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学院編:オヴェルニー学院
【125話】吸血鬼
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王子とマーサを抱きかかえながら、アーサーはエリクサーと増血薬を飲んだ。王子もマーサも恐怖でぷるぷる震えてアーサーにしがみついている。二人の背中をさすり、大丈夫だからね、と言葉をかけていた。
「おや、目が覚めたかい?」
「!」
地下に足音が鳴り響いたあと、セルジュ先生が牢屋を覗き込んだ。
「ほう、アーサー、この二人に血を与えたのかい。すっかり禁断症状がおさまってしまっているね。全く。困ったことをしてくれる」
「セルジュ先生!!助けてください!!僕をここから出してください!!」
「いいとも。おいで」
(禁断症状だったからロイとセルジュ先生の会話が聞こえてなかったんだ…!まずい!)
檻の間から差し伸べられた手を取ろうとしているウィルク王子を、アーサーが慌てて引き留めた。
「だめだウィルク!セルジュ先生もロイと繋がってる!!連れていかれたらこの6人の生徒たちと同じことになるよ!」
「え…?そ、そんな…嘘ですよね先生?助けに来てくれたんですよね?」
「そうだよ王子。助けに来たんだ」
「騙されないでウィルク!」
「そ、そうかアーサー。そうやって僕を騙してずっと牢屋に閉じ込めようとしてるんだな?」
「なっ…」
「モニカと僕が結婚するのがいやで、こんなところに連れてきたんだろう!!なんてやつだ!ここから出たら処刑してやる!!」
「ちがう!!ウィルク!僕を信じて!!」
「クク…ククク…ハハハハハ!!!」
「?!」
アーサーと王子のやりとりを黙って聞いていたセルジュ先生が、突然大声で笑いだした。気味の悪い笑い方にウィルクが「ヒィっ!」とアーサーにしがみつく。セルジュ先生は指で目に溜まった涙を拭いながらウィルク王子に声をかけた。
「ああ…最高ですね。高慢で、愚かな王族の血。早く飲んでみたい」
「えっ?」
「いえ、なんでもありませんよ。さあ、おいでなさい王子。ここから出してあげますから」
「い…いやだ…」
「おや?突然どうしたんですか?さっきまであれほど出たがっていたのに。さあ、早く」
「僕じゃなくて…マーサを…」
「えっ?!」
突然名前を呼ばれたマーサはびっくりしてアーサーにしがみついた。王子はそんな彼女の肩に手を置き、アーサーから引きはがそうと力を込めた。
「はやく!マーサ、様子を見てこい!!」
「ええええ!」
アーサーはぱちんと王子の頬をひっぱたいた。
「ウィルク。いい加減にしろ。守るべきものを見代わりにしてどうする」
「ちがう!一番に守るべきものは王族の血だ!」
「…少しは変わったと思ってたんだけどな」
深いため息をつき、アーサーは二人から手を離した。
「おい!アーサー!僕から離れるな!」
「おやおや、噂に違わず横暴な血だねえ」
セルジュ先生はクスクス笑いながら3人を見下ろした。アーサーは立ち上がり、先生の目を真っすぐと見る。
「血を飲むなら、僕のものを」
「君は最後にしようと思ってたんだけどな。…いいよ、おいで」
先生は牢屋を開きアーサーの手を引いた。アーサーは大人しく従う。王子たちに声が届かないところまで離れると、歩きながら先生に声をかけた。
「ここの牢屋にいる子たちの分まで僕の血を飲んでかまいません。だから他の子たちは解放してくれませんか」
「そのお願いは聞けないな。そこにいる6人の子どもたちは、私とロイの餌であり、またおもちゃでもあるんだよ。見たかね?チムシーに寄生された者同士で血を飲み合う姿を。彼らがお互いの血を飲めば飲むほど、吸血欲に駆られてしまう。飲んでも飲んでもおさまらないんだ。見ていてとても…愛おしいんだよ」
「餌…あなたとロイも、チムシーに寄生をされてるんですか?」
