっぱり本だった。
しかしただの本ではない……『簡易的な魔法解説入門編』と書かれている…魔術指南書だ!
「こ、これって…魔術書なの…?」
「もちろん。私の大叔父が随分と前に出したもんよ、内容が規制されてない正真正銘の魔術指南書さ。」
「やった!ありがとう先生!私、自分でも分かる様な本が欲しかったの!」
「だろうねぇ、ウチに置いてあるのはぜーんぶ中級かそれ以上だからねぇ」
初めて手にした入門向けの魔術の指南書にレンリエッタは大いに歓喜した。エラフィンの家に置いてあるのは全て中級以上ばかり、ようやく自分のような素人でも理解できる本が手に入ったのだ。
本の著者は『サラマン・ファングステン』という魔法使いであり、エラフィンの今は亡き大叔父らしい。今では規制されてしまいそうな情報が多く載っているらしく、探すのに苦労したとのこと…本当に素晴らしい本だ。
「出来ればアンタが来る前に取り寄せたかったんだけどね…ま、今になって到着ってわけだ。その本を隅々まで見れば魔法に関する知識はある程度つくだろうね、ちゃんと読むんだよ?」
「うん!うわぁ~…すごいなぁ…」
「よく手に入りましたね…」
「秘密の得意先があるのさ……あぁそうだ、レンリエッタ、薬は作ったんだろうね?」
「うっ!?…うん……一応作ってみたけど…」
レンリエッタは喜んでいられなかった。エラフィンが薬について聞けばウッと顔色を悪くしたように自信なさげな返事をした。
「ほほう、何を作ったんだい?」
「お嬢様は火付け薬を調合した様ですよ。」
「なるほど!火付け薬と来たか、こいつは楽しみじゃないか。早速見てみよう。」
「で、でもあんまり期待しないでね…?」
「なぁに、誰だって最初は自信が無いもんさ!」
エラフィンは早速、薬を拝見しに調剤の間へと向かった。レンリエッタは道中で「あんまり期待しないで」とか「失敗したかもしれないし…」と言ってみたものの、彼女はまるで謙遜だと思っている様だ。
グリスも一体どんなものかと楽しみそうにしている…レンリエッタはもう後には引けなかった…
「うーん…この匂い…大昔を思い出すねぇ…さて、中身は……うん、中々だよ!良いじゃないか!」
「へ、へへへ……」
「素晴らしい色ですね、発色がやや濃い様な気もしますが…」
蓋を開け、中身を見た二人は大いに感心している様だ。なんせ、見た目だけならかなり上等だ…問題はその中身だが、当然ながらエラフィンは大釜いっぱいに作られた薬に疑問を抱いた。
「それにしても随分と…大量に作ったね…?」
「まぁちょっと…い、色々あって……ちょちょちょ!まさか、飲むの!?」
「えぇ?当たり前じゃないか、効能を試さずどうやって薬を評価しろって言うんだい?」
「いぃや…その、そうだけど…失敗してたら…こ、怖いし…」
エラフィンがカップに注ぎ始めたのを見てレンリエッタは慌てて止めた。こんな得体の知れない薬を飲んで取り返しのつかない事になったら絶対に嫌だ。
もしエラフィンが焦げてバラバラに砕け散ると思うと…もうレンリエッタは事実を言わざるを得なくなった…
「ダメダメダメ!おねがい!飲まないで!!材料入れ過ぎちゃったの…!」
「材料を?ははぁーん…さては水で薄めたねぇ?」
「う、うん……だから飲んじゃ…あぁッ!!?」
「エラフィン様!?一体何を!?」
正直に話したは良いものの…それでもエラフィンは躊躇せずカップに注いだ分を一気にグイッと呷ってみせた。レンリエッタは顔を白くして抑え、グリスは慌てて止めようとしたが時すでに遅し…
カップを取り上げた時にはごくりと薬が飲み干されていた。
「ぷはッ…!どぉーれ…弟子が初めて作った薬はどうかな…」
「あ、あぁあ…!どうしよう…だ、大丈夫なの?」
「エラフィン様…なにかお体に異変は…?」
「うーんそうだねぇ……おぉっと、胃の底が熱くなって来た…けふぅ……それに…うぅぐっぷ…い、胃からガスが…」
薬を飲んだエラフィンはグツグツと胃の中身が溶岩のように熱くなって行くのを感じた。次に胃を圧迫するようなガスが口から漏れて来る…ここまでは火付け薬と同じ効能だ。
