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第8章 人族の中の竜

第8章 人族の中の竜 1~1000年後の人々

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第8章 人族の中の竜 1~1000年後の人々


●S-1:アレキサンダー男爵領/城下街

 芋餅屋台の店主はぎょっとした。
 目の前に立った男が異様だったからだ。
 金糸が施された派手で豪奢なガウンのような服だった。
 長い裾が地面に届いてしまって埃塗れになっている。
 
 なにせ190センチになんなんとする長身で筋肉質。
 堂々たる体躯は分厚い胸板をしていて威容を誇るようだった。
 二枚目と言えなくもないが鷹のような鋭い目つきがそれを打ち消してしまっている。
 そして、懐から出した大金貨。
 初代帝国皇帝の肖像が彫られた逸品であった。

「あ……すんません、旦那ァ。そんな大きい金じゃお釣りが出せねぇんでさぁ」
 帝国大金貨は世界標準金貨のドカル金貨に換算しても10枚分だった。
 金貨を出されるだけでも困るのに、それは屋台程度のお店にはあまりにも大きすぎた。
 もちろん。
 しらんぷりしてお釣りを誤魔化すこともできなくはないのだが、バレたら大変なのが男爵領なのだった。
 風紀取り締まりが巡回してるからだ。

「足りなかったか?インフレが進んでいるのか……」
「いえ、いえ。多すぎるんでさぁ」
 店主は首を大きく振った。
「男爵銅貨2枚ですんで」
「ふ……む?男爵?……ここの独自通貨か?」
「へい。こういう」
 店主は男爵銅貨を出して見せた。
 鈍い銅色に着色された陶器のコインだ。

「こ、これは……石ころではないか!」
 男は驚いた。
 そして憤った。
「ここの領主はこのようなもので領民を搾取しているのか!」
 男は確信した。
 ここの領主は貴金属を独占して圧政を敷いているのに違いない。

「いえ。運ぶのに重くなくて良いようにってことらしくて。なんならいつでも銀行で帝国貨幣と交換できまさぁ」
「そんな戯言が信用できるのか!嘆かわしい。お前たちは騙されているのだ!」
 激高する男に店主は首を捻る。
「すっとぼけたお人ではありますがねぇ。今のところは信用できそうでさぁ」
「おおおお……なんと悪辣な!」
 男はぐぐっと握り拳を作る。
 
「ルシウスよ!ここにも悪徳領主がいるぞ!」
 空を見上げて、男は友の名を口走る。
 彼なら腐敗領主を断罪してくれるだろう。

 そこに近づいてくるだらしない足音。
「あー。繁盛してそうっスなー。今日は役者さんが舞台衣装で来てるんスかね?」
 暇があると領内を散策することが日課のクローリーが声を掛けた。
「なかなか派手なコスプレっスな。これは王様役っスか?それとも悪役?」
 クローリーは遠慮なく男をじろじろと観察した。
 生地も高級品らしく、ずいぶんと豪華な衣装だなと思った。
「これでお供がゾロゾロしてたら、大貴族といっても信じそうっス」
 へらへらと笑う。
 こういうところがクローリーの長所でも欠点でもあった。
 気さくとも言えるが無礼でもある。

「……なんだお前は?」
 男がクローリーを睨む。
 なかなかの迫力だが、シュラハトと長く付き合ってきたクローリーは平気だ。
「たいしたものじゃないっス。遊び人のクロちゃんとでも呼んでくれれば良いっス」
「クロだあ?」
「そっス。苦労人のクロさんでも可」

「あー。クロさん。丁度良いところに。実はこのお客が……」
 店主が縋るような眼でクローリーを見る。
「む?」
 クローリーは店主を見返す。
 男の手にある大金貨を見る。
「あー。なるほどっスー」
 クローリーは頷いた。

「屋台で大きなお金を出すと迷惑になるっスからな。銀行で両替すると良いっスよ」
 クローリーは男の肩をポンピンと気やすく叩く。
「大丈夫。手数料はゼロ……じゃあないスが、ちょぴりしかかからないっス」
 アレキサンダー男爵領銀行は両替手数料をほとんどとらない。
 男爵貨幣の流通を促進するためだ。
 手数料がタダではないというのは不良材質金貨の場合は交換比率が額面よりも割引になるからだった。

