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第5章︰エーリ学院【前編】
第48話
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「皆さんちゃんと集まりましたかー?出席をとりますよー?」
私達は、授業の一環でエーリの裏手にある森へとやって来た。
下級クラスの生徒以外にも、中級や上級クラスの吸血鬼達が集まり、エーリの生徒全員で行う薬草詰みが始まろうとしていた。1年に何回か行われている行事で、摘んだ薬草で薬を作り、街に寄付するという奉仕活動の様なものらしい。
「昨日も説明しましたが…薬草であればどんなものでも大丈夫なので、沢山集めてください。それから…注意点ですが、出来るだけ1人で行動しない事、日没前にはこの場所に戻る事を守ってくださいね!」
「「はーい。」」
生徒達はそれぞれのグループに別れ、森の中へと入っていった。私達はいつものメンバー4人でグループを作り、同じように森の中を進んだ。
「ねえララちゃん。薬草ってどんなのだっけ?」
少し前を歩いているフランが、その隣を歩く彼女に問いかけた。
「種類によって見た目が全然違うから…。どんなのかって言われると…なんて言っていいか…。」
「あんた、ちゃんと勉強してるの?せめて1個くらい覚えてなさいよ…。」
私の隣を歩いているユイが、彼の背中に向かって言い放った。
「数が多すぎて覚えきれないよ。そう言うユイちゃんは全部覚えてるの?」
「全部は無理よ…他に覚える事があるし…。」
「ほらーやっぱりそうでしょ?」
「私、薬草の図鑑持ってるから、とりあえず取ってみて薬草かどうか見てみるのはどうかな?」
彼女は鞄から分厚い本を取り出すと、後ろを振り返って私達に見せた。
「さすがララ!気が利くわ~。」
「ありがとうララちゃん。助かるよ。」
「そ、そんな…好きで持ち歩いてるだけだから…。」
「え、ララそれいつも持ってるの?」
「うん。そうだよ?」
「凄いね…持ってても使い道なさそうなのに…。」
「薬草の写真を見てるのが好きなの。一切ない水が場所を好んで根付く薬草とか、単体では毒性があるのに別の薬草と合わせると効果が出る薬草とか…夜にしか花を咲かせない薬草とか、色々あるんだよ?」
「夜にしか…花を咲かせない薬草…?」
彼女のその言葉で、ルカと交わしたやりとりを思い出した。
結局その薬草はどんな効能があったのだろうか。ルカは薬を作る時に失敗し、なんの効能もないと言っていたが、もし成功していたらどんな効果があったのだろうか。
「ねえララ。その…夜にしか花を咲かせない薬草って、どんな効能があるの?」
「えっと…ちょっと待ってね…。あ、あった。アスルフロルって言う名前で、効能は…発見されてないみたい。」
「そ、そうなんだ…。」
「そんなの薬草って言えるのかしら?効能があってこその薬草でしょ?」
「でもアスルフロルって、凄くロマンチックな薬草なんだよ?」
「ロマンチック?薬草が…?」
「見た目の話じゃなくて、ロマンチックな昔話があるの。アスルフロルの花を使って作られた薬には、作った人の想いが込められてるって言われてるの。戦争があった時代に、戦地に向かう恋人に渡すのが流行ったらしいよ。」
「へ~。想いが伝わる薬草なのね。そんな変わってる物もあるんだ。」
「…。」
「ルナちゃん…どうかした?」
「あ、ううん!なんでもないよ!…あれ?フランは?」
話をするのに夢中になってしまい、いつの間にか3人になっている事に気づいた。周辺に彼の姿は見当たらない。
「もー…!1人で行動するなって先生に言われたのに!」
「まだ近くにいるかもしれないし探して…」
近くの草むらが音を立てて揺れ、それに驚いて身構えると、草花を沢山抱えたフランが戻って来た。
「フラン!」
「あんたなにやってんのよ!1人で行動するなって言われたでしょう!?」
「あ、ごめん…。薬草っぽい草を見つけて追いかけてたら、いつの間にか川の方まで行っちゃってたよ。これはまずいと思って、一応引き返して来たんだけどね。」
彼は地面に大量の草花を置いた。
「今の間にこんなに摘んできたの…?」
