青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第4章︰迷い

第41話

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「アスール!いい加減起きなよ!」

身体が大きく揺れ、私は目を覚ました。ベッドの上で身体を起こすと、白いエプロン姿のローゼがこちらを見ている。

「...おはよう。」
「おはようじゃないよ!今何時だと思ってるの?もう10時だよ!」
「...またじゅーじ。」
「ほら、さっさと着替えて顔洗って、ご飯食べて!」
「...分かった。」

身支度を済ませて椅子に座ると、私の目の前に料理の乗った皿が置かれた。それは昨日も一昨日も食べた、朝食のフレンチトーストだ。
いつもと違う事と言えば...ローゼが女性物の服を着ていない事と、ルスケアとビオレータが椅子に座っている事だった。

「...みんな何で居る?」
「寝ぼけているのですか?あなた以外は、もうとっくに目が覚めています。」
「まずは、昨日の出来事をおさらいしましょう。アスールくんは、ご飯を食べながら聞いててね?」
「...いただきます。」

昨日、役所に忍び込んだ私達は、横笛が原因でこの村に留まっている事に気が付いた。
ビオレータの推測によると...横笛の音色で眠りに誘われ、何度も何度も同じ夢を見ているのではないかと言う。

「あくまで推測なので不確かではありますが...。あのソメイユという少女が持つ、横笛に原因がある事は間違いないでしょう。」
「横笛を吹かれたら寝てしまうとなると...。どうにか阻止する必要がありますね。」
「あとは...どうやってこの夢から覚めるかも問題だよね?」

3人は意見を出し合い、頭を抱えていた。私にはさっぱり分からないので、とにかく黙って話に耳を傾ける。

「そもそも私達がここへやって来たのは、アスールくんが横笛を奏でたから...。と言う事は、もう1度同じ状況を作れれば...もしかすると、夢から覚めるかも?」
「試してみる価値はありそうですね。横笛を奪う事が出来れば...彼女の演奏を阻止し、夢から覚める事も出来そうですが...。」
「まずは、横笛を探してみるのはどうかな?あと、ソメイユっていう女の子も。」
「そうですね。まずはもう少し、情報を集めましょう。」
「アスールは家で待ってて。」
「...私も行く。」

私の一言で、ローゼは眉間に皺を寄せた。

「...最近、僕達の言う事聞かなくなったよね。前はもっ...」
「アスールくんは、私と一緒に行こう...!お昼頃、一旦家に集まるのはどうかな?」
「...分かったよ。」

私はルスケアと共に家を出て、村の中を歩き始めた。

「ごめんねアスールくん。ローゼくんも...悪気がある訳じゃないんだ。」
「...ロゼ悪くない、分かる。何で怒るか、分からない。」
「アスールくんの事が心配みたいだね。」
「...心配と怒るは同じ?」
「同じでは無いんだけど...説明するのは、ちょっと難しいかなぁ...。」
「...心配、難しい。」
「あら?アスールちゃん...今日はお兄さんの手伝いじゃないのね。」

話をしている私達の元へ、1人の女性が声をかけてきた。彼女はここに住んでいる村人の1人らしく、洗濯物の入ったカゴを腕に抱えている。

「今日は、作業を休もうと思って...。それより...!ソメイユくんを見かけませんでしたか?」
「ソメイユちゃん?さぁ...私は知らないわね。」
「そうですか...。」
「...ソメイウと遊んだ川、どこか知ってる?」
「カカオの栽培場の下を流れる、ソコラート川じゃないかしら?ここから1番近いし、それほど深くないから...子供達が遊んでるのをよく見かけるわ。」
「...ありがとう。」

私が家を出た時、ソメイユの父親と彼女について、会話した時の事を思い出したのだ。彼の話では、私と彼女は川で遊んだ...そう口にしていた。

「...ソメイウ、居ない。」
「家は留守だったし...。一体どこへ行ったんだろう?」
「...あの子に聞いてみる?」

私は視線の先に、川で遊ぶ少年の姿を見つけた。

「こんにちは。ちょっと聞きたい事があるんだけど...良いかな?」
「あれー?ルスケアさん...どうしたの?」
「ソメイユくんを探してるんだけど、どこかで見かけなかったかな?」
「ソメイユ?僕は知らないよ。」
「そっか...ありがとう。」

それから私達は、ソメイユが行きそうな場所を巡り、近くの住民達に話を聞いてまわった。しかし、誰も彼女の行く先に心当たりはなく、何の手がかりも掴めないまま家へ帰る事になった。

「そっちも収穫は無しかぁ...。」
「ソメイユくんの行方は、誰も聞いても知らないって...それだけしか言わないんだ。」
「...知らない?見てないでは無いのですか?」

彼等の言葉の意味分からず、私は首を傾げた。

「そう言われると...見かけたかどうかを聞いたのに、知らないって答えるのは...ちょっと不自然ですね。」
「知らないでも見てないでも...結局は同じ事じゃないの?」
「ソメイユと言う存在は、名前だけの物かも知れません。我々も村人も...誰1人として、彼女の姿を見てないような気がするんです。」
「で、でもあの夜...確かに横笛の音を聞いたよ?それに、女の子が「分かった」って...返事をしてた声も聞こえたよ?」
「最初は不思議だったんです。あの時俺は、複数人の足を確認しました。ですが…そこに子供の足はありませんでした。アスールさんと川で遊んだと言うのであれば、彼女は子供に違いありません。」
「た、たまたま見えなかっただけでしょ...?まさかそんな...足がないのに、どうやって役所に入って来たって言うの!?」
「父親に抱えられていた...もしくは、実態が存在しない幽霊...」
「や、やめてよー!これが幽霊の仕業だって言うの!?流石にそれは、いくら何でもこじつけ過ぎるよ!」