「なるほど。両替料で領主が儲けるシステムなのだな?」
「いやー。そこまでケチではないはずっスがねー」
 クローリーは笑ってみせた。
 きっと外から初めて男爵領に訪れた人なのだろうと解釈したのだ。
 

「ま、芋餅くらいなら来訪記念におごってやるっスよ。おっちゃん、芋餅2つー」
「へい。4枚で」
 クローリーが銅貨を4枚出す。
 男爵貨幣は陶器なので音が軽い。
 碁石のようなものだ。

「ううむ……」
 おごられた芋餅を渡された男は眉を顰めて唸った。
 納得がいかない顔だ。
  
「おやおや。外の方ですかネエ」
 2人の後ろからマーチスが現われた。
 彼はB級グルメが大好きなのでしばしば屋台巡りをしているのだった。
「帝国では芋がないので珍しいのでショウ」

「あー。いやー。なんか、ここのお金を初めて見たらしいんスよー」
 クローリーがバクりと芋餅を齧った。
 芋の甘味と調味料の塩味が良いバランスだった。
 男爵領では子供のおやつの定番になりつつある。

「ほう。それはそれは」
 マーチスが大仰に頷いた。
「では、お教えしまショウ」
 ちゃりちゃりと男爵貨幣を幾つか出して見せる。
「この金色のがレーニン。1レーニンは銀色のコイン……20スターリンですナ。1スターリンは10ゴルバチョフ銅貨で……」

「デタラメを教えるなー!」
 沙那がマーチスの背中に回し蹴りした。
「お、オウ!?」
「キュー!」
 ぺんぎんたちもぺんぎんソードを構えている。

「キミたちは外からのお客さんに失礼じゃないのかー?」
 沙那が仁王立ちで睨む。
「さにゃ……回し蹴りはぱんつ見せるっスよ?」
「見ようとしなければ見えないっ!」
「きゅー!」
 ぺんぎんたちがクローリーを成敗した。 

「こいつら……創造主に剣を向けるんスか……」
 ボコボコにされたクローリーが毒づく。
「きゅー!」
「この子たちはボクの味方だから!」
「きゅー!」

「……こやつら」
 男はわなわなと震えた。
「なんという破廉恥な格好なのだ!この娘は!?」
 怒りはそこに移っていた。
 確かに沙那の服装は一般的な帝国庶民とはかけ離れていた。
 材質こそ綿や麻のものだったが極端なミニスカ。
 脚を上げれば見えてしまうのは当たり前だ。
 階段ではバッグで隠すくらいの。
 普通は踝まで裾が伸びるスカートが常識の世界ではあまりにも異様だった。
 さらには子供のような姿に大きく揺れる胸。
 まさに破廉恥極まりない。

「はれんちー?ちがうよー!えろかわいいんだよー!」
 所詮は日本の女子中学生の感覚だ。
 否。すでに年齢的には高校生にはなってるはずなのだが、小柄な沙那は中学生で成長がストップしてるように見える。
 あと数年すればスカート自体を履かなくなるかもしれないが、今はまだ可愛さアピールを優先する10代少女なのだった。
 寒い冬でも頑張っちゃうくらいなのだ。
 それが若さ。

「ここはいったいどうなってるのだ!?」
 男は叫んだ。
 この地はあまりにも非常識だった。
 少なくとも彼が知る世界とはかけ離れていた。

「どうって……あちこち見て歩けばー?」
 沙那がお気楽に言った。
 あまり深く考えていないように見える。
 とはいえ百聞は一見に如かず。
 体験する方が手っ取り早いというのは彼女の経験からでもあった。
「ほら。クロちゃん。案内してあげなよー?寝てないで」

「……寝てるんじゃないっス……たった今、ボコられてましたが何か……?」
 クローリーが口を尖らせて起き上がる。
 沙那の過激なほどの暴力にはもう慣れっこだった。
「見て回るのは良いんスがねー」
 わざとらしく服に付いた埃をぽんぽんと払う。
「もちょっと発展してからの方が嬉しい気がするっス」

