青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第6章︰家族

第61話

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その日の夜。眠りについていた私の身体が、大きな音を立てて揺れ始めた。

「ワワッ!地震ダ!」
「…地震?」
「アスールこっち!早く早く!」

隣で寝ていたクロマに腕を引かれ、机の下に身を寄せた。ガタガタと音を立て、棚に並べられたアロマが床に崩れ落ちていく。

「…何で隠れる?」
「これは隠れてるんじゃなくて、身を護ってるノ!地盤の揺れが大きい時は、棚が倒れたりする事もあるから、机やテーブルの下に頭を隠して…」
「アスールくん!大丈夫!?」

揺れが収まるのと同時に扉が開き、ルスケアが部屋へやって来た。机の下から身を乗り出し、彼の元へ歩み寄る。

「…へーき。」
「良かった…。ちゃんと机の下に避難してたみたいだね。誰かに教えてもらったの?」

後ろを振り返ると、先程まで喋っていたクロマが動かなくなっていた。机の下から彼の身体を拾い上げ、両腕で抱き抱える。

「…前にアイル言ってた。」
「そう…なんだ?まさか、あんなに大きな地震が来ると思わなかったから、焦ったよ…。」
「おいルスケア。そっちは大丈夫か?」

彼の後ろから、ユオダスが姿を現した。その隣には、制服に身を包むジンガの姿も見える。

「あ…ユオダスさん…!はい…大丈夫そうです。」
「俺とジンガで、城へ行ってくる。念の為、壊れた備品などが無いか、建物内を確認してくれるか?」 
「分かりました。ジンガくんも気を付けてね。」
「あぁ。行ってくる。」

部屋を出ていく2人を見送ったルスケアは、床に散らばったアロマを拾い上げ、再び棚へと並べ始めた。

「みんなの部屋も掃除しないとなぁ…。もしかしたら、食器なんかも割れてるかも…。」
「…そーじ、手伝う。」
「ありがとうアスールくん。でも、今日はもう遅いから、明日にしよう。ベッドに戻って良いよ。」
「…確認も明日?」
「ううん。今日中に見ておくつもりだよ。あ、でも…アスールくんが寝付くまではここに居るから、安心して?」
「…私も確認する。」
「え?でも…。」

私はクロマを力強く抱きしめ、ルスケアの目を見て訴えかける。彼は断るに断れなかったのか、私と共に建物内の見回りをする事を了承してくれた。
階段を降りて1階へ向かうと、彼は真っ先に書庫へ足を運んだ。

「ビオレータさん。こちらの様子は…」

部屋の中は本で溢れかえっていて、足の踏み場が見当たらない程だった。どうやら先程の揺れで、棚に並べられていた本が崩れ落ちてしまったらしい。
ビオレータは床に散らばった本を拾い集め、テーブルの上に次々と積み重ねていた。

「見て分かりませんか?散々ですよ。」
「す、すみません…!すぐに手伝います!」
「…私も。」

3人で本をかき集め、隙間の空いた棚を次々と埋めていく。高くて届かない場所へは、背の高いルスケアが代わりに本を並べてくれた。

「では、ユオダスさんとジンガさんが城へ向かったんですね。」
「はい。あまり深刻では無いと良いんですが...。」
「…2人、何で城行く?」
「今回の地震のような出来事を、人々は災害と呼んでいます。災害が起きた際、国内の被害状況などを調査し、復興作業をしなければなりません。」
「…復興?」
「例えば…壊れた建物を直したり、建物や土砂なんかに埋まった人を救助したり、怪我した人を治療したり…。元の状態に戻す事を、復興って言うんだ。」
「怪我人の治療が必要な際は、アスールさんも呼ばれるかもしれませんね。」
「…分かった。」

書庫の本が復興され、クロマを抱き抱えた私とルスケアは建物内の見回りを再開した。



「良かった…。割れてる食器は無さそうだね。」

調理場の食器棚を眺めながら、彼は肩をなでおろした。

「あ、そうだ…!アスールくん。ちょっとそこの椅子に座っててくれる?」
「…分かった。」

近くに置かれた椅子へ座るよう促され、私はクロマを抱えたまま腰を下ろす。
すると彼は、小さな鍋に白い液体を注ぎ始めた。しばらく火を通して温まった液体は、取ってのついたコップに注がれていく。さらにスプーンですくい取った砂糖を入れてクルクルとかき混ぜると、私の前にそれを差し出した。

「…これ何?」
「ホットミルクって言うんだ。砂糖も入れたから甘くて美味しいと思うよ。...あ!熱いから、火傷しないように冷ましながら飲んでね?」
 
液体に向かって息を吹きかけると、白い煙と共に甘い香りが鼻を抜けた。

「…甘くて美味しい。」
「ホットミルクには、眠気を誘う効果があるんだ。建物の見回りは済んだから、後は寝るだけだし…丁度良いかと思って。」
「…ルスキャも寝る?」
「うん。明日から忙しくなりそうだからね…少しでも休んでおかないと。」
「…一緒に寝たい。」
「えぇ!?わ、私と!?」
「…ダメ?」
「ダ…ダメと言うか…その…。アスールくんは…怖く…無いの?」
「…怖い。1人で寝るの。」
「そっか…。触れられる事よりも、1人で居る方が怖いんだね…。そのぬいぐるみが一緒でも、眠れなさそう…?」

