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学院編:オヴェルニー学院
【102話】兄と姉と妹と弟
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食事と入浴を終え、アーサーとモニカは談話室のソファに座りくつろいでいた。半日離れていただけでアーサーシックになってしまったモニカは兄にしがみついて離れようとしない。それに授業もあまりうまくいかなかったのでとても落ち込んでいるようだ。沈んだ目で、口がへの字になっている。
武器戦術クラスの生徒たちはモニカを、魔法クラスの生徒たちはアーサーを興味深そうに見ている。声が届かない場所で仲の良い友人とこそこそと二人の情報交換をしていた。
「なあ、モニカってどんな子だったんだ?」
「魔法は全然だめだな。10歳の子でもできる魔法を3時間かけてもできなかった。早速ジュリア王女にいびられてたよ。でも、めちゃくちゃかわいい。性格も良さそう。あと根性がある。ジュリア王女にきっついこと言われても笑って返してたよ」
「へえ。それはすごいな。王女に目をつけられて泣かない子なんて初めてじゃないか?魔法使えないならこっちのクラスに来たらいいのに。あんなかわいい子が同じクラスにいたら俺だって授業頑張れる」
「だめだっつの。魔法クラスの女子なんて気のきつい子か陰気な子たちばっかなんだぞ?せっかく入ってきた明るくて優しそうなモニカちゃんを渡すかよ。そっちにはドリーもグレンダもいるじゃないか。それで我慢しとけよ」
「ドリーもグレンダもアーサーに夢中だよ…」
「確かにアーサーも顔が良いもんなあ」
「それだけじゃない。剣術がすごいんだ。さすがにウィルク王子には敵わなかったけど、それでも充分すごい。俺たちの剣なんて片手でひょいひょい受け流しやがんだ。あー思い出しただけではらたってきた」
「はは。確かにはらたつなあ。…にしてもアーサーとモニカって仲良しなんだなあ?本当に兄妹か?恋人みたいに見えるぞ」
「それな?モニカはアーサーにべったりくっついてるし、そのモニカの頭をアーサーが撫でてるし…。兄妹の距離感じゃねえよなあ」
他の生徒たちも同じような話をしていた。声をかけたいが二人の独特な雰囲気に近づけなくてもどかしそうにしている。
双子が座っているソファの前を、お風呂から戻ってきたウィルク王子とその取り巻きが通った。王子はちらりとアーサーを見る。完全にライバル意識を抱いてしまったようだ。
「な…」
ウィルク王子は思わず立ち止まった。入学初日にもかかわらず、アーサーはさっそく女子を侍らせているではないか。相手は誰だ、クレアかドリーか?と女子に目を向けると、彼に抱きついているのは見たことのない可愛い女子だった。不機嫌そうにしているが、ウィルク王子の心を奪うには充分だった。王子は深呼吸をして授業の時と打って変わった穏やかな声色でアーサーに声をかけた。
「アーサー、そちらのお嬢さんはどなたかな」
急に声をかけられたアーサーはびくりとしてモニカを体から離した。慌てて姿勢を正し妹の紹介をする。
「モニカと申します。僕の妹で、彼女も今日転入してきました。モニカ、こちらウィルク王子。ご挨拶を」
王子と聞いてモニカはすぐさま跪いた。
「お初にお目にかかりますわウィルク王子。わたくし、リングイール家の長女、モニカと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「ほう。アーサーの妹か」
ウィルク王子は跪いているモニカの顔がよく見えるよう、両手を添えて自分の方を向かせた。彼女も銀髪で灰色の瞳をしている。大きな瞳、整った鼻に花びらのような唇。見れば見るほど欲しくなる。王子はニコっと笑ってモニカを抱きしめた。思わずアーサーが「ひょっ?!」と変な声をあげて立ち上がる。
「決めた。モニカ、僕の妾になれ」
「…はい?」
「リングイール家などという商人上がりの貴族の娘を正妻には迎えられんが、妾にならしてやれる。良かったなモニカ。僕に気に入られたことを喜ぶがいい」
「は、はあ…」
突拍子のない言葉にモニカは気の抜けた声を出すことしかできなかった。一方アーサーは苛立ちで拳を強く握りしめている。
(モニカを、妾だってぇ…?くぅ、このバカな弟を一発殴りたい…)
「あらあらウィルク。何話してるの?」
「げっ、ジュリアお姉さま」
寝室から降りてきたジュリア王女が弟に声をかけた。彼女の寝衣は王族らしく上質なものだった。モニカの両肩を掴んでいる王子を見て首を傾げる。
「ウィルク、この出来損ないの子猫ちゃんと何を話してたの?」
(で…出来損ないの子猫ちゃん?!いまこの子モニカのこと出来損ないって言った?!)
