12 / 88
第1章:黒髪の少女
第11話
しおりを挟む
「今日は、魔法についてお話します。」
翌日。再び書庫を訪れた私の前に、ビオレータが座っている。昨日に引き続き、彼女の勉強会が始まった。
「まず、魔法は6種類の属性に分類されます。昨日お話した、精霊の数だけ属性が存在するのですが…覚えていますか?」
「…ちすいかふー。」
「地水火風と光闇です。あなたはシトリンアイなので、光属性と言う事になります。」
「…しとりあい?」
「シトリンアイとは、黄色の瞳の事を言います。その人が何の属性を宿しているか、瞳の色で判断する事が出来るんです。ちなみにシトリンと言うのは、鉱石の名前ですね。」
「…ユオアス赤い。」
「ユオダスさんは、ルビーアイですね。火属性魔法を扱う事が出来ます。」
「…ビズは青。」
「ヴィーズさんは…青と言うより、水色ですね。水と光の2つの属性を宿しています。」
「…ぞくせー2つ?」
「彼以外だと…ルスケアさんは紫色のアメジストアイなので、水と火。アルトゥンさんは桃色のコーラルアイなので、火と光。ローゼさんは黄緑色のペリドットアイなので、地と風です。」
「…グイとジガは?」
「グリさんは茶色なのでアンバーアイ...地属性だけですね。ジンガさんは緑色なのでエメラルドアイ...風属性です。」
「…闇は?」
「闇属性は、魔族にしか使えません。逆に、魔族は光属性を宿す事が出来ません。」
「…分かった。」
「他に質問はありますか?」
彼女の問いに、昨日は家族の話を聞けなかった事が頭をよぎる。しかし私は、あえてそれを口に出さなかった。
「…無い。」
「飲み込みが早くて助かります。では、実際に使って見ましょう。」
「…まほー?」
「そうです。俺が今から怪我をするので治療して下さい。」
訳がわからず首を傾げていると、彼女は机の上に置かれていた小さな剣を手に取った。それを反対側の手の平に乗せ、剣を握りしめる。
「っ…!」
彼女の表情は歪み、剣を握りしめた手から赤い液体が溢れ出す。
「治癒魔法をお願いします。」
「…分かった。」
私は彼女の手を両手で包み込み、目を閉じた。手元に意識を集中させると、手がじんわりと温かくなる。
「も、もう大丈夫です!」
ビオレータの声が聞こえ、私はゆっくりと目を開く。すると、こちらを見つめる彼女と目が合った。
「正直、半信半疑でしたが…本当に魔法が使えるのですね。それに、髪も青く…」
彼女の話の途中で、私は机に顔を突っ伏した。
「ど、どうしましたか!?」
「…ね、むい…。」
「魔力を消耗したせいでしょうか…。直ぐに魔力供給しましょう。」
すると彼女は右の手で左手を、左の手で右手を握った。彼女の体温が、手を通して伝わってくる。
「…まりょく…きょーきゅー?」
「魔力を持つ他の人に、魔力を分けてもらう事です。先日あなたが初めて魔法を使った時に、ヴィーズさんが部屋に駆けつけたと聞きましたが?」
そこで私は、ヴィーズの腕の中で目覚めた時の事を思い出す。直前に治癒魔法を使い、気を失って部屋に運ばれた私は、気が付いた時には彼に抱きしめられて居たのだ。
「…ビズと身体、くっつけた。」
「え?抱き合ったという事ですか?」
「…うん。」
「肌が触れれば良いので、そこまでやる必要はないのですが…。まぁ、彼もあなたの事が心配だったのでしょうね。」
「…ビオレタはしない?」
「しません。する必要が無いですから。」
「…分かった。」
話をしている間に、すっかり元通りになった私を見て、彼女は手を離した。
「あなたの魔力は、少々特殊ですね。」
「…特殊?」
「全体量は少ないので、魔法を使ったらすぐに魔力切れしてしまいますが…その分、回復も早いようです。」
「…回復早い?」
