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第2章:シュヴァリエ
第12話
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翌朝。食事を終えて部屋に戻った私の元へ、ユオダスとヴィーズがやって来た。
彼等はいつも着ている服とは違う、白い服を身にまとっている。上着の肩から垂れる青い布に、私は見覚えがあった。以前、ヴィーズが袖を通していた所を見た事がある。
「アーちゃん。今日は僕達と街に行こう。」
「…また買い物?」
「いいや。そろそろお前にも、俺達の仕事を覚えてもらおうと思ってな。まずはこれに着替えてくれ。」
すると、彼は綺麗に畳まれた白い服を机の上に置いた。彼等が着ている服に似ていて、肩に青い布が付いている。
「騎士団の制服だよ。僕達とお揃いだね。」
「…お揃い?」
「仕事をする時は、必ずこれを着るようにな。俺達は廊下で待っているから、着替えたら来てくれ。」
「えー?手伝わなくていいのー?」
「俺は居ても居なくても変わらない。手伝うなら勝手にしろ。」
ユオダスは彼を部屋に残し、扉を開けて外に出た。
ヴィーズに着方を教わりながら、騎士団の制服を身につけて街へ向かった。
「騎士の仕事は前に話したな?まずは比較的簡単な、街の警備をする。」
「…街、見て回る。」
「ちゃんと覚えていたようだな。だが、ただ見て回ればいいと言う訳じゃない。」
「…魔族と不審者、見つける。」
「そうだ。では…この人混みの中から、どうやって魔族と不審者を見分ければいいかわかるか?」
私はしばらく考え込み、首を横に振った。
「まずは魔族の特徴を教えよう。見た目は人間と大差ないが、魔族は頭に角が生えている事が多い。」
「中には角が生えてない魔族とか、背中に羽や尻尾が生えた魔族とか、動物と合わさったような見た目の魔族とか…色々いるから、僕達でも見分けるのは難しいけどね。」
「次に不審者だが…ああいった路地をウロウロしている者や、服や帽子で顔を隠している者は要注意だ。」
ユオダスは、大通りの脇に伸びている細い道を指さした。以前ジンガと街へ来た時に歩いたような道と似ていて、建物の影で薄暗くなっている場所だ。
「全員が不審者とは限らないけど、変な動きをしてるかなー?と思ったら、声をかけてみると良いよ。あ、でも、アーちゃん1人だと危ないから…魔族や不審者を見つけたら、まずは僕達に教えてね。」
「…分かった。」
「あ…騎士団長様!」
話をしながら歩く私達の元へ、1人の女性が歩み寄って来た。彼女の手には、様々な食べ物の入ったカゴが握られている。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ…その…。この間、息子が助けて頂いたようで…ありがとうございました。」
「あぁ…あなたは彼のお母様でしたか。我々は騎士ですから、当然の事をしただけです。どうが、お気になさらないで下さい。」
「あの…こんなんじゃ、お礼にもならないかもしれないんですけど…。」
彼女はカゴの中から赤くて丸い物を取り出し、彼に向かって差し出した。
「受け取れません。お礼は不要です。」
「そ、そう言わず…受け取って下さい!」
「ですが…。」
中々受け取ろうとしない彼の手を目掛け、女性は反対側の手を伸ばした。するとヴィーズが2人の間に割って入り、彼女の手を握りしめる。
「お姉さん。そのリンゴ、彼の代わりに僕が預かってもいいですか?」
「は、はい…!もちろんです…どうぞ。」
「ありがとうございます。」
「俺達は仕事がありますので、これで失礼します。」
「本当に、ありがとうございました…!」
頭を下げる女性から離れ、再び通りを歩き始めた。
「アーちゃん。これ、食べていいよ。」
「…リンゴ?」
「そう。甘酸っぱくて美味しいよ。」
「…食べる。」
彼からリンゴを受け取り、そのままかぶりつく。少々硬さはあるが、シャリシャリとしていて甘みがあり、今までに食べたことの無い不思議な食感だった。
「この間は簡単にしか説明していなかったが、魔族や不審者を見つけるだけが警備の目的ではい。」
「…他にもある?」