「この子、僕の妾にしようと思って」
「ええ?こんな子を?!ウィルク見る目なぁい!!」
キャハハとジュリア王女が声高らかに笑った。モニカは悔しさでプルプルと震えている。アーサーは自分の妹を侮辱されて血管が破裂しそうなほど頭に血がのぼっていた。アーサーに気が付いたジュリア王女はモニカに話しかけた。
「あら?そちらの方はだあれ?紹介してくださる?」
「あ、はい。こちらアーサーです。リングイール家の長男ですわ。アーサー、この方はジュリア王女です」
「ジュリア王女?!」
それを聞いたアーサーはすぐさま跪いた。
「あなたのお兄さんなのね。へえ」
ジュリアは舐めるようにアーサーを見た。端正な顔立ち、鍛えられた体。ひととおり眺め終わりニコリと笑った。
「あなたのお兄さんはなかなか出来が良さそうね。アーサー、わたくしに挨拶は?」
ジュリアはそう言いながら手を差し出した。アーサーはその手の甲にキスをして挨拶をする。
「ジュリア王女。お目にかかれて光栄です。わたくし、アーサーと申します。よろしくお願いいたします」
「あなた、魔法クラスにいなかったわね。ということは武器戦術クラスかしら?」
「はい」
「ウィルク、アーサーの実力はどれほど?」
「たいしたことありません。僕の一太刀で尻もちをついていましたから」
「そうなの。まあウィルクは強いから仕方がないわ。…そう言えば来週、寮対抗剣術大会があったわよね?アーサー、私にいいところをお見せなさい。そうしたら将来は剣士として雇って差し上げてもよくてよ」
「ありがたきお言葉感謝いたします。精いっぱい頑張らせていただきます」
「所作も申し分ないわね。気に入ったわ。アーサー、あなたの落ちこぼれの妹の面倒、しっかり見ないとあなたの顔にも泥を塗ってしまうわよ?いっそ家に帰した方がよくなくて?」
「お姉さま!僕の将来の妾に失礼なことを言わないでください!」
「あらあらごめんねウィルク。そうね。妾なら魔法を使う必要はないものね。よかったわねモニカ。将来安定じゃない」
アーサーとモニカは俯いて歯を食いしばった。王女は好き勝手言った後その場を去っていった。
「あ、モニカ」
ウィルク王子は去り際にモニカの肩を掴んで唇にキスをした。
「おやすみ僕のモニカ」
いきなり唇を奪われたモニカは呆然と座り込んだ。アーサーは「うわあああ」とモニカを抱えて水飲み場へ走り、妹の顔にバシャバシャと水をかけた。
「わ、わたし…なにされたの…?」
「あいつ!!あいつ許さない!!モニカに!!モニカにこんなことしてえええ!!」
「アーサー…わたし、なにされたの…?」
「忘れて!!さっきのことは忘れるんだモニカ!君は何もされてない!!うわあああ!!」
武器戦術クラスの生徒たちはモニカを、魔法クラスの生徒たちはアーサーを興味深そうに見ている。声が届かない場所で仲の良い友人とこそこそと二人の情報交換をしていた。
「なあ、モニカってどんな子だったんだ?」
「魔法は全然だめだな。10歳の子でもできる魔法を3時間かけてもできなかった。早速ジュリア王女にいびられてたよ。でも、めちゃくちゃかわいい。性格も良さそう。あと根性がある。ジュリア王女にきっついこと言われても笑って返してたよ」
「へえ。それはすごいな。王女に目をつけられて泣かない子なんて初めてじゃないか?魔法使えないならこっちのクラスに来たらいいのに。あんなかわいい子が同じクラスにいたら俺だって授業頑張れる」
「だめだっつの。魔法クラスの女子なんて気のきつい子か陰気な子たちばっかなんだぞ?せっかく入ってきた明るくて優しそうなモニカちゃんを渡すかよ。そっちにはドリーもグレンダもいるじゃないか。それで我慢しとけよ」
「ドリーもグレンダもアーサーに夢中だよ…」
「確かにアーサーも顔が良いもんなあ」
「それだけじゃない。剣術がすごいんだ。さすがにウィルク王子には敵わなかったけど、それでも充分すごい。俺たちの剣なんて片手でひょいひょい受け流しやがんだ。あー思い出しただけではらたってきた」
「はは。確かにはらたつなあ。…にしてもアーサーとモニカって仲良しなんだなあ?本当に兄妹か?恋人みたいに見えるぞ」
「それな?モニカはアーサーにべったりくっついてるし、そのモニカの頭をアーサーが撫でてるし…。兄妹の距離感じゃねえよなあ」
他の生徒たちも同じような話をしていた。声をかけたいが二人の独特な雰囲気に近づけなくてもどかしそうにしている。
双子が座っているソファの前を、お風呂から戻ってきたウィルク王子とその取り巻きが通った。王子はちらりとアーサーを見る。完全にライバル意識を抱いてしまったようだ。
「な…」