「ヴィーズさんやルスケアさんは、魔力量が多くて長時間魔法を扱っても倒れる事はほぼ無いですが…その分、回復には時間がかかります。あなたはそれの、逆ということです。」
「…すぐ無くなって、すぐ戻る?」
「そうです。」
「…ビオレタは?」
「俺は…。」
私は、彼女自身に質問を投げかける。彼女は一瞬、言葉を躊躇った。
「…残念ですが、魔法を扱う事が出来ません。魔力は、それなりにあるようですが…。」
「…きょーきゅー、出来るのに?」
「魔力があるからといって、絶対に魔法が扱えるとも限らないんです。魔法を使うには、集中力と想像力が必要とされます。俺はそれを、上手く使いこなせないんです。」
「…魔力あるけど使えない…分かった。」
「今日はこれくらいにしておきましょう。気分転換に、建物内を散歩してみてはどうですか?ただし、あまり遠くへは行かないで下さい。」
「…分かった。」
彼女に散歩するよう促され、私は部屋を出て廊下を歩き出す。なんだか今日は、建物の中がやけに静かだった。
中庭から聞こえてくる騎士の声も、ご飯を食べる動物の声も、料理の音も聞こえてこない。感じるのは、微かな物音と窓から吹き込む風の音だけだった。
ふと、窓の外に人影が見えたような気がして、窓の外を覗き込んだ。中庭に生い茂る緑の地面に横渡る、グリの姿が見える。私は大きな扉を開けて、建物の外へ出た。
「…グイ。」
彼の名前を呼ぶが、返事は無い。私は彼の側に駆け寄り、その場に座り込んだ。どうやら彼は寝ているらしく、寝息を立てている。
暖かな陽の光と心地よい風が彼を眠りに誘ったのだろう。私は心地よさそうに眠る彼を見て、隣に横たわった。
「…ぇ。…てよ。」
女性の声が聞こえ、ゆっくり瞼を開く。すると、私の身体に手を添えるローゼの姿があった。
「…ロゼ?」
「こんな時間に寝てるなんて珍しいね。よっぽど勉強が大変だったの?」
身体を起こして辺りを見回すと、いつの間にか自室で眠っていたらしい。中庭でグリを見つけ、横になった所までは覚えているのだが、その後の事は全く覚えていない。
「…グイは?」
「グリさん?多分調理場だと思うけど?もう少ししたら夕飯の時間だし。」
気が付けば、窓の外から橙色の光が差し込んでいた。日が沈み始め、夜が近付いている証拠だ。
「それはそうと、起きたなら一緒に来てくれる?」
彼女と共に廊下を歩き、階段を降りていく。どうやら彼女は、風呂場の方へと向かっているようだ。
「…お風呂?」
「終わったらね。」
言葉の意味が分からずに首を傾げていると、同じように風呂場へ向かうビオレータの後ろ姿を見つけた。彼女の姿を書庫以外で見るのは、これが初めてかもしれない。
「…ビオレタ。」
「あ、ビオレータさーん。」
ローゼは手を振りながら、彼女の元へ駆け寄った。後に続き、私も小走りで駆け寄る。
「アスールさんを呼びに行ったと聞いていましたが、思ったより早かったですね。」
「仕事で忙しい中ごめんね?こんな機会滅多にないからさー。」
「構いません。俺もそろそろ頼みたいと思っていた所なので…助かります。」
話をしながら、彼女達は風呂場の扉を開いた。
「…ビオレタとロゼ、お風呂?」
「終わったらって言ったでしょー?まずは散髪!」
「…散髪?」
「髪の毛を切るんですよ。ローゼさんは手先が器用なので、いつも彼にお願いしています。」
「ビオレータさんは髪の毛が伸びるの早いから、放っておくととんでもない事になるからね…。」
「…ビオレタ髪切る。その後お風呂?」
「アスールもね?2人一緒にやっちゃうから、そこの椅子に座ってて。」
鏡の前に置かれた椅子へ座るように言われ、腰を下ろした。すると、隣の椅子に座ったビオレータが、白い布を私に差し出す。
「これを首に巻いてください。」
布を受け取り、ぐるぐると首に巻き付ける。
「それでは苦しくありませんか…?」