「では、ワタシもお付き合いしまショウ」
 腰を叩いてマーチスが背を伸ばす。
「ワタシはマーチス。あちらが遊び人なら、こちらは貧乏旗本の三男坊デス」 
 旗本って何だ?という周囲の反応を完全無視だった。
 良い翻訳がなかったからだったが、意訳するならさしずめ王宮騎士ロイヤル・ナイトとでもいうところか。
「で、アナタのお名前を伺いまショウ」

「俺か?俺はヴァーs……ヴァースとでも呼んでくれれば良い」
 男は……赤竜王ヴァーシキーの仮の姿だった。
 コンコード同様に人やエルフの姿を取れるのだった。
 かつてはこの姿で帝国を歩き回ったりもしたことがある。
 問題はそれが1000年も前のことなので服装や習慣が当時のままだったことかもしれない。
 帝国大金貨もその当時に貴族扱いだった名残だった。

「ほう。それは……」
「おおおおおおおー!」
 傍でダルマのようにかがみこんで芋餅を貪っていた賢者セージの絶叫だった。
 基本的に引きこもりの彼が外に出ることは珍しい。
 買い食いをしていたからだったが。
 他にも揚げた鶏肉やサンドイッチがあることから、かなりの大食漢であることが見てとれた。

「バースですとぉ!?偉大な英雄の名前ではありませんかー!?」
「は?」
 男……ヴァースが一瞬あっけにとられた。
「次があったら拙者も道頓堀に飛び込むでござるよ!」
「おお。タイガースでスナ?」
「卿もご存知か!関西では偉大な英雄でござるよ!」
 賢者セージの鼻息は荒かった。

「かっとばせー!バースっ!」
 賢者セージとマーチスが肩を組んで歌いだした。
 何やら気が合ったのかもしれない。
「ニューダイナマイト打線、爆発デス!」


「さにゃ。あれは何スか?そっちの英雄って?」
 あっけにとられクローリーが沙那に訊いた。
「……ごめん。知らない」
 なにぶんにも沙那の生まれる遥か前の出来事だ。
 沙那の親世代で辛うじて知っているかどうかだろう。
 ただ、沙那にも判るのは熱狂的なプロ野球ファンのおじさんたちがいることくらいだった。
 巨人が負けそうになるとテレビのスイッチを切ったり、鳴り物鳴らして反社のおじさんと酔っぱらいのおじさんたちが仲良く応援するということだ。


「ライトへレフトへホームラン~♪」
 野球を知らない人たちを置いてけぼりで、昭和のおじさん2人だけが盛り上がっていた。



●S-2:男爵領/中央広場

 一頻り領内を歩いたクローリーたちは温水の噴き出す噴水が設置された広場で休むことにした。
 近くの屋台で飲み物を……エールにするか少し迷ったが、フルーツのジュースを買ってきた。
 フルーツジュースといっても色んなものが入ったミックスジュースではなく、オレンジや葡萄のジュースだ。
 まだ沢山の果物を収穫できるほどにはなってないのだった。
 どちらも以前から手に入る果物というだけだった。
 沙那が希望しているパイナップルやバナナなどはまだまだ難しいらしい。
 暖かい地域の植物は温水を利用した実験が始まったばかりである。

「むー……温ーい」
 沙那がぶーたれる。
 飲み物は冷やしてあるものという感覚があるからだ。
「そういっても温めるようには簡単にいかないんスよ」
「だーかーらー。早く冷蔵庫作ってー!」
「……またそれっスか」
 クローリーが溜息を吐く。
「冷却の魔法はお金がかかるんスよ。そう容易くは……」

「理屈的には現状でも可能ではあるのデスが……手が足りまセン。人手の余裕がないのデス」
 マーチスが宥めてみた。 
 彼が言うのももっともだった。
 あまりにも多くのことを一気に進めているので、贅沢品は後回しになりやすい。
 当面はインフラ整備と食料確保が最優先なのだ。

