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ACT2-3
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「私ね、18の頃に就職で東京に出てきてね・・・それまでずっと田舎で暮らしてた。
だから今も、新宿のネオンは苦手」
「このネオンの街で生きてるのに・・・ネオンが苦手か・・・
でも俺も、新宿のネオンは苦手だな・・・ギラギラしてて野暮ったい」
「よくわかるわ、その気持ち」
「・・・なのにどうして、クラブでなんか働いてるんですか?」
俺がそう聞くと、会員制高級クラブ『輝夜』のホステス美麗は、カクテルグラスのふちについた口紅を綺麗な指先でなぞりながら、ゆったりとした口調で言った。
「ああいうお店で働いたら・・・綺麗になれるかな、って思って」
「え?美麗さんはもう十分綺麗じゃないですか?」
「うふふ・・・・わかってないわ、あなた」
不意に妖しく色っぽく口角を上げた美麗は、再びゆっくりと俺の顔を振り返った。
「どうしても綺麗になりたかったの、私。
上京してすぐの頃、私、好きな人ができてね・・・
でも、私、全然綺麗じゃなくて、顔もスタイルもコンプレックスばかり・・・
自分なりに一所懸命おしゃれをして、その人に好きになってもらおうとしたけど・・・」
「もらおうとしたけど・・・?」
「好きになってくれた・・・と思ったけど、それは私の勘違いだった」
「どういうこと?」
俺がそう聞き返すと、美麗はふと視線を天井のシャンデリアに移して、そこから、カクテルグラスに残った赤い色をした酒に落とす。
「あの時彼は大学生で、私より二つ年上だった。
出逢ったのは偶然よ・・・就職活動をしていた彼が、たまたま私が勤めていた会社の説明会にきてたの」
「・・・・・」
「もう10年も前の話よ。
あの時、彼は、仕事で失敗して叱られて、こっそり非常階段で泣いてた私に声をかけてくれたの」
「・・・非常階段で泣いて、た・・・?」
あれ?と俺は思った。
そんな話をどこかで聞いたことがある・・・いや、違う。
聞いたんじゃなくて、体験したことがあるような気がする・・・・俺が、俺自身がだ。
だけど、俺の記憶の中にはやはりこんな綺麗な女の姿は浮かんでこないのだ。
美麗は、口角だけをあげて、再び、俺の顔を大きな瞳で見つめ返してきた。
「どうしたの?大丈夫って・・・彼は私に聞いてくれた。
そのあと、家の電話番号を教えてくれた・・・
だから、その日の夕方に、勇気を出して電話をしたの」
「・・・そしたら?」
「ちょうど帰宅したところだったみたいで、彼ちゃんと電話に出てくれたわ。
それから会うことになって、食事をして・・・それから」
「それから?」
なんとなくどきっとして、俺は思わずそう聞き返した。
「うふふ」
どんなに記憶の糸をたどっても、やはり、俺の記憶の中には、こんな綺麗な女はいなかった。
俺は、水割りを一口飲んで小さくため息をつくと、片手で頬杖をついて言った。
「俺の知ってる田舎娘は、あなたのような美人じゃなかった」
「・・・・・」
「俺も昔、非常階段で泣いてた女の子に声かけたことがあったような気がするんだけど…
シチュエーションが偶然似てただけで、多分別人だ。
だってあの女、あなたとはまるで正反対で、びっくりするほどブスだったから」
俺はそう言ってグラスの水割りを飲み干すと、マスターにもう一杯同じものを頼んでから、言葉を続けた。
だから今も、新宿のネオンは苦手」
「このネオンの街で生きてるのに・・・ネオンが苦手か・・・
でも俺も、新宿のネオンは苦手だな・・・ギラギラしてて野暮ったい」
「よくわかるわ、その気持ち」
「・・・なのにどうして、クラブでなんか働いてるんですか?」
俺がそう聞くと、会員制高級クラブ『輝夜』のホステス美麗は、カクテルグラスのふちについた口紅を綺麗な指先でなぞりながら、ゆったりとした口調で言った。
「ああいうお店で働いたら・・・綺麗になれるかな、って思って」
「え?美麗さんはもう十分綺麗じゃないですか?」
「うふふ・・・・わかってないわ、あなた」
不意に妖しく色っぽく口角を上げた美麗は、再びゆっくりと俺の顔を振り返った。
「どうしても綺麗になりたかったの、私。
上京してすぐの頃、私、好きな人ができてね・・・
でも、私、全然綺麗じゃなくて、顔もスタイルもコンプレックスばかり・・・
自分なりに一所懸命おしゃれをして、その人に好きになってもらおうとしたけど・・・」
「もらおうとしたけど・・・?」
「好きになってくれた・・・と思ったけど、それは私の勘違いだった」
「どういうこと?」
俺がそう聞き返すと、美麗はふと視線を天井のシャンデリアに移して、そこから、カクテルグラスに残った赤い色をした酒に落とす。
「あの時彼は大学生で、私より二つ年上だった。
出逢ったのは偶然よ・・・就職活動をしていた彼が、たまたま私が勤めていた会社の説明会にきてたの」
「・・・・・」
「もう10年も前の話よ。
あの時、彼は、仕事で失敗して叱られて、こっそり非常階段で泣いてた私に声をかけてくれたの」
「・・・非常階段で泣いて、た・・・?」
あれ?と俺は思った。
そんな話をどこかで聞いたことがある・・・いや、違う。
聞いたんじゃなくて、体験したことがあるような気がする・・・・俺が、俺自身がだ。
だけど、俺の記憶の中にはやはりこんな綺麗な女の姿は浮かんでこないのだ。
美麗は、口角だけをあげて、再び、俺の顔を大きな瞳で見つめ返してきた。
「どうしたの?大丈夫って・・・彼は私に聞いてくれた。
そのあと、家の電話番号を教えてくれた・・・
だから、その日の夕方に、勇気を出して電話をしたの」
「・・・そしたら?」
「ちょうど帰宅したところだったみたいで、彼ちゃんと電話に出てくれたわ。
それから会うことになって、食事をして・・・それから」
「それから?」
なんとなくどきっとして、俺は思わずそう聞き返した。
「うふふ」
どんなに記憶の糸をたどっても、やはり、俺の記憶の中には、こんな綺麗な女はいなかった。
俺は、水割りを一口飲んで小さくため息をつくと、片手で頬杖をついて言った。
「俺の知ってる田舎娘は、あなたのような美人じゃなかった」
「・・・・・」
「俺も昔、非常階段で泣いてた女の子に声かけたことがあったような気がするんだけど…
シチュエーションが偶然似てただけで、多分別人だ。
だってあの女、あなたとはまるで正反対で、びっくりするほどブスだったから」
俺はそう言ってグラスの水割りを飲み干すと、マスターにもう一杯同じものを頼んでから、言葉を続けた。
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