「これは薬草かどうか確認するだけでもかなりかかりそうね…。」
「僕また取りに行ってくるから、ララちゃんは確認しててくれない?」
「それはいいけど…フラン君1人じゃない方がいいよ。ユイちゃんかルナちゃんと一緒に…」
「じゃあ、ルナちゃん一緒に行かない?」
「え、私?いいけど…。」
ちらりとララの方を見ると、彼女はニッコリと笑って私を送り出した。
「どうして私を連れて行こうと思ったの?」
次から次へと草を摘んでいる、彼の背中に声をかけた。
「んー?ユイちゃんだと、怒らせちゃいそうだから。ルナちゃんは、僕が何しても大体許してくれるし。」
「そ、そう…。」
扱いやすい女だと思われているようで、なんだかいい気はしなかった。草でいっぱいになった籠を持ちあげると、それを見て彼が手を伸ばした。
「あ、貸して?僕が持つよ。」
「い、いいよ。私何もしてないし、そんなに重くもないし…。」
「僕が取ったんだし、最後まで僕が責任持つよ。女の子に物を持たせるなんて、気分の良いものじゃないからね。」
彼は私から籠を奪い取ると、すたすたと前を歩き始めた。はぐれないように、小走りで後ろをついて行く。
横で流れている小川を眺めると、透き通った水中に魚が泳ぐ姿があった。
「綺麗な川だね。透き通ってて魚が見える!」
「そうだね。空気も綺麗で美味しいし。あ、着いたよ。」
ララとユイの2人は、既に山のような量の薬草の選別を終えて、床に座って話をしていたようだった。
「おかえり、2人共。」
「うわぁ…またいっぱい採ったわね…。」
彼女達の前に薬草を入れた籠を置くと、ユイは顔をしかめてそう言った。
「結構楽しいね薬草取るの。僕、癖になりそうだよ。」
「薬草を取るのが癖になるなんて聞いた事ないわ…。」
「今度は私が選別するから、ララとフランで行ってきたら?」
籠の中身を地面に広げると、空になった籠をフランに渡した。
「え、いいの?2人で大丈夫?」
「ララの図鑑を借りれば大体わかるわ。あたしは喋ってる方が楽しいし、行ってきなさい。」
「じゃあ行こうかララちゃん。」
「う、うん!」
2人は並んで歩き出すと、そのまま森の奥へ消えていった。
「ねえルナ。フランとどんな話したの?」
「え?えっと…。」
草の上に座り、目の前で山盛りになっている薬草を手に取り、本と見比べながら選別する作業をしていると、ユイも隣に腰を下ろした。
「何よ。あたしの悪口でも話してたの?」
「わ、悪口じゃないよ!どうしてユイじゃなくて、私を連れて行こうと思ったのか聞いただけだよ。」
「フランはなんて?」
「ユイだと怒られるけど、私なら何をしても大体許してくれるから…だって。」
「珍しく正論を言ったわね…。」
「あとは…川が綺麗で魚が見えるねーって話したくらいかな。」
「ふーん。」
「2人はどんな話をしてたの?」
彼女は、作業の手を止める事無く答えた。
「もちろん恋バナよ。」
恋バナと言う一言を聞いて、すぐにララとフランの話だという事がわかった。
「具体的にはどういう…」
「フランへのアタックの方法とか?」
「アタック…!?」
「フランの事好きだって白状させたわ。ま、言わなくてもわかってたけど。」
「そ、それで?」
「ルナが戻ってきたら、なんとかして2人になる方法を考えてたのよ。そしたらあなたが気を利かせて、2人にしてくれたからよかったわ。」
「実は私も考えてたんだよね…。フランと2人で行く事になった時のララがちょっと寂しそうに見えたから…。」
「あとはフラン次第ね。」
「ルナちゃん!ユイちゃん!」
草むらをかき分け、フランとララが慌てた様子で戻って来た。彼の背中には、金髪の少女がおぶさっている。
「あれ?随分早いわね…。もう集めたの?」
「そんな事より大変なの!ユノさんが…。」
彼は背中から草の上に少女を下ろすと、ユイのそっくりな彼女の身体のあちこちが傷だけになっていた。
「なんでこんな…。」
「ユノ…!ねぇユノ!起きなさい!」
ユイは声をかけながら彼女の身体を揺するが、目を閉じたままで動く気配はなかった。
「一体何があったの!?」
「僕達が彼女を見つけた時には、もう既に意識が無かった。辛うじて息はしてるみたいだから、連れてきたんだ。」
