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第7章:移りゆく季節
第81話
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「...肉欲しい。」
「なんだぁ?嬢ちゃん、何の肉が欲しいってぇ?」
「...うた。」
「うたぁ?そんな肉、俺んとこじゃ売っ...」
「豚肉を売って下さい。彼女は俺の連れです。」
一緒に買い物へやって来たビオレータが、店の男に声をかける。
「最初っからそう言えよ...。はいはい豚肉なぁ。」
「...連れ?」
「同行者という意味です。それはそうと...あなたは余計な口を挟まないで下さい。話がややこしくなります。」
「...挟む?」
「...あなたは本当によく喋りますね。」
フードに隠れて表情がよく見えないが、彼は小さくため息をついたような気がした。
「...ダメ?」
「良い悪いの問題ではありません。口は災いの元と言います。必要以上に喋らないのも、大事だと言う事です。」
「...分かった。」
それから2人で街を練り歩き、グリに頼まれた買い物を次々と済ませていく。
「...。」
「...。」
必要以上に喋るなと言われて口を噤む私と、普段から口数の少ないビオレータの間に沈黙が流れる。
賑わいを見せる街中の暗がりに、反射する光が映り込んだ。
「...ビオレ」
彼の名前を呼びかけた瞬間、何かが破裂する様な音が周囲に響き渡る。騒がしい悲鳴と共に飛来物が私を襲い、そこで意識が途切れてしまった。
「...ア...ル!...てる!?」
少年の声が聞こえ、薄れていた意識が連れ戻される。同じような背格好で、歳も近そうな彼は、悲しそうな表情を浮かべていた。
「大丈夫?ボーッとして...どうしたの?」
青色の瞳が、私の顔色を伺い始める。どこか見覚えのある彼の顔は、いくら思い出そうとしても...思い出す事が出来ない。
すると彼は手を伸ばし、私の前髪をかき分けて肌に触れた。その時の私は、不思議と恐怖を感じなかった。
「熱は...無さそうだね。どこか具合でも悪いの?」
「...無い。」
「そう...?なら良いんだけど...。」
額から離れた彼の手が、私の手を握りしめる。冷えきった私の手を、優しく包み込んだ。
「早くリオ様の所に行こう?もしかしたら、ディ...」
「アスールさん!」
名前を呼ばれ、後ろを振り返る。すると、長い廊下の先に立つ男性の姿を見つけた。
「...ビオレタ?」
「彼女をどこへ連れて行くつもりですか!?その手を離して下さい!」
私と彼との間に、少年が割って入る。私を庇う背中越しに、2人の髪が同じ色をしている事に気が付いた。
「あ、あなたは一体誰なんです...!?」
「それは、あなたが1番よく分かっているでしょう?」
「兵の警備を掻い潜って、こんな所まで来るなんて...只者じゃない...。」
「彼女を迎えに来ました。騒ぎを大きくしたくなければ、大人しく彼女を引渡...」
「騒いで困るのはあなたの方です...!」
少年は前方に手を伸ばし、彼に向かって火の玉を放つ。ビオレータの元へ届く前に玉は破裂し、床に水が飛び散った。
「...過去と向き合うのは、少々気が重いですが仕方ありませんね。」
「なっ...!水で打ち消した...?」
「そのように心を乱しては、火しか扱えませんよ?」
「うるさい...!」
彼に向かって、再び火の玉が放たれる。すると今度は、強い風の力によって火の勢いが消し去った。
ビオレータの手元から強風が起こった様に見えたが、先程の爆発も彼が起こしたものなのだろうか?シトリンアイの彼が、光属性以外の魔法を使えるとは思えない。
「...こんなに未熟だったとは、なんと嘆かわしい。」
「くっ...。」
目の前で繰り広げられる魔法対決に、勝ち目が無い事を悟った私は、少年に手を離すよう促す。
「まさか...彼の元に行くつもり?危ないよ!」
「...ビオレタ、危ない無い。」
「...また僕を置いていくの...?ずっと一緒に居るって...指切り...したのに...?」