「僕達がこうやって歩いているだけで、街の人は安心するんだ。」
「…安心?」
「俺達がいると魔族や不審者は警戒し、行動を起こしづらくなる。例え起きたとしても、俺達がすぐに対処出来るからだ。」
「何も起きない事がほとんどだけど、これも毎日警備してるおか…」
話の途中で、ヴィーズがその場に立ち止まる。彼は、遠くの方で聞こえた女性の悲鳴に反応したのだろう。
「…悲鳴?」
「アーちゃんにも聞こえたみたいだね。こっちだよ!」
駆け出す彼の後を追いかけ、大通りを駆け抜ける。すると、地面に座り込む女性の前に、短い剣のような物を持った男性が立っていた。
「待て!」
ユオダスが男性に向かって声をかける。男性はこちらに振り返り、持っていた剣を突き出した。
「来んじゃねぇ!この女が怪我してもいいのか!?」
男性が剣を振り回すと、その様子を見ていた周りの住民達がザワつき出す。ユオダスは背中に背負った剣を抜こうとしていたが、その手を離して顔の横で両手を上げた。
「やめてくれ。彼女に怪我をさせたくはない。」
「だったら、この女を牢屋に入れてくれ!こいつ…俺の事を騙しやがったんだ!」
「そ、そんな事してま…」
「てめぇは黙ってろ!」
「詳しい話は後で聞きます。まずは、そのナイフをしまって下さい。」
「話を聞くだと?嘘をつくんじゃねぇ!てめぇもこの女とグルなんだろ!?そうやって、何度も騙そうったってそうはいか…」
男性が話に夢中になっている隙に、ヴィーズが彼の背後に歩み寄っていた。後ろから男性の手首を叩き、彼の手を離れたナイフが地面に転がり落ちる。
「な!?くそっ…!」
男性は、彼に向かって拳を振りかざす。すかさずしゃがみ込んで腕をかわすと、彼が手をついた地面が瞬時に凍りついた。男性の足元が氷で覆われ、身動きが取れなくなる。
「な、なんだこれ!?」
「ごめんね。手荒なことをする人には、手荒な真似をしないといけないんだ。」
男性の元へ歩み寄ったユオダスは、背後から彼の首元を叩いた。気を失った男性をヴィーズが支え、ユオダスの背中に背負わせる。
騒動が収まったのを見届けた住民達は、それぞれが自分の道を歩き出した。
「そっちは任せたぞ。」
「うん。分かったよ。」
男性を背負ったユオダスを見送り、私はヴィーズと共に床に座り込んだままの女性の元へ歩み寄った。
「怪我はありませんか?」
「あ、ありがとうございました…。たいした怪我はしてません。ちょっと足を捻っただけなので…。」
「アーちゃん。治療をお願い出来る?」
「…分かった。」
女性の側に座り、足元に両手をかざした。目を閉じて、意識を研ぎ澄ませる。
「わぁ…綺麗…。」
「なんだあれ…見た事ないぞ。」
「治癒魔法か…珍しいな…。」
「素敵ね…。」
周囲から囁かれる住民達の声が耳に入り出した時、私の手にヴィーズの手が重なった。
「もう大丈夫。ありがとうアーちゃん。」
目を開くと手元の光が消えていき、彼に支えられながら女性がゆっくりとその場に立ち上がった。
「な、治ってる…?何から何まで…本当にありがとうございました!」
女性が頭を下げて立ち去った後、私はその場に立ち上がった。しかし、足に上手く力が入らず、倒れかけた所を彼が受け止めてくれた。
「ちょっと休もうか。」
彼は私の身体を軽々と持ち上げ、近くにある路地へ入った。通りの近くで私を木箱に座らせると、彼は膝をつき、首に腕を回して私を抱きしめた。
「…まりょくきょーきゅー?」
「そうだよ。前にもしたことあったよね?あの時は、気絶してたから覚えてないだろうけど。」
「…ビオレタ、手できょーきゅーしてた。ビズと違う。」
「ビオくんから魔力供給してもらったの?いつ?」
「…昨日?」
「あぁ…魔法の授業をするって言ってたっけ。その時かな。」
「…なんでビズ、身体包む?」
「肌が触れれば充分なんだろうけど…アーちゃんが落ち着くかと思って。こっちの方が早く回復するしね。」
「…魔力少ない、でも回復早い。ビオレタ言ってた。」
「そうなんだ…。通りで早く目が覚めた訳だね。」
「…もう大丈夫。」
彼は身体を離し、私の顔を覗き込んだ。瞳をじっと見つめ、その視線は何かを確認しているようだった。
「…うん。じゃあ、ユーくんの所へ戻ろうか。」