「ここの傷…刃物で切られたみたいになってる。森の中でこんな傷がつくなんておかしいよ…。」
彼女の二の腕に、服ごと皮膚を切り裂かれたような傷があり、血が流れ出ていた。
「ララ。確か止血出来る薬草があったわよね?」
「あ、うん…!えっと…これじゃなくて……あった!これだよ!すり潰すと出てくる水分に、止血の効果あるみたい…!」
ララが籠の中から薬草を探し出すと、ユイは自分のスカートの裾をビリビリと破き始めた。
「ユ、ユイ…!?」
「それ貸して!」
ララの手から奪うように薬草を取ると、石の上で水分が出るまですり潰し、先程破いた服で傷口に薬草を巻き付けた。
「これで…大丈夫よね?」
「多分…。でも、先生の所に連れて行った方がいいかも…!」
「なら僕がまたおぶるよ。」
「うん…お願…」
「ちょっとちょっと~。何してくれちゃってるのよ~。」
吸血鬼と思われる3人組が、草むらの奥からゆっくりとこちらに近付いてきた。
フランに背負われた彼女を守るように、ユイが前に立ちはだかる。
「誰よあんた達。」
「おいおいマジかよ。下級のくせに俺ら上級に楯突くなんて。」
「知らないんじゃないっすか?俺らの凄さをさ。」
「上級吸血鬼の方が、一体私達になんのご用ですか?」
私もユイの隣に立ち、出来る限り刺激しないように丁寧な口調で彼等に問いかけた。
「…そこの女。そいつに用があんだよ。」
彼が指をさしたのは、フランの背中だった。
「え、僕ですか?あなた達とは初めて会うと思うんですけど…何の御用ですか?」
「てめーじゃねぇよ!女だっつったろ!」
フランの勘違いにより、彼等は刺激されて激怒した。そのうちの1人がナイフを構え、彼に斬りかかっていく。
ーキィン!
剣と剣がぶつかり合う音が響くと、そこには見たことの無い青年が、大きな剣でナイフを押さえ込んでいた。赤茶色の髪色をしていて、寝癖のせいか髪が立っている。彼の黒い瞳が、相手の目をまっすぐと捉えていた。
「次から次へと…何様だてめぇ!」
「あなたこそ!上級吸血鬼ならば、俺達中級や下級の吸血鬼達に、手本となる行動をするべきでは無いのですか!?」
「うるせぇ!」
競り合っていた剣が弾き飛ばされて距離が開くと、後ろにいた別の吸血鬼が青年に斬りかかっていった。
「今のうちに、ララとフランはユノさんを連れて行って!」
「ユイちゃんとルナちゃんは!?」
「私達なら大丈夫よ。魔法であの人に応戦するわ。」
「わかった。2人共気をつけてね。」
「あんたこそ、ララとユノを守りなさいよ!?」
「もちろんだよ。任せて。」
2人が走り出すと、青年に気を取られていた上級吸血鬼の1人が、こちらの動きに気づいた。
「待やがれ!」
「“血の盟約は互いの友好の証。我が血を糧とし力に変え、我が意思に従え。アナイアレイション!”」
ユイが呪文を唱えると、彼等の近くで爆発を起こし、相手を吹き飛ばした。
「下級のくせに…でかい魔法ぶちかましやがって…!」
「ここは俺に任せて、君達も逃げて!」
「さすがにあなた1人で、3人相手は無理よ!」
「私達が出来る限り応戦します…!」
「そうか…なら俺が切り込むから援護をお願い。」
「はい!」
しばらく私達の乱闘は続いた。
青年が大きな剣を振りかぶり、相手の動きを封じた所にユイと私が魔法を打ち込んだ。しかし、相手の魔法に打ち消されてしまい、それを長時間繰り返していた。
「…はぁ…はぁ…。」
ユイの魔力が徐々に削られ、かなり消耗している様子だった。
「流石に…上級だけあって、手強いね…。」
青年も剣を地面に突き立て、かなり疲れているようにみえる。
「どうした?威勢よく吠えてた割には大した事ねーな!」
「くっ…。」
「ユイ…あと何回魔法出来そう?」
「そうね…あと1回くらいかしら…。」
「なら…あとは私がなんとかするから、ユイはここぞという時に魔法を使って。」
「わ、わかったわ…。」
「相談、終わったー?」
私達の後ろに回り込んでいた上級吸血鬼の1人が、ナイフを振り上げた。
「なっ!?」
「ルナ!」
彼女は咄嗟に私に抱きつき、振り下ろされたナイフが彼女の肩を突き刺した。
「っ!?」
「ユイ!」
彼女の身体が重くのしかかり、私の身体ごと地面に倒れた。頭に強い衝撃が伝わり、視界が揺れて真っ暗になってしまった。