そして次に押し寄せて来るのは…まるで噴火のように熱が込み上げて来る感覚……エラフィンはたまらず口を開けた。
「ぐ、ぐぅおぉおおおお!!」
「うわぁあ!?」
「な、なんて量の火が…!」
エラフィンの口から漏れたのはげっぷでは無く炎であった。それもただの炎では無い、青く、囂々と燃えさかり、全てを焼き尽くすような大火炎だ。
あまりの熱量にレンリエッタとグリスは急いで部屋から退出して事なきを得たが、エラフィンの火炎噴きはしばらく続いた…
すっかり熱も引いて来た頃に、エラフィンは調剤室からヨレヨレとした足取りで出て来た。
「はぁ……はぁ…うぐっぷ…はぁ……ず、随分と派手に調合…してくれたじゃないか…」
「だ、大丈夫…なの?すごい炎だったけど…」
「調剤室に炎防ぎを張っておいて良かったよ…おかげで私も私以外も燃えずに済んだ…」
「なら良かったのですが…」
どうやら上手いことエラフィンが張っておいた予防魔法によって大惨事は免れた様だ。口が焦げっぽい事を除けばエラフィンも全くの無傷であった。
それにしてもトンデモナイ事をしてしまったとレンリエッタは大いに悔いた。
「ごめんなさい…薬の調合に失敗して…」
「うぅーん、まぁ初めてにしてはよくやった方さ!火かきの枝を入れ過ぎたが、それ以外は実に完璧だね」
「え?どうして枝を入れ過ぎたって知ってるの…?」
「前にも研究だか何だかで火付け薬に枝を入れまくってた奴が居てね……誰だかわかるかい?」
「ううん…だ、誰?」
「フォーメン…アンタの親父さ。」
それを聞いてレンリエッタはハッとしたような、なんとも言い難い気分になった。結局、父親と同じ様な事をしていたのだ……偶然か、或いは何かの因果か…
薬の調合には失敗したが、エラフィンは「名前を書いて売ろうか」と言い出し、瓶に詰め始めた。グリスは記念に一本取っておくと言い、レンリエッタも一本だけ保存する事にした。
ちなみに…レンリエッタはすっかり修復した紙について忘れていたが、きちんとグリスが額に納めてくれたのでそのままの状態で広間の壁に飾られていたとさ…
つづく…
グツグツやボンボンだの不穏な音が聞こえ、扉の隙間や窓からギラギラした光が漏れている環境は練習に打って付けでは無かったが、それでもレンリエッタは紙一枚を復元する程度にはムーキスを取得する事に成功したのだ。
「や、やった!ちょっとだけ跡が残ってるけど完璧にくっ付いた!」
「ああ…素晴らしいです…お嬢様もようやく魔法使いとして魔法を一つ習得したのですね…!私めは大変うれしい限りでございます…」
「なにもそこまで言わなくても…でもこれでエラフィン先生も合格を出してくれるはず!」
レンリエッタは中央にちょっぴり破けた痕が残る紙を見ながらキラキラと目を輝かせた。この出来を自分の力でくっ付けたとなると、ようやく魔法使いとしての第一歩を踏み出せた気分だ。
早くエラフィンに見せたいとワクワクするレンリエッタは額に入れて飾ろうと提案するグリスを止めながら、調合が終わるのをまだかまだかと待ち侘びた。
「まだかなぁ~早く終わらないかなぁ~」
「お嬢様、早まる気持ちも分かりますが気長に待ちましょう。調合とは複雑で時間が掛かるものですから…お茶でも如何でしょうか、ティータイムには丁度良い時間ですよ。」
「うん、ならもらおうかな」
「では、すぐにご用意しますね。」
グリスの言うように調合とは複雑怪奇であり、技術と知識と精神を試されるものだ。何も知らない愚か者が『すごい、くすり、つくりたい』などと生半可な度胸で挑めば最後、薬に負ける事となる………要するにロクな結果にはならないのだ。
なのでレンリエッタは急かす事も出来ず、ただ呑気にお茶を嗜みながら待つ他ないのである。
「ねぇグリス、たしかエラフィン先生って王宮魔術師…なんだよね?」
「ええ存じ上げておりますよ…口止めされていたので教えることは出来ませんでしたが…」
「そうなんだ。でもさ、王宮魔術師って何をするの?王様に何かしてあげるの?」
