無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話

タタミ

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20話

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 都内有数の高級ホテルの部屋は、開放的な窓から東京を一望できる広いツインルームだった。
 旅行の手配をほとんど明樹が進め、優成はホテルの詳細もよく知らなかった──というか、ホテルの共有はあったがそんなものを見たら平常心ではいられないのでURLを開かなかった──ので、ベッドサイドのキャビネットにしか光源がない薄暗い寝室を初めて見て、1度目を閉じた。
 今日の旅行までの間に明樹を除く全メンバーから、『けじめをつけずに手を出すな』ということを様々な表現で再三言われてきた。優成だって、きちんとすべきだということはわかっている。それに告白する気概も覚悟もある。
 しかし、キスまでしてしまっている片想い相手と、ふたりきりで旅行とは。

(これ、過ちを防ぐために断るのが正解だったんじゃないか?)

 今さら実感のある危機感に襲われて優成が頭を抱えるのと、明樹が寝室に入ってくるのが同時だった。

「おー!ベッド大きいね」

 飛び乗るようにベッドに身を投げた明樹が、楽しそうに脚をパタつかせる。

「なかなか良い部屋じゃない?」

 明樹は寝返りを打ってベッドから優成を見上げてきて、優成はとっさに窓を向いた。

「良い部屋ですね。景色もいいし」

 無防備な明樹から離れたくて窓に近づく。しかし、優成の動きに合わせるように明樹がベッドから降りて、こちらに来るのが窓に反射して見えた。寝室から出た方がよかったかとドアに目をやった瞬間、明樹が後ろから抱き締めてきて、優成は文字通り固まった。
 明樹の髪が首筋を撫でて、肌が粟立つ。

「夕日すごいな~」
「そう、ですね」

 肩に顎を乗せた明樹が上目でこちらを見る気配を悟って、優成は夕日に染まるビル群を見続けた。いつもならこうしてスルーすると「キスは?」の一言くらい言われるが、今ばかりは絶対断るぞと優成は固く拳を握る。
 しかし、明樹はキスをねだることなく目を伏せて、優成の身体を抱き締め直した。

「優成ってさ。好きなひといる?」

 明樹が唐突に呟くように言って、優成は動揺のまま密着する明樹の腕を掴んでいた。

「な、んですかいきなり」
「いや別に。ちょっと聞いてみただけ」

 優成がさらに何か言う前に、明樹は「ごめんごめん。高校生みたいなこと言っちゃった」と耳元で笑って身体を離す。

「お腹空いたし夕飯食べ行こ。俺和食が良いけど、優成は?」

 身体を伸ばしながらドアに向かう明樹の背中を、優成は引き止めなかった。

「……明樹さんが食べたいもので」

 そう返しながら、静かに拳を握り直した。
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