【完結】花が結んだあやかしとの縁

mazecco

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休日

8話 木の子

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公園の前を通ったとき、ときどき出会う近所の女の子が目に入ったので声をかけた。

「チビちゃんやっほー!」

「わー!おねえちゃんだー!やっほぉ!」

女の子はブランコに乗りながら、私に向かって大きく手を振った。ちっちゃい子かわいい。

「もう夕方だぞー!早く帰るんだよ!」

「うん!」

声をかけられて嬉しかったのか、チビちゃんはぴょーんとブランコから飛び降り着地した。上手に着地できたことでテンションが上がりぴょんぴょん飛び跳ねている。チビちゃんにつられてニコニコしていると、薄雪は興味深げに尋ねた。

「知合いですか?」

「うん。と言っても見かけたときに挨拶するくらいですが。お互い名前も知りませんよ」

「へえ。あなたにはあやかしの知り合いもいるんですね」

「…ん?」

ちょっと待って。今この人なんて言った?

「おや、気付いていなかったのですか?」

「え?嘘ですよね。だってあの子普通の女の子ですよ。あやかしがブランコに乗って遊びます?」

「子どものあやかしがヒトの子に憧れるのはよくあることです」

「花雫はあんなか弱いあやかしの姿もはっきりと見えるんだね!あの子、もうすぐ消えちゃうよ」

「…いやいやいや、冗談きつい…」

薄雪と綾目の言葉に耳を疑った。あの子もあやかし?うそだ。
薄雪たちみたいなあやかしっぽい和服も着てない、洋服を着たただの女の子だよ?友だちと一緒に遊んでたの見たことあるし。うん、あの子があやかしなわけない。

かたくなに信じようとしない私を一瞥し、薄雪は小さな声で呟いた。

「あのあやかしは木の子という山童の一種です。本来山に棲んでいるはずなのですが…。寂しくて山からおりてきたのでしょうか」

薄雪が公園のまわりを見渡し、近くにある小さな山を指さした。私と綾目がそちらに目を向ける。

「コロコロ山…」

その小山は、地元の人たちから「コロコロ山」と呼ばれていた。今は立ち入り禁止の柵が取り付けられているけど、昔は公園に遊びにきた子どもたちがよくコロコロ山に登って遊んでいたらしい。
子どもたちだけでなく、大人もよく登っていた。というのも、コロコロ山では山菜がよく採れたらしい。ちなみに「コロコロ山」という通称の由来は、探さなくてもコロコロ転がってくるくらい山菜がよく採れたからだとか。でも今は…。

「彼女が棲んでいた山は、あそこだね」

「そうでしょうか。あの山からは何も感じません。むしろ…」

「ええ。あの山の主はもう消えてしまっているようだ」

「薄雪さま、あちらを見てください。山が削られています」

綾目が不思議そうに山を見た。
そう、コロコロ山は数年前から土採集場として使われている。このあたりの土は水はけが良いことで有名らしくて、業者がよく山を買って削っている。

地元の人たちに愛されていたコロコロ山。今では、公園から見たら山に見えるけど逆方向からみたら土肌が丸見えで近くにユンボがたくさん停まっている。当時地元の人たちがとても残念がっていたからよく覚えてる。

私の心を読んだのか、薄雪がため息をついた。

「山は神聖なモノなんだがね。反対するヒトはいなかったのですか?」

「地元民から反対する声がたくさんあったそうですが、結局…」

「そうですか。まあ、ヒトにはヒトの考えがある。アチラでもコチラでも、この地のモノは全てヒトのモノ。何をしたって文句は言えないね、綾目」

「はい…。コチラ側では特にそうですね…。アチラ側では、あやかしを神として崇める風習がある地や、あやかしを精霊と呼び大切にしている地もあります。アチラ側のヒトは、目に映らないモノを無意識に感じ取り畏怖の念を抱くので、むやみに自然を壊しません。

ですが…あやかしは本来コチラ側にはあるはずのないモノ。コチラ側のヒトは目に映るモノしか信じず、ヒトにとってヒトが一番大切なモノです。そしてそれは、間違いではありません」

綾目の言葉に薄雪が小さく頷いた。
アチラ側とかコチラ側とかよく分からない私にとってはまったく要領の得ない会話だ。

「あの…あなたたちの言うコチラ側にも、あやかしはたくさんいるんですか?」

「いますよ。本来はいないんですがね。アチラ側のあやかしは、何に恋焦がれてかコチラ側に行きたがる。コチラ側にいるあやかしはほとんどが、アチラ側から扉をくぐってやってきたモノたちです」

「コチラ側に来てしまえば、大切なモノを失えば消えてしまうのにね」

「大切なモノ?」

薄雪は答えずに扇子を取り出した。山へ向けて扇子を一振りすると、しばらくして弱々しい向かい風が返ってきた。

その風を浴び、薄雪は目を瞑った。なにかを悼むように悲し気に、扇子に息を吹きかける。どこからか現れた一枚の花びらが、山へ向かってひらひらと飛んでいった。

儀式のような一連の動作に目を奪われている私に気付き、薄雪は少し寂しそうに微笑んだ。
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