青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第6章︰家族

第69話

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「…これがふーしゃ?」

私の目の前に、小さな石が沢山積み上げられた柱が建っている。ルスケアの話では、これが風車と呼ばれる建造物だと言う。

「そうだよ。ほら、向こうの方にも建ってるでしょ?」

彼の指さす先に、同じような柱が等間隔に並んでいるのが見える。しかし、視線の先にある風車は、上部に取り付けらた木枠がゆっくりと回転していた。

「…これ、他のと違う。」
「壊れてるんだから当たり前でしょ?これを今から僕達で直すんだよ。」

私達の後ろから、ローゼが歩み寄る。彼はいつも持ち歩いている槍の代わりに、使い古された鞄を背負っていた。

「ローゼくん、やる気満々だね。」
「そりゃそうだよ。風車の建築には、僕も携わってたからね。」
「え!?そうだったの?」
「…たずさある?」
「僕がこの風車を作ったって事。これだけじゃなくて向こうにあるのもね。」
「…ロゼ凄い。」
「ま、僕の手にかかれば風車の1つや2…」
「随分大口を叩くようになったな。ローゼ。」

聞き慣れない声が聞こえ、後ろを振り返る。すると、ガルセク王子の護衛係であるアウルムの後ろに2人の男性が立っていた。
1人は彼とアルトゥンの父親であるアウレイドで、先程聞こえた声はもう1人の男性のものという事になる。

「げ…。父さん…。」
「ローゼくんのお父様…!お久しぶりです。以前、街でお会いしましたよね?」
「その節は、お世話になりました騎士様。青女様も久しぶりだな。」

ローゼの父親は、ルスケアとグリの2人と街の警備をしていた時に、喧嘩に巻き込まれた所を助けた事がある。随分前の事で、彼の顔をすっかり忘れてしまっていた。

「なーんだ。もう皆顔見知りなんッスね。紹介する手間が省けて助かるッス。」
「おいおいアウルム。俺の事は紹介してくれへんと困るで?」
「あー…こっちは、俺の父ちゃんッス。」
「アウレイドや。アルトゥンがいつも世話んなっとるな。」
「こちらこそ、いつもお世話になっております。私は、ルスケアです。」
「ローゼです。初めまして。」
「…アスール。」

順番に名乗る彼等を見て、私も自分の名前を口にする。すると、アウレイドは大きな口を開け、笑い声を上げた。

「はっはっは!アスールー。お前は初めましてちゃうやろー?」
「そういえば…俺はまだ名乗っていなかった。ローゼの父のロガートだ。」
「…よろしく。」
「あの…アウルム様。どうしてお2人をここに…?」
「あれ?言ってなかったッスか?今ここにいる全員で、風車を直すんッスよ。父さんには、骨組みや足場を作ってもらって…ロガートさんには、レンガ作りをお願いするつもりッス。」
「なるほど…。」 
「ルスケアは父さんの助手を、ローゼはロガートさんの助手をしてもらうッス。」
「えっ!?助手!?」
「…私は?」
「アスールが出来そうな仕事は、俺が見つけてあげるッスよ。人手が欲しい時に、頼りにしてるッス。」
「…分かった。」

彼の指示に従い、二手に別れて作業をする事になった。私はアウルムの後ろをついて行き、壊れてしまった風車へ歩み寄る。

「これから、風車の周りを囲むような形で足場を建てるッス。」
「...足場?」
「木材や鉄材なんかで枠を作って、高い場所に登りやすくするんッスよ。父ちゃんとルスケアが材料を運んで来ると思うんで、俺等は組み立てを手伝うッス。」

話をしている彼の背後から、大量の木材を抱えてやって来る2人の姿が見え始めた。

「やっぱ、若い者には適わねぇなぁ。」
「私に出来る事は、これくらいしかありませんから…。精一杯、頑張って働きます。」
「それが足場に使う木材ッスか?」
「おいアウルム。騎士様ばっかり働かせてないで、お前も少しは運んで来いや!」
「俺はアスールを見てないとッスから、手が離せないんッスよ。こう見えて忙しいんッス。」
「ほんなら一緒に連れて行けばええやろ。下の荷車に道具が入った布袋があるから、取って来てくれへんか?頼むわーアスール。」
「…分かった。」
「ちょ…!アスールを使うなんて卑怯ッスよ!...って、アスール!俺を置いて1人で行っちゃダメッスよ~!」