「むー……やっぱり氷の精霊を友達にするしか」
「そりゃ無理っス」
「うー……」
 沙那が肩を落とす。
 無理もない。
 目指す氷の妖精の情報がないからだ。
 瞬間的にならクローリーも呼び出せるのだが、数秒間の召喚と引き換えにする構成要素マテリアル・コンポーネントが高価すぎた。
 気楽に呼び出せるようなものではない。

「おい……。この噴水……妖精の匂いがするぞ」
 ヴァースが訝し気にクローリーを見た。
「あー。それっスか」
 クローリーは頷いて返す。
「さにゃが温泉の妖精と仲良くなったんス。おかげでお湯には困らなくー……」
「温泉ちがーう!」
 イズミが沙那の髪の毛の中から飛び出して、クローリーを蹴った。
 残念なことに沙那とクローリーにしか見えなかったが。
 ヴァースにはもちろん見えた。

「な……おま……どういうことだ?」
 ヴァースが驚愕した。
 妖精と人間が仲良く共存?ありえない。
 意思疎通ですら困難であるはずだ。
 よほど選ばれた人間しか……。
 そう考えたところでクローリーと沙那を改めて見やる。
 特別な人間には見えない。
 が。

「そうか。異世界の旅人か」
 沙那の金属光沢を帯びたピンク色の髪に改めて気づいた。
 確かに普通の人間ではないのだろう。
「妖精の声が聞こえるのか」

「おや。ヴァースさんも魔術の心得がおありで?」 
 クローリーが訊いた。
 もちろん例外的に生れつき妖精が見える人も存在はするのだが、基本的に魔術の訓練をしていないと不可能なのだ。
「ああ。少しだけだが。見習いというか齧った程度だ」
 ヴァースは謙遜した。
 否定するよりも少しはできると言った方が後々怪しまれないためだった。

「お!」
「おお!?」
 クローリーとマーチスが互いに指さした。
 見つめ合ってにやりと笑う。
 とても悪い微笑みだった。

「やあ。それは良かったっス。どーっスか?バイトというか仕事してみないっスか?ちょっと魔法の技術者が欲しかったところなんス」
「……は?」
 これはヴァースの方が困惑した。
 出会ったばかりの相手に何を言い出すのだろう。この男は。
「魔術師なら見習いでも何でもオッケーなんス。なあに、魔法装置の起動をするだけの簡単なお仕事っス」 
「ええ。それで三食昼寝付き……とは言いませんが、高給優遇でスヨ」
 二人が食い入るようににじり寄った。
 ヴァースとあろうものがその迫力に押されかける。

「ほんと。こんな田舎だと魔術師の来手がなかなかいないんで。是非ともお願いしたいっス」
「……なんだ……と?」
「一応、王都にも募集かけたんスがねー。これがなかなか……」
「そんなに魔術師が少ないのか?」 
 ヴァース的には地方に魔術師がいても不思議はないという感覚だ。
 都市部より場所も素材も確保しやすいはずだと。

「あんまりいねーっスなー。来たがりもしねーっス」
 クローリーは両手を肩の高さに上げてみせた。 
「名を上げようって野心に燃えてる若手はなおさらっス」
「そうなのか」
 ヴァースは少し首を捻った。
 魔術師が研究のために田舎に引き籠るのは良くあることだという認識があったからだ。
 それとも1000年の時間を経て魔術師の考え方も変化したのだろうか。

「興味があるんならお願いしたいっス。住居も食事も用意するっス……給料は、応相談」
 普段は金払いの良いクローリーにしては慎重だ。
 歳出が増えすぎて男爵領の財政は火の車なのだ。
 ブラック雇用はする気はないが、抑えられる分は抑えたい。
「あ。ただ、一応は最初に起動できるかどうかのテストは受けてもらうっスよ?」



●S-3:男爵領/大工房

「動かして欲しいのはこれっス」
 クローリーがヴァースを案内したのは大工房だった。
 それも……ほぼ完成状態の飛行船だった。
「こいつの推進するための装置が魔法で動くヤツなんスが。上位魔術語じゃないと動かないんス」
「……おい。これは?」
「いったん起動しちまえば多少の制御は魔術の心得が無くても大丈夫なんスが、いざという時を考えたら魔術の使える機関士エンジニアが必要なんス」

