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第11章︰上に立つ者
第101話
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「ただいま~ルカ。」
幹部になり、あっという間に月日が流れていった。起きている間はヴェラに頼まれた薬を作り、夢の中ではルカと共に薬を作り、寝ても覚めても薬を作る日々が続いていた。
「おかえり。…随分沢山取ってきたね。」
「あはは…つい夢中になって取りすぎちゃった。」
私は薬草でいっぱいになった籠をテーブルの上に置くと、彼の隣に腰を下ろした。
「薬ばっかり作ってて、疲れない?」
「それを言ったら、ルカだって薬ばっかり作ってるじゃん。」
「そ、そうだけど…。」
「ルカに追いつくのが目標だもん!頑張らないと!」
机に広げた薬草を手に取り、仕分けの作業を始めた。
「ルナって結構負けず嫌いだよね。そういう所は似てないよね~僕達。」
「ルカだって、私と張り合ってた時あったよ?私だけ悪いみたいに…」
「ごめんごめん。そういうつもりで言った訳じゃないよ。」
「本当に~?」
「ほんとほんと!あ、そうだ。紅茶入れるね。」
「ん!ありがとう~。」
奥の方へ歩いて行った彼と入れ替わるようにして、2階からミグが階段を駆け下りてきた。
「ちょっとミグ~。家の中を走らな…」
「大変なんだ!お前の部屋に何かが侵入した。」
「な、何かって!?」
「それが…。異変は感じたんだが、何故だか身体の外に出ていけなくて、確認のしようがないんだよ…。」
「わかった。私が起きて確認してみる。」
「気をつけろよ。何が襲ってくるかわからないからな。」
「うん…。」
私は階段を駆け上がると、自室のベッドに横たわった。
起きた事を気づかれないように、ほんの少しだけ目を開いて部屋の中を見回した。すると、暗い部屋の中で何やら動く物があることに気づいた。
『人みたいだけど…。やっぱりミグの言ってた通り、誰かが侵入したんだ…。』
謎の人物は何か物を盗む様子はなく、ただ部屋の中をウロウロと歩き回っているようだった。侵入者が背を向けている隙をついて、頭の下の枕を思い切り投げ飛ばした。すかさず魔法の詠唱を始めたが、侵入者の手によって口が塞がれてしまい、ベッドの上に押し倒された。
「…起きた?」
侵入者は、低い声でそう言った。上から下まで全身真っ白な装いで、目元は仮面で隠されている。どうやら彼は、以前出会った事のあるアサシンのようだった。
「んー…!」
「できれば騒がないでくれると嬉しいな。」
思っていた以上に優しい口調の彼に驚いていると、彼は押さえつけていた腕の力をほんの少しだけ弱めた。
「…大人しくしてくれる?」
「ん…。」
私は彼の言葉に素直に頷くと、口元から手が離れた瞬間に思い切り手を振り払った。私の手は彼の顔に当たり、身につけていた仮面が部屋の隅に飛んでいった。
「ぇ……フラン…?」
仮面が外れた彼の顔は、エーリ学院上級吸血鬼フランドルフルクだった。彼の右目が赤に染まっているのに気づき、私はさらに問いかけた。
「ルドルフ!?どうして…!」
「ルドルフじゃないよ。今の僕はフランだ。」
「そんな事聞きたいんじゃない!どうしてアサシンの姿で、レジデンスに忍び込む様な事をして…」
「あまり喋ってる暇はないんだけど。」
「質問に答えて…!」
「答えたら、協力してくれる?」
「協力…?何をするつもりなのか話してもらわないと、協力のしようがないよ。」
「それもそうだね…。なら手短に言うよ。僕の目的は、ラギト様の暗殺。」
「暗…殺…?」
「そう。」
彼は淡々とした口調で、短く言い放った。フランらしい喋り方はするものの彼の優しさはどこかに消え、言葉の1つ1つに冷たさを感じた。
「そんなの協力出来るわけない…!」
「質問に答えたら、協力してくれるんじゃないの?」
「何でも協力するとは言ってない!」
