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魔女編:Fクラスクエスト旅

【第63話】グール時々海遊び

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合同クエストでベニートたちに褒められた双子は、あの日から冒険者業に積極的に取り組むようになっていた。
そして今日もまた、冒険者ギルドに掲示されたF級クエストを片っ端から受注して、ワクワクしながら家に戻った。

「さて!」

アーサーとモニカは、ダイニングテーブルに地図とクエスト依頼書を広げる。作戦会議だ。
二人が今回受けたクエストは5件。

-----------------------------
【討伐】
アイトヴァラス1体 大銀貨15枚
グール3体 大銀貨15枚
ハーピー 5体 大銀貨15枚
ミノタウロス 3体 大銀貨15枚
魔女 1体 白金貨15枚
----------------------------

「ん?魔女?」

「これだけ報酬額が高いわね」

「Fクラスクエストって一律大銀貨15枚のはずなんだけどなあ。大銀貨を白金貨って書き間違えたのかな。それにしても魔女ってなに?人間じゃないのかな?」

「さあ…」

二人は首を傾げクエスト依頼書を眺めていた。とりあえずクエストで指定された場所に印を打つ。

「馬がいて良かった。ポントワーブから結構遠いや。近い順で行くとしたら、グール、アイトヴァラス、ミノタウロス、ハーピー、魔女の順番になるね」

「かなりの長丁場になりそうね。しっかり準備して行きましょう」

アーサーとモニカは買い出しに行った。破損した防具を修理してもらい、武器屋で矢を買い足した。あとは食料をたっぷり買い込み、最後に杖のメンテナンスのためシャナの店へ顔を出した。

「あら!アーサー、モニカ、いらっしゃい!」

「シャナー!」

挨拶のハグをして、モニカが杖を出す。シャナは杖と話をして状態を確かめた。

「状態はまあまあね。少し聖水に浸しましょう」

《おい、シャナ。我は聖水は好まぬ…》

「我慢してちょうだいね」

《我はまだ大丈夫だ、聖水の力など必要ない》

「ねえシャナ、どうして杖はこんなに嫌がってるの?」

「お風呂が嫌いな子どもと一緒よ。めんどくさがってるだけ。浸かったら気持ちよさそうにするから」

シャナが言った通り、駄々をこねていた杖は聖水に浸かると静かになった。気持ちがいいのかかすかにホワホワ光っている。その様子を見てモニカがにやにやと笑った。

「杖、あんなに嫌がってたのに気持ちよさそうじゃない!なんであんなに駄々をこねていたの?」

《…浸かった後の乾かす時間が好きではないのだ。シャナに強い風魔法をかけられて、毎回折れてしまうのではないかと恐ろしいのだ》

「あら、折れないギリギリの力でやってるから大丈夫よ?」

「ギリギリなんだ…」

30分ほど聖水に浸されたあと、シャナの強力な風魔法が杖を包み込んだ。杖の恐怖に満ちた絶叫が、シャナとモニカにだけ聞こえる。モニカは杖がなぜ聖水を嫌がったのかを完全に理解した。

◇◇◇
翌日、アーサーとモニカは馬に乗ってポントワーブを発った。最初の目的は馬で4時間ほど東に向かった海辺にある洞窟の中だ。

「わあ…!」

目の前に広がる海に双子が感嘆の声を上げた。潮っぽい風、波の音。すべてが初めてだった。アーサーとモニカは目的を忘れて海で水遊びを始めた。アーサーが両手で海水をすくい妹にかける。「つめたい~!」と笑いながらモニカも水を蹴ってアーサーにかけた。

「あ!モニカ、魚がいるよ!」

「ほんとだ!食べられるかな?」

「捕ってみようよ!モニカ、小さい雷落として」

「うん!」

モニカは魚の群れがいるところを狙って雷を落とす。魚がぷかぁと浮いたのでアーサーが回収した。焚火で魚を炙り少し早い昼ごはんにした。二人はホクホクの魚をぺろりと平らげ、本来ここへきた目的をやっと思い出した。