レンリエッタはグリスがティーセットを帽子から取り出しているのを見ながら王宮魔術師について聞いてみた。大層な肩書と言うのは字面だけでも分かるが、厳密には何をするのかまでは分からないし、エラフィンは教えてくれなかったのだ。
「そうですねぇ…王宮魔術師というのは王からの直接的な依頼を受ける者達でございます。彼らが何をするのかまでは私も詳細は知りません…ですが公にできない事を引き受けているのは確かでございますね。」
「公に……確かにそう聞くと…エラフィン先生には打って付けなのかも…」
当たり前だが王宮魔術師の仕事は国家機密あるいは最重要機密に値するのでグリスでも知らないのである。ただ噂では公に出来ないようなヤバイ代物を処理したり、外交などに携わっているらしいが…あくまでも噂なのだ。
しかしもしそれが本当だとすれば、エラフィンのような者が王宮魔術師だと言うのも頷ける…国にとってもグレーな魔法使いは便利なのだろう。
「エラフィン様は良くも悪くも多彩なお方ですから…」
グリスがそう言いながら紅茶をポッドから注いでいると、突如として奥からバンッとドアが勢いよく開く音が聞こえて来た。
調剤室の方向だ、二人が顔を向けると少しやつれた様なエラフィンが立っていた。
「はぁ……つ、疲れた…」
「お、おつかれ…」
フラフラなエラフィンにレンリエッタは軽くねぎらいの言葉を掛けると、彼女はドスンッとソファへ座り込み、有無を言わずに注がれたばかりの紅茶を手に取って飲み始めた。
ひどく疲れている様だ、目の下には深い隈が出来ている…まさかこの数日間一切の睡眠を取らなかったのだろうか…
「だいぶお疲れのようですね…エラフィン様、薬はもう完成したのですか?」
「あと一歩さ。あとは…あぁ~…日の当たらない場所に半日か一日程度置けば完成だよ…」
「まさか寝てないの?ここずっと?」
「当たり前さぁ、なんたって…ふぁぁ~…上級薬は目を離せないんだ……一秒たりともね…」
「そ、そうなんだぁ……ところで私、ムーキスの呪文で…」
レンリエッタはエラフィンへ特訓の成果を見せようとしたが、今はそれどころでは無いらしい。彼女は目を閉じると今にでも眠ってしまいそうなほど睡魔に襲われており、深いあくびを何度も零した。
エラフィンはふにゃっと立ち上がると、杖を片手でつきながら寝室へと向かい始めた。
「あぁそうだ……ふぁぁ…グリス……後片付けを頼んだよ…」
「むっ…承知しました、片付けておきます…」
「それとレンリエッタ……」
「な、なぁに?」
「……あぁ~…何か荷物が来たら受け取っておくれよ……ふぁぁ~」
「わかりました…」
彼女は退室する前にいくつか二人へ命じると、そのまま倒れそうな足取りで二階へと上がって行った。
レンリエッタはなんとも煮え切らない気持ちになったが、今のエラフィンに無茶をさせたくないので大人しく待つことにした。言われたからには荷物だって受け取らないといけない……こんな森の奥まで来るかは分からないが…
「ではお嬢様、私は調剤室を掃除してまいります。何か御用がございましたらお申しつけくださいね。」
「うん…なら私は練習でもしてるよ…」
グリスは紅茶をもう一杯淹れてから部屋を後にした。
広い部屋……レンリエッタは一人取り残されたような気持ちになってしまった…もちろん一人になるのは初めてでは無いのだが、なぜ今日に限ってこんなにも寂しい思いをしてしまうのか…
練習をするとは言ったが、どうにもやる気が起きず…レンリエッタは紅茶をチビチビ飲みながら天井を見上げた。
「はぁ~……なんか寂しい気分…」
部屋中に置かれた様々な魔除けがキラキラと輝いている。……ところで、なぜこの邸宅には魔除けが多く置かれているのだろうか?不吉な物を祓おうとするために置くのは分かるが…それにしても多い。
この広間はもちろんのこと、廊下や各部屋にも一定数置かれているので何かしらの意味があるのだろうが……レンリエッタは特に気に留めず、ボーっとする事にした…
「………」
ドンドンドンッ!!