彼女は私の方を向き、首元に手を伸ばした。布を解き、肩から首を覆い尽くすように布を巻き直す。
「髪を切ると、首元から髪の毛が入って痒くなるので、こうしてタオルを巻くんです。」
「お。準備バッチリだね。それじゃあ始めるよー。」
ローゼは私の背後に立つと、髪を櫛でとかし始めた。しばらくとかして櫛をハサミに持ち替え、髪の毛を握りしめる。ハサミによって切り取られた髪の毛が、床に散らばっていった。
「初めて見た時から思ってたけど、ほんと2人の髪質って似てるよねぇ。」
「そうなのですか?」
「うん。固くてしっかりしてて、毛量が多いし。くせっ毛だから絡まってるし。瞳の色も同じだから…もしかしたら兄妹だったりして?」
「兄妹にしては、歳が離れすぎていますよ。彼女の年齢は確かめようがありませんが…俺は今年で28ですし。流石にアスールさんが20代な訳ないでしょう?」
「そりゃそうだよねー。瞳の色が同じでも、血が繋がってるとは限らないし。」
彼女はハサミから櫛に持ち替え、隣に座るビオレータの後ろへ歩み寄った。
「もういいのですか?あまり短くはしないのですね。」
「まぁ、女の子だしね。少し長めの方が可愛いかと思って。」
「可愛いかどうかはよく分かりませんが…。ローゼさんがそう言うなら間違い無いのでしょう。」
彼女がハサミを握る度に、ビオレータの紫髪がハラハラと舞い落ちる。彼女の長い髪が、みるみるうちに短くなっていく。
「…ビオレタ短くする?」
「うん。さっきも言ったけど、伸びるの早いからねー。」
「…可愛い…じゃない。」
「俺は男ですから、可愛くする必要はありません。」
「…男?」
首を傾げると、彼女は頭を動かさずに目線だけを私の方に向けた。
「え?女だと思っていたんですか?」
「…ロゼは女?」
「はぁ!?僕のどこが女なの!?どう見ても男でしょ!?」
彼女は声を荒らげながら、ハサミを持つ手を振りあげた。
「あ、危ないですよ!?振り回さないで下さい!」
「ご、ごめん…。…まさかとは思うけど、僕とビオレータさんに触れたのは、女だと思ってたからなの?」
私は首を縦に振った。すると、ローゼは前髪をかきあげ、頭を抱えた。
「言っておきますが…俺もローゼさんも男ですし、グリさんもルスケアさんも男です。というより…ここに住んでいる人は、あなた以外の全員が男ですよ。」
「…知らなかった。」
「ちょっと待って...。髪の長さで、女だって勘違いしてたのはわかるよ?でも、グリさんとルスケアさんは短いのに何で?」
「…グイ、ご飯の匂い。ルスキャ、甘い匂い。」
「彼等の場合は、男性への恐怖より…食欲の方が勝ったんでしょうね…。」
「でもなんか…納得かも。」
ビオレータの散髪を終え、私はそのまま彼とお風呂へ入る事になった。髪の毛の量が減り、洗う時間も短くなる。手早く身体を洗い終え、彼と共にお湯に浸かった。
「サッパリして良かったですね。」
「…ビオレタ、後ろ短いのに前長い…何で?」
「強い光が苦手なんです。前髪が長いと陽の光を遮る事が出来るので、短くしたくないんですよ。」
彼の顔を見て、私は再びあの疑問が頭に浮かんだ。
「…家族は?」
「…またその話ですか?」
「…今は勉強してない。」
「特に面白い話は何もありませんよ。兄弟はいませんし、両親も死にました。俺の家族は、1人もいません。」
「…何でここ居る?」
「ここへ来た理由なんてありませんよ。王様に推薦されたので、ここで働いているというだけです。」
「…おーさまに推薦?」
「このビエント王国を治めている、1番偉い人です。我々騎士団を結成したのも王様ですし、任務や警備の仕事も王様の命令によるものがほとんどです。」
「…おーさま偉い。」
「もういいですか?そろそろ出ましょう。あまり長風呂していると、ローゼさんが心配するかもしれません。」
「…分かった。」