真っ赤に染った少年の瞳から、涙が溢れ出す。涙が頬を伝い、赤色の瞳がじわじわと青色に変化していく。
「可哀想な少年を演じるのはやめて下さい。見ていて気分が悪くなります。」
ビオレータが少年の腕を掴むと、私を彼から引き剥がした。行き場を失った私は、少し離れた場所で廊下の端に身体を寄せる。
「あなたにだけは言われたくない...!母だけでなく、父の事も見捨てたあなたに!」
「それを知っているという事は、やはりここは幻の世界なのですね。となると...鍵はやはり...」
彼の視線が、私を捕える。その瞳は、色の輝きを失っているように見えた。
「早く逃げて!この人に捕まったら、またディア...」
何かを言いかけた少年の口が、ビオレータの手で塞がれる。すると少年は意識を失い、床に倒れ込んでしまった。
「怪我はしていませんか?」
「...へーき。」
「では帰りましょう。」
「...この人は?」
「先程も言いましたが、ここは幻の世界です。彼もその1人...助ける必要も、義理もありません。」
「...ビオレタの家族?」
「...いいえ。俺が一方的に知っているだけです。」
「...まほー使った?」
「ここは幻の世界ですから、たまたまでしょう。」
幻の世界というのは、私達にとって都合の良い世界らしい。
「...帰りどっち?」
「あなたに眠ってもらえば、直ぐに帰れますよ。」
「...眠る?」
「今日は、いつになく質問が多いですね...。後の事は、全て俺に任せて下さい。分かりましたか?」
「...分かった。」
「...少し顔に触れます。怖くないよう、目をつぶって下さい。」
彼の言われた通り目をつぶり、口を閉ざす。すると、彼の手が私の目元を覆った。手の温もりがじんわりと伝わっていき、それと共に意識も遠くなっていくのを感じた。
「起きましたか?」
薄暗い部屋で、私は目を覚ました。ビオレータの声が聞こえ、その場にゆっくりと身体を起こす。
ベッドの足元にランタンが置かれていて、その灯りで彼は本を読んでいたようだ。
「...どこ?」
「別荘ですよ。それ以外にどこがあるんですか?」
「...長い廊下。」
「...夢でも見ていたのですか?ここは、ビエント城とは違いますよ。」
「...他の皆は?」
「あなたは本当に口が減らないですね...。役所の要請を受けて、魔族を探しています。...まだ見つかっていないようですが。」
「...魔族?」
それから彼は、私が眠っていた間の出来事を話し始めた。
買い出しを終えた帰り、銃を持った魔族に発砲された私は、その場で気を失ってしまった。ビオレータが私を別荘まで連れ帰り、他の騎士達で魔族の捜索をしているのだと言う。
その話を聞いて、路地裏で光が反射していた事を思い出す。
「...あの時、光ってる見えた。」
「気を失う前ですか?...となると、やはりこれは犯人の物で間違いなさそうですね。」
彼の手に握られていたのは、透き通った小さな飴玉だった。以前、アリルと買い出しに行った時に食べた事がある。
「...何で飴?」
「飴はご存知でしたか。犯人は銃を使用し、この飴を発砲しました。ただ、これはただの飴ではありません。」
「...飴だけど、飴違う?」
「この飴からは闇の力を感じます。あくまで俺の仮説ですが...これを食べた者を操る力があるのだと思います。」
「...操る?倒れた違う?」
先程彼は、発砲された私がその場で気を失ったと言った。しかし、この飴に操る力があるという事は、私は倒れずに動いていた事になる。
「厳密には、俺があなたを気絶させました。少々手荒な真似をしたので...話がややこしくならないよう、皆さんには気を失ったとだけ伝えました。」
「...怪我してない?」
「首の後ろが少々痛むかもしれませんが、怪我と言う程では...」
「...私じゃない。」
「俺...ですか?」
首を縦に振ると、彼は目を丸くしてすぐに視線を逸らした。
「...あなたに心配される程ヤワじゃありませんよ。」
「...ヤワ?」
「質疑応答はこれくらいにしましょう。グリさんが食事を作って行って下さったので、下で食べましょう。」
彼と2人で食事をしていると、外に出ていた騎士達が次々と別荘に戻って来た。