ウィルク王子は思わず立ち止まった。入学初日にもかかわらず、アーサーはさっそく女子を侍らせているではないか。相手は誰だ、クレアかドリーか?と女子に目を向けると、彼に抱きついているのは見たことのない可愛い女子だった。不機嫌そうにしているが、ウィルク王子の心を奪うには充分だった。王子は深呼吸をして授業の時と打って変わった穏やかな声色でアーサーに声をかけた。
「アーサー、そちらのお嬢さんはどなたかな」
急に声をかけられたアーサーはびくりとしてモニカを体から離した。慌てて姿勢を正し妹の紹介をする。
「モニカと申します。僕の妹で、彼女も今日転入してきました。モニカ、こちらウィルク王子。ご挨拶を」
王子と聞いてモニカはすぐさま跪いた。
「お初にお目にかかりますわウィルク王子。わたくし、リングイール家の長女、モニカと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「ほう。アーサーの妹か」
ウィルク王子は跪いているモニカの顔がよく見えるよう、両手を添えて自分の方を向かせた。彼女も銀髪で灰色の瞳をしている。大きな瞳、整った鼻に花びらのような唇。見れば見るほど欲しくなる。王子はニコっと笑ってモニカを抱きしめた。思わずアーサーが「ひょっ?!」と変な声をあげて立ち上がる。
「決めた。モニカ、僕の妾になれ」
「…はい?」
「リングイール家などという商人上がりの貴族の娘を正妻には迎えられんが、妾にならしてやれる。良かったなモニカ。僕に気に入られたことを喜ぶがいい」
「は、はあ…」
突拍子のない言葉にモニカは気の抜けた声を出すことしかできなかった。一方アーサーは苛立ちで拳を強く握りしめている。
(モニカを、妾だってぇ…?くぅ、このバカな弟を一発殴りたい…)
「あらあらウィルク。何話してるの?」
「げっ、ジュリアお姉さま」
寝室から降りてきたジュリア王女が弟に声をかけた。彼女の寝衣は王族らしく上質なものだった。モニカの両肩を掴んでいる王子を見て首を傾げる。
「ウィルク、この出来損ないの子猫ちゃんと何を話してたの?」
(で…出来損ないの子猫ちゃん?!いまこの子モニカのこと出来損ないって言った?!)
「この子、僕の妾にしようと思って」
「ええ?こんな子を?!ウィルク見る目なぁい!!」
キャハハとジュリア王女が声高らかに笑った。モニカは悔しさでプルプルと震えている。アーサーは自分の妹を侮辱されて血管が破裂しそうなほど頭に血がのぼっていた。アーサーに気が付いたジュリア王女はモニカに話しかけた。
「あら?そちらの方はだあれ?紹介してくださる?」
「あ、はい。こちらアーサーです。リングイール家の長男ですわ。アーサー、この方はジュリア王女です」
「ジュリア王女?!」
それを聞いたアーサーはすぐさま跪いた。
「あなたのお兄さんなのね。へえ」
ジュリアは舐めるようにアーサーを見た。端正な顔立ち、鍛えられた体。ひととおり眺め終わりニコリと笑った。
「あなたのお兄さんはなかなか出来が良さそうね。アーサー、わたくしに挨拶は?」
ジュリアはそう言いながら手を差し出した。アーサーはその手の甲にキスをして挨拶をする。
「ジュリア王女。お目にかかれて光栄です。わたくし、アーサーと申します。よろしくお願いいたします」
「あなた、魔法クラスにいなかったわね。ということは武器戦術クラスかしら?」
「はい」
「ウィルク、アーサーの実力はどれほど?」
「たいしたことありません。僕の一太刀で尻もちをついていましたから」
「そうなの。まあウィルクは強いから仕方がないわ。…そう言えば来週、寮対抗剣術大会があったわよね?アーサー、私にいいところをお見せなさい。そうしたら将来は剣士として雇って差し上げてもよくてよ」
「ありがたきお言葉感謝いたします。精いっぱい頑張らせていただきます」
「所作も申し分ないわね。気に入ったわ。アーサー、あなたの落ちこぼれの妹の面倒、しっかり見ないとあなたの顔にも泥を塗ってしまうわよ?いっそ家に帰した方がよくなくて?」
「お姉さま!僕の将来の妾に失礼なことを言わないでください!」
「あらあらごめんねウィルク。そうね。妾なら魔法を使う必要はないものね。よかったわねモニカ。将来安定じゃない」
アーサーとモニカは俯いて歯を食いしばった。王女は好き勝手言った後その場を去っていった。
「あ、モニカ」
ウィルク王子は去り際にモニカの肩を掴んで唇にキスをした。
「おやすみ僕のモニカ」
いきなり唇を奪われたモニカは呆然と座り込んだ。アーサーは「うわあああ」とモニカを抱えて水飲み場へ走り、妹の顔にバシャバシャと水をかけた。
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連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
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