手を差し伸べる彼の手を握り、木箱から飛び降りる。
「…まりょくきょーきゅー?」
「ううん。これは僕がこうしたいだけ。」
いつも冷たい彼の手は、いつも冷たい私の手よりも更に冷たく感じた。
しばらく大通りを歩いていると、私達の側を少年少女数人が大きな声で話しをしながら走り去っていく。すると、彼は握った方と反対の手で耳を塞ぐような仕草をした。
「…耳痛い?」
「あー…ううん。大きな音が少し苦手でね。耳がよく聞こえるもんだから、近くで大声出されると頭が痛くなるんだ。」
私は彼の腕を強く引き、その場に立ち止まる。
「…頭痛い、治す。」
「大丈夫大丈夫。あれくらいなら平気だよ。」
「…耳良い、良くない?」
「そうだね…いい事ばっかりではないかな。さっきみたいに、遠くの方の騒動に気付けるのは利点だけど…ドライヤーとか子供達の騒ぐ声とか、耳元で音が聞こえ過ぎるのは欠点かも。」
「…利点?欠点?」
「利点って言うのは、良い事で。欠点って言うのは、悪い事。さっき、男の人の足元を凍らせたでしょ?あれは僕の魔法の力だけど、拘束出来る利点と手が冷たくなる欠点があるんだ。まぁ…こうして温めてもらえるのは利点だけどね。」
私の腕を引き、彼は再び通りを歩き出した。
「こういうの、嫌悪って言うんだ。今は気が付いてないだけで、アーちゃんにもあると思う。」
「…嫌悪?」
「不快に感じたり、嫌だなぁって思ったりする気持ちの事。一見すると欠点のように見えるけど、不快な事や嫌な事を我慢するのは身体に負担がかかるから…嫌悪に気付ける事が、実は利点だったりするんだ。」
彼が言う嫌悪は、恐らく大きな音なのだろう。私には、どんな嫌悪が隠されているのだろうか?
私は彼から【嫌悪】の感情を教わった。
「…さっきの人、どこ行った?」
「ユーくんが、役所に連れて行ったよ。理由があったとはいえ、人を傷つけるのは悪い事だからね。だから役所に連れて行って、反省してもらうんだ。もう悪い事をしないようにね。」
こうして私は警備をの仕事を終え、役所でユオダスと合流した。
「そろそろ帰ろっか。僕達のシュヴァリエメゾンに。」
「…しゅばり…えめぞん?」
「騎士の家という意味だ。俺達が住んでいるあの建物の事を、街の人々はそう呼んでいる。」
「略してシュゾンだね。」
「…シュゾン。」
「変な言葉を教えるな。」
彼等はいつも着ている服とは違う、白い服を身にまとっている。上着の肩から垂れる青い布に、私は見覚えがあった。以前、ヴィーズが袖を通していた所を見た事がある。
「アーちゃん。今日は僕達と街に行こう。」
「…また買い物?」
「いいや。そろそろお前にも、俺達の仕事を覚えてもらおうと思ってな。まずはこれに着替えてくれ。」
すると、彼は綺麗に畳まれた白い服を机の上に置いた。彼等が着ている服に似ていて、肩に青い布が付いている。
「騎士団の制服だよ。僕達とお揃いだね。」
「…お揃い?」
「仕事をする時は、必ずこれを着るようにな。俺達は廊下で待っているから、着替えたら来てくれ。」
「えー?手伝わなくていいのー?」
「俺は居ても居なくても変わらない。手伝うなら勝手にしろ。」
ユオダスは彼を部屋に残し、扉を開けて外に出た。
ヴィーズに着方を教わりながら、騎士団の制服を身につけて街へ向かった。
「騎士の仕事は前に話したな?まずは比較的簡単な、街の警備をする。」
「…街、見て回る。」
「ちゃんと覚えていたようだな。だが、ただ見て回ればいいと言う訳じゃない。」
「…魔族と不審者、見つける。」
「そうだ。では…この人混みの中から、どうやって魔族と不審者を見分ければいいかわかるか?」
私はしばらく考え込み、首を横に振った。
「まずは魔族の特徴を教えよう。見た目は人間と大差ないが、魔族は頭に角が生えている事が多い。」
「中には角が生えてない魔族とか、背中に羽や尻尾が生えた魔族とか、動物と合わさったような見た目の魔族とか…色々いるから、僕達でも見分けるのは難しいけどね。」
「次に不審者だが…ああいった路地をウロウロしている者や、服や帽子で顔を隠している者は要注意だ。」
ユオダスは、大通りの脇に伸びている細い道を指さした。以前ジンガと街へ来た時に歩いたような道と似ていて、建物の影で薄暗くなっている場所だ。