「ああ。数百年前まではそうだった。だが今はもうそうじゃない。私とチムシーはひとつになった。人はそんな存在をこう呼ぶ…吸血鬼とね」
「吸血鬼…!じゃあ、ロイも?!」
「ああ。ロイも吸血鬼だよ。100年前、私が彼を拾って完全な吸血鬼にした。かわいいかわいい私の子どもさ」
アーサーが連れてこられた部屋には、中央に古びたソファーがあるだけで他には何もなかった。あるのは片隅に積み上げられた無数の干からびた人間の死体だけだ。
「あれは…」
「ああ。ここに棲みつき始めた時に連れてきた餌だったんだけどね。ロイが血を飲みすぎて全員殺してしまったんだ。困るよね」
「っ…」
子どもが他愛ないいたずらをした時のような、やんちゃな子どもに困りながらも成長を喜んでいるような先生の表情にゾッとした。これほどの人数を殺しておいて…なぜこんな優しい表情ができるんだ、と吐き気をもよおした。
「大丈夫だよアーサー。私は殺さない程度にしか飲まないから」
セルジュ先生はソファに腰かけ、隣にアーサーを座らせた。優しい手つきでアーサーの首に爪を立てる。
「…うん、相変わらず綺麗な血の色をしているね」
傷口から流れるアーサーの血をうっとりと眺めたあと、アーサーの首もとに吸い付いた。
「うっ…」
もの凄い勢いで血が減っていくのを感じた。ただでさえ貧血状態だったアーサーの体から力が抜けていく。意識を保つので精一杯だった。
「アーサー…。以前舐めた時から分かっていたよ。君は王族の血を引いているね。それも…色濃く高潔の血を受け継いでいる」
「……」
「モニカも同じ血の味だった。君たち、兄妹と言うのは嘘だろう?正しくは…双子」
「……」
「…君たち、アウス王子とモリア姫だろう?なぜ死んだはずの君たちがこの学院にいるんだい?」
「……」
「…おや、血を飲みすぎてしまったかな。ほとんど意識がないね。…それにしても、懐かしい味だ。彼女の血は、君たちが受け継いでいたんだね」
嬉しそうに血を飲む吸血鬼がそう囁いた言葉をおぼろげに聞きながら、アーサーは意識を失った。吸血鬼はくったりとしたアーサーを優しく抱きしめ、彼の頭に唇をそっと当てた。
「ミモレス…。君の血を探して200年が経った…。やっと見つけたよ。もう…二度と離さない」
「おや、目が覚めたかい?」
「!」
地下に足音が鳴り響いたあと、セルジュ先生が牢屋を覗き込んだ。
「ほう、アーサー、この二人に血を与えたのかい。すっかり禁断症状がおさまってしまっているね。全く。困ったことをしてくれる」
「セルジュ先生!!助けてください!!僕をここから出してください!!」
「いいとも。おいで」
(禁断症状だったからロイとセルジュ先生の会話が聞こえてなかったんだ…!まずい!)
檻の間から差し伸べられた手を取ろうとしているウィルク王子を、アーサーが慌てて引き留めた。
「だめだウィルク!セルジュ先生もロイと繋がってる!!連れていかれたらこの6人の生徒たちと同じことになるよ!」
「え…?そ、そんな…嘘ですよね先生?助けに来てくれたんですよね?」
「そうだよ王子。助けに来たんだ」
「騙されないでウィルク!」
「そ、そうかアーサー。そうやって僕を騙してずっと牢屋に閉じ込めようとしてるんだな?」
「なっ…」
「モニカと僕が結婚するのがいやで、こんなところに連れてきたんだろう!!なんてやつだ!ここから出たら処刑してやる!!」
「ちがう!!ウィルク!僕を信じて!!」
「クク…ククク…ハハハハハ!!!」
「?!」
アーサーと王子のやりとりを黙って聞いていたセルジュ先生が、突然大声で笑いだした。気味の悪い笑い方にウィルクが「ヒィっ!」とアーサーにしがみつく。セルジュ先生は指で目に溜まった涙を拭いながらウィルク王子に声をかけた。
「ああ…最高ですね。高慢で、愚かな王族の血。早く飲んでみたい」
「えっ?」
「いえ、なんでもありませんよ。さあ、おいでなさい王子。ここから出してあげますから」
「い…いやだ…」
「おや?突然どうしたんですか?さっきまであれほど出たがっていたのに。さあ、早く」