私達は、授業の一環でエーリの裏手にある森へとやって来た。
下級クラスの生徒以外にも、中級や上級クラスの吸血鬼達が集まり、エーリの生徒全員で行う薬草詰みが始まろうとしていた。1年に何回か行われている行事で、摘んだ薬草で薬を作り、街に寄付するという奉仕活動の様なものらしい。
「昨日も説明しましたが…薬草であればどんなものでも大丈夫なので、沢山集めてください。それから…注意点ですが、出来るだけ1人で行動しない事、日没前にはこの場所に戻る事を守ってくださいね!」
「「はーい。」」
生徒達はそれぞれのグループに別れ、森の中へと入っていった。私達はいつものメンバー4人でグループを作り、同じように森の中を進んだ。
「ねえララちゃん。薬草ってどんなのだっけ?」
少し前を歩いているフランが、その隣を歩く彼女に問いかけた。
「種類によって見た目が全然違うから…。どんなのかって言われると…なんて言っていいか…。」
「あんた、ちゃんと勉強してるの?せめて1個くらい覚えてなさいよ…。」
私の隣を歩いているユイが、彼の背中に向かって言い放った。
「数が多すぎて覚えきれないよ。そう言うユイちゃんは全部覚えてるの?」
「全部は無理よ…他に覚える事があるし…。」
「ほらーやっぱりそうでしょ?」
「私、薬草の図鑑持ってるから、とりあえず取ってみて薬草かどうか見てみるのはどうかな?」
彼女は鞄から分厚い本を取り出すと、後ろを振り返って私達に見せた。
「さすがララ!気が利くわ~。」
「ありがとうララちゃん。助かるよ。」
「そ、そんな…好きで持ち歩いてるだけだから…。」
「え、ララそれいつも持ってるの?」
「うん。そうだよ?」
「凄いね…持ってても使い道なさそうなのに…。」
「薬草の写真を見てるのが好きなの。一切ない水が場所を好んで根付く薬草とか、単体では毒性があるのに別の薬草と合わせると効果が出る薬草とか…夜にしか花を咲かせない薬草とか、色々あるんだよ?」
「夜にしか…花を咲かせない薬草…?」
彼女のその言葉で、ルカと交わしたやりとりを思い出した。
結局その薬草はどんな効能があったのだろうか。ルカは薬を作る時に失敗し、なんの効能もないと言っていたが、もし成功していたらどんな効果があったのだろうか。
「ねえララ。その…夜にしか花を咲かせない薬草って、どんな効能があるの?」
「えっと…ちょっと待ってね…。あ、あった。アスルフロルって言う名前で、効能は…発見されてないみたい。」
「そ、そうなんだ…。」
「そんなの薬草って言えるのかしら?効能があってこその薬草でしょ?」
「でもアスルフロルって、凄くロマンチックな薬草なんだよ?」
「ロマンチック?薬草が…?」
「見た目の話じゃなくて、ロマンチックな昔話があるの。アスルフロルの花を使って作られた薬には、作った人の想いが込められてるって言われてるの。戦争があった時代に、戦地に向かう恋人に渡すのが流行ったらしいよ。」
「へ~。想いが伝わる薬草なのね。そんな変わってる物もあるんだ。」
「…。」
「ルナちゃん…どうかした?」
「あ、ううん!なんでもないよ!…あれ?フランは?」
話をするのに夢中になってしまい、いつの間にか3人になっている事に気づいた。周辺に彼の姿は見当たらない。
「もー…!1人で行動するなって先生に言われたのに!」
「まだ近くにいるかもしれないし探して…」
近くの草むらが音を立てて揺れ、それに驚いて身構えると、草花を沢山抱えたフランが戻って来た。
「フラン!」
「あんたなにやってんのよ!1人で行動するなって言われたでしょう!?」
「あ、ごめん…。薬草っぽい草を見つけて追いかけてたら、いつの間にか川の方まで行っちゃってたよ。これはまずいと思って、一応引き返して来たんだけどね。」
彼は地面に大量の草花を置いた。
「今の間にこんなに摘んできたの…?」
「これは薬草かどうか確認するだけでもかなりかかりそうね…。」
「僕また取りに行ってくるから、ララちゃんは確認しててくれない?」
「それはいいけど…フラン君1人じゃない方がいいよ。ユイちゃんかルナちゃんと一緒に…」
「じゃあ、ルナちゃん一緒に行かない?」
「え、私?いいけど…。」
ちらりとララの方を見ると、彼女はニッコリと笑って私を送り出した。
