人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ

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立花颯

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 ライブスタートの2分前。会場はすでに暗転したらしく、歓声が聞こえ始める。
 舞台下のせりに立って深呼吸をしていると、パンパン!と頼さんが手を叩いた。

「よし!みんな集まれ」

 手招きする頼さんを真ん中にして、メンバーたちは慣れた様子で円陣を組む。これはライブ前の恒例行事だった。

「今日から待望のツアースタートだ。とにかく楽しむことを第一に!最高のステージを!Go JET!」
「Go JET!」

 頼さんの簡潔な激励に答えて、気合を入れる。周囲のスタッフが拍手で盛り上げてくれる中、待機場所に戻るとものの数十秒でせりが上がった。
 俺たちが現れると同時に、歓声が一気に盛り上がり会場一面ペンライトで鮮やかに彩られる。

(綺麗だな)

 素直にそう思った。復帰直後にツアーを行ったときは、感じられなかった感覚だった。この中に吉岡がいるかもしれないという恐怖心が消えることはないが、以前のような動悸はしない。自分の回復を感じられて喜びと共に拳を握ると、ポンと背中に触れられた。涼真が俺に目を細めてから、ポジションに立つ。

(もう、大丈夫)

 背筋を伸ばす。流れ始めた音楽に合わせてオープニングアクトを踊れば、緊張もなくなっていった。曲が終わって拍手と歓声が飛ぶ中、少し上がった息を整える。

「みんな~!久しぶり!」
「会いたかった~!」
「オープニングどうだった?」

 メンバーが何か言うたびに大きな歓声が上がり、俺は自然とほほ笑んだ。MCもそこそこに3曲、4曲と続けて代表曲をパフォーマンスして、俺は久しぶりに『楽しい』という気持ちになっていた。
 構成の第一部が終わり、衣装チェンジのためにステージを後にする。第二部の幕開けは俺と涼真の新曲だ。

「みんな喜ぶよ絶対」
「当たり前。絶対盛り上げる」

 ヘアメイクを整えられながら言った涼真に、俺は強気に笑って返した。涼真は俺の前向きな返答に目を大きくしてから、「そうだね」と背中を叩いてくる。涼真の2倍の強さで叩き返して、俺たちは再び歓声の中に戻っていく。
 ふたりで何度も練習したパフォーマンスは、予想を超えて歓声を際限なく大きくしていった。










「今日はお疲れ様でした!かんぱ~い!」
「かんぱーい!」

 頼さんの声に合わせて十数人がグラスを掲げる。
 ツアー初日は何の問題もなく大成功を収め、興奮冷めやらぬ中、メンバーと古参のスタッフだけで軽い打ち上げをやろうということになったのだ。ホテルのラウンジを貸し切ってワイワイとみんな盛り上がり、「明日もライブがあるので、ハメを外しすぎないように」と途中マネージャーから忠告が入ったが、結局みんな飲みたいように飲んでいた。
 そして、そんな中で俺は1番酔いに襲われていた。

(シャンパンなんて飲むんじゃなかった……)

 元から酒に強いわけでもないし、近年はジュースに毛が生えた程度の酒しか飲まなくなっていたのに、今日はついテンションが上がってシャンパンをあおってしまった。時間が経つにつれて頭がぼーっとしてきて、今となっては部屋の隅にあるソファにもたれかかっている。そのままぼんやりラウンジの様子を眺めていると、隣に涼真が座ってきた。

「ハヤテ大丈夫?」
「う~ん……酔った、調子乗った」

 平気と言おうかと思ったが、直前でやめた。素直に負けを認めて涼真に体重をかけると、涼真はすぐにそばにいた頼さんを呼んだ。頼さんも俺を心配してくれていたのか、何を言われるのかわかっている顔で近づいてくる。

「ハヤテが疲れたみたいなんで、俺たち先に部屋戻ります」
「ああ、ふたりともちゃんと休めな。ハヤテはお水いっぱい飲みなさいよ!」

 お母さんのようなことを言った頼さんに手を挙げて、俺は涼真に誘導されながらラウンジを後にする。ふわふわとした感覚で歩くうちにあっという間に部屋についた。今夜は涼真と相部屋の日だった。
 俺をベッドに腰掛けさせてから、涼真は冷蔵庫に入っていた水を俺に手渡す。3口くらい飲むと、ちょっと頭が冴えた気がした。

「ハヤテがこんなに飲んでるの久しぶりに見た。気分は平気?」
「うん……」

 心配しつつも俺のことを構えて嬉しいといった表情を隠さない涼真にうなずいて、その顔を見つめる。毒気のなさは少年のようでも、造りはすっかり端正な大人だ。

「リョウマ……」
「なに?」

 好き。
 と、口走りそうになって、酔った頭でも間違った発言だとわかって口をつぐんだ。また肉体関係に戻る気か、と自分に呆れて代わりに大きいため息を吐く。

「はぁ~あ……」
「いや人の顔見てため息って」

 鼻白む涼真を横目に、言及される前に話題を変えようと、俺はベッドに横になった。片肘をついて上体を涼真に向ける。

「なんていうか……なんか眠い、かも。たぶん」
「えっ。それは今すぐ寝た方がいい、寝よう」

 嘘ではない。実際眠気はあった。しかし、話題を変えたくて言った俺の何倍も、涼真は真剣な面持ちだった。俺の不眠を誰よりも気にしているのは涼真だ。しかし、もう少し涼真と話していたい欲と、寝られるなら寝た方がいいという理性が対立して俺が微妙な顔で返答を濁すと、涼真は子どもをあやすように俺を見た。

「いなくならないよ。俺もずっとここにいる。あ、子守唄でも歌おうか?」

 子守唄は涼真のふざけた発言だと明白だったが、俺は気づかないふりをして便乗することにした。彼の声が聞こえていてほしかった。

「じゃあ、俺が寝るまで歌って。なんでもいい」

 涼真は本当に?と目を大きくしたが、俺が仰向けで目をつむると、少し恥ずかしそうに咳払いをして俺の肩に触れた。ぽんぽんと優しくあやされ、同時に控えめで綺麗な歌声が聞こえ始める。
 規則正しく肩に触れる体温と、心地の良い歌声に包まれて、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。
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