34 / 40
立花颯
10
練習に追われる日々はあっという間に過ぎ去り、リハーサルと衣装合わせを終えたJETはついにツアーを始める。日本を皮切りに、各国を転々としたあと日本に戻ってファイナルを迎える、1ヶ月半ほどの長期スケジュール。
(無事に過ぎますように)
初日の今日は、メンバーもスタッフも高揚感と程よい緊張感に満ちている。今日を迎えるまで特に大きなトラブルもなく、俺は多少の睡眠なら取れるまでになっていた。
(幸先は良い。リョウマとのデュオでみんなに喜んでもらって、このまま何事もなくツアーは成功する。絶対大丈夫)
俺は意識的に前向きなことを考えながら、スタイリングが完成した自分の姿を鏡に映していた。
「自分がイケメンすぎて見惚れてんのか?」
鏡の自分と見つめ合っていると、頼さんが後ろに立って笑いかけた。俺もすぐに笑いを作って「違うわ」と振り向く。
「やっぱり今回の衣装際どくない?腕ちょっと上げただけで腹見えるんだけど」
「周年ってのもあって、スタイリストさんが気合入ってるんだよ。さっき丈の長かった別衣装を『刺激が足りない』ってハサミで切ってた」
「ええ……」
俺が引いた顔をするとすぐ肩パンされる。
「腹チラくらいで騒ぐな。リョウマなんて背中丸見えなんだぞ」
頼さんが親指で示した方にはスタイリストに襟元を整えられている涼真がいた。どういう構造になっているのかわからない、背中が丸出しのジャケットを着ている。肉感的な背中からセクシーさだけは伝わってくるが、涼真じゃなければ事故になる危険なスタイリングだ。
「あれセクシー履き違えてない?」
「リョウマは肩幅があって背中かっこいいし、ハヤテは筋肉見せるとファンが異常に盛り上がるし、適材適所の露出だろ」
「そんなこと言ってるライさんは全然露出ないじゃん。ジョーさんは両袖失ったノースリでショウタロウさんは男子小学生みたいな短パン履かせられてるのに」
端のソファで発声練習をしている丈さんの腕と脇はツルツルで、鏡の前でフリを確認している翔太郎さんの脚は太ももまでツルツルだ。露出があるとなれば、したくない剃毛も仕事のうちである。
「俺はマッチョでもワイルドでもキュートでもないからね。1番平均的な衣装をあてがわれてるわけよ。どこ露出しても微妙なポジションだろ、俺って」
なんだか悲しいことを言っている頼さんだが、1人だけ未成年のように肌が守られているのは羨ましかった。露出は安売りと紙一重で扱いが難しいし、キスマークがあるだのタトゥーがあるだの痩せまくってて病気だのと虚構が流布されるし、進んで露出したがるやつはJETにはいない。需要があるのは承知しているので仕事として請け負っているが、事務所から露出の業を背負わされない頼さんはある意味特権持ちだ。
「その長いジャケット寄こせよ、お兄ちゃん~」
「こら、やめなさい!引っ張るんじゃありません!」
「かわいい弟が頼んでるのにダメなんだ?それならお兄ちゃんもたまには上裸でコンサート出てみろよ、ファンサしろ」
「お前俺の服が欲しいのか俺を辱めたいのかどっちかにしろ!どっちもダメだけど。あと上裸は誰もやってないだろ!」
暴れる頼さんに抱きついてじゃれていると、ヌッと大きい人影が横に立った。
「ほんとだ……ハヤテ露出多い」
「うわっ!リョウマ、お前は突然現れるな!」
頼さんは俺へ言い返すテンションで涼真を指差したが、涼真は俺を見るばかりだった。
「腕ちょっとでも上げたらお腹見えちゃうじゃん、それ」
「いや常に背中丸出しのお前に言われたくないが」
「俺のは別にどうでもいいけど……」
心配と嫉妬が見える。涼真は嘘が下手だから、こういう時めちゃくちゃ感情がわかりやすい。俺と涼真の関係を知らなかった頃なら『ハヤテに懐いている』で済んでいた顔だが、今の頼さんはすべてを知っているわけで。
「おい、ふたりでやってくれる?それ」
蚊帳の外にされて萎えた顔で俺の腕から逃れた頼さんは、涼真と俺になにか言われる前に消えたいという小走りでケータリングの方に行ってしまった。
「はぁ、露出くらいいつものことでしょ。今さら気にするなよ」
「でもeternalのフリやったらめっちゃ見えるよ、腰とお腹」
「腹巻きでも巻けってか?ダサくて死んじゃうだろ」
肩をすくめると、涼真は怒られた犬みたいに眉を下げる。
「衣装はさておき、本番前に腹ごしらえしたい。ケータリング、お前の好きな下北のドーナツあったはず」
一緒に行こうという意味を込めて涼真の腕を引く。しかし涼真はついてこず、逆に腕を引かれ返された。
「待って、ハヤテ」
「なに、腹減ってない?」
「違う。その前にちょっと聞いて」
緊張した面持ちの涼真が俺を見る。
「あのさ。ツアーが終わったら……さ」
「うん?なんだよ」
