100均で始まる恋もある2

三森のらん

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3.エアプランツ

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 店を出ると、それぞれの課ごとに二次会へと移動を始める。うちの課も小島の一つ上の野原が店の前で固まっている俺たちを置いて、二次会の会場に予約しに走って向かった。
 俺はそんな集団から少し離れたところで、タバコを取り出そうと、シャツのポケットに手をつっこもうとした。

「ん?」

 建物を背に上を向きながら、目を閉じて、顔を真っ赤にして座っている男に視線が向いた。どこかで見たことがあるような気がする。すると、すぐにピンときた。あの百均のレジにいる男の子だと。
 酔っているのだろう。大きくため息をつきながらも、そこから動こうとしない。俺は心配になって、彼のそばに歩み寄った。

「……おい」

 彼に声をかけるが、まったく反応しない。

「おーい、大丈夫かぁ?」

 ピクリ、ピクリと瞼は反応はしているようなのだが、開くまでには至らない。俺は彼の名前を呼んでみた。

「あー、濱田くん?」

 やはり自分の名前には反応するのか、じりじりと瞼をあげようとしている努力が見える。それを笑ってはいけないのだろうけれど、思わず、フッと笑いが浮かぶ。

「……はい?」

 俺の顔が見えているのか怪しいが、なんとか返事を返しながら、頭を傾げて俺の方に顔を向けている。そして、彼の努力はやっぱり、その甲斐もなく、瞼は再び閉じようとしている。

「……大丈夫じゃなさそうだなぁ」

 俺は彼の腕を掴むと、立たせようと引っ張り上げた。

「おっと……」


 勢いをつけすぎたか、彼は俺の胸元に倒れ込んできた。やっぱり、見た目通り、男の子にしてはずいぶんと軽い気がする。完全に俺に身体を預けてきてる。
 参った。思わず、大きくため息をついてしまう。

「ほら、自分の足で立ちなさい」

 彼の肩をつかんで、俯いている彼の顔を覗き込んだ。

「……ごめんな……さい」

 眉間に皺を寄せながら、俺の身体から離れて、自分で立とうとしようとしているようなのだが、どうにも心もとない。
 まったく、こんな子を、ここまで酔わせておきながら誰も一緒にいないとか、不用心すぎる。俺はイラっとしながら周囲を見渡すが、彼の知り合いと思われるような人は、誰もいないようだ。

「濱田くん、家は近いのか?」

 俺の言葉に、今度は泣きそうな顔になった。まさか、子供とも言えないような彼が泣き出すのか? と困惑しながらため息をついた。

「仕方ない。私の家に来なさい」


 このまま彼を放っておけない。俺がそう言うと、ビクリと身体を震わせて、再び俺から離れようとする。

「だ、だいじょうぶれす……え、えきまで……えきまでいけばぁ……なんとか……なる……」


 明らかに呂律が回っていない。駅まで行っても、さっきと同じようにしゃがみ込むに決まっている。

「ほら、行くぞ」

 俺は彼を抱えながら、まだ店の前で固まっている遠藤たちのほうに顔を向けた。そんな俺に気が付いたのは、相変わらず酔っぱらっている小島と、うちの事務をまとめてやってくれているパートの佐藤さんと派遣の丹野さん。

「あ、課長~、何、ひろってきたんですかぁ」
「えー、何、何、きゃぁ、若い男!」
「うわ、かわいぃ!」


 テンションが高めの彼女たちに囲まれながらも、その声に反応を示さない濱田くん。

「悪い、私はもう帰るから」

 俺は、脇に抱えていた鞄から財布を探す。

「えぇ!? 久しぶりに課長が参加だからって、みんな来てたのにぃ」
「そうですよぉ、もう、二次会の場所、取りに行って待ってるのにっ」
「ほんと、悪いけど、これでみんなで飲んでくれ」


 彼の様子をチラリと見ながらも、俺は財布から1万円札を一枚取り出し、小島に渡す。

「えぇぇ! いいんですか!こんなに!」
「ああ、たまにはいいだろ」
「ありがとうございます!」
「きゃぁぁぁ! さすが、課長、太っ腹!」

 彼女たちの見送りの声を背中に受けながら、駅に向かって歩き出した。
 濱田くんの足は相変わらず心もとなく、男にしては軽いとはいえ、家に連れて帰るまで抱えて歩くのは、なかなかにしんどそうだ。
 俺は途中で諦めると、駅前の大通りまで出て、タクシーを止めた。大した距離はないものの、家まで向かってもらうことにした。
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