「なら…無理にでも協力してもらうしかないね。」
彼は私の上にのしかかり、腕を押さえつけた。
「やめて…!離して!」
「大人しく従えば危害は加えない。」
「ルドルフお願い!こんな事…フランにさせないで!」
「何を言っている?あいつも同意の上だ。」
「ぇ…?」
「“血の盟約は互いの友好の証。我が血を糧とし…」
「何をするの!?やめ…」
「…意思に従え。フェアヴィルング”」
彼の魔法が発動した瞬間、目の前が真っ暗になり、私は意識を失ってしまった。
「おはようルナちゃん。」
暗い部屋の中で目を覚ますと、ベッドの端にフランが座っていた。彼は手を差し出し、私はそれを握り返して身体を起こした。
『あれ…?身体が勝手に動いてる…?』
自分の身体のはずが、別の誰かに動かされているような感覚になり、自分の意思で身体を動かす事が出来なくなっていた。
「ねぇ、ルナちゃん。…僕の事好き?」
「うん。好き。」
『えー///!?何を言ってるの私///!』
動きだけでなく口までも言う事を聞かず、普段なら絶対に言わない台詞を口にしていた。
『そっか…!さっきルドルフが詠唱した魔法のせいで、身体が操られてるんだ…!』
私が気を失う前、ルドルフの力で魔法にかけられた事を思い出した。彼が唱えた“フェアヴィルング”は、生き物の意識を乗っ取り洗脳する、難度の高い念力属性の魔法だった。
「なら、僕のお願いも聞いてくれるよね?」
「もちろん!なんでも言って?」
「これを、ラギト様に飲ませてきて。ルナちゃんは飲んじゃ駄目だよ?」
彼は、ポケットから液体が入った小瓶を取り出すと、私の手に握らせた。
『まさかこれ…毒物じゃ…!』
心の中では拒んでいても、今の私は彼の言葉に従うしかなかった。
「うん。わかった。」
「よろしくね。ルナちゃん。」
レーガの部屋に向かう途中、私は食堂で2人分のミルクティーを作った。片方は普通のミルクティーだが、もう片方には先程フランから受け取った液体が入っている。
『このままじゃレーガが危ない…。けど…どうしたら…。』
私は以前、この魔法にかけられたララの事を思い出した。この魔法を解くには、術者であるフランが攻撃されるか、魔法にかけられた私自身が気絶するしか方法がない。
言う事を聞かない私の身体は、レーガの部屋の扉を叩いた。
「あれー?こんな時間にどうしたの?」
「なんだか眠れなくて…。レーガとお話したいなと思って!」
「そうなの?嬉しいな~。」
彼に招かれて部屋の中に入ると、ベッドの端に並んで腰を下ろした。テーブルの上にお盆を置き、毒を入れたミルクティーのカップを手に取った。
「ミルクティーを作って来たよ。はいこれ!レーガの分。」
「ん。ありがとうルナ。」
私が手渡したカップを受け取ると、彼は何の疑いもなくそれに口をつけた。
「っ…!?」
彼の手から滑り落ちたカップが地面に叩きつけられ、粉々に砕け散った。彼は床に手を付き、口に含んでいたミルクティーを吐き出した。
「げほっ…げほっ…!」
「大丈夫?レーガ。」
私は腰に忍ばせていたナイフを取り出すと、背後から彼に向かって腕を振り下ろした。ナイフは彼の肩に突き刺さり、服が赤く滲みだした。
「ぐっ…!」
抜き取ったナイフを再び振りかざすと、彼は横に身体を回転させて私の攻撃をかわした。背後の壁に背中をつけ、刺された肩を手で抑えながらその場にゆっくりと立ち上がった。
「一体誰なの…?こんな悪趣味な作戦考えたのは…。」
「ごめんねレーガ。それは言えないの。」
「そりゃそうだよね…。ちょっと飲んじゃったせいで身体も痺れてるし…どうしたもんかな…。」
口に含んだ毒が少量だった事で死には至らなかったが、身体が痺れて上手く動かせない様子だった。
「大丈夫だよレーガ。次はちゃんと、心臓を狙うから。」
「はは…。ほんと…タチ悪いなぁ…。」
「レーガ…!」
勢いよく開いた扉から、エレナが部屋の中に飛び込んで来た。
「エレナ…。」