「僕じゃなくて…マーサを…」
「えっ?!」
突然名前を呼ばれたマーサはびっくりしてアーサーにしがみついた。王子はそんな彼女の肩に手を置き、アーサーから引きはがそうと力を込めた。
「はやく!マーサ、様子を見てこい!!」
「ええええ!」
アーサーはぱちんと王子の頬をひっぱたいた。
「ウィルク。いい加減にしろ。守るべきものを見代わりにしてどうする」
「ちがう!一番に守るべきものは王族の血だ!」
「…少しは変わったと思ってたんだけどな」
深いため息をつき、アーサーは二人から手を離した。
「おい!アーサー!僕から離れるな!」
「おやおや、噂に違わず横暴な血だねえ」
セルジュ先生はクスクス笑いながら3人を見下ろした。アーサーは立ち上がり、先生の目を真っすぐと見る。
「血を飲むなら、僕のものを」
「君は最後にしようと思ってたんだけどな。…いいよ、おいで」
先生は牢屋を開きアーサーの手を引いた。アーサーは大人しく従う。王子たちに声が届かないところまで離れると、歩きながら先生に声をかけた。
「ここの牢屋にいる子たちの分まで僕の血を飲んでかまいません。だから他の子たちは解放してくれませんか」
「そのお願いは聞けないな。そこにいる6人の子どもたちは、私とロイの餌であり、またおもちゃでもあるんだよ。見たかね?チムシーに寄生された者同士で血を飲み合う姿を。彼らがお互いの血を飲めば飲むほど、吸血欲に駆られてしまう。飲んでも飲んでもおさまらないんだ。見ていてとても…愛おしいんだよ」
「餌…あなたとロイも、チムシーに寄生をされてるんですか?」
「ああ。数百年前まではそうだった。だが今はもうそうじゃない。私とチムシーはひとつになった。人はそんな存在をこう呼ぶ…吸血鬼とね」
「吸血鬼…!じゃあ、ロイも?!」
「ああ。ロイも吸血鬼だよ。100年前、私が彼を拾って完全な吸血鬼にした。かわいいかわいい私の子どもさ」
アーサーが連れてこられた部屋には、中央に古びたソファーがあるだけで他には何もなかった。あるのは片隅に積み上げられた無数の干からびた人間の死体だけだ。
「あれは…」
「ああ。ここに棲みつき始めた時に連れてきた餌だったんだけどね。ロイが血を飲みすぎて全員殺してしまったんだ。困るよね」
「っ…」
子どもが他愛ないいたずらをした時のような、やんちゃな子どもに困りながらも成長を喜んでいるような先生の表情にゾッとした。これほどの人数を殺しておいて…なぜこんな優しい表情ができるんだ、と吐き気をもよおした。
「大丈夫だよアーサー。私は殺さない程度にしか飲まないから」
セルジュ先生はソファに腰かけ、隣にアーサーを座らせた。優しい手つきでアーサーの首に爪を立てる。
「…うん、相変わらず綺麗な血の色をしているね」
傷口から流れるアーサーの血をうっとりと眺めたあと、アーサーの首もとに吸い付いた。
「うっ…」
もの凄い勢いで血が減っていくのを感じた。ただでさえ貧血状態だったアーサーの体から力が抜けていく。意識を保つので精一杯だった。
「アーサー…。以前舐めた時から分かっていたよ。君は王族の血を引いているね。それも…色濃く高潔の血を受け継いでいる」
「……」
「モニカも同じ血の味だった。君たち、兄妹と言うのは嘘だろう?正しくは…双子」
「……」
「…君たち、アウス王子とモリア姫だろう?なぜ死んだはずの君たちがこの学院にいるんだい?」
「……」
「…おや、血を飲みすぎてしまったかな。ほとんど意識がないね。…それにしても、懐かしい味だ。彼女の血は、君たちが受け継いでいたんだね」
嬉しそうに血を飲む吸血鬼がそう囁いた言葉をおぼろげに聞きながら、アーサーは意識を失った。吸血鬼はくったりとしたアーサーを優しく抱きしめ、彼の頭に唇をそっと当てた。
「ミモレス…。君の血を探して200年が経った…。やっと見つけたよ。もう…二度と離さない」
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