翌日。再び書庫を訪れた私の前に、ビオレータが座っている。昨日に引き続き、彼女の勉強会が始まった。
「まず、魔法は6種類の属性に分類されます。昨日お話した、精霊の数だけ属性が存在するのですが…覚えていますか?」
「…ちすいかふー。」
「地水火風と光闇です。あなたはシトリンアイなので、光属性と言う事になります。」
「…しとりあい?」
「シトリンアイとは、黄色の瞳の事を言います。その人が何の属性を宿しているか、瞳の色で判断する事が出来るんです。ちなみにシトリンと言うのは、鉱石の名前ですね。」
「…ユオアス赤い。」
「ユオダスさんは、ルビーアイですね。火属性魔法を扱う事が出来ます。」
「…ビズは青。」
「ヴィーズさんは…青と言うより、水色ですね。水と光の2つの属性を宿しています。」
「…ぞくせー2つ?」
「彼以外だと…ルスケアさんは紫色のアメジストアイなので、水と火。アルトゥンさんは桃色のコーラルアイなので、火と光。ローゼさんは黄緑色のペリドットアイなので、地と風です。」
「…グイとジガは?」
「グリさんは茶色なのでアンバーアイ...地属性だけですね。ジンガさんは緑色なのでエメラルドアイ...風属性です。」
「…闇は?」
「闇属性は、魔族にしか使えません。逆に、魔族は光属性を宿す事が出来ません。」
「…分かった。」
「他に質問はありますか?」
彼女の問いに、昨日は家族の話を聞けなかった事が頭をよぎる。しかし私は、あえてそれを口に出さなかった。
「…無い。」
「飲み込みが早くて助かります。では、実際に使って見ましょう。」
「…まほー?」
「そうです。俺が今から怪我をするので治療して下さい。」
訳がわからず首を傾げていると、彼女は机の上に置かれていた小さな剣を手に取った。それを反対側の手の平に乗せ、剣を握りしめる。
「っ…!」
彼女の表情は歪み、剣を握りしめた手から赤い液体が溢れ出す。
「治癒魔法をお願いします。」
「…分かった。」
私は彼女の手を両手で包み込み、目を閉じた。手元に意識を集中させると、手がじんわりと温かくなる。
「も、もう大丈夫です!」
ビオレータの声が聞こえ、私はゆっくりと目を開く。すると、こちらを見つめる彼女と目が合った。
「正直、半信半疑でしたが…本当に魔法が使えるのですね。それに、髪も青く…」
彼女の話の途中で、私は机に顔を突っ伏した。
「ど、どうしましたか!?」
「…ね、むい…。」
「魔力を消耗したせいでしょうか…。直ぐに魔力供給しましょう。」
すると彼女は右の手で左手を、左の手で右手を握った。彼女の体温が、手を通して伝わってくる。
「…まりょく…きょーきゅー?」
「魔力を持つ他の人に、魔力を分けてもらう事です。先日あなたが初めて魔法を使った時に、ヴィーズさんが部屋に駆けつけたと聞きましたが?」
そこで私は、ヴィーズの腕の中で目覚めた時の事を思い出す。直前に治癒魔法を使い、気を失って部屋に運ばれた私は、気が付いた時には彼に抱きしめられて居たのだ。
「…ビズと身体、くっつけた。」
「え?抱き合ったという事ですか?」
「…うん。」
「肌が触れれば良いので、そこまでやる必要はないのですが…。まぁ、彼もあなたの事が心配だったのでしょうね。」
「…ビオレタはしない?」
「しません。する必要が無いですから。」
「…分かった。」
話をしている間に、すっかり元通りになった私を見て、彼女は手を離した。
「あなたの魔力は、少々特殊ですね。」
「…特殊?」
「全体量は少ないので、魔法を使ったらすぐに魔力切れしてしまいますが…その分、回復も早いようです。」
「…回復早い?」
「ヴィーズさんやルスケアさんは、魔力量が多くて長時間魔法を扱っても倒れる事はほぼ無いですが…その分、回復には時間がかかります。あなたはそれの、逆ということです。」
