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雨の日の思い出
五話
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果実のような胸を揉みしだく度、ひやりとする感覚に私は目を瞑った。ただ、これ以上触られると悪魔のような得体のしれないへんな気に支配されそうで、怖かった。必死に手足をばたつかせて抵抗した。
「やだって」
強引に引きはがすと、今にも泣きそうな寂しい顔をする。
…さっきまでおさえこんでいた恋心が、津波のように押し寄せてきた。耐えられなかった。私を捨てたくせに、惜しみなくどこかへ消えたくせに。なぜ彼が、私より傷ついた顔をするのか不思議てたまらなかった。
「馬鹿。もう、もどれないっていうのに。なによ、今更。私はもうあなたのものじゃないっていうのに」
耳がいたくなるような、悲鳴に近い声を荒げた。彼がか細く、ただ一言ごめんともらした。弱々しくて女々しい男のようだった。昔好きだった強い彼は、もういない。光り輝いていた彼はくすんだ顔色をしていて、同い年だというのに、三十半ばにも見える汚らしい男だった。
それなのに、愛おしかった。
もう、あの彼はいないのに、情愛がからみついて私を囚われさせる。もう、あんな恋はごめんだ。あんな、しつこい執着に私はもう騙されたくない。きっと、彼も旦那も同じようなものだろうが、今の安定が壊されるようなことはしたくなかった。
締め付けられるような恋は、もう、しない。両手には安定しているあたたかい家庭が、あふれんばかりの愛がある。それを捨てろなんて、またひとりに戻るなんて無理な話だ。
今にも泣きそうな顔。良い年した大人の、みっともない顔。十年前はぜったいに見ることのなかった顔。どんなときだって、あの悪魔のような男から私をまもってくれたのに。
「やだって」
強引に引きはがすと、今にも泣きそうな寂しい顔をする。
…さっきまでおさえこんでいた恋心が、津波のように押し寄せてきた。耐えられなかった。私を捨てたくせに、惜しみなくどこかへ消えたくせに。なぜ彼が、私より傷ついた顔をするのか不思議てたまらなかった。
「馬鹿。もう、もどれないっていうのに。なによ、今更。私はもうあなたのものじゃないっていうのに」
耳がいたくなるような、悲鳴に近い声を荒げた。彼がか細く、ただ一言ごめんともらした。弱々しくて女々しい男のようだった。昔好きだった強い彼は、もういない。光り輝いていた彼はくすんだ顔色をしていて、同い年だというのに、三十半ばにも見える汚らしい男だった。
それなのに、愛おしかった。
もう、あの彼はいないのに、情愛がからみついて私を囚われさせる。もう、あんな恋はごめんだ。あんな、しつこい執着に私はもう騙されたくない。きっと、彼も旦那も同じようなものだろうが、今の安定が壊されるようなことはしたくなかった。
締め付けられるような恋は、もう、しない。両手には安定しているあたたかい家庭が、あふれんばかりの愛がある。それを捨てろなんて、またひとりに戻るなんて無理な話だ。
今にも泣きそうな顔。良い年した大人の、みっともない顔。十年前はぜったいに見ることのなかった顔。どんなときだって、あの悪魔のような男から私をまもってくれたのに。
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