「うわぁあ!?なに!?誰!?なんなの!?」
だがそんな時に限って周囲は静かな環境を維持してくれないものである。
突如として玄関のドアからドンドンと突き破りそうな勢いで戸を叩く音が響き始めたのだ。レンリエッタはギョッとしてしまい、思わずソファから落ちそうになってしまったが、慌てて姿勢を正した。
そしてそーっとドアへ近付き、相手が誰か聞いた。
「だ、誰ですか…?」
『……郵便です、エラフィン様に二通の手紙がございます』
ドアの向こうから奇妙な声が返事をした。郵便屋らしいがこの世界にもあったなんて驚きだ…いやそれよりも、手紙があるらしいが…
「じゃあ郵便入れに…」
『申し訳ございませんが大事な手紙ですので手渡しでお願いいたします』
「(だ、大丈夫…たしか怖い人は森に入れないハズ…)なら開けますよ…」
郵便屋は手渡しのみだと言って聞かないので、レンリエッタは渋々ドアを開けて受け取る事にした。前とは違ってこの森には強固な防御呪文が仕込まれているので悪人や危害を加えようとする者は入れないハズだ。
しかし……レンリエッタがそーっとドアを開けてみると、誰の姿も無かった。
「……あれ?」
右を見て、左を見て、もう一回右を見ても…誰も居ない、いつも通りの風景が広がっている。ふと下を見てみれば、玄関マットの上に二通の封筒が落ちているのに気が付いた。
一通は茶色の封筒で差出元は『ロッキング書店』とやらで、もう一通は宛名も差出人も書かれていない謎の黒い封筒であった。無地の黒に金の箔が押されている…
「だ、誰も居ないよね……この手紙貰っちゃうよ!良いの?」
レンリエッタは念のため、手紙を受け取って良いのかと虚無に話しかけ…数秒すると手紙を手に取ってすぐにドアを閉めてしまった。
手紙はどちらもエラフィン宛てだ。盗み見してしまいたい気持ちもあるが……止めておき、レンリエッタはきちんとエラフィンへと届けることにした。
「そう言えば先生の部屋って入ったこと無いなぁ…」
二階に上がる途中にレンリエッタはまだエラフィンの部屋へと入った事が無いと思い出した。此処に来てからしばらく経つが、未だに邸宅内で足を踏み入れていないのはエラフィンの部屋だけだ…もっとも、それ以外に部屋が無ければの話だが…
なのでレンリエッタは少し目を輝かせながら二階の一番奥の部屋、エラフィンの寝室へと向かった。扉には『立ち入りを禁ず』の札がぶら下がっている…
「ごくり………え、エラフィン先生ー?まだ起きてるー…?」
『………』
レンリエッタは多少の恐れを抱きながら優しく戸を叩き、声を掛けてみた。しかし中から聞こえてくるのは……静寂、死んだように静かな沈黙だけだ。
しばらくしても返事が無かったので、今度はもう少し強く戸を叩きながら声を張ってみた。
「先生―!手紙が来てますよー!」
『……ぐがっ………』
「うーん…ダメだなぁ…」
今度は少し寝ぼけた様な声が聞こえたものの……依然として返事は無かった。レンリエッタはもう少しだけ強く扉を叩こうとしたが…わざわざ起こすよりも後で気付くようにドアの隙間から部屋の中へ入れることにした。
内部の状況は分からないが、少なくとも床に散らばる二枚の封筒に気付かないなんて事は無いだろうと祈りながら、レンリエッタは屈むと、ドアの下の隙間からシュッと二通の手紙を滑り込ませた。
「よし…これでいいや、無理に起こすよりこっちの方が全然良かったじゃん。」
無理に起こして怒らせるよりこっちの方が何倍も良い。そう断定したレンリエッタは満足気味に歩いて行こうとしたが…
突然、エラフィンの部屋からバァン!!という破裂音と共にけたたましいキーキーとした音が鳴り響き始めた!
ギリギリギリギリギリ!!