「…情けないですわね。」
「えー…それはちょっと酷くない…?」
「あなたもですがルナもですわ。誰が操っているかわかりませんが、魔法に屈するなんて…幹部として情けない事です。」
「酷いよエレナ…。私だって…幹部になってから、一生懸命頑張ってるのに。」
「私はレーガと違って、手加減しませんわよ?」
彼女は手に持っていたムチを広げると、私の前に立った。
「エレナ…。出来る事なら、あんまり怪我させないでね…?」
「いいえ。骨折の1つや2つ、してもらわないと言う事を聞いてくれなさそうですわ。」
「えぇ!?」
「私…エレナの事、斬りたくないよ。」
「あら。それは嬉しいですわね。それならいい子は大人しく、ベッドに戻りましょうルナ!」
彼女は大きく腕を振り、私に向かってムチを振り下ろした。後ろに下がって攻撃をかわすと、間合いを詰めた彼女に腕を掴まれ、窓に向かって投げ飛ばされた。
思い切り身体を打ち付けた衝撃で窓が開き、外に投げ出されてしまった。建物の近くにあった木がクッションとなり、ほぼ無傷で地面に着地した。
『いてて…。思いっきり背中ぶつけたから、じんじんする…。動かせなくても痛みは感じるんだなぁ…。』
痛む背中をさすりたい所だが、今はそれすらも許してもらえない状況だった。
「素晴らしい受け身ですわね。」
エレナは窓から飛び降りると、私の方へゆっくりと歩み寄った。
「ねぇエレナ…。部屋に戻るなら窓じゃなくて、扉から追い出すべきじゃないの?」
「…言われてみるとそうですわね。」
「ちょっと…エレナー!乱暴な事しないでよー…!?」
部屋に1人残されたレーガは、窓から身体を乗り出してそう叫んだ。
「レーガ!あなたは自分の心配をしなさ…」
「“…レイル!”」
彼女が上を向いている隙に、唱えていた闇属性の魔法を発動した。私の手から黒い球体が飛んでいき、彼女はギリギリの所で反応してそれを回避した。
「“血の盟約は…”」
「そう何度も魔法は使わせませんわ!」
続けて魔法の詠唱を始めると、彼女は間合いを詰め始めた。彼女の腕から振り下ろされるムチをナイフで弾き、なんとか攻撃を防いでいる。
『なんて力…。弾いてるだけでも手がビリビリする…!』
彼女の攻撃力に少々押されつつ、私は魔法を発動した。
「“…レイ!”」
術者であるルドルフの影響を受け、普段扱えない光属性の魔法を左手から放った。近距離で放たれた光線が、彼女の腕をかすめていった。
「っ…!」
彼女は腕を抑えながら後ろによろけ、私はナイフを手に彼女に向かっていった。しばらく私と彼女の攻防は続き、ナイフで切られた彼女の身体はあちこち擦り切れ、ムチに打たれた私の身体はあちこちに痣が出来ていた。
「斬りたくないという割には…思い切りやりますのね…ルナ。」
「エレナこそ…。ほんとに容赦ないね…。」
「日が昇る前になんとかしなくては…。やむを得ないですわね…。ハンス!」
彼女は使い魔のハンスを呼び出すと、彼の身体にそっと手を触れた。
「私に力を貸してくださいね…ハンス。」
「…わかった。」
「“血の盟約は互いの友好の証。我が血を糧とし力に変え、我が意思に従え。アセプタール!”」
初めて耳にする魔法の詠唱に驚いていると、隣に立っていたハンスが黒い粒子に分解され、彼女の手に吸われるようにして消えていった。
『そうだ…本で読んだ事ある!使い魔と融合して、自身の能力を向上させる魔法だ…!』
「あなたを操っている方を侮っていました。本気を出させてもらいますわ。」
「…。」
私はナイフを手に身構えた。術者であるフランが気を張っている様子が、身体を通して伝わってくるような気がした。
彼女は高々と腕を振り上げると、地面にムチを叩きつけた。地面にヒビが入り、私はバランスを崩してその場に膝をついた。その間に間合いを詰めていた彼女に腕を攻撃され、持っていたナイフが弾き飛ばされて粉々に砕け散った。
再び腕を振り上げた彼女が、私に向かってムチを振り下ろした。
ーバシッ!
