青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第3章:使命

第30話

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「...向こうから、人いっぱい。」
「向こうは貴族通り...。まさか...例の放火犯?」
「おい!消防はまだか!?」
「今連絡したとこだ!もうちょっと待ってろ!」

路地から現れた男性が、もう1人の男性と何やら言い争いを始めた。

「そんなにモタモタしてたら、俺の店まで燃えちまうよ!」
「あ、あの...!」

ルスケアが、男性に向かって声をかける。

「き、騎士様!?どうしてここに...」
「火事の現場はどこですか?微力ながら...消火活動に尽力します!」
「是非お願いします!こっちです!」

男性の案内で貴族通りへ向かうと、燃え盛る建物が目に入った。

「あそこは...。」

火事が起きていたのは、先程話を聞きに行ったヘレボラス家だった。今回は屋根の上ではなく、2階の一室が激しく燃えているように見える。

「アスールくんは離れてて!」

彼は燃え盛る建物に向かって手をかざし、魔法の力で水を発射した。勢いよく放たれた水は、炎の勢いをどんどん小さくしていく。

「よし...もう少し...。」
「そこのあなた!私の邪魔をしないで下さるかしら?」

私達の背後に、一人の女性が立ちはだかる。燃える炎と同じ輝きを放つ瞳と、長い髪で隠れた片目...ヘレボラス家の女性が話していた、婚約者の特徴と一致していた。

「もしかしてあなたが...フィアンマ?」
「あら?私の名前を知っているなんて...あなた一体何者ですの?」

彼女はヘレボラス家で会った女性と似たような、いかにも貴族といった装いをしていた。

「あなたが放火した、コデマリ家の息子です。」
「あぁ...あの家の貴族なのね。では私がこの家を燃やす理由も、大方予想はついているのでしょう?」
「放火犯である事は認めるんですね。」
「現場にいたのですから、隠しようがないですわ。それに、私の名前を知っているのはヘレボラス家だけ...。これもまた、隠しようのない事実ですし。」

彼女は思ったよりあっさり、自身の犯行を認めた。

「放火犯の検討はついていました。ですが、理由がわかりせん。ヘレボラス家に対する恨みはともかく...なぜ他の貴族まで巻き込んだんですか!?」
「憎いから...ただそれだけですわ。どこを燃やすかは、正直どうでも良かったのです。どうせなら、ヘレボラス家に関わりのある貴族達を巻き込んで、反感の目を向かせようと思いましたの。どう?素晴らしい考えでしょう?」

女性は目を細め、口元に手を当てた。彼女の考えや目的が、私にはさっぱり理解出来ない。

「やはり...魔族は魔族なんですね。」
「こんなにゆっくりお話してる場合なのかしら?かなり燃え広がっていますけど...旦那様と奥様は無事かしら?」
「くっ...!」

ルスケアが建物に視線を移した瞬間、彼女はこちらに視線を向けて赤い瞳で私を睨みつけた。すると、肩に垂れた髪が発火し、急激に顔が熱を帯びる。

「熱っ!」
「アスールくん!」

彼はすぐさま背中の青い布に手を伸ばし、私の頭を包み込んだ。あっという間に火は消えたが、髪の先から焦げた悪臭が漂ってくる。
私達が火を消している隙に、女性はその場から走り出していた。このままでは逃げられてしまう...そう思った時だった。

「ふぅ...間に合って良かった。」
「ヴィーズ様...!」

遅れてやって来たヴィーズが彼女の前に立ち塞がり、目の前に鋭い氷の刃を向けた。
しかし、彼はジンガのように腰に剣を下げていた訳ではない。一体どこに隠し持っていのだろう?そんな疑問が頭に浮かんだ。

「まだお仲間が居らしたのね...。流石に想定外でしたわ。」
「レディーに向かって、いきなり斬りかかったりはしないよ。このまま大人しく、捕まってくれるならね?」
「あら。その美しい剣がただのお飾りだなんて...勿体ないですわね!」