彼に指をさされたクロマは、ピクリとも動かず沈黙を貫いていた。

「…クオマ、先寝ちゃう。」
「先に…寝る?」
「…ルスキャの歌、聴きたい。」
「それなら、アスールくんが寝るまで部屋に居てあげるから…それで勘弁してくれないかな…?」
「…分かった。」



ルスケアの子守歌で眠りについた翌日、私の元にガルセク王子と世話係のパニがやって来た。

「また貴様の食事中に、邪魔する事になるとはな。」
「今日は何食べてるのー?」
「…オウエツ。」
「オムレツって美味しいよねー!ちゃんとご飯食べて来たのに、見てるとお腹空いてきちゃうなぁー…。」
「貴様の腹の話はどうでも良い。さっさと本題に入れ。」
「はいはーい。」

昨日起きた災害の状況について、パニは私に分かりやすいよう丁寧に説明してくれた。
城周辺に大きな被害は無かったものの、街中の数軒の建物と発電に使われている風車が1つ壊れてしまったらしい。

「我々騎士団も、復興のお手伝いをする訳ですね。」

一緒に話を聞いていたヴィーズが、復興という言葉を口にした。昨日話を聞いていたおかげで、その言葉の意味をすぐに理解する事が出来た。

「他のみんなには、もう動いてもらってるけどー…とにかく人手が足りないんだよねぇ。ヴィーズくんにも手伝ってもらえると助かるよー。」
「青女。貴様には、怪我人の治療を頼みたい。」
「…分かった。」
「では、急ぎ準備をして参ります。」



身支度を済ませて街へ向かうと、いつものような人々の賑わいがすっかり失われていた。

「おい…!あれ、王子様じゃないか?」
「ガルセク様だわ…!」

王子の存在に気が付いた住民達は、彼の姿を見てざわつき始める。

「俺は、住民達と少し話をしてくる。ヴィーズは青女を連れて、先に病院へ向かえ。」
「分かりました。」

王子とパニをその場に残し、病院へ向かって歩き出した。建物の他にも、床の石畳にヒビが入っている場所や石造りの塀が崩れた箇所が目に入る。
病院の中へ足を踏み入れると、以前訪れた時よりも人で賑わっている印象を受けた。

「青女様…!お待ちしておりました。ご足労頂きありがとうございます。」

白い服を着た女性が、私に向かって頭を下げる。

「お勤めご苦労様です。患者はどちらですか?」
「ご案内します。こちらです。」

彼女の案内で向かった先には、ベッドに横たわる住民達の姿があった。以前、城で兵士達を治療した時の事を思い出す。

「こ…ここに居る全員が患者なんですか?」
「はい…。今回の地震は夜中だったので…建物の下敷きになってしまった方が多かったんです。」
「アーちゃん。無理せず休憩しながら、少しずつ治療していこう。」
「…分かった。」

端から順番に、魔法の力で怪我の治療を試みる。

「アーちゃんが魔法を使ってるの、久しぶりに見たけど…。魔力管理が上手になったね。」
「…管理?」
「前は、どのくらいの魔力で治療すれば良いか分からずに、とにかく治そうとしてる感じだったでしょ?でも今は、加減が分かるようになってるなと思って。」
「…見ただけで分かる?」
「うん。僕が止めないと、ずっと魔法を行使してたからね。」

自分ではよく分からないが…彼の目には、私が成長している様に見えたらしい。

「ところでアーちゃん。ずっと治療してるけど、疲れたんじゃない?」
「…へーき。」
「魔力管理が上手くなっても、魔力量は急激に増えはしないよ。完全に魔力が無くなる前に、少しでも供給しておいた方が…」
「嫌…!」

迫り来るヴィーズの手を避けると、彼は表情を曇らせた。

「やっぱり…まだ怖い?」
「…分からない。でも嫌…。」
「…分かった。それじゃ、隣の部屋で少し休んで来て。僕は、ガルセク王子の様子を見に行って来るから。」

部屋から立ち去る彼の背中は、ほんの少し…いつもと違って見えた。

 

「ぐすっ…うっ…。」

部屋の隅で蹲り、痛む身体を両腕で抱え込む。瞳からこぼれ落ちる涙は頬を伝い、膝を濡らした。

ーコンコン

静まり返った部屋の中に、扉を叩く音が響く。私の中の恐怖が込み上げ、抱えた膝に顔を埋めた。

「…ル?入るよ?」

か細い少年の声が聞こえ、扉が開かれる。彼の足音が、私との距離をゆっくりと縮めた。

「…大丈夫?」
「…平気。」
「どこが平気なの?薬を持ってきたから、治療しよう。」
「…要らない。治した所で…どうせまた殴られるもの。」
「いいからほら…!」

腕を掴まれ、鋭い目付きで私を睨む兄の顔が頭をよぎる。

「嫌!!!」

少年の手を払い除けると、彼は両腕で私の身体を引き寄せた。

「僕は殴ったりしない。大丈夫…怖くないよ。」
「っ…。」

優しい温かさに包み込まれ、こぼれ落ちる涙が彼の肩を濡らした。
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