私を追いかけて来る彼の後ろから、アウレイドの豪快な笑い声が響き渡った。



「おいアウルム!ちゃんと押さえてへんとダメやないか!」
「父ちゃんのやり方が強過ぎるんッスよ!もっと優しく出来ないんッスか!?」

地面に並べられた板を、両手で押さえるアウルム。道具を叩きつけ、板に向かって細い棒を打ち込むアウレイド。彼等の意見は大きく食い違い、口論に発展していた。

「ふ、2人共...少し落ち着いて下さい。」
「...ふもー。」
「ア、アスールくん...!」
「はっはっはー!お前の意見は不毛らしいで?」
「どの口が言ってるんッスか。父ちゃんのやり方が不毛だって言ってるんッスよ!」
「2人共!こんな所で喧嘩しないで下さい!」

大きく声を荒らげるルスケアを見るのは、これで2回目だった。彼の声が届いた2人は、お互いに顔を見合せて黙り込む。

「...悪ぃな騎士様。ちょっと熱くなっちまった。」
「こんなのいつもの事じゃないッスか。」
「そりゃ、違いねぇわ!はっはっはー!」

笑い合う彼等を見て、私は首を傾げる。先程まで言い争って居たとは思えない程、2人の雰囲気が良くなっていた。

「...喧嘩してたのに笑ってる?」
「そりゃあ...こんなん日常茶飯事で、喧嘩って程や無いからなぁ。」
「...にちじょーさあんじ?」
「日頃からよくやるって事ッス。言い争うのは、今に始まった事じゃないんッスよ。」
「ま、何の自慢にもなりゃしねーけどなぁ?」
「それはそうと、もう少し優しく出来ないんッスか?俺が出来なきゃ、ルスケアだって同じだと思うッスよ?」
「そいつもそうやな...。ほんなら、もうちっと丁寧に釘打ちしてみるわ。」
「アウルム様...!見てるだけでは申し訳ないので、次は私が押さえます。」
「なら、俺とアスールでローゼ達の様子を見てくるッス。」
「おう!こっちは任しとき!」

彼等の元を離れ、アウルムと共に風車の反対側へ向かう。すると、石が積み上がった瓦礫の影から、白い服を着た人物がこちらへ飛び出してきた。

「おっ...と!」
「わ...!?」

勢いよく飛び出したローゼが、アウルムと肩をぶつけ合う。咄嗟に伸ばした腕を互いに掴み合い、倒れる事無くその場に留まった。

「す、すみませんアウルム様!」
「そんなに慌ててどうしたんッスか?」
「あ、いや...その...。」

ローゼは表情を曇らせ、彼から目を逸らす。悲しみと嫌悪の感情が混ざりあった様な、何とも複雑な顔つきだった。

「もう頭は冷えたのか?」

彼の後ろから、ロガートが姿を現した。彼は眉間に皺を寄せ、嫌悪の表情を浮かべている。
するとローゼは、アウルムに向かって頭を下げ、その場から駆け出して行った。

「すみませんアウルム様。倅がご迷惑をおかけしまして...。」
「何かあったんッスか?」
「ちょっとした内輪揉めだ。倅がああなってしまったのは、俺の教育が至らなかったせいだろう...。」
「...うちあもめ?」
「簡単に言うと...喧嘩したって事ッスよね?もう少し、詳しく聞かせてもらっても良いッスか?」

彼等は親子であると共に、師弟関係でもあった。師匠であるロガートは弟子のローゼに強く当たる事が多く、昔から衝突が絶えなかったと言う。

「それで、お互いの意見が上手く噛み合わなかったんッスね。」
「途中で修行を放り出すような弟子が、師に意見するなんて...職人の世界じゃ言語道断だ。」
「正直...職人の世界の事は分からないッスけど、言いたい事を言えない辛さは...俺にも分かるッス。」

彼は以前、家の中で居場所を失い、街を徘徊していた時期があった。言いたい事が言えなかった彼にとって、家出をする事が彼なりの意思表示だったのだろう。

「職人である前に、ローゼは家族なんッスから...弟子としてじゃなく、息子の話を聞いてやって欲しいッス。」
「アウルム様...。」
「作業のやり方さえ教えてもらえれば、俺達で先に始めておくッスよ。ローゼを追いかけたらどうッスか?」
「...ロゼ、海の方行った。」
「気遣い感謝する。ここは1つ、お言葉に甘えさせてもらおう。」