皆は口を揃えて私を心配し、魔族の行方について話す。結論はどれも同じで、魔族を捕まえる事は叶わなかったようだ。
長い時間眠ったせいか、眠りについた数時間後に目が覚めてしまった。
私は同室の騎士達を起こさないよう部屋を抜け出し、階段を降りていく。すると、建物の外に動く人影を見つけた。
「休まなくて良いんですか?」
草の上で足を伸ばして座るビオレータの姿は、中々見る事が出来ない貴重な光景だ。
「...沢山寝た。」
「そうでしたね。あれだけ寝れば、眠くないのも分かる気がします。」
「...何してる?」
「星座鑑賞です。今日は天気が良いですから。」
「...せーざかんしょー?」
「星を眺めてるんです。先に言っておきますが、これは授業ではありません。一切の説明を拒否します。」
「...見るのは良い?」
「それは構いませんが、少しだけですよ?明日はビエントに帰る日ですから、また倒れられたら困ります。」
そう言って彼は小さな布を取り出し、草の上にふわりと広げた。
「こちらへどうぞ。草の上に座るよりはマジでしょう。」
「...ありがとう?」
布の上に腰を下ろすと、彼の目線の先にある夜空を眺めた。雲の隙間から垣間見える月と、雲状の光の帯が視界に映る。
「...どうせなら、もっと晴れた日が良かったですね。」
彼が呟く独り言が、私の耳に届いた。その顔は、どこか悲しそうな表情を浮かべている。
「...雲嫌い?」
「嫌いなのではありません。せっかくの天の川が綺麗に見えず、残念なだけです。」
「...沢山星あって、川みたい見える。」
「な、何故知ってるんですか?」
「...本読んだ。」
「あ、あぁ...なるほど。」
「...好き?」
「...いいえ。俺が好きなのは...天の川ではありません。」
「...じゃあ、何で見」
「質問には答えないと言ったはずです。それと、もうすぐ日付が変わります。そろそろ部屋に戻りましょう。」
彼はその場に立ち上がり、私の方に身体を向けた。私も同じように立ち上がり、皺になった布を彼に差し出す。
歩き出した彼の後ろ姿に、どこか悲しそうな雰囲気を感じた。綺麗な星を見れなかった事が、それ程までに悲しかったのだろうか?
「なんだぁ?嬢ちゃん、何の肉が欲しいってぇ?」
「...うた。」
「うたぁ?そんな肉、俺んとこじゃ売っ...」
「豚肉を売って下さい。彼女は俺の連れです。」
一緒に買い物へやって来たビオレータが、店の男に声をかける。
「最初っからそう言えよ...。はいはい豚肉なぁ。」
「...連れ?」
「同行者という意味です。それはそうと...あなたは余計な口を挟まないで下さい。話がややこしくなります。」
「...挟む?」
「...あなたは本当によく喋りますね。」
フードに隠れて表情がよく見えないが、彼は小さくため息をついたような気がした。
「...ダメ?」
「良い悪いの問題ではありません。口は災いの元と言います。必要以上に喋らないのも、大事だと言う事です。」
「...分かった。」
それから2人で街を練り歩き、グリに頼まれた買い物を次々と済ませていく。
「...。」
「...。」
必要以上に喋るなと言われて口を噤む私と、普段から口数の少ないビオレータの間に沈黙が流れる。
賑わいを見せる街中の暗がりに、反射する光が映り込んだ。
「...ビオレ」
彼の名前を呼びかけた瞬間、何かが破裂する様な音が周囲に響き渡る。騒がしい悲鳴と共に飛来物が私を襲い、そこで意識が途切れてしまった。
「...ア...ル!...てる!?」
少年の声が聞こえ、薄れていた意識が連れ戻される。同じような背格好で、歳も近そうな彼は、悲しそうな表情を浮かべていた。
「大丈夫?ボーッとして...どうしたの?」
青色の瞳が、私の顔色を伺い始める。どこか見覚えのある彼の顔は、いくら思い出そうとしても...思い出す事が出来ない。
すると彼は手を伸ばし、私の前髪をかき分けて肌に触れた。その時の私は、不思議と恐怖を感じなかった。
「熱は...無さそうだね。どこか具合でも悪いの?」
「...無い。」
「そう...?なら良いんだけど...。」
額から離れた彼の手が、私の手を握りしめる。冷えきった私の手を、優しく包み込んだ。