私の目の前で、ものすごい音を立てて彼女のムチが動きを止めた。私とエレナの間に割り込むように、白い仮面を付けたフランが現れた。
「下がって。」
「…うん。」
彼は剣を振り払うと、後ろに下がったエレナに斬りかかっていった。彼女はその攻撃を綺麗にかわすと、私達から距離をとった。
「あなたが術者ですわね?」
「…。」
彼女の問いに、彼が答える様子はなかった。
「…随分無愛想ですのね。」
「話をする必要はない。」
「まぁ冷たい。私の可愛い妹を弄んでおいて、なんて言い草ですの?」
「興味ない。」
「…この場に姿を現すなんて、余程の自信があるのね。私の攻撃を全て防げると思っているのかしら?」
術者が攻撃を受けてしまったら、魔法の効果はなくなってしまう。今の彼女を相手に無傷で倒すのは、いくらフランでも無謀な事だった。
「1人では勝てない。」
「そう…。なら今度は、2人がかりで私を倒そうと言う訳ですわね。」
彼は剣を構えると、彼女に向かって走っていった。振り払われるムチを器用に弾き飛ばし、私の近くに寄せ付けないように激しい攻防を繰り広げている。
「“…イブリース”」
私は操られるままに闇属性の魔法を発動した。人の姿をした黒い影が地面から湧き出し、2人を取り囲んだ。次々と現れた人影が、エレナに向かって襲いかかって行く。
入れ替わるようにフランが後ろに下がると、私の腕を掴んで建物の出入口に向かって走り出した。
『エレナをここで足止めして、レーガの所に行くつもりなの…!?』
「行かせませんわ…!」
それに気付いた彼女は、近くに倒れていた人影の足を掴んで豪快に投げ飛ばした。私目掛けて飛んできた人影が、前を走っていたフランにぶつかった。その瞬間、かけられていた魔法が解け、彼に突き飛ばされた私は正気を取り戻した。
「…フラン!」
人影との衝突により、彼の身体はレジデンスの周りを取り囲む谷に投げ出された。私は咄嗟に彼の元に飛び出し、腕を掴んだ。しかし、痣だらけになった身体では力が入らず、彼と共に谷底へ落ちて行ってしまった。
幹部になり、あっという間に月日が流れていった。起きている間はヴェラに頼まれた薬を作り、夢の中ではルカと共に薬を作り、寝ても覚めても薬を作る日々が続いていた。
「おかえり。…随分沢山取ってきたね。」
「あはは…つい夢中になって取りすぎちゃった。」
私は薬草でいっぱいになった籠をテーブルの上に置くと、彼の隣に腰を下ろした。
「薬ばっかり作ってて、疲れない?」
「それを言ったら、ルカだって薬ばっかり作ってるじゃん。」
「そ、そうだけど…。」
「ルカに追いつくのが目標だもん!頑張らないと!」
机に広げた薬草を手に取り、仕分けの作業を始めた。
「ルナって結構負けず嫌いだよね。そういう所は似てないよね~僕達。」
「ルカだって、私と張り合ってた時あったよ?私だけ悪いみたいに…」
「ごめんごめん。そういうつもりで言った訳じゃないよ。」
「本当に~?」
「ほんとほんと!あ、そうだ。紅茶入れるね。」
「ん!ありがとう~。」
奥の方へ歩いて行った彼と入れ替わるようにして、2階からミグが階段を駆け下りてきた。
「ちょっとミグ~。家の中を走らな…」
「大変なんだ!お前の部屋に何かが侵入した。」
「な、何かって!?」
「それが…。異変は感じたんだが、何故だか身体の外に出ていけなくて、確認のしようがないんだよ…。」
「わかった。私が起きて確認してみる。」
「気をつけろよ。何が襲ってくるかわからないからな。」
「うん…。」
私は階段を駆け上がると、自室のベッドに横たわった。
起きた事を気づかれないように、ほんの少しだけ目を開いて部屋の中を見回した。すると、暗い部屋の中で何やら動く物があることに気づいた。
『人みたいだけど…。やっぱりミグの言ってた通り、誰かが侵入したんだ…。』
謎の人物は何か物を盗む様子はなく、ただ部屋の中をウロウロと歩き回っているようだった。侵入者が背を向けている隙をついて、頭の下の枕を思い切り投げ飛ばした。すかさず魔法の詠唱を始めたが、侵入者の手によって口が塞がれてしまい、ベッドの上に押し倒された。
「…起きた?」