「どうして私を連れて行こうと思ったの?」
次から次へと草を摘んでいる、彼の背中に声をかけた。
「んー?ユイちゃんだと、怒らせちゃいそうだから。ルナちゃんは、僕が何しても大体許してくれるし。」
「そ、そう…。」
扱いやすい女だと思われているようで、なんだかいい気はしなかった。草でいっぱいになった籠を持ちあげると、それを見て彼が手を伸ばした。
「あ、貸して?僕が持つよ。」
「い、いいよ。私何もしてないし、そんなに重くもないし…。」
「僕が取ったんだし、最後まで僕が責任持つよ。女の子に物を持たせるなんて、気分の良いものじゃないからね。」
彼は私から籠を奪い取ると、すたすたと前を歩き始めた。はぐれないように、小走りで後ろをついて行く。
横で流れている小川を眺めると、透き通った水中に魚が泳ぐ姿があった。
「綺麗な川だね。透き通ってて魚が見える!」
「そうだね。空気も綺麗で美味しいし。あ、着いたよ。」
ララとユイの2人は、既に山のような量の薬草の選別を終えて、床に座って話をしていたようだった。
「おかえり、2人共。」
「うわぁ…またいっぱい採ったわね…。」
彼女達の前に薬草を入れた籠を置くと、ユイは顔をしかめてそう言った。
「結構楽しいね薬草取るの。僕、癖になりそうだよ。」
「薬草を取るのが癖になるなんて聞いた事ないわ…。」
「今度は私が選別するから、ララとフランで行ってきたら?」
籠の中身を地面に広げると、空になった籠をフランに渡した。
「え、いいの?2人で大丈夫?」
「ララの図鑑を借りれば大体わかるわ。あたしは喋ってる方が楽しいし、行ってきなさい。」
「じゃあ行こうかララちゃん。」
「う、うん!」
2人は並んで歩き出すと、そのまま森の奥へ消えていった。
「ねえルナ。フランとどんな話したの?」
「え?えっと…。」
草の上に座り、目の前で山盛りになっている薬草を手に取り、本と見比べながら選別する作業をしていると、ユイも隣に腰を下ろした。
「何よ。あたしの悪口でも話してたの?」
「わ、悪口じゃないよ!どうしてユイじゃなくて、私を連れて行こうと思ったのか聞いただけだよ。」
「フランはなんて?」
「ユイだと怒られるけど、私なら何をしても大体許してくれるから…だって。」
「珍しく正論を言ったわね…。」
「あとは…川が綺麗で魚が見えるねーって話したくらいかな。」
「ふーん。」
「2人はどんな話をしてたの?」
彼女は、作業の手を止める事無く答えた。
「もちろん恋バナよ。」
恋バナと言う一言を聞いて、すぐにララとフランの話だという事がわかった。
「具体的にはどういう…」
「フランへのアタックの方法とか?」
「アタック…!?」
「フランの事好きだって白状させたわ。ま、言わなくてもわかってたけど。」
「そ、それで?」
「ルナが戻ってきたら、なんとかして2人になる方法を考えてたのよ。そしたらあなたが気を利かせて、2人にしてくれたからよかったわ。」
「実は私も考えてたんだよね…。フランと2人で行く事になった時のララがちょっと寂しそうに見えたから…。」
「あとはフラン次第ね。」
「ルナちゃん!ユイちゃん!」
草むらをかき分け、フランとララが慌てた様子で戻って来た。彼の背中には、金髪の少女がおぶさっている。
「あれ?随分早いわね…。もう集めたの?」
「そんな事より大変なの!ユノさんが…。」
彼は背中から草の上に少女を下ろすと、ユイのそっくりな彼女の身体のあちこちが傷だけになっていた。
「なんでこんな…。」
「ユノ…!ねぇユノ!起きなさい!」
ユイは声をかけながら彼女の身体を揺するが、目を閉じたままで動く気配はなかった。
「一体何があったの!?」
「僕達が彼女を見つけた時には、もう既に意識が無かった。辛うじて息はしてるみたいだから、連れてきたんだ。」
「ここの傷…刃物で切られたみたいになってる。森の中でこんな傷がつくなんておかしいよ…。」
彼女の二の腕に、服ごと皮膚を切り裂かれたような傷があり、血が流れ出ていた。
「ララ。確か止血出来る薬草があったわよね?」
「あ、うん…!えっと…これじゃなくて……あった!これだよ!すり潰すと出てくる水分に、止血の効果あるみたい…!」
