青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第3章:使命

第37話

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「あなた方が、ビエント王国からの使者様ですね?お待ちしておりました!」

集会所で待っていたのは、私達をここへ案内したソルにそっくりな青年だった。肝心のソルは私達の隣で、ニコニコと笑顔を浮かべている。

「遠い所から、わざわざお越し下さって感謝致します!私はソル様の従者でございます。タルとお呼び下さい!」
「え?ソル様がタルで、タル様がソルで…?」
「これは驚きました…見れば見る程そっくりですね。」
「驚かせてすみません。私達、双子の姉弟なんです!」
「ソル様の従者がタル様で、タル様の従者がソル様という事は…どちらが長様ですか?」
「「私達2人が長であり、従者なんです!」」

2人は、声を揃えてそう口にした。隣に並ぶ彼等は、どちらがソルでどちらがタルか分からなくなっていた。

「…はぁ。」
「という事は…こちらの親書は、先程ソル様に会った時にお渡しすれば良かったですね。」
「いえ、私達2人が揃わないと国事をしてはいけない決まりなのです。」
「なるほど…そのような事情がおありでしたか…。」
「手間を取らせてしまい、すみません。親書は、今ここで受け取らせて頂きます!」

モーヴが王子の手紙を手渡すと、双子のどちらかそれを受け取って奥の部屋へ姿を消した。

「長旅でお疲れでしょう?ささやかながら、食事を用意させて頂きました。どうぞこちらへ。」

建物を出て外へ招かれると、建物の裏手に用意されていた長テーブルの上に色とりどりの料理が数多く並べられていた。

「うわぁー!ありがとうございます!」
「私は中でソルと話をしておりますので、何かあればお申し付け下さい。どうぞごゆっくり!」

彼は私達に頭を下げ、建物の中へと戻って行った。

「すげぇ料理だな…ほとんど見た事ねぇぞ?」
「グリでも分からへんの…?味が分からへんと、食べるのちょっと勇気いるわぁ…。」
「すみませんが、私はちょっと野暮用がありますので…先に食べていて下さい。」
「わ、分かりました。」

モーヴは私達の元を離れ、建物が立ち並んでいる街の方へと歩いて行った。

「…やぼよー?」
「何か、俺達には言いたくねぇ用事らしい。気にせず食べてようぜ。…どれか気になるのはあるか?」
「…グイと同じやつ。」
「俺に選べってか?仕方ねぇな…。」

皿を手に取り、グリは料理を選び始めた。テーブルの奥にアルトゥンの姿が見え、私は彼の元へゆっくりと歩み寄る。

「…アルト、何食べ…」

何を食べているのかを問うと、彼は私の胸元の服を掴み、その場に持ち上げた。首元が締まり、息を吸うのが苦しくなる。

「お前さえ居なきゃ…。」

彼はポツリと言葉を呟いた。どこかで聞いた事のある台詞に、恐怖の感情で心が満たされていく。強く目をつぶり、私は必死に腕を伸ばした。
すると、突然加わった衝撃で彼の手を逃れ、私の身体は地面に叩きつけられた。

「何やってんだてめぇ!」

グリの怒鳴り声が聞こえて上を見上げると、アルトゥンと同じように胸元を掴んでいた。

「お前には関係あらへんやろ!俺の気持ちなんて知らへんくせに!」

続け様にアルトゥンも怒鳴り声をあげた。彼等は今、私の知らない感情によって突き動かされている。

「てめぇの気持ちだぁ?アスールに何の恨みがあるってんだよ!文句があんなら言ってみろよ!」
「年下のくせに生意気なんよ!俺の方が先に騎士団に入ったっちゅうのに、偉く威張りよって!」

どんどん大きくなる声に私は耐えられなくなり、両手で耳を塞いだ。しかしその声は、塞いだ手を突き抜けて私の耳に届くのだった。

「はぁ!?こいつのどこが威張ってんだよ!」
「ガルセク王子に気に入られて、いい気になっとるんちゃうん!?そういう所がムカつくんよ!」
「んなのは、てめぇの被害妄想だろ!気に入られてぇなら、死ぬ気で努力してみろよ!対した努力もしねぇで、よくそんな大口が叩けたもんだなぁ!」
「何やと!?もういっぺん言うてみぃ!」

彼等は口論だけでは飽き足らず、殴り合いを始めてしまった。その光景を見ていた私の視界が歪み始める。

「...やめて。痛いの...嫌...。」

次々と流れ出す水が頬を伝い、私は再び強く目をつぶった。

「嫌ぁぁぁー!」

叫び声をあげた私を、大きな影が包み込んだ。恐る恐る目を開けると、どこからともなく現れたモーヴが私の前に立っていた。
彼の手には数本のナイフが握られていて、そのうちの1本がアルトゥンの肩に突き刺さっている。

「グリさん。あなたは至って正気に見えるのですが、どうでしょうか?」
「...心配なら、刺しときゃ良いだろ。この状況で刺されても、恨みはしねぇよ。」
「ダメ!」

私はモーヴの腕にしがみつき、大きく首を振った。すると彼は私の身体を振り払い、地面に倒れ込んだアルトゥンの元にゆっくりと歩み寄って行く。

「ではまず、彼をどうするか考えましょう。このままでは、またいつ暴れ出すか分かりません。」
「やめて!!!」

モーヴの元へ駆け寄ろうとした私を、グリが引き止めた。彼に掴まれた腕を必死に振り解こうとするが、私の力では全く歯が立たない。

「お前は危ねぇから近付くな!アルトゥンは、お前を狙っ...」
「離してー!アルトの怪我治すー!」
「何事ですか!?」

騒動を聞き付けたソルとタルが、慌てた様子で建物から出てきた。彼等の協力で側の木にアルトゥンを縛り付け、私は彼に治癒魔法をかけた。
力を使い果たした私はその場で眠りにつき、目が覚めた時には既に夜を迎えていた。見知らぬ部屋の、見覚えのないベッドの上で身体を起こす。