「…すぐ無くなって、すぐ戻る?」
「そうです。」
「…ビオレタは?」
「俺は…。」
私は、彼女自身に質問を投げかける。彼女は一瞬、言葉を躊躇った。
「…残念ですが、魔法を扱う事が出来ません。魔力は、それなりにあるようですが…。」
「…きょーきゅー、出来るのに?」
「魔力があるからといって、絶対に魔法が扱えるとも限らないんです。魔法を使うには、集中力と想像力が必要とされます。俺はそれを、上手く使いこなせないんです。」
「…魔力あるけど使えない…分かった。」
「今日はこれくらいにしておきましょう。気分転換に、建物内を散歩してみてはどうですか?ただし、あまり遠くへは行かないで下さい。」
「…分かった。」
彼女に散歩するよう促され、私は部屋を出て廊下を歩き出す。なんだか今日は、建物の中がやけに静かだった。
中庭から聞こえてくる騎士の声も、ご飯を食べる動物の声も、料理の音も聞こえてこない。感じるのは、微かな物音と窓から吹き込む風の音だけだった。
ふと、窓の外に人影が見えたような気がして、窓の外を覗き込んだ。中庭に生い茂る緑の地面に横渡る、グリの姿が見える。私は大きな扉を開けて、建物の外へ出た。
「…グイ。」
彼の名前を呼ぶが、返事は無い。私は彼の側に駆け寄り、その場に座り込んだ。どうやら彼は寝ているらしく、寝息を立てている。
暖かな陽の光と心地よい風が彼を眠りに誘ったのだろう。私は心地よさそうに眠る彼を見て、隣に横たわった。
「…ぇ。…てよ。」
女性の声が聞こえ、ゆっくり瞼を開く。すると、私の身体に手を添えるローゼの姿があった。
「…ロゼ?」
「こんな時間に寝てるなんて珍しいね。よっぽど勉強が大変だったの?」
身体を起こして辺りを見回すと、いつの間にか自室で眠っていたらしい。中庭でグリを見つけ、横になった所までは覚えているのだが、その後の事は全く覚えていない。
「…グイは?」
「グリさん?多分調理場だと思うけど?もう少ししたら夕飯の時間だし。」
気が付けば、窓の外から橙色の光が差し込んでいた。日が沈み始め、夜が近付いている証拠だ。
「それはそうと、起きたなら一緒に来てくれる?」
彼女と共に廊下を歩き、階段を降りていく。どうやら彼女は、風呂場の方へと向かっているようだ。
「…お風呂?」
「終わったらね。」
言葉の意味が分からずに首を傾げていると、同じように風呂場へ向かうビオレータの後ろ姿を見つけた。彼女の姿を書庫以外で見るのは、これが初めてかもしれない。
「…ビオレタ。」
「あ、ビオレータさーん。」
ローゼは手を振りながら、彼女の元へ駆け寄った。後に続き、私も小走りで駆け寄る。
「アスールさんを呼びに行ったと聞いていましたが、思ったより早かったですね。」
「仕事で忙しい中ごめんね?こんな機会滅多にないからさー。」
「構いません。俺もそろそろ頼みたいと思っていた所なので…助かります。」
話をしながら、彼女達は風呂場の扉を開いた。
「…ビオレタとロゼ、お風呂?」
「終わったらって言ったでしょー?まずは散髪!」
「…散髪?」
「髪の毛を切るんですよ。ローゼさんは手先が器用なので、いつも彼にお願いしています。」
「ビオレータさんは髪の毛が伸びるの早いから、放っておくととんでもない事になるからね…。」
「…ビオレタ髪切る。その後お風呂?」
「アスールもね?2人一緒にやっちゃうから、そこの椅子に座ってて。」
鏡の前に置かれた椅子へ座るように言われ、腰を下ろした。すると、隣の椅子に座ったビオレータが、白い布を私に差し出す。
「これを首に巻いてください。」
布を受け取り、ぐるぐると首に巻き付ける。
「それでは苦しくありませんか…?」
彼女は私の方を向き、首元に手を伸ばした。布を解き、肩から首を覆い尽くすように布を巻き直す。