侵入者は、低い声でそう言った。上から下まで全身真っ白な装いで、目元は仮面で隠されている。どうやら彼は、以前出会った事のあるアサシンのようだった。
「んー…!」
「できれば騒がないでくれると嬉しいな。」
思っていた以上に優しい口調の彼に驚いていると、彼は押さえつけていた腕の力をほんの少しだけ弱めた。
「…大人しくしてくれる?」
「ん…。」
私は彼の言葉に素直に頷くと、口元から手が離れた瞬間に思い切り手を振り払った。私の手は彼の顔に当たり、身につけていた仮面が部屋の隅に飛んでいった。
「ぇ……フラン…?」
仮面が外れた彼の顔は、エーリ学院上級吸血鬼フランドルフルクだった。彼の右目が赤に染まっているのに気づき、私はさらに問いかけた。
「ルドルフ!?どうして…!」
「ルドルフじゃないよ。今の僕はフランだ。」
「そんな事聞きたいんじゃない!どうしてアサシンの姿で、レジデンスに忍び込む様な事をして…」
「あまり喋ってる暇はないんだけど。」
「質問に答えて…!」
「答えたら、協力してくれる?」
「協力…?何をするつもりなのか話してもらわないと、協力のしようがないよ。」
「それもそうだね…。なら手短に言うよ。僕の目的は、ラギト様の暗殺。」
「暗…殺…?」
「そう。」
彼は淡々とした口調で、短く言い放った。フランらしい喋り方はするものの彼の優しさはどこかに消え、言葉の1つ1つに冷たさを感じた。
「そんなの協力出来るわけない…!」
「質問に答えたら、協力してくれるんじゃないの?」
「何でも協力するとは言ってない!」
「なら…無理にでも協力してもらうしかないね。」
彼は私の上にのしかかり、腕を押さえつけた。
「やめて…!離して!」
「大人しく従えば危害は加えない。」
「ルドルフお願い!こんな事…フランにさせないで!」
「何を言っている?あいつも同意の上だ。」
「ぇ…?」
「“血の盟約は互いの友好の証。我が血を糧とし…」
「何をするの!?やめ…」
「…意思に従え。フェアヴィルング”」
彼の魔法が発動した瞬間、目の前が真っ暗になり、私は意識を失ってしまった。
「おはようルナちゃん。」
暗い部屋の中で目を覚ますと、ベッドの端にフランが座っていた。彼は手を差し出し、私はそれを握り返して身体を起こした。
『あれ…?身体が勝手に動いてる…?』
自分の身体のはずが、別の誰かに動かされているような感覚になり、自分の意思で身体を動かす事が出来なくなっていた。
「ねぇ、ルナちゃん。…僕の事好き?」
「うん。好き。」
『えー///!?何を言ってるの私///!』
動きだけでなく口までも言う事を聞かず、普段なら絶対に言わない台詞を口にしていた。
『そっか…!さっきルドルフが詠唱した魔法のせいで、身体が操られてるんだ…!』
私が気を失う前、ルドルフの力で魔法にかけられた事を思い出した。彼が唱えた“フェアヴィルング”は、生き物の意識を乗っ取り洗脳する、難度の高い念力属性の魔法だった。
「なら、僕のお願いも聞いてくれるよね?」
「もちろん!なんでも言って?」
「これを、ラギト様に飲ませてきて。ルナちゃんは飲んじゃ駄目だよ?」
彼は、ポケットから液体が入った小瓶を取り出すと、私の手に握らせた。
『まさかこれ…毒物じゃ…!』
心の中では拒んでいても、今の私は彼の言葉に従うしかなかった。
「うん。わかった。」
「よろしくね。ルナちゃん。」
レーガの部屋に向かう途中、私は食堂で2人分のミルクティーを作った。片方は普通のミルクティーだが、もう片方には先程フランから受け取った液体が入っている。
『このままじゃレーガが危ない…。けど…どうしたら…。』
私は以前、この魔法にかけられたララの事を思い出した。この魔法を解くには、術者であるフランが攻撃されるか、魔法にかけられた私自身が気絶するしか方法がない。
言う事を聞かない私の身体は、レーガの部屋の扉を叩いた。
「あれー?こんな時間にどうしたの?」
「なんだか眠れなくて…。レーガとお話したいなと思って!」
「そうなの?嬉しいな~。」
彼に招かれて部屋の中に入ると、ベッドの端に並んで腰を下ろした。テーブルの上にお盆を置き、毒を入れたミルクティーのカップを手に取った。