「グールは、ハイエナみたいな姿をしてるらしいよ。人間を食べるらしいから気を付けよう」

「おっけ!」

洞窟の中は暗かった。アーサーとモニカはたいまつに火を付け、ほの暗い中をそろそろと歩く。水が落ちる音が洞窟内に響いて非常に不気味な雰囲気をしていた。しばらく歩いていると、人間の骨らしきものが散見されるようになった。モニカは「うひぃぃ」と気味悪がり、アーサーの裾を掴んで歩いた。

「モニカっ」

「ひぇぁっ!」

「シーッ!静かに、いたよ、グール」

「どこっ?」

兄の背中越しに洞窟の奥をのぞき込み、四足歩行の魔物が50体ほど確認できた。

「50体か…多いな…」

「どうするアーサー?魔法使っていいかな?」

「やってみようか。水が溜まっているところがあるから、雷魔法がよく効くかもしれない」

「分かった!やっと思いっきり使えるう」

「ほどほどにね」

モニカが杖を取り出し、グールに向かって歌を歌った。チリッ…チリッ…と電気が通る音がしたあと、耳がつんざくほどの爆音が響き渡った。

「うう…っ!」

アーサーとモニカは思わず耳を塞ぐ。ちらりとグールの様子を見ると、半分以上が息絶えていた。

「え…20匹以上生きてる…」

「でもだいぶ弱ってる。いってくるよモニカ」

「気を付けてね!」

アーサーは洞窟の奥にゆっくり近付きながら弓を引いた。首を狙って打つが、皮膚が厚く矢じりの先が刺さるだけで致命傷は与えられない。「だめか」と呟き剣を取り出す。アーサーに気付いたグールは唸って威嚇した。

雷魔法でかなり弱っていたため、それほど反撃を食らわずに倒すことができた。アーサーが襲われそうになったらモニカが背後から火魔法で援護した。コントロールがまだ未熟なため、炎が小さすぎて敵にダメージを与えられなかったり、大きすぎてアーサーにまで炎がかかってしまったりしてやきもきした。
アーサーは、グールの皮膚が厚くサクサクとは首を落とせず、一体ずつ剣でごりごり首を削るように殺した。生き残っていた20匹を全て殺した時には、アーサーの握力がもう残っていなかった。

「はぁっ!はぁっ!皮膚硬すぎるよ…っ!」

「アーサー!怪我はない?!」

「大丈夫!モニカの雷魔法のおかげで麻痺してたから、動きが鈍くなってて助かったよ…。ちょっとひっかかれたり、服が焼けたくらいしただけで済んだ」

「うう、ごめん…」

「気にしないで!火傷はしてないから。練習したらきっとできるようになるよ」

「ありがとう、アーサー」

そのあと双子は素材回収をしようとした。しかし、グールの売れる素材は、皮。硬すぎてモニカの力では皮膚に突き刺すこともできず、アーサーは腕力がもう残っていないので手がブルブルと震えて役に立たなくなっていた。

「だめだ、力が入らない。いったん休憩しようか」

「うん!」

アーサーとモニカは洞窟を出て、先ほどおこした焚火の跡に腰を下ろした。ジンジンとする手を揉んで少しでも早く回復しようとしているアーサーのそばで、モニカはアイテムボックスからバナナを取り出しほおばった。モニカは兄にバナナを一本差し出す。

「たべる?」

「うん、たべる」

「皮、むける?」

「うーん、むいてくれる?」

「はあい」

丁寧にバナナの皮をむき、アーサーの口元に差し出す。アーサーは一口で半分以上バナナをかじった。「ん~!動いた後のバナナおいしい~」としみじみしながら、合計3本平らげた。
数時間休憩し、アーサーの握力が戻ったので再び洞窟へ戻る。悪戦苦闘しながらグールの皮をはぎ取りアイテムボックスへ放り込んだ。素材回収にかかったじかんは3時間、もうすっかり日が暮れていたので、その日は海辺で一泊することにした。
波の音が心地よく、二人は星がきらきらと輝く夜空を見上げているうちに自然と眠りに落ちていた。
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