ローゼの顔は、酷く青白くなっていた。彼の表情から、恐怖の感情が感じとれる。

「でも、彼女が幽霊だった場合...村人が知らない理由も納得出来ますね...。」
「ル、ルスケアさんまで...!」
「仮に彼女を幽霊だと過程すると、笛の在処は家族に聞くのが良いと思います。先程は留守のようでしたが、昼過ぎなら居るかもしれません。ローゼさんとアスールさんで話を聞いて来てもらえませんか?」
「何で僕とアスールが一緒に!?」
「あなた1人でも構いませんが、あの家にソメイユさんがいるとも限ら...」
「い、一緒に行こう!アスール!」
「...分かった。」

家を飛び出すローゼの後を追いかけ、私達は道向かいのソメイユの家を訪ねた。

「いらっしゃいローゼちゃん、アスールちゃん。」
「お邪魔します...!」

見るからに優しそうな女性が、私達を家の中へ招き入れた。部屋の中央に置かれたソファーに座るよう促され、ローゼは周囲を気にしながら、私の隣にゆっくりと腰を下ろした。

「うふふ。そんなに緊張しなくてもいいのよぉ?ちょっと待ってねぇ...今、お茶を入れてくるわぁ。」
「あ、ありがとうございます。」

部屋の中を見回すが、横笛らしき物の姿は見当たらない。用意されたお茶を飲みながら、ローゼはソメイユの横笛について彼女に問いかけた。

「横笛?あぁ...!きっとあれの事ねぇ。」 
「そ、それを見せてもらう事は出来ませんか?」
「2階の物置部屋にあったと思うわぁ。持って来るわねぇ。」

彼女が持ってきた細長い箱の中に、例の横笛が入っていた。彼は私に本物であるかを確認し、私は首を縦に振った。

「あの...!この横笛、ちょっとお借りしても良いですか?」
「それは出来ないわねぇ。」
「な、何でですか?」
「夫がとても大事にしてる物なのよぉ。何て言ったかしら?何とかって名前の音楽家...?が使っていた、逸品だとか何とかぁ...。」
「...ソメイウ?」
「そうそれ!そんな名前だったと思うわぁ。あの人、昔から音楽が好きで...」

女性の長話を聞き終えた私達は、2人が待っている家へと帰ってきた。
すると、何やら作業をしているルスケアの姿を見つけ、机の上は様々な道具と材料で散乱していた。

「あ、2人ともおかえり。」
「ルスケアさん...何やってるの?」
「ビオレータさんに頼まれて...ちょっとね。」
「...棒?」
「あ、あはは...。やっぱり横笛には見えない...よね?」
「横笛?まさか、同じような物を作ろうとしてるの?」
「うん。何に使うか分からないけど...本物そっくりな横笛を用意したいんだって。実際に音はならなくても良いって言ってたよ。」
「それなら僕が作るよ。ルスケアさんよりは、上手く作れると思うし。」
「...私も手伝う。」
「手伝うのは構わないけど、邪魔だけはしないでよね?」
「じゃあ、私はお茶でも入れてくるね。」

彼は道具を器用に使いこなし、先程見せてもらった横笛と同じ大きさの棒削り出した。

「流石、ローゼくんは手先が器用だね。」
「ま、こういう作業自体好きだしねー。楽器を作るのは無理でも、似た様な見た目の棒を作るくらい朝飯前だよ!」
「...今、朝じゃない。」
「そーいう意味じゃないの!簡単って事!」
「...楽器は作れない?」
「楽器は、ほんの少し厚みが違うだけで音色が変わるって聞くから...専門家じゃないと難しいと思うよ。」
「僕が出来るのはここまで。これをどうするかは、ビオレータさん次第かな。」

話をしているうちに、ローゼは横笛を完成させていた。彼はルスケアに横笛を手渡し、机の上を片付け始める。

「私は実物を見てないから分からないけど...。アスールくんどう?そっくり?」
「...そっくり。」
「これが朝飯前ってやつだね。」
「...朝飯前、覚えた。」

やる事が無くなって暇を持て余した私は、窓際の椅子に座ってぼんやりと外を眺めていた。日が傾き始め、太陽はオレンジのような橙色に変わっていく。
しばらくして扉が開き、外へ出ていたビオレータが家へ帰ってきた。

「おかえりなさいビオレータさん。頼まれてた横笛、ローゼくんが作ってくれました。」
「流石の出来栄えですね。ありがとうございます。」
「出来栄えはともかく、これをどうするのか早く教えてよ。」
「分かりました。この夢から覚める為の、俺が考えた作戦をお話します。」

ビオレータは、私達にこれからの行動について話し始めた。彼の考えた作戦は、日が暮れてから実行された。
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