オカ研部長は最強霊媒師なのに幽霊が視えない

タタミ

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被害者

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 夏休みが終わり、俺はいつも通りの学校生活を営んでいた。
 クラスでは菩提寺と喋り、放課後はオカ研の活動ついでに静先輩に除霊をしてもらう。菩提寺に怨霊からの電話の件を話したら、トイレにもついて来ようとする過保護ぶりを発揮されたが、変化はそのくらいだった。
 そうこうしているうちにクラスでは修学旅行の行先と班決め──田島さんが菩提寺と組みたがったが、俺と2人で組むという菩提寺の堅牢な意思には勝てなかった──が終わり、怨霊の除霊は叶うのか内心焦り出したところで、饗庭さんから連絡があった。
 修学旅行の1週間前だった。
 俺と菩提寺は静先輩から「調査の報告がある」と呼び出され、放課後の誰もいない教室で、饗庭さんと通話が繋がったスマホを囲んでいた。

『ようやっと、調べがついたわ。いや~ギリギリになってごめんな。てっきり加害者はすでに死んでると思い込んでたせいで手間取った』

 久しぶりに聞いた饗庭さんの声は、俺に電話をかけてきた声とは全然違うように思えた。

「一連の不審死・行方不明になった男たちとは、関係ない被害者ってこと?」
『ああ。怨霊の本体は自分を死に追いやった男をまだ生かしとるらしい。せやからどんだけ死者から辿っても本丸に行きつかんかった』

 思いもよらぬ展開に、俺は思わず有識者である静先輩に顔を向けた。

「な、なんで生かしてるんですか? 怨霊なら真っ先に殺すべき相手ですよね」
「この怨霊は地縛霊にしては行動範囲が広い。死者は兵庫の市内とその周辺に集中はしてるけど、それでも広すぎる。だから何らかの手段で移動しているのかと思ったけど、加害者を生かしてるならそいつに取り憑いているのかもしれないね」
「憑依して、殺しに行かせてるってことか。一連の事件・事故をすべて実行させられている加害者がいるなら、精神ダメージは相当だろうな」
「うん。今回の怨霊は死んでもなお、かなり知能が高いからあり得なくはない。利用価値を見出して、生かさず殺さずの扱いにしている可能性はある」

 旅館でほんの一瞬入られただけでも相当な苦痛を伴った。四六時中憑依されていたら、正気を保つのは無理難題だろう。

『善本くんに電話かけてきた怨霊が「犯人の家の前で死んだ」って口走ったやろ。それを元に洗い直したところ、性加害に遭って市内で自殺した女の子がいるとわかった。事件の詳細は……尊厳のために伏せるけど、罪状でいえば強姦と傷害。犯行現場は市内の空き地や。被害者の名前は茂久田美来もくだみくさん。享年17歳。事件からしばらくは入院しとったが、1年後に住宅街の路地で首を吊って死亡しているのが発見された。遺書などはなし。ただ現場には赤いバツ印が残され、のちにそれは茂久田さんの血と判明した』

 享年が同い年だった。
 俺と同じ歳で死を選ぶほどの苦痛を強いられた茂久田さんのことを思うと、息が詰まる。怨霊になる理由としては今聞いた話だけで十分すぎた。

『で、加害者の方は山本正樹やまもとまさき。事件当時35歳。6年の実刑で今年娑婆に出てきてる。茂久田さんが自殺した場所は山本が住んでた実家の目の前で、性犯罪者の不審死・行方不明が増えたのは山本が娑婆に出てからや』
「ここまで揃えば確定だろうね。仁、詳しい住所はあとで僕に送って」
『ああ。怨霊だけじゃなく現場には山本もおるやろうから、そっちも気つけや。修学旅行の初日、一応空けとくからなんかあれば連絡してくれ。……あと、静』
「なに?」
『この件、茂久田さんに辿り着いてからオレの周りで変なことが起きてる。ノーパソが連続でぶっ壊れたり、ゼミの研究室で火事があったり。あと不明の番号から電話が何度も』
「わかった、1回そっち行く。今日の夜でもいい?」
『ああ。悪い、頼むわ。じゃ、善本くんも類くんも無理せずにな』

 そう言って、饗庭さんは通話を切った。
 明らかな霊障を語る口調は淡々としていた。静先輩を信頼しているがゆえなのかもしれないが、あっさりとしたやり取りに確かな関係性が感じられ、どうしてか羨ましくなる。

「饗庭さん、大丈夫なのか。絶対狙われてるだろ」
「ほっといたらヤバい。今日中に奈良まで行きたいから、当日の流れをざっとすり合わせたら解散にする」

 先輩はそう言うと、修学旅行のしおりのコピーを机に広げた。

「まず行きの新幹線には僕も乗っていく。新大阪駅到着後、自由時間になったら合流して3人で兵庫駅へ向かい、山本の実家に行き除霊を行う。兵庫に近づけば近づくほど、怨霊──茂久田さんは猛攻を仕掛けてくるだろう。僕がマコトくんの近くにいてもお構い無しに。彼女はどんな手を使ってでもマコトくんを奪おうとしてくる」

 どんな手を使ってでも。
 何をされるのか、想像がつかない。
 冷や汗が流れるのを感じていると、静先輩が肩に手を置いた。

「ま、そんな暗い顔せず。茂久田さんにどれだけ同情の余地があるとしても、マコトくんに危害を加えていいことにはならない。万全を期して挑もう」

 目を見て頷きかけられ、それだけのことでも俺は緊張が解れるのがわかる。
 頷き返すと先輩は優しく目を細めて、すぐに真剣な表情に戻った。

「除霊に関しては、マコトくんが憑依されるのは極力避ける。類とマコトくんの2人で怨霊の位置を特定し、僕が指示に従って除霊を行う。前に配ったお札とお守りは必ず持参すること」
「ああ。うちの寺にあるやつもいくつか持っていく。善本、当日は常に一緒にいてくれ」
「わかった。先輩も菩提寺もありがとうございます」
「マコトくんがお礼を言う話じゃないよ」
「善本がお礼を言うことじゃない」

 兄弟の言葉が被って気まずそうに見つめ合う姿に、俺は自然と笑顔になる。
 きっと大丈夫だろうという根拠のない勇気が湧いてきて、冷や汗はどこかに消えていた。

「では、来週の除霊決行に向けて各々英気を養って。解散」

 先輩の言葉に俺は立ち上がった。
 この後目立った霊障はなく、俺たちは無事に修学旅行当日を迎えることとなった。
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