「あ、目が覚めたんですね!」

ソルと思われる女性が、部屋の隅で外を眺めていた。彼女は椅子から飛び降り、私の元へ駆け寄る。
部屋に漂う花の香りが、ふわっと香った。

「お身体の具合はどうですか?」
「...へーき。」
「良かった...!突然倒れられたので心配しましたが...よく魔力切れを起こされるそうですね。騎士様からお聞きしました!」
「...アルトは?」
「怪我をされた騎士様ですね?彼には、別の部屋で休んで頂いてます。命に別状などはありませんので、ご安心下さい!」

治癒魔法をかけはしたものの、彼の傷が治ったかどうかは確認していなかった。彼女の言葉を聞く限り、どうやら怪我を治す事は出来たらしい。

「彼があの様になってしまった責任は、私共にあります。この度は、申し訳ありませんでした!」
「...何で謝る?」

彼女の話によると、アルトゥンの様子がおかしくなったのは、彼が口にした料理が原因だと言う。それは彼女達が用意した料理ではないらしいが、いつの間にかテーブルの上に紛れ込んでいたらしい。
彼はしばらくの間、怒りの感情が抑えられなくなっていたが、今はもう落ち着いたそうだ。

「もし良かったら、これから街を見に行きませんか?すっかり暗くなってしまいましたが...私がしっかりエスコート致しますので!」
「...行きたい。」
「では行きましょう!」

彼女と共に建物を出ると、遠くの方に集会所の屋根が見えた。私が寝ている間に、こちらへ移動したのだろう。

「...しゅーかいじょ、遠い。」
「ここは自宅を兼ねた、宿屋なんです!先程の部屋は、姉のタルの部屋でして...」
「...タルが姉?」
「はい!私は弟です。」

女性だと思っていたソルが弟で、男性だと思っていたタルが姉だという事実を知り、私は驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。

「よく間違えられるんです!双子だからと言う事もありますが...私は女に、姉は男に見られがちなので。」
「...ビックリ。」
「あはは!驚かせてすみません。気を取り直して、街中を見て周りましょう!」

石造りの道をしばらく歩いていると、近くを流れる水の中で丸い木枠がクルクルと回転しているのを見つけた。

「...あれ何?」
「あれは水車と言います!水の流れる力を利用して、発電をしているんです。」
「...水から電気作る?」
「水力発電と呼ばれる技術なんです!詳しい仕組みは、お教え出来ませんが...。水車の他にも、ダムと呼ばれる施設がありますよ!見てみますか?」

彼の案内で連れてこられた場所は、周囲を石の壁で囲まれた大きな湖だった。

「...みずーみ?」
「ここがダムです!形状は湖似ていますが...ここから水を放流して、そのエネルギーを利用して発電するんです。」
「...難しい。」
「じゃあ次は、景色の綺麗な場所に行きましょう!」

次にやって来たのは、小高い丘の上から海を見下ろせる見晴らしの良い場所だった。暗くてハッキリとは見えないが、下の方で波が打ち付ける音が聞こえてくる。

「私も長になりたての頃は、難しい事ばかりで…覚えるのが大変でした。そんな時に、よくここへ来ていたんです!」
「...これが、きれー?」
「はい!昼間に眺める海も綺麗ですが、夜になると星がよく見えるんですよ。こうして横になって、夜空を見るのが好きなんです!」

彼は地面に座って寝転び、空を見上げた。彼の真似をして地面に横たわると、上空で輝く星々が視界いっぱいに広がる。

「こうして綺麗な夜空を眺めていると...難しい事も嫌な事も、ぜーんぶ忘れられるんです。アスール様もそう思いませんか?」
「...よく分からない。」

私には、綺麗というものが何なのか...よく分からない。
アルトゥンやグリが何に対して怒り、争い合っていたのかも私には分からず、気分がモヤモヤする。

「アスール!」

グリの声が聞こえ、その場に身体を起こす。彼は息を切らし、額に汗をかいていた。

「お前...!こんな夜中に...どこ行って...!」
「すみません!私が街を、案内すると言ったんです。」
「それは有難い申し出ですが、こいつに怪我をされたら困ります。ほら、戻...」
「嫌!」

私の腕を掴もうとした、彼の手を強く拒んだ。すると彼は腕を引っ込め、私達に背を向けた。

「...さっさと戻って来い。怪我だの風邪だのひかれたら、困るのはお前だけじゃねぇんだよ。」

彼はそう言い残し、来た道を引き返して行った。

「少々、羽を伸ばしすぎたようですね...。私達も戻りましょう、アスール様。」

ソルと共に宿屋へ戻った私は、慣れない環境の中で浅い眠りについた。
翌朝。食事をご馳走になった後、海岸に停泊していた船の前で、ソルとタルに別れを告げた。

「アスール...足元...」
「...へーき。」

差し出されたアルトゥンの手に触れる事なく、私は船に乗り込んだ。船に揺られ、馬車に揺られて気が付くと、あっという間にシュヴァリエメゾンへ辿り着いたのだった。
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