「うわあぁあああ!!な、何の音!?」
『ぎゃぁああ!な、なにが……なんだい!?何が起こってるんだい!?』
流石のエラフィンもこれには寝ていられなかったのか、飛び起きた様でドタンバタン!!と部屋の中から様々な音が鳴り響いていた。
少しすると音は止み、それと同時に髪の毛をボサボサに絡ませたエラフィンがのしのしと歩いて部屋から出て来た…
「せ、先生……あの…な、何が…?」
「……どこかの誰かが催促警報付きの手紙をよこしたんだ……アンタだね?私の部屋に入れたのは…」
「ごめんなさい…私、知らなくて…」
「よりにもよってこんな時に手紙が来るなんて……ふぁぁ~…」
曰く、騒音の正体は手紙に掛けられた催促警報らしい。読むべき人物が近くに居ながら、寝ていたり興味を示していないと鳴り響くもので、大抵は緊急的な用事…あるいはいたずら目的で使われる…今回は前者だ。
エラフィンは二通のうち、黒い方を見ると顔をしかめて「これは後だね」と言って仕舞い込み、もう一通の茶色い封筒の手紙を開けて中を確認した。
「あぁーん、どれどれ……おっと…参ったね…」
「手紙にはなんて書いてあるの?」
「今日届く予定だった荷物がトラブルで来れないらしい…直接配送所に取りに来いってさ……面倒だねぇ、あそこは時間も掛かるし…でも警報が付いてたのはこっちだし…」
「そこで受け取るだけなら私でも出来ると思うけど…」
「いいや、此処は強情でね…本人じゃないと駄目なんだ……ふぁぁ~…眠いけどしょうがないね…取りに行くしかないかぁ…」
茶色い封筒の内容は、荷物の配送トラブルにつき直接取りに来いとのこと。面倒な配送業者に頼んでしまったとエラフィンは愚痴を垂れ流しながら、杖を持つと早速出掛けようとした。
「本当に今から行くの?寝てた方が良いんじゃ…」
「あんまり待たせると送り返しちまうんだよ、そうなると厄介だ…面倒だが行くよ。」
「そう…でも気を付けてね?」
「分かってるさ!……あぁ、そうだレンリエッタ…今日は宿題を出そうじゃないか。」
エラフィンは杖を持って外へ出ようとしたが、その前に思い出したようにレンリエッタへ宿題を出すと命じた。
此処で出された宿題はどれもこれもロクな物では無かったので思わずレンリエッタは身構えた。もう巨大ガエルの肝掃除や暴れる箒の躾は懲り懲りなのだ…
「しゅ、宿題?それって嫌な事じゃ無いよね…?」
「アンタの熱量にもよるね。私が帰るまでに薬を一本調合してみな。」
「薬の調合?出来るかなぁ…」
「出来るさ、いつも私のやり方を見てるだろう?それに初級の薬なら魔法も時間も掛からないよ」
だが今回出された宿題は意外にも薬の調合であった。
今までレンリエッタは一度も自分の力で調合など行った事は無かったが、いつもエラフィンの横で手伝いやら見学をしていたので道具の使い方や材料の測り方の知識は少しだけあった。
「もし心配ならグリスに手伝ってもらうと良いさ。分かったね?」
「なら…分かった、やってみるよ!」
「よろしい!そんじゃ…私は行って来るよ!ハイヤァ―!!」
「いってらっしゃーい!」
エラフィンは直ぐに杖で空高く飛んで行き、レンリエッタはその様子を眺めながら見送ると、早速調合を試してみることにした。自分で薬を作るのはもちろん今回が初めてだ…だがエラフィンが出来ると信じているならやってみようではないか。
だが広間を出ようとした時、ひょこっとグリスが現れた。
「なにやらエラフィン様の声が聞こえた様な気がするのですが…」
「さっき出掛けて行っちゃったよ、荷物を取りに行ったらしいけど。」
「元気なお方ですね……ところでお嬢様、何処へお向かいですか?」
「先生に薬を作るように言われたの、宿題だって。」
「なるほど……でしたら調剤室は既に使用できる状態にしておきましたよ…少なくとも穴は見つからないので大丈夫でしょう…」
「さすがグリス!執事の鑑だね!」
「あぁ、お嬢様…なんてもったいないお言葉…」
今回はよっぽど汚く使わなかったのだろう、グリスはあっという間に調剤室を片付けて使用できる状態にしてくれていた。
レンリエッタは調剤室に向かうと、真っ先に本棚を探り始めた。棚には調剤のレシピ本がびっしりだ、究極薬から咳止めシロップまで多種多様なレシピが揃っている。
その中でもレンリエッタが選んだのは『意地悪な子供向けの調剤書』というものだった。推奨年齢は30歳から……人間で言えば10歳ほどである。まさにピッタリだ。