「おい!」
 ヴァースが鋭くクローリーを睨みつけた。
「これはエルフの空船か!?」
「おや。ご存知で……?」
 これにはクローリーが驚いた。
 エルフの飛行船はクローリーとその仲間たちしか知らないものだ。
 帝国世界に知る者はいないはずだった。

「それは話が早いっスな!」
「ふざけるな!」
 ヴァースからすれば憎らしいエルフの船なのだ。
「エルフっていうか、パクったんですけどネエ」
 うひひひひとマーチスが笑う。
「便利なものは色々頂いてみまシタ」

「お前らは……これを使って戦争をするつもりなのだな!?」
「違うよー」
 沙那が言った。
「これはー郵便屋さんをするんだよー。手紙とか小さな荷物とか運ぶのー」
「……なんだと……?」
「ほらー。だからー。郵便屋さんな車輪のマークをでかでかと描いてるでしょー?」
 沙那が大きな胸を張って指さした。
 確かに飛行船の気嚢には大きな車輪の絵柄が描かれていた。

「……傍にぺんぎんの絵があるのはなんスか?」
 じろりとクローリーが沙那を見た。
「えへへー。犯人はボクー!」
 ぼよん。
「かわいいでしょ?宅配便は動物のマークだよー」
「確かに猫とか鳥とか有袋類とかあるでござるな」
 賢者セージも頷いた。
 どれも日本限定である。

「空を飛ぶことを可能にして、それで郵便だと?」
 ヴァースからすれば信じ難い。
 空を支配できれば戦争には圧倒的に有利なのだ。
 人族に基本的に不干渉を是とするエルフやドラゴンを除けば飛行魔獣くらいしか障害は無くなる。
「…………」
 飛行魔獣?
 ヴァースは何か気にかかった。
 空の支配者と言えばドラゴンか空島エルフの飛行船と決めつけていたのだが。
 彼らにすれば取るに足りないとはいえ飛行魔獣の存在もあったのだ。

「馬車や船じゃ時間がかかり過ぎる遠くへもひとっ飛びー!」
 沙那が手を水平に動かす。
「飛んでった先であとは個別に馬車とかで配送すればー便利でしょー?」
 にぱっと笑う。

「確かに航空郵便は有用だと思う」
 飛行船の暫定船長になるルシエが顔を出す。
「ただ、数がもうちょっと必要だとは思う。整備にいれたりローテーションを組むためにも10隻以上は稼働させたいな」
 ルシエからすれば海上交通の船も大量に必要な上に、飛行船もとなると乗員育成が急務であるが。
「練習用の船も必要だし。建造よりも教育の方に時間がかるけどね」

「船の名前はヤマトでござるな。空を飛ぶならそれしかないのでござるよ」
 賢者セージが腹を揺すって、ぶしゃぶしゃゃと笑う。
「それかマクロ……」
「だめえええええええ!かっこ悪ーい!」
 沙那が遮った。
「もっと可愛いのが良いー!ぺんぺん一号とかー」
「それはちょっと……」
 ルシエがいやいやをした。
 当面は彼女が乗る船なのだ。

「……何故、ペンギンなのだ?」
 ヴァースは困惑していた。
 周囲のノリについて行けてないのだ。
「お。ペンギンを知ってるんスか?」
「……飛べない鳥だろう?水中は速いようだが」
「すげ!オレも知らなかったのに、ヴァースさんすげーっスな!」
 クローリーは素直に驚いた。
 仲間内でも知っていたのは世界中の海を渡り歩いたルシエくらいのものなのだ。
 「水族館の定番ですがネエ」
 マーチスが突っ込み、賢者セージが頷いたが。

「ということでヴァースさん、頼みたいっス!その博識にも惚れたっス」
「いや……お前ら。待て」
 ヴァースが後退る。
 何か危険を感じてしまう。
 この空気は何かおかしい。
「ささ。この起動ワードがっスな……」
「おい。待てよ」



 少し後。
 ヴァースはめでたく飛行船の機関士になったのだった。


「お前たちは……いったい?」  
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