青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第8章︰成長

第83話

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「もぉぉぉー...!」

見るからに不機嫌そうで、嫌悪の感情が全身から漏れ出しているローゼが、私の横を通り過ぎて階段を降りて行く。彼の腕には大きめの木箱が抱えられていて、建物から出ていく背中を見送った。
彼が不機嫌になっている理由が気になり、後を追いかけて外へ向かう。

「アスール?こんな所に何の用だ?」

ローゼが向かった先は、彼の仕事場である鍛冶場だった。しかしそこに彼の姿は無く、剣を手にしたユオダスが私を出迎える。

「...ロゼ居ない?」
「ローゼなら向こうに...。」

彼が向けた視線を辿ると、火元の近くに座り込んで作業するローゼの姿を見つけた。彼の元へ歩み寄ろうとすると、ユオダスが両手を広げて私の前に立ちはだかる。

「待てアスール。今は近寄らない方が...」
「...何で?」
「説明してやる。...ついてこい。」

鍛冶場の裏側にやって来た私達は、驚きの光景を目にした。地面に大量の剣が重なり合い、山のように積み上がっている。

「...剣いっぱい。」
「今、ローゼはこれらの修理をしている。」
「...これ全部?」
「...そうだ。だから、奴は今忙しい。忙しいの意味は分かるか?」
「...仕事沢山。」
「ローゼに何の用だったんだ?俺で良ければ代わりに聞こう。」

ローゼに話しかけようとする私を引き止めた理由は分かったが、その代わりに新たな疑問が頭に浮かんだ。

「...ユオアス何してる?」
「俺か?俺は...その...。」
「ユオダスさん...!こんな所で何やってるの!?油売ってないで、少しくらい手伝ってよ!」
「す、すまない!すぐ戻る。」

私達の様子を見に来たローゼの嫌悪は、いつしか怒りに変わっていた。

「...ロゼ怒ってる?」
「あぁ...。武器の事となると、少々神経質に...。すまないが、見ての通り俺も忙しい。用事があるなら後にしてくれ。」
「...分かった。」



鍛冶場を離れて廊下を歩いていると、中庭で横たわるグリの姿が見えた。太陽の日差しと暑さを遮るように、木の影に隠れて昼寝をしている。

「...グイ。」
「ん...?あぁ...アスールか。どうした?」
「...寝てた?」
「これから寝るとこだ。暇ならお前も一緒に寝るか?」
「...寝る。」

眠くは無いが暇なので、彼の隣に腰を下ろす事にした。

「...しんけーしつって何?」
「随分急だな...。なんつーか...小せぇ事に細けぇって感じだ。それがどうした?」
「...ロゼ、しんけーしつなってる。」
「あーなるほどな。あれだけ剣をダメにされたら、そりゃ神経質にもなるわな。」

彼の口ぶりは、鍛冶場に山積みされた剣の理由を知っているかのようだった。

「...何で知ってる?」
「さっきまで、ユオダスと訓練してたからな。そん時に、あいつが何本もへし折ったんだ。」

剣の刃がボロボロになったり、曲がったりした物を見た事はあるが、剣が折れる所は今まで見た事が無い。

「...剣折れる?」
「硬い物を強く叩いたり、傷が出来た所から折れる事もある。そうそう壊れるもんじゃねぇけど。」
「...ユオアス強い?」
「あぁ。あいつは強いぞ。...傷1つ無い剣を、折っちまう腕力の持ち主だからな。」



生暖かい風が頬を撫で、私は閉じていた瞼をゆっくりと開いた。一緒に横たわっていたはずのグリの姿は無く、私の身体を覆う様に薄い布が掛けられている。

「あ、アスールくん。おはよう。」

私の目覚めに気付いたルスケアが、こちらに向かって歩み寄る。彼の後方には、ユオダスの姿も見えた。

「...こんにちは?」
「いいや...こんばんはだな。もう日没の時間は過ぎている。」

空を見上げると、肌を突き刺す様な日差しはもう無くなっていた。一部が欠けた月が上空にのぼり、暗闇を少しづつ広げ始めている。

「...ロゼの手伝いは?」
「少し前に片付いた所だ。ルスケアとの約束が、こんな時間になってしまったがな。」
「...ゆびきいした?」
「指切りする程の事じゃないよ...!ユオダスさんに頼まれて、魔法の練習をしてたんだ。」
「俺の宿している火属性の事は、ルスケアが1番よく知っているからな。まぁ...素質があっても、扱えるかどうかはまた別の話だが...。」
「ユ、ユオダスさんは魔法が無くても、十分強いじゃないですか...!」
「...剣折る力?」
「その言い方は、あまり褒められた気がしないな...。」

彼等の間を吹き抜けた風が、花の香りと共に香ばしい匂いを運んで来る。

「...匂う。」
「匂うって...何が?」
「...焼いた匂い。」
「グリが食事の支度をしているからだろう。肉でも焼いているんじゃないか?」
「...あっちの方匂う。」