「えーっと…わはは、分かりやすいなぁ…ぜーんぶ絵が付いてる。」
早速、調剤本を書見台に置いたレンリエッタはペラペラとページを捲り、面白そうな薬を探し始めた。どれもこれも分かりやすく絵が描かれていたので非常に分かりやすい内容である。
しかし、やはり入門者向けの本故に目立った効果の薬は少ない…傷の自然治癒速度がちょっと上がったりだとか、虫歯の痛みを和らげたり、爪を綺麗にしたり…そんなものばかりだ。
「うーん…なんか、コレ!って感じのものが無いなぁ…」
どうせ作るなら明確に効果が現れる薬を作ってみたいレンリエッタは次から次へとページを捲り続けた。すると本が終わりに差し掛かるほど段々と薬の内容は物騒になって行った。
嘔吐させる薬、方向感覚を麻痺させる薬、小動物を手名付ける薬など……そしてついに、ビビッと来る薬が現れた。
「火付け薬…?」
興味を示したのは『火付け薬』と呼ばれるもの。
説明によると『バンズタングのように口から火を噴きたいならこれがオススメ。色と温度も調整可能。』とのこと。中々に面白そうだ、それに素材も少なく調合難度も低いと書いてある。
ページ下の『火炎げっぷ、燃焼放屁などの副作用に注意』という文がやや気になるが、それでも興味は止まない。
「よし!これにしよう!材料もたったの3つだけだし!」
というわけでページを固定したら早速調合開始。
記述の通り、レンリエッタは手に収まるサイズの5インチの釜を用意すると水を内部の線まで注ぎ込んだ。次に卓上用の小さな加熱版(三重の輪が描かれた水晶版、輪をなぞると熱くなる)を用意するとその上に釜を置いて、月熱で熱し始めた。
そして熱している間に材料集めだ。嬉しい事に悪臭漂う地下貯蔵庫まで赴く必要は無く、全部棚に揃っていた。
火かきの枝を一束、赤鱗飛竜の角質粉末をスプーン一杯、乾燥バープルベリーが三つ。たったのこれだけだ。
ちなみに計量スプーンは非常に分かりやすい記号タイプを使用している……これは幼児向けの道具だが便利なものである。
「えぇーっとまずは…ベリーを刻んで入れる…」
まずは乾燥ベリーからヘタとタネを取り除き、細かく刻んでから投入すると釜の中身は鮮やかな紫色に変わり、薄くフローラルな香りが漂い始めた。ガラスの撹拌棒でかき混ぜてみると、匂いはさらに強くなる…
「次に粉末を……星型一杯…」
少し煮込むと匂いが大人しくなってきたので、ここでドラゴンの角質粉末をスプーン一杯投入。たちまち薬は使い古された雑巾のようなトープ色に変わり、フローラルな香りは消え去った。
代わりに鼻孔を突くのは草が焦げたような匂い…むせ返りそうだ…
「うっぷ……げほ!これは酷い…でも、煮込まないと…」
窓を開けたい気分だが、温度の急な変化は失敗に繋がるので厳禁である。なのでこの悪臭の中、レンリエッタはしばらく釜の中身をかき混ぜ、薬を煮詰める事となった。
ボコボコしていた薬はいつしか粘性を増し、ゴポゴポと音を立てて泡立ち始めた。色はもはや焦げ色だ、匂いも合わさり、まるで水が焦げている様にも見える…
部屋の温度もじわじわと上がっている様だ。汗ばんだ体でレンリエッタは絶えず薬を混ぜ続けた。
「はぁ……暑い…でも、もうすぐ仕上げ…!」
いよいよ仕上げだ。本には火かきの枝を折って入れ、しばらく蓋をしてから火を消して放置と書いてある。
レンリエッタは束から枝を一本取ると、パキンッと二つに折った。折った瞬間に火花が飛び散ったが、綺麗だという感想も出ないまま、チャポンと枝を投入した。
すると…
ゴボゴボゴボゴボ…
「あ、あれ?なんか様子がおかしい気が…」
なぜか釜はガタガタと震え出し、中の薬がギラギラ光り始めた。明らかに様子がおかしい…こんな事になるとは書いていなかった…
何かが変だと思ったレンリエッタは急いで本を確認すると……なんとも意地悪な答えがそこには記してあった。
レシピの最後に小さく『枝を入れる際は必ず10等分に折って1つだけ入れるように。』と書いてある…
「はぁ!?なにこれ!なんで大きく書いてくれないの!?」
あまりの意地悪さにレンリエッタは苦情を申し立てたくなったが、それどころでは無かった。釜の震えが増し、明らかにマズい結末を迎えようとしているのだ。
どうしようかと慌てていると、ふとレンリエッタは数日前の調合風景が頭に思い浮かんで来た。
『おっと…材料を入れ過ぎちまったよ……ま!水で薄めちまえば良いか!』
『だ、大丈夫なの?そんなことして…』
