人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ

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立花颯

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 俺の上に馬乗りになった吉岡は、髪を掴んで思い切り引っ張ると顔を近づけた。怒りで口が引きつり、目は充血している。

「ハヤテさぁ!?なんで私のこと裏切るの!?おふざけにも限度あるでしょ!!かまってちゃんもいい加減にしなよ!?好きじゃなくなっちゃうんだけど!?」
「ッ、だまれ……!どけ!!」

 俺は早口でまくし立てる吉岡の顎に頭突きをし、怯んだところを思い切り蹴り倒した。椅子に激突して喚くのを横目に俺はもつれる脚で立ち上がる。恐怖に固まっていた身体が動くようになっていた。今ならスマホを拾うより部屋から出た方が早いと咄嗟に判断し、頭突きのせいで眩暈を感じる頭を押さえながらドアに走る。

「ハヤテぇ!!」

 後ろから怒鳴り声がする。俺は焦りで震える手で鍵を開けた。後ろを振り返ることはせず即座に扉を押し開けて、廊下に飛び出した。

「だ、誰か……!」

 声は掠れていたが、廊下にいた数人のスタッフが俺を見た。顔面蒼白で様子のおかしい俺を、困惑した顔で見ながら近づいてくる。そのスタッフたちの後ろから、走り込んでくる人影があった。

「ハヤテ!!」
「リ、リョウマ……っ」

 その姿を見て俺は完全に気が抜けてしまった。助かった、もう大丈夫だと思ってしまった。
 しかし、俺の後ろには別の影が迫っていた。

「クソ、もう死ね!!」

 吉岡がナイフを振り上げていた。愛してやったのに反発しやがって、という怒りがついに殺意になっていた。
 切っ先は迷いなく俺に落ちてくる。死ぬんだ、と思った。同時に死にたくないと思って俺は反射的に腕で顔を覆ったが、次の瞬間身体に何かが強くぶつかった。

「ッ……!リョウマ!?」
「ぐっ……!」

 涼真が俺を突き飛ばして、俺に刺さるはずだった刃が涼真の背に突き刺さる。スタッフの悲鳴が聞こえた。痛みに顔を歪めた涼真は、それでも俺に「早く逃げろ!」と言った。同時に吉岡は何やらわけのわからないことを叫びながら涼真の背からナイフを引き抜く。途端に血が溢れ、衣装がどんどん赤くなっていくのが見えた。

(俺は……ッ、俺は逃げてる場合じゃねえだろ!)

 すくんだ脚を殴って、駆け出していた。
 凶刃は再び涼真に狙いをつけている。俺はとっさに廊下のラックにあったハンガーを掴み、吉岡の頭めがけて投げつけた。堅い木製のハンガーは吉岡の額に当たり、呻きながら手で顔を覆って後ずさる。動けないようにしなければということで頭がいっぱいになり、もう一度ハンガーを取って殴り掛かろうとするとマネージャーの声が響いた。

「立花!やめろ!下がれ!!」

 次の瞬間、数人の男性スタッフが吉岡に襲い掛かり、暴れる女を床に押し倒した。俺はそれで我に返り、ハンガーを床に落として涼真のもとへ駆け寄った。壁にもたれ、力なく傷のあたりに手を添えている。

「リョウマ!大丈夫か!?今止血するから!」

 着ていた衣装を乱雑に脱ぎ、涼真の背中に当てる。出血量は思った以上で、すでに床にまで血が広がり始めていた。

「ッ、ハヤテ……」
「ごめん!痛いよな?でも血が──」
「……好きだよ」

 涼真は薄く笑っていた。俺は時が止まったように固まった。

「なに、言ってんだよ、こんな時に……ッ」
「ごめん……でも今言わないと、もしかしたらさ……」

 どうにか返すと、浅い息の合間に涼真がまた笑った。無理をしている。もう笑う体力なんてないのだ。それなのに、それでも俺に想いを伝えたいのだ。
 意識して抑え込まないと、俺は今にも大声を出してしまいそうだった。

「縁起でもないこと言うな。助かる、涼真は絶対。元気になったら今の話聞くよ」

 俺が取り乱してどうする、と奥歯を噛んだ。泣き喚いてる場合じゃない。傷を圧迫するように抱きしめた。涼真はもう喋らなかった。

「救急車と警察!早くしろ!」

 マネージャーの怒声がフィルター越しのように遠くに聞こえる。
 俺は到着した救急隊員に引き剝がされるまで、涼真を抱きしめ続けていた。
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