ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!

タタミ

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 お見合いファイルNo.14
 名前:富久田一とくだはじめ 
 年齢:28歳
 身長:180cm
 職業:臓器売買斡旋業者

「──ということで、俺との結婚は関西へ移住もできるしオススメや。関東でドンパチやるなら、姫子さんは関西に逃げた方がええよ。待っとるからね~」

 玉城はいかに自分と結婚したらメリットがあるかを饒舌に語り、時間ぴったりにプレゼンを終えるとあっさりとブースを出て行く。違法な地上げなどやらずとも経営者として確実に成り上がるであろう素質を感じたが、姫子は抗争勃発の可能性が頭にこびりついて離れなかった。

(もし本当に、大きな抗争を控えているから私を家から出そうとしているのだとしたら……)

 それは父・龍吾にも、望月にも命の危険が迫っているということと同義だ。

「……望月さん」
「はい」
「今の……玉城さんが仰っていた『デカい抗争』が起きるかもしれないというのは、本当ですか」

 望月に向き合って尋ねると、望月はしばし沈黙した。表情は変わらず、思考は読めない。

「こっちが仕掛ける場合はお嬢にはお話しできませんし、誰かに仕掛けられる場合は俺にはそれがいつかわかりません」
「では、玉城さんの予想が当たっている可能性もあるということですよね。お父様が私にお見合いを強いるのは逃がすため、という……」
「お嬢のことは俺が守ります。結婚相手の野郎が決まっても決まらなくても。だから心配しないでください」

 望月は少しだけ微笑んでいた。初めて会った時の、姫子を怖がらせまいとする表情を彷彿とさせ、姫子は心臓を鷲掴みにされたように息が止まる。
 姫子の不安を消そうとして出た言葉なのか本心なのかはわからないが、とにかく姫子は胸を叩いてうずくまった。

「ぐぅ……っ!」
「!? お嬢、どうしました。まさか、着物の帯がキツすぎるんじゃあ──」
「あの~すみません。入っていいですか?」

 望月が見当違いの心配を始めると、ゆったりとした割り込みがあった。
 姫子が顔を上げた先に、学生風の青年が立っている。さらりとした黒髪に落ち着いたシャツとスラックス姿で、さっきまでいた成金オーラ満載の玉城とは正反対だ。

「あ、はじめまして。富久田とくだです」

 姫子と目が合うと、富久田と名乗った青年は爽やかに笑った。
 その様子は優し気で若く見える男性だったが、富久田という名前に姫子の脳がお見合いファイルをめくりだす。

(……富久田さん。ついに来た……臓器売買の人……)

 富久田の職業は『臓器売買斡旋業者』だ。
 もうド級の犯罪である。

「いや~俺みたいなのが姫子さんと会えるなんて光栄です。龍吾さんとあまり似てませんね、少女版の龍吾さんが出てくるんだと思ってました」
「私は母似なので、父には似ていないとよく言われます」
「なるほど。お母さんもお綺麗なんですねえ」

 自然と言ってお茶を飲む富久田はどう見ても好青年で、職業との乖離が気味の悪いギャップになっている。

「待ってる間に今日来てる人たちとおしゃべりしてたんですけど、まともなお仕事されてる人が多くてびっくりしちゃいました。臓器売ってるやつなんて全然いなくて。売ってるか売ってないかで言ったら、売ってない人の方がいいですよね~」
「ええ、まぁ……そうですね」

 正直に受け応えてしまうと、富久田はけらけらと笑う。

「一応の弁解なんですけど、罪のない人を拉致って売りさばいたりはしてないです。大体はヤクザさんにケジメつけられた人間がメインなんで。そういった意味で、大蛇組さんにはよくしてもらってます」

 富久田が組の取引先だとわかり、関東最大のヤクザ組織である大蛇組が生半可なシノギでのし上がったわけではないことを改めて見せつけられてしまう。
 シノギの恩恵にあずかっている姫子に富久田を無下にする資格はないので、ひとまず笑顔を浮かべた。

「ナメた人間を利活用していただいていたとは。今流行りのSDGsというわけですね」
「お嬢、SDGsを語るには血生臭すぎますよ」
「さすが姫子さん、器がデカい。ただ殺すよりは助かる命があった方がいいですよね~」

 望月の指摘を笑顔でスルーした富久田は、姫子のよくわからないフォローに乗っかってくる。

「他の男性陣と比べて秀でたところは思いつかないですけど、新鮮な臓器を提供することはできます。もし姫子さんや龍吾さんに何かあればすぐにでも用意します」
「富久田さんは、ご自分で……なんと言えばいいんでしょうか、えーっと捌いてらっしゃるんですか?」
「お嬢、魚じゃないんだから」
「あ、すみません。正しくは……解体?ですか」

 臓器売買に関して適切な表現など姫子にはわからない。

「解体でも捌くでもなんでも大丈夫ですよ。ただ俺はそういう知識も技術も持ってないから、そこはプロにお任せですね。あくまで斡旋がメインの仕事なんで」
「需要と供給をつなぐのがお仕事なんですね」
「臓器を新しいのと変えて長生きしようとする富裕層が増えてて、最近は結構稼ぎもいいですよ。姫子さんに苦労はさせません」

 映画に出てくる悪役のような富裕層と繋がっているのがわかり、姫子もさすがに少々顔が引きつった。

「ヤクザさんは怪我はもちろん、不摂生と刺青で臓器やられる人も多いんです。姫子さんは大丈夫でしょうけど、必要になったら教えてください」
「ありがとうございます。そうなった暁には、どうにか正規手続きで移植したいですけれど」
「俺なら1番新鮮なのをすぐにお届けしますよ。鮮度で勝負してるんで、まだ動いてる!なんてこともあるくらい」

 釣った魚の話のような受け答えを聞きながら、姫子はヤクザの臓器が駄目になりやすいという情報を反芻した。
 望月もそうなのだろうか。刺青は背中に入っているものの、酒と煙草に明け暮れているイメージはない。

(私の前では見せないだけかな……。望月さんの家庭環境からして、子供の時から酒タバコを嗜んでいてもおかしくないし……)

 望月が若くして大病を患う可能性に、頭がどんどん支配されていく。なんだかんだ望月は30手前で、早ければもう昔のツケが回ってくるかもしれない。
 散々臓器の話をした後に「好きな食べ物は馬刺しとユッケで、趣味は怪しい居酒屋巡りです」と急に見合いらしいことを言い出した富久田と話しつつ、姫子は闇医者の黒須に頼んで望月の健康診断を実施してもらうのはどうだろうと、ハイスピードで望月健康計画を立てていった。
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