「全員が不審者とは限らないけど、変な動きをしてるかなー?と思ったら、声をかけてみると良いよ。あ、でも、アーちゃん1人だと危ないから…魔族や不審者を見つけたら、まずは僕達に教えてね。」
「…分かった。」
「あ…騎士団長様!」
話をしながら歩く私達の元へ、1人の女性が歩み寄って来た。彼女の手には、様々な食べ物の入ったカゴが握られている。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ…その…。この間、息子が助けて頂いたようで…ありがとうございました。」
「あぁ…あなたは彼のお母様でしたか。我々は騎士ですから、当然の事をしただけです。どうが、お気になさらないで下さい。」
「あの…こんなんじゃ、お礼にもならないかもしれないんですけど…。」
彼女はカゴの中から赤くて丸い物を取り出し、彼に向かって差し出した。
「受け取れません。お礼は不要です。」
「そ、そう言わず…受け取って下さい!」
「ですが…。」
中々受け取ろうとしない彼の手を目掛け、女性は反対側の手を伸ばした。するとヴィーズが2人の間に割って入り、彼女の手を握りしめる。
「お姉さん。そのリンゴ、彼の代わりに僕が預かってもいいですか?」
「は、はい…!もちろんです…どうぞ。」
「ありがとうございます。」
「俺達は仕事がありますので、これで失礼します。」
「本当に、ありがとうございました…!」
頭を下げる女性から離れ、再び通りを歩き始めた。
「アーちゃん。これ、食べていいよ。」
「…リンゴ?」
「そう。甘酸っぱくて美味しいよ。」
「…食べる。」
彼からリンゴを受け取り、そのままかぶりつく。少々硬さはあるが、シャリシャリとしていて甘みがあり、今までに食べたことの無い不思議な食感だった。
「この間は簡単にしか説明していなかったが、魔族や不審者を見つけるだけが警備の目的ではい。」
「…他にもある?」
「僕達がこうやって歩いているだけで、街の人は安心するんだ。」
「…安心?」
「俺達がいると魔族や不審者は警戒し、行動を起こしづらくなる。例え起きたとしても、俺達がすぐに対処出来るからだ。」
「何も起きない事がほとんどだけど、これも毎日警備してるおか…」
話の途中で、ヴィーズがその場に立ち止まる。彼は、遠くの方で聞こえた女性の悲鳴に反応したのだろう。
「…悲鳴?」
「アーちゃんにも聞こえたみたいだね。こっちだよ!」
駆け出す彼の後を追いかけ、大通りを駆け抜ける。すると、地面に座り込む女性の前に、短い剣のような物を持った男性が立っていた。
「待て!」
ユオダスが男性に向かって声をかける。男性はこちらに振り返り、持っていた剣を突き出した。
「来んじゃねぇ!この女が怪我してもいいのか!?」
男性が剣を振り回すと、その様子を見ていた周りの住民達がザワつき出す。ユオダスは背中に背負った剣を抜こうとしていたが、その手を離して顔の横で両手を上げた。
「やめてくれ。彼女に怪我をさせたくはない。」
「だったら、この女を牢屋に入れてくれ!こいつ…俺の事を騙しやがったんだ!」
「そ、そんな事してま…」
「てめぇは黙ってろ!」
「詳しい話は後で聞きます。まずは、そのナイフをしまって下さい。」
「話を聞くだと?嘘をつくんじゃねぇ!てめぇもこの女とグルなんだろ!?そうやって、何度も騙そうったってそうはいか…」
男性が話に夢中になっている隙に、ヴィーズが彼の背後に歩み寄っていた。後ろから男性の手首を叩き、彼の手を離れたナイフが地面に転がり落ちる。
「な!?くそっ…!」
男性は、彼に向かって拳を振りかざす。すかさずしゃがみ込んで腕をかわすと、彼が手をついた地面が瞬時に凍りついた。男性の足元が氷で覆われ、身動きが取れなくなる。
「な、なんだこれ!?」
「ごめんね。手荒なことをする人には、手荒な真似をしないといけないんだ。」
男性の元へ歩み寄ったユオダスは、背後から彼の首元を叩いた。気を失った男性をヴィーズが支え、ユオダスの背中に背負わせる。
騒動が収まったのを見届けた住民達は、それぞれが自分の道を歩き出した。
「そっちは任せたぞ。」
「うん。分かったよ。」
男性を背負ったユオダスを見送り、私はヴィーズと共に床に座り込んだままの女性の元へ歩み寄った。