「早くリオ様の所に行こう?もしかしたら、ディ...」
「アスールさん!」
名前を呼ばれ、後ろを振り返る。すると、長い廊下の先に立つ男性の姿を見つけた。
「...ビオレタ?」
「彼女をどこへ連れて行くつもりですか!?その手を離して下さい!」
私と彼との間に、少年が割って入る。私を庇う背中越しに、2人の髪が同じ色をしている事に気が付いた。
「あ、あなたは一体誰なんです...!?」
「それは、あなたが1番よく分かっているでしょう?」
「兵の警備を掻い潜って、こんな所まで来るなんて...只者じゃない...。」
「彼女を迎えに来ました。騒ぎを大きくしたくなければ、大人しく彼女を引渡...」
「騒いで困るのはあなたの方です...!」
少年は前方に手を伸ばし、彼に向かって火の玉を放つ。ビオレータの元へ届く前に玉は破裂し、床に水が飛び散った。
「...過去と向き合うのは、少々気が重いですが仕方ありませんね。」
「なっ...!水で打ち消した...?」
「そのように心を乱しては、火しか扱えませんよ?」
「うるさい...!」
彼に向かって、再び火の玉が放たれる。すると今度は、強い風の力によって火の勢いが消し去った。
ビオレータの手元から強風が起こった様に見えたが、先程の爆発も彼が起こしたものなのだろうか?シトリンアイの彼が、光属性以外の魔法を使えるとは思えない。
「...こんなに未熟だったとは、なんと嘆かわしい。」
「くっ...。」
目の前で繰り広げられる魔法対決に、勝ち目が無い事を悟った私は、少年に手を離すよう促す。
「まさか...彼の元に行くつもり?危ないよ!」
「...ビオレタ、危ない無い。」
「...また僕を置いていくの...?ずっと一緒に居るって...指切り...したのに...?」
真っ赤に染った少年の瞳から、涙が溢れ出す。涙が頬を伝い、赤色の瞳がじわじわと青色に変化していく。
「可哀想な少年を演じるのはやめて下さい。見ていて気分が悪くなります。」
ビオレータが少年の腕を掴むと、私を彼から引き剥がした。行き場を失った私は、少し離れた場所で廊下の端に身体を寄せる。
「あなたにだけは言われたくない...!母だけでなく、父の事も見捨てたあなたに!」
「それを知っているという事は、やはりここは幻の世界なのですね。となると...鍵はやはり...」
彼の視線が、私を捕える。その瞳は、色の輝きを失っているように見えた。
「早く逃げて!この人に捕まったら、またディア...」
何かを言いかけた少年の口が、ビオレータの手で塞がれる。すると少年は意識を失い、床に倒れ込んでしまった。
「怪我はしていませんか?」
「...へーき。」
「では帰りましょう。」
「...この人は?」
「先程も言いましたが、ここは幻の世界です。彼もその1人...助ける必要も、義理もありません。」
「...ビオレタの家族?」
「...いいえ。俺が一方的に知っているだけです。」
「...まほー使った?」
「ここは幻の世界ですから、たまたまでしょう。」
幻の世界というのは、私達にとって都合の良い世界らしい。
「...帰りどっち?」
「あなたに眠ってもらえば、直ぐに帰れますよ。」
「...眠る?」
「今日は、いつになく質問が多いですね...。後の事は、全て俺に任せて下さい。分かりましたか?」
「...分かった。」
「...少し顔に触れます。怖くないよう、目をつぶって下さい。」
彼の言われた通り目をつぶり、口を閉ざす。すると、彼の手が私の目元を覆った。手の温もりがじんわりと伝わっていき、それと共に意識も遠くなっていくのを感じた。
「起きましたか?」
薄暗い部屋で、私は目を覚ました。ビオレータの声が聞こえ、その場にゆっくりと身体を起こす。
ベッドの足元にランタンが置かれていて、その灯りで彼は本を読んでいたようだ。
「...どこ?」
「別荘ですよ。それ以外にどこがあるんですか?」
「...長い廊下。」
「...夢でも見ていたのですか?ここは、ビエント城とは違いますよ。」
「...他の皆は?」
「あなたは本当に口が減らないですね...。役所の要請を受けて、魔族を探しています。...まだ見つかっていないようですが。」