『へーきへーき!薬なんて薄いくらいが良いのさ!』
そうだ、エラフィンは材料を入れ過ぎた時に水で薄めていたではないか。
すぐにレンリエッタは大きめの釜を用意すると水を張り、今にも爆発しそうな薬液をドボンと釜ごと投げ入れた………爆発はしなかった…代わりに大きな釜いっぱいに薬が出来てしまった…
赤と黄色がギラギラと斑模様を奏でる液体がタプンッと大釜の中で揺れている……これは失敗なのだろうか…本によると、色だけ見れば完成形に近いのだが…
「………と、とりあえず蓋をしておこう…うん…」
レンリエッタは考える事を止め、エラフィンが帰って来るまで薬を置いておく事に。
蓋をして、あとは何食わぬ顔で広間へ戻れば…万事OKだ…
「お嬢様、どうでした?薬は作れましたか?」
「えぇっと…うん!バッチ出来たよ、もうパーペキって感じ…」
広間に戻ると、グリスが掃除をしながら薬の具合を聞いて来たのでレンリエッタはウソをつき過ぎない程度に答えた。色だけは成功なので…大嘘では無いだろう…たぶん…
「それは素晴らしい!どのようなお薬を作られたのですか?」
「火付け薬ってやつ…」
「なるほど…火付け薬ですか…懐かしいですね、よく旦那様がご友人と一緒に…」
グリスが何かしら思い出話をしようとすると、外からキィーッとブレーキを踏むような音が聞こえて来た。荒々しい高音には聞き覚えがある、エラフィンの杖だ。
二人とも音がするなり返って来た事を察し、話を中断して玄関の方を向いた。すると予想通り小包を抱えたエラフィンがドアをバァンッと開けて颯爽と帰宅して来た。
「ご主人のお帰りだよ!…ってなんだい、二人とも出迎えてくれたのかい?」
「偶然居ただけだよ…でもおかえり!」
「お帰りなさいませエラフィン様…一体どちらへ?」
「マッハヤーディン運送のところさ、やっぱりアイツ等はダメだね、次からドラグーンにするさ。」
エラフィンは杖を乱暴にソファへ投げると、自身も同じくソファへざぶんと深く座り込んだ。ちょっと飛んで来たついでに眠気を吹き飛んだらしい、あまり眠そうには見えない。
レンリエッタは薬について言おうとしたが、それよりも先にエラフィンが口を開いた。
「あの…」
「レンリエッタ、ほうら!アンタのだよ。」
「おぉっと!?な、なにこれ…?」
エラフィンが投げ渡して来た小包は重く、茶色い紙と糸で包装されていた。大きさと袋越しの感触で厚めの本である事はすぐに分かった。
「開けてみなよ」
「う、うん…」
レンリエッタは言われた通りに包みを開け始めた。紐を解き、封蝋をペリッと剥がし、紙をガサガサと広げた…すると中から出て来たのはやっぱり本だった。
しかしただの本ではない……『簡易的な魔法解説入門編』と書かれている…魔術指南書だ!
「こ、これって…魔術書なの…?」
「もちろん。私の大叔父が随分と前に出したもんよ、内容が規制されてない正真正銘の魔術指南書さ。」
「やった!ありがとう先生!私、自分でも分かる様な本が欲しかったの!」
「だろうねぇ、ウチに置いてあるのはぜーんぶ中級かそれ以上だからねぇ」
初めて手にした入門向けの魔術の指南書にレンリエッタは大いに歓喜した。エラフィンの家に置いてあるのは全て中級以上ばかり、ようやく自分のような素人でも理解できる本が手に入ったのだ。
本の著者は『サラマン・ファングステン』という魔法使いであり、エラフィンの今は亡き大叔父らしい。今では規制されてしまいそうな情報が多く載っているらしく、探すのに苦労したとのこと…本当に素晴らしい本だ。
「出来ればアンタが来る前に取り寄せたかったんだけどね…ま、今になって到着ってわけだ。その本を隅々まで見れば魔法に関する知識はある程度つくだろうね、ちゃんと読むんだよ?」
「うん!うわぁ~…すごいなぁ…」
「よく手に入りましたね…」
「秘密の得意先があるのさ……あぁそうだ、レンリエッタ、薬は作ったんだろうね?」
「うっ!?…うん……一応作ってみたけど…」
レンリエッタは喜んでいられなかった。エラフィンが薬について聞けばウッと顔色を悪くしたように自信なさげな返事をした。
「ほほう、何を作ったんだい?」
「お嬢様は火付け薬を調合した様ですよ。」
「なるほど!火付け薬と来たか、こいつは楽しみじゃないか。早速見てみよう。」
「で、でもあんまり期待しないでね…?」
「なぁに、誰だって最初は自信が無いもんさ!」