「髪を切ると、首元から髪の毛が入って痒くなるので、こうしてタオルを巻くんです。」
「お。準備バッチリだね。それじゃあ始めるよー。」
ローゼは私の背後に立つと、髪を櫛でとかし始めた。しばらくとかして櫛をハサミに持ち替え、髪の毛を握りしめる。ハサミによって切り取られた髪の毛が、床に散らばっていった。
「初めて見た時から思ってたけど、ほんと2人の髪質って似てるよねぇ。」
「そうなのですか?」
「うん。固くてしっかりしてて、毛量が多いし。くせっ毛だから絡まってるし。瞳の色も同じだから…もしかしたら兄妹だったりして?」
「兄妹にしては、歳が離れすぎていますよ。彼女の年齢は確かめようがありませんが…俺は今年で28ですし。流石にアスールさんが20代な訳ないでしょう?」
「そりゃそうだよねー。瞳の色が同じでも、血が繋がってるとは限らないし。」
彼女はハサミから櫛に持ち替え、隣に座るビオレータの後ろへ歩み寄った。
「もういいのですか?あまり短くはしないのですね。」
「まぁ、女の子だしね。少し長めの方が可愛いかと思って。」
「可愛いかどうかはよく分かりませんが…。ローゼさんがそう言うなら間違い無いのでしょう。」
彼女がハサミを握る度に、ビオレータの紫髪がハラハラと舞い落ちる。彼女の長い髪が、みるみるうちに短くなっていく。
「…ビオレタ短くする?」
「うん。さっきも言ったけど、伸びるの早いからねー。」
「…可愛い…じゃない。」
「俺は男ですから、可愛くする必要はありません。」
「…男?」
首を傾げると、彼女は頭を動かさずに目線だけを私の方に向けた。
「え?女だと思っていたんですか?」
「…ロゼは女?」
「はぁ!?僕のどこが女なの!?どう見ても男でしょ!?」
彼女は声を荒らげながら、ハサミを持つ手を振りあげた。
「あ、危ないですよ!?振り回さないで下さい!」
「ご、ごめん…。…まさかとは思うけど、僕とビオレータさんに触れたのは、女だと思ってたからなの?」
私は首を縦に振った。すると、ローゼは前髪をかきあげ、頭を抱えた。
「言っておきますが…俺もローゼさんも男ですし、グリさんもルスケアさんも男です。というより…ここに住んでいる人は、あなた以外の全員が男ですよ。」
「…知らなかった。」
「ちょっと待って...。髪の長さで、女だって勘違いしてたのはわかるよ?でも、グリさんとルスケアさんは短いのに何で?」
「…グイ、ご飯の匂い。ルスキャ、甘い匂い。」
「彼等の場合は、男性への恐怖より…食欲の方が勝ったんでしょうね…。」
「でもなんか…納得かも。」
ビオレータの散髪を終え、私はそのまま彼とお風呂へ入る事になった。髪の毛の量が減り、洗う時間も短くなる。手早く身体を洗い終え、彼と共にお湯に浸かった。
「サッパリして良かったですね。」
「…ビオレタ、後ろ短いのに前長い…何で?」
「強い光が苦手なんです。前髪が長いと陽の光を遮る事が出来るので、短くしたくないんですよ。」
彼の顔を見て、私は再びあの疑問が頭に浮かんだ。
「…家族は?」
「…またその話ですか?」
「…今は勉強してない。」
「特に面白い話は何もありませんよ。兄弟はいませんし、両親も死にました。俺の家族は、1人もいません。」
「…何でここ居る?」
「ここへ来た理由なんてありませんよ。王様に推薦されたので、ここで働いているというだけです。」
「…おーさまに推薦?」
「このビエント王国を治めている、1番偉い人です。我々騎士団を結成したのも王様ですし、任務や警備の仕事も王様の命令によるものがほとんどです。」
「…おーさま偉い。」
「もういいですか?そろそろ出ましょう。あまり長風呂していると、ローゼさんが心配するかもしれません。」
「…分かった。」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる