青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第1章:黒髪の少女

第11話

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「今日は、魔法についてお話します。」

翌日。再び書庫を訪れた私の前に、ビオレータが座っている。昨日に引き続き、彼女の勉強会が始まった。

「まず、魔法は6種類の属性に分類されます。昨日お話した、精霊の数だけ属性が存在するのですが…覚えていますか?」
「…ちすいかふー。」
「地水火風と光闇です。あなたはシトリンアイなので、光属性と言う事になります。」
「…しとりあい?」
「シトリンアイとは、黄色の瞳の事を言います。その人が何の属性を宿しているか、瞳の色で判断する事が出来るんです。ちなみにシトリンと言うのは、鉱石の名前ですね。」
「…ユオアス赤い。」
「ユオダスさんは、ルビーアイですね。火属性魔法を扱う事が出来ます。」
「…ビズは青。」
「ヴィーズさんは…青と言うより、水色ですね。水と光の2つの属性を宿しています。」
「…ぞくせー2つ?」
「彼以外だと…ルスケアさんは紫色のアメジストアイなので、水と火。アルトゥンさんは桃色のコーラルアイなので、火と光。ローゼさんは黄緑色のペリドットアイなので、地と風です。」
「…グイとジガは?」
「グリさんは茶色なのでアンバーアイ...地属性だけですね。ジンガさんは緑色なのでエメラルドアイ...風属性です。」
「…闇は?」
「闇属性は、魔族にしか使えません。逆に、魔族は光属性を宿す事が出来ません。」
「…分かった。」
「他に質問はありますか?」

彼女の問いに、昨日は家族の話を聞けなかった事が頭をよぎる。しかし私は、あえてそれを口に出さなかった。

「…無い。」
「飲み込みが早くて助かります。では、実際に使って見ましょう。」
「…まほー?」
「そうです。俺が今から怪我をするので治療して下さい。」

訳がわからず首を傾げていると、彼女は机の上に置かれていた小さな剣を手に取った。それを反対側の手の平に乗せ、剣を握りしめる。

「っ…!」

彼女の表情は歪み、剣を握りしめた手から赤い液体が溢れ出す。

「治癒魔法をお願いします。」
「…分かった。」

私は彼女の手を両手で包み込み、目を閉じた。手元に意識を集中させると、手がじんわりと温かくなる。

「も、もう大丈夫です!」

ビオレータの声が聞こえ、私はゆっくりと目を開く。すると、こちらを見つめる彼女と目が合った。

「正直、半信半疑でしたが…本当に魔法が使えるのですね。それに、髪も青く…」

彼女の話の途中で、私は机に顔を突っ伏した。

「ど、どうしましたか!?」
「…ね、むい…。」
「魔力を消耗したせいでしょうか…。直ぐに魔力供給しましょう。」

すると彼女は右の手で左手を、左の手で右手を握った。彼女の体温が、手を通して伝わってくる。

「…まりょく…きょーきゅー?」
「魔力を持つ他の人に、魔力を分けてもらう事です。先日あなたが初めて魔法を使った時に、ヴィーズさんが部屋に駆けつけたと聞きましたが?」

そこで私は、ヴィーズの腕の中で目覚めた時の事を思い出す。直前に治癒魔法を使い、気を失って部屋に運ばれた私は、気が付いた時には彼に抱きしめられて居たのだ。

「…ビズと身体、くっつけた。」
「え?抱き合ったという事ですか?」
「…うん。」
「肌が触れれば良いので、そこまでやる必要はないのですが…。まぁ、彼もあなたの事が心配だったのでしょうね。」
「…ビオレタはしない?」
「しません。する必要が無いですから。」
「…分かった。」

話をしている間に、すっかり元通りになった私を見て、彼女は手を離した。

「あなたの魔力は、少々特殊ですね。」
「…特殊?」
「全体量は少ないので、魔法を使ったらすぐに魔力切れしてしまいますが…その分、回復も早いようです。」
「…回復早い?」
「ヴィーズさんやルスケアさんは、魔力量が多くて長時間魔法を扱っても倒れる事はほぼ無いですが…その分、回復には時間がかかります。あなたはそれの、逆ということです。」
「…すぐ無くなって、すぐ戻る?」
「そうです。」
「…ビオレタは?」
「俺は…。」

私は、彼女自身に質問を投げかける。彼女は一瞬、言葉を躊躇った。

「…残念ですが、魔法を扱う事が出来ません。魔力は、それなりにあるようですが…。」
「…きょーきゅー、出来るのに?」
「魔力があるからといって、絶対に魔法が扱えるとも限らないんです。魔法を使うには、集中力と想像力が必要とされます。俺はそれを、上手く使いこなせないんです。」
「…魔力あるけど使えない…分かった。」
「今日はこれくらいにしておきましょう。気分転換に、建物内を散歩してみてはどうですか?ただし、あまり遠くへは行かないで下さい。」
「…分かった。」

彼女に散歩するよう促され、私は部屋を出て廊下を歩き出す。なんだか今日は、建物の中がやけに静かだった。
中庭から聞こえてくる騎士の声も、ご飯を食べる動物の声も、料理の音も聞こえてこない。感じるのは、微かな物音と窓から吹き込む風の音だけだった。
ふと、窓の外に人影が見えたような気がして、窓の外を覗き込んだ。中庭に生い茂る緑の地面に横渡る、グリの姿が見える。私は大きな扉を開けて、建物の外へ出た。

「…グイ。」

彼の名前を呼ぶが、返事は無い。私は彼の側に駆け寄り、その場に座り込んだ。どうやら彼は寝ているらしく、寝息を立てている。
暖かな陽の光と心地よい風が彼を眠りに誘ったのだろう。私は心地よさそうに眠る彼を見て、隣に横たわった。



「…ぇ。…てよ。」

女性の声が聞こえ、ゆっくり瞼を開く。すると、私の身体に手を添えるローゼの姿があった。

「…ロゼ?」
「こんな時間に寝てるなんて珍しいね。よっぽど勉強が大変だったの?」

身体を起こして辺りを見回すと、いつの間にか自室で眠っていたらしい。中庭でグリを見つけ、横になった所までは覚えているのだが、その後の事は全く覚えていない。

「…グイは?」
「グリさん?多分調理場だと思うけど?もう少ししたら夕飯の時間だし。」

気が付けば、窓の外から橙色の光が差し込んでいた。日が沈み始め、夜が近付いている証拠だ。

「それはそうと、起きたなら一緒に来てくれる?」

彼女と共に廊下を歩き、階段を降りていく。どうやら彼女は、風呂場の方へと向かっているようだ。

「…お風呂?」
「終わったらね。」

言葉の意味が分からずに首を傾げていると、同じように風呂場へ向かうビオレータの後ろ姿を見つけた。彼女の姿を書庫以外で見るのは、これが初めてかもしれない。

「…ビオレタ。」
「あ、ビオレータさーん。」

ローゼは手を振りながら、彼女の元へ駆け寄った。後に続き、私も小走りで駆け寄る。

「アスールさんを呼びに行ったと聞いていましたが、思ったより早かったですね。」
「仕事で忙しい中ごめんね?こんな機会滅多にないからさー。」
「構いません。俺もそろそろ頼みたいと思っていた所なので…助かります。」

話をしながら、彼女達は風呂場の扉を開いた。

「…ビオレタとロゼ、お風呂?」
「終わったらって言ったでしょー?まずは散髪!」
「…散髪?」
「髪の毛を切るんですよ。ローゼさんは手先が器用なので、いつも彼にお願いしています。」
「ビオレータさんは髪の毛が伸びるの早いから、放っておくととんでもない事になるからね…。」
「…ビオレタ髪切る。その後お風呂?」
「アスールもね?2人一緒にやっちゃうから、そこの椅子に座ってて。」