「...魔族?」
それから彼は、私が眠っていた間の出来事を話し始めた。
買い出しを終えた帰り、銃を持った魔族に発砲された私は、その場で気を失ってしまった。ビオレータが私を別荘まで連れ帰り、他の騎士達で魔族の捜索をしているのだと言う。
その話を聞いて、路地裏で光が反射していた事を思い出す。
「...あの時、光ってる見えた。」
「気を失う前ですか?...となると、やはりこれは犯人の物で間違いなさそうですね。」
彼の手に握られていたのは、透き通った小さな飴玉だった。以前、アリルと買い出しに行った時に食べた事がある。
「...何で飴?」
「飴はご存知でしたか。犯人は銃を使用し、この飴を発砲しました。ただ、これはただの飴ではありません。」
「...飴だけど、飴違う?」
「この飴からは闇の力を感じます。あくまで俺の仮説ですが...これを食べた者を操る力があるのだと思います。」
「...操る?倒れた違う?」
先程彼は、発砲された私がその場で気を失ったと言った。しかし、この飴に操る力があるという事は、私は倒れずに動いていた事になる。
「厳密には、俺があなたを気絶させました。少々手荒な真似をしたので...話がややこしくならないよう、皆さんには気を失ったとだけ伝えました。」
「...怪我してない?」
「首の後ろが少々痛むかもしれませんが、怪我と言う程では...」
「...私じゃない。」
「俺...ですか?」
首を縦に振ると、彼は目を丸くしてすぐに視線を逸らした。
「...あなたに心配される程ヤワじゃありませんよ。」
「...ヤワ?」
「質疑応答はこれくらいにしましょう。グリさんが食事を作って行って下さったので、下で食べましょう。」
彼と2人で食事をしていると、外に出ていた騎士達が次々と別荘に戻って来た。
皆は口を揃えて私を心配し、魔族の行方について話す。結論はどれも同じで、魔族を捕まえる事は叶わなかったようだ。
長い時間眠ったせいか、眠りについた数時間後に目が覚めてしまった。
私は同室の騎士達を起こさないよう部屋を抜け出し、階段を降りていく。すると、建物の外に動く人影を見つけた。
「休まなくて良いんですか?」
草の上で足を伸ばして座るビオレータの姿は、中々見る事が出来ない貴重な光景だ。
「...沢山寝た。」
「そうでしたね。あれだけ寝れば、眠くないのも分かる気がします。」
「...何してる?」
「星座鑑賞です。今日は天気が良いですから。」
「...せーざかんしょー?」
「星を眺めてるんです。先に言っておきますが、これは授業ではありません。一切の説明を拒否します。」
「...見るのは良い?」
「それは構いませんが、少しだけですよ?明日はビエントに帰る日ですから、また倒れられたら困ります。」
そう言って彼は小さな布を取り出し、草の上にふわりと広げた。
「こちらへどうぞ。草の上に座るよりはマジでしょう。」
「...ありがとう?」
布の上に腰を下ろすと、彼の目線の先にある夜空を眺めた。雲の隙間から垣間見える月と、雲状の光の帯が視界に映る。
「...どうせなら、もっと晴れた日が良かったですね。」
彼が呟く独り言が、私の耳に届いた。その顔は、どこか悲しそうな表情を浮かべている。
「...雲嫌い?」
「嫌いなのではありません。せっかくの天の川が綺麗に見えず、残念なだけです。」
「...沢山星あって、川みたい見える。」
「な、何故知ってるんですか?」
「...本読んだ。」
「あ、あぁ...なるほど。」
「...好き?」
「...いいえ。俺が好きなのは...天の川ではありません。」
「...じゃあ、何で見」
「質問には答えないと言ったはずです。それと、もうすぐ日付が変わります。そろそろ部屋に戻りましょう。」
彼はその場に立ち上がり、私の方に身体を向けた。私も同じように立ち上がり、皺になった布を彼に差し出す。
歩き出した彼の後ろ姿に、どこか悲しそうな雰囲気を感じた。綺麗な星を見れなかった事が、それ程までに悲しかったのだろうか?
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