エラフィンは早速、薬を拝見しに調剤の間へと向かった。レンリエッタは道中で「あんまり期待しないで」とか「失敗したかもしれないし…」と言ってみたものの、彼女はまるで謙遜だと思っている様だ。
グリスも一体どんなものかと楽しみそうにしている…レンリエッタはもう後には引けなかった…
「うーん…この匂い…大昔を思い出すねぇ…さて、中身は……うん、中々だよ!良いじゃないか!」
「へ、へへへ……」
「素晴らしい色ですね、発色がやや濃い様な気もしますが…」
蓋を開け、中身を見た二人は大いに感心している様だ。なんせ、見た目だけならかなり上等だ…問題はその中身だが、当然ながらエラフィンは大釜いっぱいに作られた薬に疑問を抱いた。
「それにしても随分と…大量に作ったね…?」
「まぁちょっと…い、色々あって……ちょちょちょ!まさか、飲むの!?」
「えぇ?当たり前じゃないか、効能を試さずどうやって薬を評価しろって言うんだい?」
「いぃや…その、そうだけど…失敗してたら…こ、怖いし…」
エラフィンがカップに注ぎ始めたのを見てレンリエッタは慌てて止めた。こんな得体の知れない薬を飲んで取り返しのつかない事になったら絶対に嫌だ。
もしエラフィンが焦げてバラバラに砕け散ると思うと…もうレンリエッタは事実を言わざるを得なくなった…
「ダメダメダメ!おねがい!飲まないで!!材料入れ過ぎちゃったの…!」
「材料を?ははぁーん…さては水で薄めたねぇ?」
「う、うん……だから飲んじゃ…あぁッ!!?」
「エラフィン様!?一体何を!?」
正直に話したは良いものの…それでもエラフィンは躊躇せずカップに注いだ分を一気にグイッと呷ってみせた。レンリエッタは顔を白くして抑え、グリスは慌てて止めようとしたが時すでに遅し…
カップを取り上げた時にはごくりと薬が飲み干されていた。
「ぷはッ…!どぉーれ…弟子が初めて作った薬はどうかな…」
「あ、あぁあ…!どうしよう…だ、大丈夫なの?」
「エラフィン様…なにかお体に異変は…?」
「うーんそうだねぇ……おぉっと、胃の底が熱くなって来た…けふぅ……それに…うぅぐっぷ…い、胃からガスが…」
薬を飲んだエラフィンはグツグツと胃の中身が溶岩のように熱くなって行くのを感じた。次に胃を圧迫するようなガスが口から漏れて来る…ここまでは火付け薬と同じ効能だ。
そして次に押し寄せて来るのは…まるで噴火のように熱が込み上げて来る感覚……エラフィンはたまらず口を開けた。
「ぐ、ぐぅおぉおおおお!!」
「うわぁあ!?」
「な、なんて量の火が…!」
エラフィンの口から漏れたのはげっぷでは無く炎であった。それもただの炎では無い、青く、囂々と燃えさかり、全てを焼き尽くすような大火炎だ。
あまりの熱量にレンリエッタとグリスは急いで部屋から退出して事なきを得たが、エラフィンの火炎噴きはしばらく続いた…
すっかり熱も引いて来た頃に、エラフィンは調剤室からヨレヨレとした足取りで出て来た。
「はぁ……はぁ…うぐっぷ…はぁ……ず、随分と派手に調合…してくれたじゃないか…」
「だ、大丈夫…なの?すごい炎だったけど…」
「調剤室に炎防ぎを張っておいて良かったよ…おかげで私も私以外も燃えずに済んだ…」
「なら良かったのですが…」
どうやら上手いことエラフィンが張っておいた予防魔法によって大惨事は免れた様だ。口が焦げっぽい事を除けばエラフィンも全くの無傷であった。
それにしてもトンデモナイ事をしてしまったとレンリエッタは大いに悔いた。
「ごめんなさい…薬の調合に失敗して…」
「うぅーん、まぁ初めてにしてはよくやった方さ!火かきの枝を入れ過ぎたが、それ以外は実に完璧だね」
「え?どうして枝を入れ過ぎたって知ってるの…?」
「前にも研究だか何だかで火付け薬に枝を入れまくってた奴が居てね……誰だかわかるかい?」
「ううん…だ、誰?」
「フォーメン…アンタの親父さ。」
それを聞いてレンリエッタはハッとしたような、なんとも言い難い気分になった。結局、父親と同じ様な事をしていたのだ……偶然か、或いは何かの因果か…
薬の調合には失敗したが、エラフィンは「名前を書いて売ろうか」と言い出し、瓶に詰め始めた。グリスは記念に一本取っておくと言い、レンリエッタも一本だけ保存する事にした。
ちなみに…レンリエッタはすっかり修復した紙について忘れていたが、きちんとグリスが額に納めてくれたのでそのままの状態で広間の壁に飾られていたとさ…
つづく…
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