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お見合いファイルNo.15
名前:伊勢丈二
年齢:33歳
身長:185cm
職業:カジノ経営
富久田との血なまぐさい見合いが終わり、姫子は姿勢を正すと望月を見据えた。
「望月さん、健康診断って受けてますか」
「なんですか、急に」
そろそろタバコを吸いたそうな素振りで腕時計を見ていた望月は、腕を下げて姫子に顔を向けた。
「毎年、会社員とかは健康診断を受けますよね」
「ヤクザ組織にそんな福利厚生ないですよ。健康保険にも入ってないし。少年院にいたころ受けたのが最後ですねたぶん」
それって何年前だと姫子は渋い顔になった。
とにかく望月は全然健康診断に行っていないことだけは確定である。
「普通の病院に行けないなら、闇医者の黒須さんに頼んでみるのはどうでしょう。今の富久田さんも医者にツテがありそうですし、聞くだけ聞いてみても」
「なんで急に俺の健康を気にし始めたんですか。ヤクザなんて死ぬときは死にます」
「縁起でもないこと言わないでください。望月さんには平均寿命の倍は生きてほしいです」
「それはジジイすぎませんか」
「ジジイになるまで生きてください」
「そんなに長生きしたいか?」
姫子が言い返すと、知らない男性の声が割って入ってきた。
ブースの入口にガタイのいい男が立ち、口角を上げている。かなり鍛えていて格闘家のような見た目だ。
「どーも。今日最後の見合い相手、伊勢丈二です。そんなに話すこともないだろうし、お互いのためにもさっさと終わらせよう」
言うが早いか、伊勢はドカッと椅子に腰かけた。今までの男性陣の中ではかなり横暴な動きだ。
「ここタバコOKだっけ?」
「残念ながら禁煙です。喫煙所が別途ありますので吸うならそちらで」
「ヤクザなのにルールは守るのウケるわ」
肩をすくめてタバコを戻した伊勢は、手持無沙汰なのかテーブルを指でトントンと叩き始める。ものすごく気が短そうだ。
「もう情報行ってると思うが、俺はカジノ経営をしてる。東京、神奈川あたりの繁華街でな。俺も賭けが好きで資金の増減があるが、かなり金はある。それ以外にアピールすることはない」
「カジノって海外のイメージでしたけど、日本にもあるんですね」
「いや表向き日本にはない。違法だからな」
伊勢が「酒ある?」と望月に言ってワインを出してもらう間、姫子はあからさまなため息を吐かないようにどうにか耐えた。
お見合いファイルにはごく自然に『カジノ経営者』と書いてあったし、伊勢も後ろめたいことなど何もないという口調だったのでてっきり合法職だと思っていたのだ。
(また犯罪者か……)
「それじゃカジノ経営も違法で犯罪ということですよね……?」
「ああ、もちろん。日本でカジノと言えば、闇カジノに決まってる。反社の分野には詳しいかと思ったが、アンタ案外世間知らずなんだな」
「家業には関わってませんので……」
「最近じゃ国が合法カジノを誘致しようって話も出てる。そうなると俺たちやヤクザの収入が減るから界隈が荒れて食い合いになる。アンタにとっても他人事じゃねえ話だと思うがな」
伊勢の指摘は、玉城から聞いた抗争の噂と嫌な重なりを感じさせた。
姫子が家業を知ろうとせず、世間知らずに生きているから気づいていないだけで、わかりやすい火種はいくつもあるのかもしれない。
「まぁウチのカジノは普通のゲーム以外にも手広くやってる。危険なギャンブルもできる。本物の拳銃でロシアンルーレットしたりな。最後まで引き金引けた奴は5億だ」
「そんなのに参加する人がいるんですね……」
「一発逆転しないとどっちにしろ死ぬ、って奴らが最終的にやる。でもビビりが多いせいで、参加者の集まりが悪いんだよな。1番盛り上がるんでもっと開催したいんだが」
伊勢はワインを煽り、空になったグラスで望月を指した。
「そこの兄さん、どう。ギャンブル興味ない? ヤクザの度胸試しに丁度いいぜ」
「あいにく、先ほどお嬢にジジイになるまで生きろと言われてしまったので遠慮します」
しれっと返した望月に、意外にも聞く耳を持ってくれていたことがわかり、姫子は思わずホッとした。健康診断もごり押しで受けてくれるかもしれない。
「なんだ、つまんねえな。人間なんて太く短く生きりゃ十分だと思うがなぁ。好きなもん食って好きなことしてさっさと死ぬのが1番いいだろ」
煽りではなく心底不思議そうに首をひねっている伊勢は、姫子とは相容れない感性だ。
「俺は生きてもせいぜいあと10年だ。今のうちに結婚しとけば、アンタが遺産を好きにできる。カジノ経営よりそっちのがアピールポイントだったか」
「でも、伊勢さんが最終的に借金まみれで死ぬ可能性もありますよね」
「そらそうよ。俺は経営者の前にギャンブラーだしな。まず、結婚なんてのがギャンブルだろ? じゃなきゃアンタとの見合いになんて来ねえよ」
「ギャンブル感覚で私と結婚する気なんですか」
「ああ。俺の直感が『乗れ』って言ってきたからな。アンタ次第だぜ」
ワインを手酌で注ぎながら笑う姿は、堂々として自信に満ちている。直感で何店舗も経営できているのだから、強運なのだろう。
(長生きする気のない相手……ある意味利害の一致なのかな……)