彼女が睨みつけた先は、剣を握り締める彼の腕だった。突然発火し出す腕を見て、彼は反対側の手から水を発射して即座に消火する。

「に、睨んだだけで火がつくなんて...そんなのあり?」
「私の炎をいとも簡単に消してしまうなんて...あなた達、普通の貴族では無さそうですわね。貴族はただ...威張っているだけの、能無しばかりだと思っていたのだけれど。」
「後ろの彼は元々貴族だったけど、僕は貴族じゃないよ。僕達は騎士だ。」
「騎士...?あなたはともかく、彼はあまり騎士らしくありませんわね。」
「っ...。」

私の手を握りしめていたルスケアの手が、ほんの少し強くなった気がした。彼は唇を噛み締め、黙り込む。

「僕はそう思わないよ。彼はとっても頼りになるからね。」

ヴィーズは前方に手を伸ばし、女性に向かって氷の塊を飛ばした。彼女は身を引いてそれを避けると、氷が細長い形に変化していき、ルスケアの足元に突き刺さる。

「ルーくん!それ使って!」
「は、はい...分かりました!」

私の手を離して突き刺さった氷の棒に駆け寄り、地面から引き抜く。握りしめた彼の手は、冷気によって凍り付いた。

「そんな細い氷で...一体何が...」
「...細い氷だと?こんな上物の武器で戦えるなんて、楽しみで仕方ねぇよ!」

普段からは想像もつかないような言葉を発する彼に、私は驚きを隠せなかった。

「な、なんですの?まるで別人のようになるなんて...。あの氷は一体...」
「おい女!私はヴィーズ様のように、甘くはないぞ!」

彼は武器を構え、彼女に向かって先端を突き刺す。氷の棒は腕をかすめ、白い肌がじんわりと赤く染まる。

「っ...!」

彼女は彼を睨みつけると、肩の布が燃え出した。すると彼は上着を脱ぎ捨て、服が燃えた事など気にも止めずに棒を振り続ける。
その棒先はどこを狙っているのかが分からない程早く、見る見るうちに女性の身体が傷だらけになっていく。

「な、なんて速さ...!でも...あなた方の弱点は、分かっていますのよ!?」

その時、こちらを振り返る彼女と目が合った。また髪を燃やされると思った私は、頭を抑えてその場にしゃがみ込む。

ーパキパキパキ!

熱い熱気ではなく、冷たい冷気が私の頬を撫でる。恐る恐る目を開けると、私の目の前に氷の壁が出来ていた。ヴィーズは私に駆け寄り、肩にそっと手を添える。

「アーちゃん大丈夫?」
「...ビックリ。」
「ほ、本当にビックリしてる...?」

女性とルスケアの攻防は、私達が話をしている間にも繰り広げられていた。

「おい女!よそ見している暇はないぞ!まだまだこんなもんじゃないだろ!」
「す、すみませんでしたわ...!もう私の負けです!観念しますから、どうかお助けを...!」

床に座り込んだ女性に向かって、ルスケアは容赦なく腕を振り上げる。彼の腕が振り下ろされた瞬間、手元の氷が砕け散った。

「...あ、あれ?私...。」

元に戻ったルスケアの元に、ヴィーズがゆっくりと歩み寄っていく。

「ありがとう。ルーくんのおかげで、放火犯捕まえられたよ?」
「え?捕まえた?」

全く状況が飲み込めていないルスケアをその場に残し、私とヴィーズはフィアンマを連れて役所へ向かった。

「魔族の捕獲に加え、消火活動までして頂いて...ありがとうございます。」
「いえ。これが僕達の役割ですから。」

以前ユオダスが不審者をここへ連れて来た時は、役所で悪事を反省する必要があると聞いた事があった。しかし、魔族である彼女はこの後どうなるのだろう?私はこの疑問を、ヴィーズに問いかけた。

「魔族は、本当ならここに居ちゃいけないんだ。だから、ちゃんとお見送りするんだよ。」
「...まぞくとー。帰るの?」
「ううん。もう二度とここへは来ないように、お空へ行ってもらうんだ。」
「...お空?」
「そう。白い雲が浮いてるあのお空だよ。」

その時の私は、空へ行くと言う意味がよく分からなかった。
    
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