「ミルクティーを作って来たよ。はいこれ!レーガの分。」
「ん。ありがとうルナ。」
私が手渡したカップを受け取ると、彼は何の疑いもなくそれに口をつけた。
「っ…!?」
彼の手から滑り落ちたカップが地面に叩きつけられ、粉々に砕け散った。彼は床に手を付き、口に含んでいたミルクティーを吐き出した。
「げほっ…げほっ…!」
「大丈夫?レーガ。」
私は腰に忍ばせていたナイフを取り出すと、背後から彼に向かって腕を振り下ろした。ナイフは彼の肩に突き刺さり、服が赤く滲みだした。
「ぐっ…!」
抜き取ったナイフを再び振りかざすと、彼は横に身体を回転させて私の攻撃をかわした。背後の壁に背中をつけ、刺された肩を手で抑えながらその場にゆっくりと立ち上がった。
「一体誰なの…?こんな悪趣味な作戦考えたのは…。」
「ごめんねレーガ。それは言えないの。」
「そりゃそうだよね…。ちょっと飲んじゃったせいで身体も痺れてるし…どうしたもんかな…。」
口に含んだ毒が少量だった事で死には至らなかったが、身体が痺れて上手く動かせない様子だった。
「大丈夫だよレーガ。次はちゃんと、心臓を狙うから。」
「はは…。ほんと…タチ悪いなぁ…。」
「レーガ…!」
勢いよく開いた扉から、エレナが部屋の中に飛び込んで来た。
「エレナ…。」
「…情けないですわね。」
「えー…それはちょっと酷くない…?」
「あなたもですがルナもですわ。誰が操っているかわかりませんが、魔法に屈するなんて…幹部として情けない事です。」
「酷いよエレナ…。私だって…幹部になってから、一生懸命頑張ってるのに。」
「私はレーガと違って、手加減しませんわよ?」
彼女は手に持っていたムチを広げると、私の前に立った。
「エレナ…。出来る事なら、あんまり怪我させないでね…?」
「いいえ。骨折の1つや2つ、してもらわないと言う事を聞いてくれなさそうですわ。」
「えぇ!?」
「私…エレナの事、斬りたくないよ。」
「あら。それは嬉しいですわね。それならいい子は大人しく、ベッドに戻りましょうルナ!」
彼女は大きく腕を振り、私に向かってムチを振り下ろした。後ろに下がって攻撃をかわすと、間合いを詰めた彼女に腕を掴まれ、窓に向かって投げ飛ばされた。
思い切り身体を打ち付けた衝撃で窓が開き、外に投げ出されてしまった。建物の近くにあった木がクッションとなり、ほぼ無傷で地面に着地した。
『いてて…。思いっきり背中ぶつけたから、じんじんする…。動かせなくても痛みは感じるんだなぁ…。』
痛む背中をさすりたい所だが、今はそれすらも許してもらえない状況だった。
「素晴らしい受け身ですわね。」
エレナは窓から飛び降りると、私の方へゆっくりと歩み寄った。
「ねぇエレナ…。部屋に戻るなら窓じゃなくて、扉から追い出すべきじゃないの?」
「…言われてみるとそうですわね。」
「ちょっと…エレナー!乱暴な事しないでよー…!?」
部屋に1人残されたレーガは、窓から身体を乗り出してそう叫んだ。
「レーガ!あなたは自分の心配をしなさ…」
「“…レイル!”」
彼女が上を向いている隙に、唱えていた闇属性の魔法を発動した。私の手から黒い球体が飛んでいき、彼女はギリギリの所で反応してそれを回避した。
「“血の盟約は…”」
「そう何度も魔法は使わせませんわ!」
続けて魔法の詠唱を始めると、彼女は間合いを詰め始めた。彼女の腕から振り下ろされるムチをナイフで弾き、なんとか攻撃を防いでいる。
『なんて力…。弾いてるだけでも手がビリビリする…!』
彼女の攻撃力に少々押されつつ、私は魔法を発動した。
「“…レイ!”」
術者であるルドルフの影響を受け、普段扱えない光属性の魔法を左手から放った。近距離で放たれた光線が、彼女の腕をかすめていった。
「っ…!」
彼女は腕を抑えながら後ろによろけ、私はナイフを手に彼女に向かっていった。しばらく私と彼女の攻防は続き、ナイフで切られた彼女の身体はあちこち擦り切れ、ムチに打たれた私の身体はあちこちに痣が出来ていた。
「斬りたくないという割には…思い切りやりますのね…ルナ。」
「エレナこそ…。ほんとに容赦ないね…。」
「日が昇る前になんとかしなくては…。やむを得ないですわね…。ハンス!」