ロガートの指示で壁を作る為の材料を用意し、作業の流れを確認してから彼の背中を見送った。



彼が事前に用意しておいたレンガと呼ばれる四角い石の塊に、接着用の液体を塗って積み重ねていく。一見地味な作業だが、徐々に高くなっていく壁と同様に満足感も増していった。

「もう始めとったんか。悪ぃな、遅くなっちまって。」
「俺がまだ届くくらいッスから、まだまだこれからッスよ。」
「あれ...?ローゼくんとロガートさんは、一緒じゃないんですか?」
「作業に行き詰まってたみたいだったんで、気分転換に行ってもらったッス。」
「ほんなら2人が戻って来た時に、ワッと驚く様な足場を作ったろーやないか!」

アウルムはその場に立ち上がり、意気込むアウレイドの横を通り過ぎて作業の道具を片付け始めた。

「アスール。俺等は邪魔になりそうッスから、少し離れ...」
「おいおいアウルム!アスールはともかく、お前はこっち手伝ってくれへんと困るでー。」
「えー?...仕方ないッスねー。流石に、飯の時間までには土台くらい終わらせたいッスからね...。」
「...アリルのご飯食べたい。」
「そんなに気に入ったんッスか...?じゃ、尚更早く終わらせて、食べに行かないとッスね。」

私を除く3人で、木の板を繋げた部品を組み合わせていく。その高さは、先程アウルムと積み上げた石よりもはるかに高く、見上げると首が痛くなる程だ。

「父ちゃーん。釘が無くなったみたいなんで、ついでに持って来てくれないッスかー?」
「おーう!ちょっと待ってなー。」
「あ、アウルム様...!釘ならこっちに...」

高所で作業をしているアウルムに向かって、足元に置かれた小さな袋をルスケアが掴み取る。すると、彼の腕に抱えられていた木の板が滑り落ち、私の頭上へ迫って来た。

「アスール!」

私の名前を呼ぶ声と共に、強い突風が吹き抜ける。風は勢いよく木の板を吹き飛ばし、草の上に転がり落ちた。
風の吹いた方向を振り向くと、前方に腕を伸ばしたままのローゼが立っている。

「...何?」
「何じゃないよ!もう少しで、ぶつかる所だったんだよ!?下手したら、怪我じゃ済まなかっ...」
「アスールくん大丈夫!?」

私の方へ駆け寄るルスケアは、見た事の無い表情をしていた。彼の肌白い顔から血の気が引き、青白くなっているのが分かる。

「...へーき。」
「気を付けてよルスケアさん!高所で作業する時は、下にもちゃんと気を配らないと大事故に繋がりかねないんだから!」
「そうだよね...。...ごめんなさい。」
「やめろローゼ。騎士様は、こういった作業に慣れていないんだ。この場を離れていた、俺達が悪い。」
「待って下さいッス!ルスケアに鍵を取ってもらった、俺がそもそもの原因ッス。責めるなら俺を...」
「いや待て!アスールの近くにいた俺が、落ちてくる板に反応出来ひんかったのが悪いんや!アウルムは悪くねぇ!」

ロガートがルスケアを庇い。そのロガートをアウルムが庇う。そしてアウルムをアウレイドが庇うこの構図は、一体誰が正しいのだろう?

「...みんな悪い?」
「まぁ...そうなるッスかね?」
「アスールも反省してよね。板が落ちるような場所に居なかったら、こんな事にはならなかったんだから。」
「そ、それは私が悪かったんです!アスールくんは悪くな...」

私を庇おうとするルスケアに対し、ローゼは再び声を荒らげた。

「あーもう!それは分かったってば!...とにかく皆も、少し休憩した方が良いよ。こん詰めて作業したって、何も良い事ないんだから。」
「それもそうやな...。つい楽しくなってしもうて、休むっつー考えは浮かばへんかったわ。」
「じゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらうッス。母ちゃんの飯は、お預けになるかもしれないッスけどね。」
「...悲しい。」
「そ、そんなに落ち込まなくても...。」
「俺は十分休ませてもらったし、作業を引き継ぐか。」
「ぼ、僕も手伝うよ。休んでばかりじゃ、腕だけじゃなくて身体までなまっちゃいそうだしね。」

ローゼとロガートは歩幅を合わせ、風車へ向かって歩き出す。その背中からは、嫌悪の雰囲気は感じられ無かった。
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