「俺、ハヤテに言いたいことある」
心臓が締まる感覚がした。何を言われるのか、先走って理解してしまっていた。
「言いたいことって……今じゃダメなの」
「うん。終わったら言うから、聞いてほしい」
少し声が掠れた。涼真の緊張は消えなかったが、落ち着いたまま俺を見ていた。また俺に告白する気だ、と確信じみて思う。
今この場で暗に拒否することもできた。聞きたくないとか言っても無駄だとか、いくらでも突き放すことはできた。
そうしようかと息を吸った時、いつか頼さんに言われた言葉が耳の奥で響く。
「得たら、失うかもしれない。それが怖いから、だから最初から得ようとしてないんじゃないの」
そりゃ、そうだよ。怖くてたまらない。
失うくらいなら欲しくない。
俺のせいで不幸にしたくない。
真っ当に生きてほしい。
(でも……離れたくもない)
「……わかった。ツアーが終わったら」
俺は今の涼真が喜ぶ答えを言っていた。
それは結論の先延ばしに過ぎなかったが、涼真ははにかんで俺の見たい顔を見せた。
(無事に過ぎますように)
初日の今日は、メンバーもスタッフも高揚感と程よい緊張感に満ちている。今日を迎えるまで特に大きなトラブルもなく、俺は多少の睡眠なら取れるまでになっていた。
(幸先は良い。リョウマとのデュオでみんなに喜んでもらって、このまま何事もなくツアーは成功する。絶対大丈夫)
俺は意識的に前向きなことを考えながら、スタイリングが完成した自分の姿を鏡に映していた。
「自分がイケメンすぎて見惚れてんのか?」
鏡の自分と見つめ合っていると、頼さんが後ろに立って笑いかけた。俺もすぐに笑いを作って「違うわ」と振り向く。
「やっぱり今回の衣装際どくない?腕ちょっと上げただけで腹見えるんだけど」
「周年ってのもあって、スタイリストさんが気合入ってるんだよ。さっき丈の長かった別衣装を『刺激が足りない』ってハサミで切ってた」
「ええ……」
俺が引いた顔をするとすぐ肩パンされる。
「腹チラくらいで騒ぐな。リョウマなんて背中丸見えなんだぞ」
頼さんが親指で示した方にはスタイリストに襟元を整えられている涼真がいた。どういう構造になっているのかわからない、背中が丸出しのジャケットを着ている。肉感的な背中からセクシーさだけは伝わってくるが、涼真じゃなければ事故になる危険なスタイリングだ。
「あれセクシー履き違えてない?」
「リョウマは肩幅があって背中かっこいいし、ハヤテは筋肉見せるとファンが異常に盛り上がるし、適材適所の露出だろ」
「そんなこと言ってるライさんは全然露出ないじゃん。ジョーさんは両袖失ったノースリでショウタロウさんは男子小学生みたいな短パン履かせられてるのに」
端のソファで発声練習をしている丈さんの腕と脇はツルツルで、鏡の前でフリを確認している翔太郎さんの脚は太ももまでツルツルだ。露出があるとなれば、したくない剃毛も仕事のうちである。
「俺はマッチョでもワイルドでもキュートでもないからね。1番平均的な衣装をあてがわれてるわけよ。どこ露出しても微妙なポジションだろ、俺って」
なんだか悲しいことを言っている頼さんだが、1人だけ未成年のように肌が守られているのは羨ましかった。露出は安売りと紙一重で扱いが難しいし、キスマークがあるだのタトゥーがあるだの痩せまくってて病気だのと虚構が流布されるし、進んで露出したがるやつはJETにはいない。需要があるのは承知しているので仕事として請け負っているが、事務所から露出の業を背負わされない頼さんはある意味特権持ちだ。
「その長いジャケット寄こせよ、お兄ちゃん~」
「こら、やめなさい!引っ張るんじゃありません!」
「かわいい弟が頼んでるのにダメなんだ?それならお兄ちゃんもたまには上裸でコンサート出てみろよ、ファンサしろ」
「お前俺の服が欲しいのか俺を辱めたいのかどっちかにしろ!どっちもダメだけど。あと上裸は誰もやってないだろ!」
暴れる頼さんに抱きついてじゃれていると、ヌッと大きい人影が横に立った。
「ほんとだ……ハヤテ露出多い」
「うわっ!リョウマ、お前は突然現れるな!」
頼さんは俺へ言い返すテンションで涼真を指差したが、涼真は俺を見るばかりだった。
「腕ちょっとでも上げたらお腹見えちゃうじゃん、それ」
「いや常に背中丸出しのお前に言われたくないが」
「俺のは別にどうでもいいけど……」
心配と嫉妬が見える。涼真は嘘が下手だから、こういう時めちゃくちゃ感情がわかりやすい。俺と涼真の関係を知らなかった頃なら『ハヤテに懐いている』で済んでいた顔だが、今の頼さんはすべてを知っているわけで。
「おい、ふたりでやってくれる?それ」
蚊帳の外にされて萎えた顔で俺の腕から逃れた頼さんは、涼真と俺になにか言われる前に消えたいという小走りでケータリングの方に行ってしまった。