姫子の価値観にはないドライな考え方だが、愛のない結婚なら仕方ないとも言える。姫子はとりあえず、伊勢のことを1候補として胸に留めた。
名前:伊勢丈二
年齢:33歳
身長:185cm
職業:カジノ経営
富久田との血なまぐさい見合いが終わり、姫子は姿勢を正すと望月を見据えた。
「望月さん、健康診断って受けてますか」
「なんですか、急に」
そろそろタバコを吸いたそうな素振りで腕時計を見ていた望月は、腕を下げて姫子に顔を向けた。
「毎年、会社員とかは健康診断を受けますよね」
「ヤクザ組織にそんな福利厚生ないですよ。健康保険にも入ってないし。少年院にいたころ受けたのが最後ですねたぶん」
それって何年前だと姫子は渋い顔になった。
とにかく望月は全然健康診断に行っていないことだけは確定である。
「普通の病院に行けないなら、闇医者の黒須さんに頼んでみるのはどうでしょう。今の富久田さんも医者にツテがありそうですし、聞くだけ聞いてみても」
「なんで急に俺の健康を気にし始めたんですか。ヤクザなんて死ぬときは死にます」
「縁起でもないこと言わないでください。望月さんには平均寿命の倍は生きてほしいです」
「それはジジイすぎませんか」
「ジジイになるまで生きてください」
「そんなに長生きしたいか?」
姫子が言い返すと、知らない男性の声が割って入ってきた。
ブースの入口にガタイのいい男が立ち、口角を上げている。かなり鍛えていて格闘家のような見た目だ。
「どーも。今日最後の見合い相手、伊勢丈二です。そんなに話すこともないだろうし、お互いのためにもさっさと終わらせよう」
言うが早いか、伊勢はドカッと椅子に腰かけた。今までの男性陣の中ではかなり横暴な動きだ。
「ここタバコOKだっけ?」
「残念ながら禁煙です。喫煙所が別途ありますので吸うならそちらで」
「ヤクザなのにルールは守るのウケるわ」
肩をすくめてタバコを戻した伊勢は、手持無沙汰なのかテーブルを指でトントンと叩き始める。ものすごく気が短そうだ。
「もう情報行ってると思うが、俺はカジノ経営をしてる。東京、神奈川あたりの繁華街でな。俺も賭けが好きで資金の増減があるが、かなり金はある。それ以外にアピールすることはない」
「カジノって海外のイメージでしたけど、日本にもあるんですね」
「いや表向き日本にはない。違法だからな」
伊勢が「酒ある?」と望月に言ってワインを出してもらう間、姫子はあからさまなため息を吐かないようにどうにか耐えた。
お見合いファイルにはごく自然に『カジノ経営者』と書いてあったし、伊勢も後ろめたいことなど何もないという口調だったのでてっきり合法職だと思っていたのだ。
(また犯罪者か……)
「それじゃカジノ経営も違法で犯罪ということですよね……?」
「ああ、もちろん。日本でカジノと言えば、闇カジノに決まってる。反社の分野には詳しいかと思ったが、アンタ案外世間知らずなんだな」
「家業には関わってませんので……」
「最近じゃ国が合法カジノを誘致しようって話も出てる。そうなると俺たちやヤクザの収入が減るから界隈が荒れて食い合いになる。アンタにとっても他人事じゃねえ話だと思うがな」
伊勢の指摘は、玉城から聞いた抗争の噂と嫌な重なりを感じさせた。
姫子が家業を知ろうとせず、世間知らずに生きているから気づいていないだけで、わかりやすい火種はいくつもあるのかもしれない。
「まぁウチのカジノは普通のゲーム以外にも手広くやってる。危険なギャンブルもできる。本物の拳銃でロシアンルーレットしたりな。最後まで引き金引けた奴は5億だ」
「そんなのに参加する人がいるんですね……」
「一発逆転しないとどっちにしろ死ぬ、って奴らが最終的にやる。でもビビりが多いせいで、参加者の集まりが悪いんだよな。1番盛り上がるんでもっと開催したいんだが」
伊勢はワインを煽り、空になったグラスで望月を指した。
「そこの兄さん、どう。ギャンブル興味ない? ヤクザの度胸試しに丁度いいぜ」
「あいにく、先ほどお嬢にジジイになるまで生きろと言われてしまったので遠慮します」
しれっと返した望月に、意外にも聞く耳を持ってくれていたことがわかり、姫子は思わずホッとした。健康診断もごり押しで受けてくれるかもしれない。
「なんだ、つまんねえな。人間なんて太く短く生きりゃ十分だと思うがなぁ。好きなもん食って好きなことしてさっさと死ぬのが1番いいだろ」
煽りではなく心底不思議そうに首をひねっている伊勢は、姫子とは相容れない感性だ。
「俺は生きてもせいぜいあと10年だ。今のうちに結婚しとけば、アンタが遺産を好きにできる。カジノ経営よりそっちのがアピールポイントだったか」
「でも、伊勢さんが最終的に借金まみれで死ぬ可能性もありますよね」
「そらそうよ。俺は経営者の前にギャンブラーだしな。まず、結婚なんてのがギャンブルだろ? じゃなきゃアンタとの見合いになんて来ねえよ」
「ギャンブル感覚で私と結婚する気なんですか」
「ああ。俺の直感が『乗れ』って言ってきたからな。アンタ次第だぜ」
ワインを手酌で注ぎながら笑う姿は、堂々として自信に満ちている。直感で何店舗も経営できているのだから、強運なのだろう。
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