ララが籠の中から薬草を探し出すと、ユイは自分のスカートの裾をビリビリと破き始めた。
「ユ、ユイ…!?」
「それ貸して!」
ララの手から奪うように薬草を取ると、石の上で水分が出るまですり潰し、先程破いた服で傷口に薬草を巻き付けた。
「これで…大丈夫よね?」
「多分…。でも、先生の所に連れて行った方がいいかも…!」
「なら僕がまたおぶるよ。」
「うん…お願…」
「ちょっとちょっと~。何してくれちゃってるのよ~。」
吸血鬼と思われる3人組が、草むらの奥からゆっくりとこちらに近付いてきた。
フランに背負われた彼女を守るように、ユイが前に立ちはだかる。
「誰よあんた達。」
「おいおいマジかよ。下級のくせに俺ら上級に楯突くなんて。」
「知らないんじゃないっすか?俺らの凄さをさ。」
「上級吸血鬼の方が、一体私達になんのご用ですか?」
私もユイの隣に立ち、出来る限り刺激しないように丁寧な口調で彼等に問いかけた。
「…そこの女。そいつに用があんだよ。」
彼が指をさしたのは、フランの背中だった。
「え、僕ですか?あなた達とは初めて会うと思うんですけど…何の御用ですか?」
「てめーじゃねぇよ!女だっつったろ!」
フランの勘違いにより、彼等は刺激されて激怒した。そのうちの1人がナイフを構え、彼に斬りかかっていく。
ーキィン!
剣と剣がぶつかり合う音が響くと、そこには見たことの無い青年が、大きな剣でナイフを押さえ込んでいた。赤茶色の髪色をしていて、寝癖のせいか髪が立っている。彼の黒い瞳が、相手の目をまっすぐと捉えていた。
「次から次へと…何様だてめぇ!」
「あなたこそ!上級吸血鬼ならば、俺達中級や下級の吸血鬼達に、手本となる行動をするべきでは無いのですか!?」
「うるせぇ!」
競り合っていた剣が弾き飛ばされて距離が開くと、後ろにいた別の吸血鬼が青年に斬りかかっていった。
「今のうちに、ララとフランはユノさんを連れて行って!」
「ユイちゃんとルナちゃんは!?」
「私達なら大丈夫よ。魔法であの人に応戦するわ。」
「わかった。2人共気をつけてね。」
「あんたこそ、ララとユノを守りなさいよ!?」
「もちろんだよ。任せて。」
2人が走り出すと、青年に気を取られていた上級吸血鬼の1人が、こちらの動きに気づいた。
「待やがれ!」
「“血の盟約は互いの友好の証。我が血を糧とし力に変え、我が意思に従え。アナイアレイション!”」
ユイが呪文を唱えると、彼等の近くで爆発を起こし、相手を吹き飛ばした。
「下級のくせに…でかい魔法ぶちかましやがって…!」
「ここは俺に任せて、君達も逃げて!」
「さすがにあなた1人で、3人相手は無理よ!」
「私達が出来る限り応戦します…!」
「そうか…なら俺が切り込むから援護をお願い。」
「はい!」
しばらく私達の乱闘は続いた。
青年が大きな剣を振りかぶり、相手の動きを封じた所にユイと私が魔法を打ち込んだ。しかし、相手の魔法に打ち消されてしまい、それを長時間繰り返していた。
「…はぁ…はぁ…。」
ユイの魔力が徐々に削られ、かなり消耗している様子だった。
「流石に…上級だけあって、手強いね…。」
青年も剣を地面に突き立て、かなり疲れているようにみえる。
「どうした?威勢よく吠えてた割には大した事ねーな!」
「くっ…。」
「ユイ…あと何回魔法出来そう?」
「そうね…あと1回くらいかしら…。」
「なら…あとは私がなんとかするから、ユイはここぞという時に魔法を使って。」
「わ、わかったわ…。」
「相談、終わったー?」
私達の後ろに回り込んでいた上級吸血鬼の1人が、ナイフを振り上げた。
「なっ!?」
「ルナ!」
彼女は咄嗟に私に抱きつき、振り下ろされたナイフが彼女の肩を突き刺した。
「っ!?」
「ユイ!」
彼女の身体が重くのしかかり、私の身体ごと地面に倒れた。頭に強い衝撃が伝わり、視界が揺れて真っ暗になってしまった。
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だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
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