「はぁ、露出くらいいつものことでしょ。今さら気にするなよ」
「でもeternalのフリやったらめっちゃ見えるよ、腰とお腹」
「腹巻きでも巻けってか?ダサくて死んじゃうだろ」
肩をすくめると、涼真は怒られた犬みたいに眉を下げる。
「衣装はさておき、本番前に腹ごしらえしたい。ケータリング、お前の好きな下北のドーナツあったはず」
一緒に行こうという意味を込めて涼真の腕を引く。しかし涼真はついてこず、逆に腕を引かれ返された。
「待って、ハヤテ」
「なに、腹減ってない?」
「違う。その前にちょっと聞いて」
緊張した面持ちの涼真が俺を見る。
「あのさ。ツアーが終わったら……さ」
「うん?なんだよ」
「俺、ハヤテに言いたいことある」
心臓が締まる感覚がした。何を言われるのか、先走って理解してしまっていた。
「言いたいことって……今じゃダメなの」
「うん。終わったら言うから、聞いてほしい」
少し声が掠れた。涼真の緊張は消えなかったが、落ち着いたまま俺を見ていた。また俺に告白する気だ、と確信じみて思う。
今この場で暗に拒否することもできた。聞きたくないとか言っても無駄だとか、いくらでも突き放すことはできた。
そうしようかと息を吸った時、いつか頼さんに言われた言葉が耳の奥で響く。
「得たら、失うかもしれない。それが怖いから、だから最初から得ようとしてないんじゃないの」
そりゃ、そうだよ。怖くてたまらない。
失うくらいなら欲しくない。
俺のせいで不幸にしたくない。
真っ当に生きてほしい。
(でも……離れたくもない)
「……わかった。ツアーが終わったら」
俺は今の涼真が喜ぶ答えを言っていた。
それは結論の先延ばしに過ぎなかったが、涼真ははにかんで俺の見たい顔を見せた。
あなたにおすすめの小説
続・聖女の兄で、すみません!
たっぷりチョコ
BL
『聖女の兄で、すみません!』(完結)の続編になります。
あらすじ
異世界に再び召喚され、一ヶ月経った主人公の古河大矢(こがだいや)。妹の桃花が聖女になりアリッシュは魔物のいない平和な国になったが、新たな問題が発生していた。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
ギャルゲー主人公に狙われてます
一寸光陰
BL
前世の記憶がある秋人は、ここが前世に遊んでいたギャルゲームの世界だと気づく。
自分の役割は主人公の親友ポジ
ゲームファンの自分には特等席だと大喜びするが、、、
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
孤毒の解毒薬
紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。
中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。
不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。
【登場人物】
西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。
白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。
隣に住む先輩の愛が重いです。
陽七 葵
BL
主人公である桐原 智(きりはら さとし)十八歳は、平凡でありながらも大学生活を謳歌しようと意気込んでいた。
しかし、入学して間もなく、智が住んでいるアパートの部屋が雨漏りで水浸しに……。修繕工事に約一ヶ月。その間は、部屋を使えないときた。
途方に暮れていた智に声をかけてきたのは、隣に住む大学の先輩。三笠 琥太郎(みかさ こたろう)二十歳だ。容姿端麗な琥太郎は、大学ではアイドル的存在。特技は料理。それはもう抜群に美味い。しかし、そんな琥太郎には欠点が!
まさかの片付け苦手男子だった。誘われた部屋の中はゴミ屋敷。部屋を提供する代わりに片付けを頼まれる。智は嫌々ながらも、貧乏大学生には他に選択肢はない。致し方なく了承することになった。
しかし、琥太郎の真の目的は“片付け”ではなかった。
そんなことも知らない智は、琥太郎の言動や行動に翻弄される日々を過ごすことに——。
隣人から始まる恋物語。どうぞ宜しくお願いします!!
学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
刺されて始まる恋もある
神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。