彼女は使い魔のハンスを呼び出すと、彼の身体にそっと手を触れた。
「私に力を貸してくださいね…ハンス。」
「…わかった。」
「“血の盟約は互いの友好の証。我が血を糧とし力に変え、我が意思に従え。アセプタール!”」
初めて耳にする魔法の詠唱に驚いていると、隣に立っていたハンスが黒い粒子に分解され、彼女の手に吸われるようにして消えていった。
『そうだ…本で読んだ事ある!使い魔と融合して、自身の能力を向上させる魔法だ…!』
「あなたを操っている方を侮っていました。本気を出させてもらいますわ。」
「…。」
私はナイフを手に身構えた。術者であるフランが気を張っている様子が、身体を通して伝わってくるような気がした。
彼女は高々と腕を振り上げると、地面にムチを叩きつけた。地面にヒビが入り、私はバランスを崩してその場に膝をついた。その間に間合いを詰めていた彼女に腕を攻撃され、持っていたナイフが弾き飛ばされて粉々に砕け散った。
再び腕を振り上げた彼女が、私に向かってムチを振り下ろした。
ーバシッ!
私の目の前で、ものすごい音を立てて彼女のムチが動きを止めた。私とエレナの間に割り込むように、白い仮面を付けたフランが現れた。
「下がって。」
「…うん。」
彼は剣を振り払うと、後ろに下がったエレナに斬りかかっていった。彼女はその攻撃を綺麗にかわすと、私達から距離をとった。
「あなたが術者ですわね?」
「…。」
彼女の問いに、彼が答える様子はなかった。
「…随分無愛想ですのね。」
「話をする必要はない。」
「まぁ冷たい。私の可愛い妹を弄んでおいて、なんて言い草ですの?」
「興味ない。」
「…この場に姿を現すなんて、余程の自信があるのね。私の攻撃を全て防げると思っているのかしら?」
術者が攻撃を受けてしまったら、魔法の効果はなくなってしまう。今の彼女を相手に無傷で倒すのは、いくらフランでも無謀な事だった。
「1人では勝てない。」
「そう…。なら今度は、2人がかりで私を倒そうと言う訳ですわね。」
彼は剣を構えると、彼女に向かって走っていった。振り払われるムチを器用に弾き飛ばし、私の近くに寄せ付けないように激しい攻防を繰り広げている。
「“…イブリース”」
私は操られるままに闇属性の魔法を発動した。人の姿をした黒い影が地面から湧き出し、2人を取り囲んだ。次々と現れた人影が、エレナに向かって襲いかかって行く。
入れ替わるようにフランが後ろに下がると、私の腕を掴んで建物の出入口に向かって走り出した。
『エレナをここで足止めして、レーガの所に行くつもりなの…!?』
「行かせませんわ…!」
それに気付いた彼女は、近くに倒れていた人影の足を掴んで豪快に投げ飛ばした。私目掛けて飛んできた人影が、前を走っていたフランにぶつかった。その瞬間、かけられていた魔法が解け、彼に突き飛ばされた私は正気を取り戻した。
「…フラン!」
人影との衝突により、彼の身体はレジデンスの周りを取り囲む谷に投げ出された。私は咄嗟に彼の元に飛び出し、腕を掴んだ。しかし、痣だらけになった身体では力が入らず、彼と共に谷底へ落ちて行ってしまった。
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王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
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ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
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※※※
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表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
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