「怪我はありませんか?」
「あ、ありがとうございました…。たいした怪我はしてません。ちょっと足を捻っただけなので…。」
「アーちゃん。治療をお願い出来る?」
「…分かった。」
女性の側に座り、足元に両手をかざした。目を閉じて、意識を研ぎ澄ませる。
「わぁ…綺麗…。」
「なんだあれ…見た事ないぞ。」
「治癒魔法か…珍しいな…。」
「素敵ね…。」
周囲から囁かれる住民達の声が耳に入り出した時、私の手にヴィーズの手が重なった。
「もう大丈夫。ありがとうアーちゃん。」
目を開くと手元の光が消えていき、彼に支えられながら女性がゆっくりとその場に立ち上がった。
「な、治ってる…?何から何まで…本当にありがとうございました!」
女性が頭を下げて立ち去った後、私はその場に立ち上がった。しかし、足に上手く力が入らず、倒れかけた所を彼が受け止めてくれた。
「ちょっと休もうか。」
彼は私の身体を軽々と持ち上げ、近くにある路地へ入った。通りの近くで私を木箱に座らせると、彼は膝をつき、首に腕を回して私を抱きしめた。
「…まりょくきょーきゅー?」
「そうだよ。前にもしたことあったよね?あの時は、気絶してたから覚えてないだろうけど。」
「…ビオレタ、手できょーきゅーしてた。ビズと違う。」
「ビオくんから魔力供給してもらったの?いつ?」
「…昨日?」
「あぁ…魔法の授業をするって言ってたっけ。その時かな。」
「…なんでビズ、身体包む?」
「肌が触れれば充分なんだろうけど…アーちゃんが落ち着くかと思って。こっちの方が早く回復するしね。」
「…魔力少ない、でも回復早い。ビオレタ言ってた。」
「そうなんだ…。通りで早く目が覚めた訳だね。」
「…もう大丈夫。」
彼は身体を離し、私の顔を覗き込んだ。瞳をじっと見つめ、その視線は何かを確認しているようだった。
「…うん。じゃあ、ユーくんの所へ戻ろうか。」
手を差し伸べる彼の手を握り、木箱から飛び降りる。
「…まりょくきょーきゅー?」
「ううん。これは僕がこうしたいだけ。」
いつも冷たい彼の手は、いつも冷たい私の手よりも更に冷たく感じた。
しばらく大通りを歩いていると、私達の側を少年少女数人が大きな声で話しをしながら走り去っていく。すると、彼は握った方と反対の手で耳を塞ぐような仕草をした。
「…耳痛い?」
「あー…ううん。大きな音が少し苦手でね。耳がよく聞こえるもんだから、近くで大声出されると頭が痛くなるんだ。」
私は彼の腕を強く引き、その場に立ち止まる。
「…頭痛い、治す。」
「大丈夫大丈夫。あれくらいなら平気だよ。」
「…耳良い、良くない?」
「そうだね…いい事ばっかりではないかな。さっきみたいに、遠くの方の騒動に気付けるのは利点だけど…ドライヤーとか子供達の騒ぐ声とか、耳元で音が聞こえ過ぎるのは欠点かも。」
「…利点?欠点?」
「利点って言うのは、良い事で。欠点って言うのは、悪い事。さっき、男の人の足元を凍らせたでしょ?あれは僕の魔法の力だけど、拘束出来る利点と手が冷たくなる欠点があるんだ。まぁ…こうして温めてもらえるのは利点だけどね。」
私の腕を引き、彼は再び通りを歩き出した。
「こういうの、嫌悪って言うんだ。今は気が付いてないだけで、アーちゃんにもあると思う。」
「…嫌悪?」
「不快に感じたり、嫌だなぁって思ったりする気持ちの事。一見すると欠点のように見えるけど、不快な事や嫌な事を我慢するのは身体に負担がかかるから…嫌悪に気付ける事が、実は利点だったりするんだ。」
彼が言う嫌悪は、恐らく大きな音なのだろう。私には、どんな嫌悪が隠されているのだろうか?
私は彼から【嫌悪】の感情を教わった。
「…さっきの人、どこ行った?」
「ユーくんが、役所に連れて行ったよ。理由があったとはいえ、人を傷つけるのは悪い事だからね。だから役所に連れて行って、反省してもらうんだ。もう悪い事をしないようにね。」
こうして私は警備をの仕事を終え、役所でユオダスと合流した。
「そろそろ帰ろっか。僕達のシュヴァリエメゾンに。」
「…しゅばり…えめぞん?」
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