君は私の心を揺らす〜SilkBlue〜【L】

坂田 零

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【20、和解】

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 秋も終わりかけた頃、思ったより寒くて私は、彼の車の助手席で震えていた。
 もう、電話もでてくれないかと思ってたけど、彼は電話に出てくれた。  
 待ち合わせた、彼のバイト先近くの公園で、私は一週間ぶりに彼に再会した。
 
 彼はちょっと呆れたように、ちょっと怒ったように、ハンドルに凭れたまま私に言った。

「なんでそんなカッコで来たの?
絶対寒いよな…それ」

「外、こんなに寒いとは思わなかったの…それに、急いで来たから…」

 私はうつむいて、サンダルのままの爪先を見つめながら、言葉を探して、やっとそれを口にした。

 「何から話そうか…?
樹くんに会うの久しぶりな気がして、なんか緊張する…
あ!そう言えば、髪の色、黒くしたんだね?
それも似合うよ!」 

  私はついそんなことを言って、樹くんの顔を覗き込むけど、彼はどことなく冷たい表情のままだった。
 
 「………話したいことって、それ?」   

「違う……ごめん……」

「いや、大丈夫…」

 彼は、やけに冷静にそう言って、フロントガラスの向こうを見たまま、私を見ない。
 私の中の悲しみと寂しさと不安は、ますます降り積もるばかりだった。

 「里佳子さんとこうなって、一週間ずっと会わないとか、なかったよな…ここんとこずっと」

 彼がそう言ったから、私は、素直に答える。
 
 「そうだね………あたし…」

 「うん」

 「寂しかったよ……」

 「………」

 「あのね……」

 「うん」

 「先週、ファミレスで会ったじゃない?信ちゃんがいたときに…」

 「うん…」

 「ミキちゃんと樹くんがいるのわかってさ…
でも、なんか、二人とも楽しそうで……
あたし………」

「……うん」

「ヤキモチ妬いたの、あの日……」

 私のその言葉に、樹くんは驚いた表情をすると、そこで初めて私の方を向いた。

「…………っ!?」


 私は、うつむいたまま言葉を続けた。

「あたしは、こんな立場だし…
 樹くんに、こーしないであーしないでって、言えないなって……
  あたし、自分でヤキモチなんか妬くタイプじゃないと思ってたから……
 どうしたらいいのか、わからなくなっちゃって……
 そしたら、今日、ミキちゃんに牽制されてしまって、ますますどうしたらいいか、わからなくなっちゃった」

 色んな感情がごちゃ混ぜになって、私は、変な笑い方をしてしまう。
 樹くんはそんな私の顔を見つめると、不思議そうに聞いてきた。

「ミキに牽制されたって…なにを?」

「言ったじゃない、女って怖いんだよって?
 ミキちゃんが樹くんのこと気に入ってたの、私は知ってたよ
 だからあの子、あたしと樹くんが、こんな風になってるの薄々感じてたんだよ、きっと…
 あの子、あの日、樹くんのとこ泊まったんでしょ?
 そう、言ってたよ……」

「あぁ………うん、まぁ……」

「でもねあたし、どんなにヤキモチ妬いてもね…
 もうそんなことやめてって、樹くんに言えない…
 だって…」

 そこまで言ってたら、私はもう、気持ちが抑えられなくなって。
 ほんとはお別れを言いにきたはずなのに、別れの言葉なんか言い出せなくなって、気付いたら、寒さではなく体がぶるぶると震えてた。
 そんな私の顔を、困ったように彼が見つめている。

「里佳子さん……?」

「だってあの日は、あたしも同じことしてたもん…っ
 信ちゃんのことは拒否できない。
 でも、ずっと樹くんと比べてた自分が嫌だった…っ
 あの日、樹くんがミキちゃんとそんなことしてたとしても、あたし、樹くんを責めることなんかできない…っ」

 私は必死に泣くのを堪えてた。
 彼が、今何を思って、この時点で私をどう思ってるのか、私は怖くてそれを聞くことができなかった。
 そんな私の耳に、彼の切なそうな声色が響く。
 
 「ごめん………」

 私は、ゆっくり彼を振り返る。
 彼は、何に対して謝ってくれたんだろう…?
 まじまじと、少し大人びて見える彼の顔を見つめた時、彼の腕がふわっと私を抱き寄せた。

 その瞬間。
 私の中で何かが事切れた。

 こうして欲しかった…
 別れたいんじゃない…
 あたしはただ、こうして安心させて欲しかっただけ…
 なんて嫌な女だろう、私…
 でも、やっぱり私は、彼が好き…

私は、思い切り彼の胸に抱きついて、別れを切り出す代わりに、声を殺して泣くしかなかった。

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