ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!

タタミ

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墓参り

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「お母様。姫子です。今日は望月さんと2人で来たよ」

 望月の運転で都内の立派な墓地に着き、姫子は佐々良に見繕ってもらった白を基調とした花束を墓前にお供えした。
 大蛇組組長の一人娘という身の上で望月なくして外出するのも難しい姫子は、母の墓参りに行けるのは年に1回、命日だけだ。

「実は聞いて欲しいことがあってね。お父様が急に『今年中に結婚しろ』って言い出したの。今まで恋愛禁止にしてたのはお父様なのに。酷いと思わない? そのせいで男性と喋ったことだって少ないのにお見合い三昧で──」

 姫子が墓石に語りかけるのを、望月は背後から静かに見つめていた。
 ひとしきり父親への愚痴を吐き出し、姫子は線香に火をつけると手を合わせる。
 正直に言うと、姫子は母のことをあまり覚えていない。大好きだった感情は残っているが、具体的なエピソードは出てこない。
 亡くなった当時姫子は5歳で、人の死を正しく理解できていなかったし母の死を直視することもできなかった。

「望月さんは、今でもお母様のことを覚えてらっしゃる?」
「……はい、もちろん。俺はとんでもねえクソガキでしたが、親父と麗子さんのおかげでシャバで生きていられるくらいにはまともになれました。拾ってもらって本当に感謝してます」

 姫子に合わせて黙とうしていた望月は、昔を噛み締めるように言った。
 望月は出自についてあまり語らないが、家庭環境が劣悪だったのは想像に難くない。中学生で少年院に入り、家に戻るのが嫌で逃げ出してその流れで龍吾に出会ったと噂に聞いていた。

「私の世話役になった人がそんなワルだったなんて、当時は全然わからなかったです」

 湿っぽい雰囲気になるのを避けようと、姫子は軽く言って肩をすくめる。

「お嬢は小さい頃からヤクザに慣れててワルの基準が高すぎます。世話役を仰せつかったのは17かそこらで、まだまだ俺はクソガキでしたよ」

 望月も姫子に合わせて軽く答え、流れかけていた悲しみは霧散した。
 親を捨てて17歳で姫子の世話役をやっていたと言われてしまうと、まだ18歳なのにお見合いなんてと言っている自分は子どもっぽいのかもしれないと姫子は内省した。ヤクザ組織に一般的な価値観を振りかざしても無駄なものだ。

「さて。もう暗くなりますし、そろそろ帰りましょうか。親父と鉢合わせちゃうかもしれませんよ」

 望月に促されて、姫子は立ち上がる。
 心の中でだけ(またね、お母様)と呟いて、今度来る時は夫と一緒なのだろうかと実感のないことを思った。






 墓参りを終えて帰宅中、スマホを見るとグループLINEが動いていた。いつの間にか望月が佐々良も招待したらしい。

佐々良:姫子さん、みなさん、こんばんは。佐々良といいます。不思議な関係ですが、仲良くできたら嬉しいです。
ナルミ:お、挨拶するタイプの人きた!どうも~姫子ちゃんを世界一愛する男・成美です♡
Kanzaki:勝手な肩書を名乗るな
黒須:佐々良さんじゃないですか。奇遇ですね

 ここで、グループに入れられたものの無言のままだった黒須が初めて発言した。このお見合いグループで知り合いが出るとは、世間は狭い。

佐々良:えっ、まさか黒須さんもいらっしゃるとは……! いつもお世話になってます。
黒須:また今度買いに行きますので、その時はお願いします。

(黒須さん、常連なんだ)

 花を買う人には見えないが、黒須はギャップが激しいのでありうるかと思いつつ、姫子は望月に問いかけた。

「佐々良さんと黒須さんって知り合いなんですね」
「ああ。あそこは植物由来のヤクも扱う店ですからね。闇医者の需要もありますよ」
「へえ~植物由来のヤ──さ、佐々良さんってヤク売ってるんですか!?」

 望月があまりに自然に言うので姫子はスルーしかけてから、大声を出した。
 違法薬物と対岸にいると思った佐々良の印象が、ガラガラと崩れていく。

「あれ、気づきませんでした? 奥の部屋でした甘い匂い、大麻ですよ」
「いや知りませんよ、そんなの……」

(まさか消臭スプレーをしてたのは大麻臭いとヤバいからってこと……?)

 箱入り娘が大麻の匂いを知っているわけがないのだが、ヤクザとして生きてきた望月にとっては一般常識のため、不思議そうに首を傾げていた。
 姫子は1番いいかもしれないと思った相手がド直球の犯罪者だとわかり、後部座席で肩を落とすしかなかった。
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