鏡の前に置かれた椅子へ座るように言われ、腰を下ろした。すると、隣の椅子に座ったビオレータが、白い布を私に差し出す。

「これを首に巻いてください。」

布を受け取り、ぐるぐると首に巻き付ける。

「それでは苦しくありませんか…?」

彼女は私の方を向き、首元に手を伸ばした。布を解き、肩から首を覆い尽くすように布を巻き直す。

「髪を切ると、首元から髪の毛が入って痒くなるので、こうしてタオルを巻くんです。」
「お。準備バッチリだね。それじゃあ始めるよー。」

ローゼは私の背後に立つと、髪を櫛でとかし始めた。しばらくとかして櫛をハサミに持ち替え、髪の毛を握りしめる。ハサミによって切り取られた髪の毛が、床に散らばっていった。

「初めて見た時から思ってたけど、ほんと2人の髪質って似てるよねぇ。」
「そうなのですか?」
「うん。固くてしっかりしてて、毛量が多いし。くせっ毛だから絡まってるし。瞳の色も同じだから…もしかしたら兄妹だったりして?」
「兄妹にしては、歳が離れすぎていますよ。彼女の年齢は確かめようがありませんが…俺は今年で28ですし。流石にアスールさんが20代な訳ないでしょう?」
「そりゃそうだよねー。瞳の色が同じでも、血が繋がってるとは限らないし。」

彼女はハサミから櫛に持ち替え、隣に座るビオレータの後ろへ歩み寄った。

「もういいのですか?あまり短くはしないのですね。」
「まぁ、女の子だしね。少し長めの方が可愛いかと思って。」
「可愛いかどうかはよく分かりませんが…。ローゼさんがそう言うなら間違い無いのでしょう。」

彼女がハサミを握る度に、ビオレータの紫髪がハラハラと舞い落ちる。彼女の長い髪が、みるみるうちに短くなっていく。

「…ビオレタ短くする?」
「うん。さっきも言ったけど、伸びるの早いからねー。」
「…可愛い…じゃない。」
「俺は男ですから、可愛くする必要はありません。」
「…男?」

首を傾げると、彼女は頭を動かさずに目線だけを私の方に向けた。

「え?女だと思っていたんですか?」
「…ロゼは女?」
「はぁ!?僕のどこが女なの!?どう見ても男でしょ!?」

彼女は声を荒らげながら、ハサミを持つ手を振りあげた。

「あ、危ないですよ!?振り回さないで下さい!」
「ご、ごめん…。…まさかとは思うけど、僕とビオレータさんに触れたのは、女だと思ってたからなの?」

私は首を縦に振った。すると、ローゼは前髪をかきあげ、頭を抱えた。

「言っておきますが…俺もローゼさんも男ですし、グリさんもルスケアさんも男です。というより…ここに住んでいる人は、あなた以外の全員が男ですよ。」
「…知らなかった。」
「ちょっと待って...。髪の長さで、女だって勘違いしてたのはわかるよ?でも、グリさんとルスケアさんは短いのに何で?」
「…グイ、ご飯の匂い。ルスキャ、甘い匂い。」
「彼等の場合は、男性への恐怖より…食欲の方が勝ったんでしょうね…。」
「でもなんか…納得かも。」

ビオレータの散髪を終え、私はそのまま彼とお風呂へ入る事になった。髪の毛の量が減り、洗う時間も短くなる。手早く身体を洗い終え、彼と共にお湯に浸かった。

「サッパリして良かったですね。」
「…ビオレタ、後ろ短いのに前長い…何で?」
「強い光が苦手なんです。前髪が長いと陽の光を遮る事が出来るので、短くしたくないんですよ。」

彼の顔を見て、私は再びあの疑問が頭に浮かんだ。

「…家族は?」
「…またその話ですか?」
「…今は勉強してない。」
「特に面白い話は何もありませんよ。兄弟はいませんし、両親も死にました。俺の家族は、1人もいません。」
「…何でここ居る?」
「ここへ来た理由なんてありませんよ。王様に推薦されたので、ここで働いているというだけです。」
「…おーさまに推薦?」
「このビエント王国を治めている、1番偉い人です。我々騎士団を結成したのも王様ですし、任務や警備の仕事も王様の命令によるものがほとんどです。」
「…おーさま偉い。」
「もういいですか?そろそろ出ましょう。あまり長風呂していると、ローゼさんが心配するかもしれません。」
「…分かった。」
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