匂いがする方を指さすと、視線の先には花が植えられていた。ルスケアがこまめに手入れをしている花壇で、色とりどりの花が地面を彩っている。

「風に乗って向こうから来たと言うだけで、正確な方向まで分かるのか?」
「花壇の方から焼けた匂い...?...まさか!」

何かに気が付いたルスケアが、慌てた様子で花壇に駆け寄る。その様子を眺めていると、燃えるような赤色の花が赤い炎を吹き上げた。

「うわぁ!?花から火が!」
「水だルスケア!急いで消火しろ!」
「は、はい...!」

彼の手から放たれた水が炎を包み込み、あっという間に火種を消し去った。

「はぁ...ビックリしたぁ...。」
「花が急に燃え出すとは...。原因は何だ?」
「...燃える花ある?」
「自然発火する花なんて、聞いた事ないよ...。あくまで私の推測ですが、魔法の練習中に火種が風で飛ばされて...花に燃え移ったのかもしれません。」
「俺の魔法はどれも失敗したように見えたが...奇跡的に成功していたものもあったようだな。」
「と、ともかく、大事になる前に消せて良かったです。アスールくんが、匂いに気付いてくれたお陰だね。」
「...いけんらくちゃく。」
「そんな言葉...どこで覚えたんだ?」



それから私達は風呂場へ向かい、一騒動でかいた汗を流す事にした。

「あ、あの...やっぱり私は後で...。」
「何をそんなに遠慮している?まだ食事も出来ていないなら、先に風呂へ入った方が良いだろう。」

前にルスケアと入ろうとした時も、彼は私と一緒に入る事を拒絶していた。以前は聞く事が出来なかった理由を、改めて彼に問いかける。

「...何で?一緒、嫌?」
「嫌とかじゃなくて...その...。アスールくんは女の子で、私は男だし...。」
「...女の子と男は一緒ダメ?」
「そんな決まりは無い。お前が成人した大人の女であれば問題だが...お前はまだ幼い。」
「年齢の問題でもありませんよ...!家族ならまだしも、他人であ...」

ルスケアは熱弁する途中で言葉を詰まらせ、私の方に視線を向けた。彼がどんな感情を抱いているのか、その表情から読み取る事は出来ないが…喜びや好きの様な、良い感情では無い事は分かる。

「アスール。こいつの事は放っておいて、俺達だけで入ろう。」
「...分かった。」

脱衣所から出て行くルスケアを見て、私は何だか悲しい気持ちになった。



「...ユオアス、髪洗う大変?」
「ん?あぁ...俺の髪が長いのを気にしてるのか?」
「...邪魔ならない?」
「ある程度長さが無いと、髪が結えないからな。」
「...結えない?」

隣で髪を洗うユオダスを見て、私は首を傾げた。すると彼は、肩に垂れ下がった髪をすくい上げ、頭の後ろで1本の束を作ってみせた。

「こうして髪をまとめると、気持ちが引き締まるんだ。気を引き締めて仕事が出来るよう、こうしてわざと髪を伸ばしている。」
「...おーじさまも?」
「ガルセク王子か?さぁ...あの方はどうだろうな。」
「...今度聞く。」
「聞くのは構わないが、失礼の無いように頼むぞ?」
「...分かった。」



風呂と食事を済ませた私は、自室に戻った。椅子の上に座るクロマが、戻った私を出迎える。

「おかえりアスール!今日は休みじゃなかったノ?全然部屋に戻って来ないから、心配したヨ。」
「...忙しいだった。」
「アスールが忙しいなんて珍しいネ...。何したのか話...」
「アスールくん...まだ起きてる?」
「わわっ...ルスケアダ...!」

クロマは慌ててベッドに飛び込むと、布団に顔を突っ込んで頭を覆い隠した。扉を開き、話があるというルスケアを部屋の中に招き入れる。

「...何?」
「その...さっきお風呂に入ろうとした時の事なんだけど...。...ごめんアスールくん!家族じゃない他人だなんて言って...。」
「...何で謝る?」
「悲しそうな顔をしてたから、悪い事したなぁと思って...。」
「...嘘ついてない。」
「それはその...嘘も方便というか...。」
「...ほーべん?」

聞きなれない言葉を耳にした私は、首を傾げた。

「私も、アスールくんの事を家族だとは思いたいよ?けど...私達が家族だと言い張っても、本当の家族にはなれない。どうしてもその事が頭を過ぎって、家族じゃないアスールくんと一緒にお風呂に入るのは...恥ずかしくて...。」
「...恥ずかしい?」

彼の言いたい事がよく分からず、再び首を傾げる。

「アスールくんは、まだ恥ずかしいって感情が戻ってないから分からないんだと思う。アスールくんくらいの年齢の女の子なら、家族とだって一緒にお風呂に入るのは恥ずかしいって思う年頃だと思うし...。」
「...ルスキャの年齢、恥ずかしい?」
「私の年齢がと言うか...私自身がと言うか...。とにかく...!一緒にお風呂は、家族でも入れないって事を伝えたくてあんな言い方...アスールくんに誤解して欲しくないから、謝っておきたかったんだ。」
「...よく分からないけど分かった。」
「ごめん...私の中でもあんまり言葉がまとまらなくて...。」
「...謝る多い。」
「あはは...つい...。」

彼は頭の後ろに手を伸ばし、後頭部をさする様な仕草をした。
私は彼が抱えていた気持ちを聞き、恥ずかしいという感情を知った。しかし、その気持ちを理解するにはまだ少し時間がかかりそうだ。
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